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O plus E誌 2016年11月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『手紙は憶えている』:大阪では試写会がなかったのだが,あまりに評判がいいので,配給会社からサンプルDVDを取り寄せて,急いで眺めてみた。ホロコーストものだというので,例によって少し構えたが,目を覆うような凄惨な収容所シーンは登場せず,憤りに拳を握りしめることもなかった。アウシュヴィッツの名前が何度か登場するだけだ。時代は現代,米国の老人ホームで,70年前に家族をナチスに殺された老人男性2人が,かつての虐殺者であったドイツ人兵士への復讐計画を実行に移そうとする。車椅子生活のマックス(マーティン・ランドー)が計画を練り,妻を亡くし,認知症が進むゼヴ(クリストファー・プラマー)が生き残り兵士ルディ・コランダーを探す旅に出る。「残り5分,予測不可能なサスペンス」というキャッチコピーだが,手に汗握るサスペンスではない。認知症老人らしい,ゆったり,ほのぼのとした行動で,これで復讐が叶うのか,甚だ心もとない。そして,結末は……。なるほど,なかなか見事なランディングだ。それにしても,人を殺傷できる拳銃がいとも簡単に入手できる米国社会の実態に,改めて驚きを禁じえない。
 『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』:人気シリーズの完結編。TVのSeason3,前月公開のPart3に続いての怒濤の締め括りで,メディアへの露出度も増大しているが,その勢いに相応しい「ザ・ファイナル」に仕上がっている。本作での社会勉強は,「貧困ビジネス」と「過払い利息の返還訴訟」の実態だ。原作の「ヤミ金くん編」がベースだが,「トレンディくん編」も少し入っている。丑嶋社長(山田孝之)らの過去が登場するというのがウリだが,短い回顧ではなく,右腕の柄崎,闇金ライバルの犀原茜も絡んだ少年少女時代が何度も登場する。12年前の丑嶋馨を演じる少年の演技が絶妙だ。敵役の鰐戸三兄弟のワルぶりが際立っていて,拷問シーン,対決シーンのバイオレンス度も一段とアップしている。心優しい友人・竹本君の言動に心が洗われる想いだが,さりとて軟弱な予定調和の結末にしなかったのは流石だ。もう一度全4作を通して観たくなる。
 『金メダル男』:長い間こうした映画評を書いていると,若い世代,特に映画好きの学生たちから,どうしたら映画評論家や映画監督になれるのか,と問われることがある。前者はともかく,日本で商業映画の監督になり,それを続けることは並大抵のことではない。日本映画の黄金時代に大手映画会社が定期採用をしていた頃とは違い,映画専門学校を出ようが,長年助監督の下積みを続けようが,滅多にメガホンをとる機会はやって来ない。半ば冗談交じりに「お笑い芸人になった方が早道だよ」と答えているが,そう冗談でもなく,確率としては結構高いかも知れない。北野武(ビートたけし)は別格的存在だとしても,松本人志,品川ヒロシ,板尾創路は複数本撮っているし,劇団ひとり,世界のナベアツ,太田光,島田紳助らも監督を経験している。本作の監督は,ウッチャンナンチャンの内村光良で,既にこれが監督3作目となる。金メダルといっても,スポーツものではなく,東京五輪の年に生まれ,少年時代から何にでも一等賞を目指した男の物語だ。青年期を「Hey! Say! JUMP」の知念侑李が演じ,大人になってからを監督自身が演じている。この2人の顔立ちが似ているのが嬉しい。友情出演か,多数のタレントが登場するのは,さすがの人脈というべきか。前半,大いに笑わせてくれるが,さすがお笑い芸人,演出面でも間のとり方が実に上手い。その反面,後半はベタベタのヒューマンドラマとなる。ホロリとさせるのは苦手なようで,観ている側が恥ずかしくなるような脚本だ。もっと笑いに徹したら,良い監督になる素地はあると思うのに,ちょっと惜しい。
 『ザ・ギフト』:この映画はどう分類すればいいのだろう? 異色のホラー映画であり,強いて言えばサイコサスペンスに属するのだろう。設定は陳腐で,大都会のシカゴを離れ,夫の故郷の田舎町に転居してきた裕福な夫妻が遭遇する異変と恐怖の物語である。かつての同級生で親しげに近づいてくる友人から,執拗なプレゼントが届き,やがて愛犬の姿が見えなくなる……。普通なら,ここから猟奇殺人事件か心霊怪奇現象が続くパターンだが,そうはならない。それでいて,どんどん怖くなるヒッチコックばりの見事なスリラーだ。全く予想外の展開と結末で,映画通ほど見事に騙される。不気味な男を演じるのが,製作・脚本・監督のジョエル・エドガートンというのが味噌だ。なるほど,知的なパズルのような逸品で,渾身の初監督作品に相応しい。2作目以降も楽しみで,注目したい監督だ。
 『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』:独身女性たちに大人気のシリーズ3作目だが,前作からもう12年も経つ。劇中では第1作から10年後の設定で,彼女は43歳でまだ独身である。今回のポスターでもイケメン男性2人を引き連れているように,例によって,主人公に好都合なモテモテの展開となる。さりとて,いつものように明るく楽しく,快適なテンポのコメディなので,嫌味はない。少なくとも『セックス・アンド・ザ・シティ』(08)の4人組よりも可愛く感じ,共感できる。原題の『Bridget Jones’s Baby』から分かるように,遂にブリジットも妊娠,出産の運びとなる。さて問題は,父親は2人の内のどちらなのかだが,最後まで気をもたせる展開だ(前2作のファンなら,想像はつくが…)。ロンドンのTV番組の様子,街の様子がいきいき描かれているのも嬉しい。そして,前2作同様,挿入歌もゴキゲンなポップス揃いだ。
 『湯を沸かすほどの熱い愛』:主演は宮沢りえ,相手役はオダギリジョーだが,アラフォー男女の熱烈恋愛映画ではない。「恋」の要素はなく,「家族愛」の映画だ。銭湯を営む家庭で,行方不明になったダメ夫,いじめを苦にする気弱な娘(杉咲花)を抱えて奮闘する女主人公の物語である。彼女は,余命2ヶ月を宣告され,妻として母として,やり残したことの達成に邁進する。人生の喜怒哀楽を詰め込んだ物語であるが,最後にガンが好転するなどという奇跡は起こらない。監督は中野量太で,これが商業映画初監督だという。自身のオリジナル脚本で,思春期の少女の心理描写がうまい。銭湯シーンはセットではなく,東京都と栃木県にある実際の銭湯で撮影したという。ラストのとんでもない出来事で,表題の意味がやっと分かる。これは参った。感動ものだが,爽やかで,涙はない。
 『92歳のパリジェンヌ』:題名からは,ハイセンスなファッションを身につけ,パリの街を闊歩する元気な老女を想像してしまったが,中身はかなり違っていた。人生の終末期を描いたヒューマンドラマで,尊厳死が主テーマである。子供や孫にも恵まれたマドレーヌ(マルト・ヴィラロンガ)が92歳の誕生日で,2ヶ月後に自ら命を絶つことを宣言し,集まった家族を驚かせる。激しく反対する長男,母の信念を知り次第に理解を示す長女,医師の入院の勧めを拒み,自宅での死を望む当人等々,家族の様々な想いが交錯する。元仏首相リオネル・ジョスパンの母の実話を基にした映画で,劇的要素や意外な展開はない。淡々とXデーに向かうだけの映画だが,音楽が素晴らしい。誰もが尊厳死問題を真剣に考えたくなるのは,実話のもつ重みだと言える。筆者は勿論老女に同意し,自分もかくありたいと思う。
 『コウノトリ大作戦!』:米国製のフルCGのギャグ・アニメで,赤ちゃんをコウノトリが運んでくるという言い伝えをネタにしている。どう見てもお子様映画だし,フルCGも技術的にはもはや語るほどのものでもない。さして話題性もないとなるとスキップしてもよかったのだが,米国で批評家筋にも観客にも結構評判が良い。それを目にしてしまったため,何が高評価の原因なのかが気になって,試写会に足を運んでしまった。なるほど,テンポは好い。最近の子供は,このスピード感に馴染んでいるということか。人間の子供たちも登場するが,主人公はコウノトリの親子である。犬,猫,ペンギン等の動物も登場する。キャラは子供向きだが,物語の前提は宅配業を起業して成功したコウノトリの創業者が,息子に社長を譲ろうとする話で,まるでビジネス・ストーリーだ。この宅配業の物流倉庫のビジュアルが凄い。画調のセンスもいい。音楽も良かったし,日本語吹替えもかなり上手かった。家族連れで行くなら安心して観ていられる作品に仕上がっている。ワーナー・アニメーションのブランドで製作されているが,CG担当はSony Pictures Imageworksだ。なるほど,それならソニー・ブランドの『サーフズ・アップ』(07年12月号)『くもりときどきミートボール』シリーズ(09&13)で見慣れたキャラクターのデザインだったことも納得が行く。
 『ジュリエッタ』:スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が描く最新作のヒューマンドラマだ。時代設定は現代だが,数十年前でも通じる内容で,南欧の香りがプンプンする。即ち,約半世紀前のフランス映画,イタリア映画全盛期を彷彿とさせるテイストに溢れている。主人公のジュリエッタの25歳から30前半までと,50歳前後を,2人の女優(アドリアーナ・ウガルテとエマ・スアレス)が演じる。いずれも,かなりの美人だ。文芸調,美しいヒロイン,美しい景色……,映画(特に,洋画)はこうでなくっちゃいけないと,改めて感じる。全編「赤」がキーカラーで,様々な「赤」の衣装や小物が登場し,この監督の美意識の高さを感じる。母と娘が織りなす相克と葛藤,自由への憧れ,喪失感,罪の意識,等々が描かれているが,究極は人生賛歌と言える。99分の映画とは思えぬ中身の濃さだ。
 『溺れるナイフ』:人気少女コミックの映画化作品で,例によって,美形の女子中学生に心優しい男子学生が想いを寄せるが,彼女は粗野で個性的な男子同級生に憧れるという典型的パターンだ。多分,共感はできないと想いつつも,独特の世界観をもつ原作をスクリーンに焼き付けた「10代の恋と衝動」なるコピーと,個性的な表題が気に入って観てしまった。原作の大ファンという若手女性監督(山戸結希)が描くなら,素朴な恋愛映画で良かったと思うのだが,なぜこんな荒々しい描き方にしたのだろう。監督の肩に力が入り過ぎていると感じた。自由で傍若無人な主人公を演じる菅田将暉は良い俳優だが,美少女モデル役のヒロインを演じる小松菜奈の演技が稚拙過ぎる。この女優に演技力を求めるのは無理があり,実力に合った脚本を書くべきだ。音楽も単に騒々しいだけで,映像とのミスマッチも目立った。
 『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』:トム・クルーズ主演のアクション映画といえば『ミッション・インポッシブル』シリーズだが,ハイテク機器は登場せず,生身のアクションだけの,もう1つのシリーズの最新作である。前作の題名は『アウトロー』(13年2月号)だった。その評で,「娯楽作品としての緊迫度,完成度は高いが,唯一の欠点は邦題だろう。当然『ミッション:インポッシブル』と並ぶシリーズに育てるのだろうが,『アウトロー2』『アウトロー3』では,どうにも様にならない」と書いている。元々,前作の原題が『Jack Reacher』で,リー・チャイルド作の連作小説の主人公名なのである。映画化の第1作もそのままの邦題にすれば済んだのに,小説のシリーズ9作目(原題「One Shot」)の邦訳本の題を流用したから,こんなややこしいことになってしまったのだ。閑話休題。第2作目もテンポは良く,物語の展開は小気味いい。エンタメ作品の作り方を完全にマスターしているスタッフ達の作品という気がする。監督は,『ラスト サムライ』(04年12月号)でタッグを組んだエドワード・ズウィックで,トム・クルーズの魅力の引き出し方を心得ている。本作は,正義感に燃える元陸軍秘密捜査官が,後任の女性捜査官ターナー少佐の窮地を救い,軍内部に存在する陰謀と対峙する物語となっている。(ちょっとネタバレになるが)不満を言えば,あれだけ協力して敵と闘いながら,一件落着後,この2人が男女関係にならないのが不思議だ。「未成年の少女と擬似親子関係を楽しんでいる場合じゃないだろ。トム・クルーズよ,硬派ぶってカッコつけるんじゃないよ」というのが,試写会で出会うメディア関係者の一致した感想だった(笑)。
 『ミュージアム』:巴亮介作の青年コミックの実写映画化作品。『るろうに剣心』シリーズ(12&14)の大友啓史監督のメガホンで,小栗旬主演のサイコスリラーというので,かなり期待した。通常,この種の話題作を予習する時は,既刊のコミック単行本の半分弱を読んでから試写会に臨み,その後残りを読了するのだが,本作は全巻一気読みしてしまった。たった3巻だったためもあるが,絵は下手くそながら,類い稀なる面白さだったからである。映画は,この原作のセリフや構図を含め,かなり忠実になぞっている。それでいて,猟奇殺人事件の凄惨さやカーチェイスの迫力等,実写映画ならではの描写で魅力を増している。室内に置かれた母子の人形や太陽光の眩しさ等も,原作コミックで判読しにくいシーンを見事にカバーしている。反面,忠実過ぎて,小さくまとまり過ぎだ。エンディングには少しだけ新解釈が盛り込まれているが,もっと大胆に映画ならではの改変を加えても良かったのではないかと感じた。
 『華麗なるリベンジ』:韓国映画が2本続く。いずれも法廷ものであり,韓国内でかなりヒットした作品だ。苦労して司法試験に合格し,正義感が溢れる余りに,暴力検事として犯罪者と接してきた主人公(ファン・ジョンミン)が無実の殺人容疑をかけられ,受刑者となる。やがて獄中で知り合った前科9犯の詐欺師(カン・ドンウォン)と組み,巨悪に立ち向かう復讐物語だ。元検事と犯罪者が相棒となるバディものである。刑務所内で,法律の知識を生かして人望を得て行くプロセスが描かれ,終盤は再審法廷で自らが弁護人となる裁判劇となっている。興行成績No.1となっただけあって,エンタメとしては良くできているが,若干リアリティに欠ける。いつものことながら,この種の韓国映画を観ると,ついついルックスの似た日本人俳優を想い浮かべてしまう。主人公の2人は小林薫と堺雅人,悪役は東大・情報学環のN教授に似ていると感じた。
 『弁護人』:もう1本も,上記の作と相似形で,こちらは弁護士が主人公の骨太の裁判映画だ。1980年代の軍事政権下の出来事を描いている。高卒ゆえに,学閥に入れない異端の弁護士が,不動産登記,税務弁護士で成功するが,やがて赤狩りの冤罪事件に巻き込まれ,国家公安警察の弾圧に立ち向かう物語だ。この経歴や,ヨット好きまで,飛び降り自殺した故・盧武鉉元大統領をモデルにしている。演じるのは,名優のソン・ガンホ。元大統領とは相当容貌は違うが,何を演じさせてもうまい。本来は悪人面だが,剽軽な演技で笑わせるかと思えば,法廷場面では迫真の熱演を見せてくれる。敵役(クァク・ドウォン)は公安警察の警監で,デブで憎々しげな表情での演技が絶品だ。実際にあった「釜林事件」を基にしているので,リアリティは高く,力作で,韓国内の映画賞を総なめにしたというのも納得できる。
 『マイ・ベスト・フレンド』:子供の頃からの親友2人の物語である。「ふたりの女性を支えるふたりの男性」というキャッチから,女性監督の作だと分かる。加えて,女性脚本家が自ら乳がん体験を綴ったというから,まさに「女性のために,女性が書いて,女性が撮った映画」だ。果たして男性観客は,どこかに感情移入できるのか? 映画の前半は,2人の会話は楽しそうと思うだけで,漫然と傍観するしかなかった。前半の音楽は騒々しい。片方の女性(トニ・コレット)のガンの発覚,もう1人(ドリュー・バリモア)の高齢初産への不安等,後半少しシリアスになり,音楽もそれに合わせてマイルドで,情感豊かな曲が並ぶ。お涙頂戴の感動ものではないが,見守る男の心になれる。ウリはサウンドだが,カメラワークや美術も素晴らしい。女性たちのファッションは勿論,屋外パーティも屋内インテリアも,さりげなくカラフルに飾られていて心地よかった。
 『聖の青春』:1998年に29歳で夭逝した伝説の天才棋士・村山聖の将棋に賭けた壮絶な人生を描いた力作だ。既に舞台劇やコミック化されていて,その特異な風貌と怪童ぶりはかなり知られている。「東の羽生,西の村山」と並び称せられたように,全7冠制覇で最強期の羽生名人とも対等に渡り合った様が克明に描かれている。20kg増量して村山聖を演じた松山ケンイチの演技には鬼気迫るものがあるが,羽生善治を演じる東出昌大の役作りも相当に凄い。「ハブ睨み」や髪を掻きむしる仕草,扇子の動き等,完全になり切っている。対局中の2人の様子は,まさに再現と呼べるレベルだ。極力BGMを排して,盤面に駒を打つ音までもリアルに表現している。大崎善生著の同名ノンフィクションの映画化だが,物語は晩年の4年間に絞られている。そのため,師匠の森信雄(リリー・フランキー)との濃密な師弟関係の逸話が殆ど描かれていないのが,少し残念だ。
 
  (上記の内,『手紙は憶えている』『金メダル男』『コウノトリ大作戦!』『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は,O plus E誌には非掲載です)  
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