O plus E VFX映画時評 2024年9月号

『ビートルジュース ビートルジュース』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[9月27日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]

(C)2024 Warner Bros. Ent.


2024年9月6日 大手広告試写室(大阪)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


快作の36年ぶりの続編は, 懐かしいが, 少し大人しい

 鬼才ティム・バートン監督の代表作での1つであり,彼の名を一気に広めた快作『ビートルジュース』(88)の36年ぶりの続編である。正直なところ,これだけの年月を経て,続編が作られるとは思わなかった。前作の登場した俳優たちはかなり高齢化しているので,時代だけを移した素直な後日譚にはしにくい。それじゃあ,前シリーズから30年以上後の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年7月号)のように,主人公の名前と人物像だけを踏襲し,主役は若手に交替させたリブート版かと思ったが,そうではなかった。しっかり主演のマイケル・キートンが同じビートルジュース役で登場するという。同じ主演男優での36年ぶりの続編となれば,トム・クルーズ主演の『トップガン』(86)と『トップガン マーヴェリック』(22年5・6月号)と全く同じ間隔である。しかも本作の場合は,ヒロインの美少女リディアを演じたウィノナ・ライダーも同じ役で出演するというので,俄然嬉しくなった。
 前作は,北米のBox Officeでは4週連続No.1のヒット作となったが,日本では余り話題にならなかったし,さほどヒットもしなかった。『トップガン』と比べると知名度はかなり落ちる。実を言うと,筆者は国内公開時にこの映画を映画館で観ていない。題名から,何か「ビートルズ」に関係ある映画かと思ったが,全く関係なかったので,食指が動かなかった。1988年12月公開の正月興行映画であるが,何か他作品を優先したのだろう(当時は『男はつらいよ』の最新作を観るのが最優先だった)。ところが,翌年,監督&主演が同じ『バットマン』(89)が大ヒットした。そこで,『ビートルジュース』も観たくなり,ビデオレンタル開始を首を長くして待った覚えがある。当時DVDは存在せず,レンタル媒体はVHSであった。
 ちなみに『バットマン』の国内興行収入は34.8億円,配給収入は19.8億円に対して,『ビートルジュース』の配給収入は僅か4億円である。同年公開の『ラストエンペラー』の24億円,『ロジャー・ラビット』の14.5億円と比べても,かなり低い数値と言わざるを得ない。
 当時,レンタルビデオを何度も見直した。抜群に面白かった。今回Amazon Primeでもう一度観て,復習してから本作のマスコミ試写に臨んだが,改めて「Tim Burton World」の原点となった作品だと再認識した。巷間,『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)がバートン風ダークファンタジーの源流とする声が多いが,そうは思わない。この『ビートルジュース』は,その5年も前に発表されている。本作をこれから観に行く読者には,先にこの前作を観終えておくことを強く勧めたい。既に公開日に観てしまった場合でも,なるべく早い時期に前作を後追い視聴して欲しい。そうでないと,ビートルジュースのリディア愛は理解しにくいし,教会での出来事の意味やパロディの面白さもしっかり味わえないと思うからである。
 ところで,本作に題名はなぜ『ビートルジュース2』でなく,同じ主人公名を2度も書いたのだろうか? 映画を見ればすぐ分かるが,3度呼ぶとこの怪人が直ちに姿を現わし,トラブルを引き起こしてしまう。観客がうっかりそうしてしまわないよう,題名では2度に留めておこうという配慮(洒落?)ではないかと想像しているが,解釈は自由である。

【前作のおさらい】
 舞台となるのは米国北東部のコネチカット州の田舎町ウィンター・リバーだ。前作のアダム(アレック・ボールドウィン)とバーバラ(ジーナ・デイヴィス)のメイトランド夫妻は,車で買い物に出かけ,犬をよけようとして,橋から川に転落し,車は水没してしまう。気がつくと自宅にいたが,外には不思議な世界が広がっていた。屋根裏部屋には「新人死者用手引書」が置かれていて,ようやく自分たちが死んだことを自覚する。死後世界の相談員ジュノーと面談すると,あの世への定住は順番待ちで,125年間は元の家で過ごすように指示される。
 ところが,強欲な不動産屋が家を売ってしまい,ディーツ一家が引っ越してくる。夫チャールズ(ジェフリー・ジョーンズ),妻デリア(キャサリン・オハラ),前妻の娘リディア(ウィノナ・ライダー)の3人家族で,家を好き放題に改装してしまった。行き場のないメイトランド夫妻は屋根裏部屋で暮すが,そこにはアダムが丹精込めて制作した町の精巧な模型が置かれていた。その模型の墓場に自称バイオエクソシストの「ビートルジュース」(マイケル・キートン)が住み着いていた。推定年齢600歳のゴーストである。
 夫妻はディーツ一家を追い出そうと,手引書に従って彼らを脅すが,一向に効果がない。生者には死者の姿が見えず,語りかけても聞こえないためである。パーティの招待客の身体を操って脅してみたが,逆に幽霊の出没を面白がられてしまい,金儲け主義者のチャールズは自宅を「幽霊博物館」にして一儲けしようとする。困り果てた夫妻は,人間追い出しのプロと売り込んでくるビートルジュースを呼び出してしまう。彼は破天荒なゴーストで,人間相手に大騒動を引き起こした上に,リディアに結婚を迫る……(写真1)


写真1 ビートルジュースと少女リディア

 そんな中で,リディアには霊能力があり,死者の姿が見えたのである。継母と反りが合わず,孤独だったリディアはメイトランド夫妻と仲良くなり,終盤はお互いの危機を助け,助けられる関係になる。メイトランド夫妻は死にもの狂いで(?)ビートルジュースを現実世界から追い出し,自分たちは死者の世界には向かわず,ディーツ一家と仲良く一緒に暮らすことになる。メデタシメデタシのハッピーエンドであったが,退散したビートルジュースも懲りずに,死者の世界でしたたかに暮らし続けた。
 ハチャメチャのホラーコメディであったが,死者を滑稽に扱うのはT・バートン監督の得意技である,笑わせるだけでなく,ブラックユーモアの捻りもかなり利いていた。ちなみに,ビートルズとは関係なくても,「Beetlejuice」は,甲虫(Beetle)の体液か何かを甘いジュース(Juice)にでも仕立てたものかと思っていた。実は,オリオン座の左上にある明るく赤い星「ベテルギウス(Betelgeuse)」のことである。その英語の発音が「ビートルジュース」であるため,それを洒落っ気で映画の題名を「Beetlejuice」と表記したのである。この映画から派生した舞台ミュージカル,TVシリーズ,ビデオゲーム,テーマパーク・アトラクション等はすべて同じ表記を使っている。

【本作の概要とキャスティング】
 さて,続編の本作は前作から35年後の設定だそうだ。どう数えても公開年の差は36年だが,諸般の事情で公開が1年遅れたのだろう。物語の時代設定としては誤差の範囲だ。前作からは,ビートルジュース役のM・キートン,リディア役のW・ライダーの他には,継母デリア役のC・オハラだけが継続出演している。前作の最後で,メイトランド夫妻はかつての家でディーツ一家と共に暮らすことになったから,てっきり彼らも登場するのだと思った。A・ボールドウィンとG・デイヴィスは現役俳優だが,幽霊は歳を取らないはずなので,彼らの起用は無理だったのかと想像する。その点,ビートルジュースは前作でも強烈なメイクを施していたので,M・キートンがそのまま演じていても,全く違和感がなかった(写真2)
 少女時代から霊能力はあったリディアは,その特技を活かし,TV番組「ゴーストハウス」の司会者として,心霊現象に悩む人々の相談に応じていた(写真3)。夫リチャード(サンティアゴ・カブレラ)との間に一人娘アストリッド(ジェナ・オルテガ)を設けたが,リチャードは南米のアマゾンで死亡した。現在はシングルマザーで,NYに住んでいて,番組製作者のローリー(ジャスティン・セロー)が恋人である。


写真2 前作(左)と本作(右)で, 全く同じ印象

写真3 人気番組「ゴーストタウン」の司会者として活躍

 アストリッドは母親の霊感を信用せず,インチキだと思っている。有名人の娘として,学校で話題になることを嫌っていた。ある日,疎遠であった継母デリアから連絡が入り,リディアの父チャールズが飛行機事故で死亡したという。母子は久々に故郷のウィンター・リバーに戻り,葬儀に参列する。母子はその後もしばらく故郷に滞在する中,アストリッドは自転車を暴走させてしまい(写真4),それを助けてくれた少年ジェレミー(アーサー・コンティ)と親しくなり,2人は恋に落ちる。


写真4 娘アストリッド(この後, 自転車が暴走する)

 一方のビートルジュースは健在で,死後の世界で相変わらず「人間追出し屋」の営業を続けていた。ところが,幽霊探偵のウルフ(ウィレム・デフォー)から連絡が入り,元妻のドロレス(モニカ・ベルッチ)が復活したという。かつて2人は黒死病の時代に知り合って結ばれたが,彼女の不死への願望から毒殺されそうになり,ビートルジュースが妻を倉庫に閉じ込め,扉を封印した。その封印が解け,解放された彼女は死者の世界で殺人を繰り返す。死者の魂を吸い取って,ビートルジュースへの復讐に備えていると聴かされ,ビートルジュースは震え上がる……。死者を殺すとは何のことかと思いつつも,物語の小気味よさを楽しんだ。この間のエピソードが本作のダーク度を強める働きをし,その後の大騒動でもドロレスは存在感を示していた。
 娘アストリッドにも大きな異変が生じる。母の霊感を非科学的と断じていたのに,自らにも霊感があり,恋人になったジェレミーが死者であることを知り,共に霊界で暮らそうとする。母リディアは,彼が両親を殺害した殺人鬼であり,警察に追われる身と知って,再びビートルジュースを呼び出し,アストリッドを人間界に取り戻すことを依頼する(写真5)。今でもリディアに恋い焦がれていたビートルジュースは有頂天になり,改めて結婚式を挙げることを条件にこの仕事を引き受ける。彼の出現により,後は例のごとく二転三転の大騒動となる…。


写真5 名前を3回呼ぶと現われる

 前作と同じ場所の35年後とのことなので,随所で既視感のある場所や怪物が登場するのは懐かしかった。ホラーコメディであることは前作と同じだが,ハチャメチャ度は前作ほどではなく,少し大人しい感じがした。結婚の条件として,「正当な合意がない強引な取引は不成立」などという,妙に道徳がかった教義も登場する。T・バートン監督も毒気が抜け,常識人になってしまったということか。
 キャスティングについて触れておこう。主演のマイケル・キートンは,前作での強烈な演技で一躍人気スターの仲間入りし,T・バートン監督の『バットマン』シリーズ2作目までの主演は良かったが,その後,端役やアニメの声の出演程度でしか声がかからなくなり,忘れられた過去の俳優扱いになってしまった。ところが,皮肉にも「バットマン」をもじった『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(15年4月号)に,そのものズバリの,売れなくなった過去のスター役で主演する。同作がアカデミー賞作品賞,当人はGG賞主演男優賞を受賞し,鮮烈なカムバックを果たす。その後は『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(17年8月号)『ワース 命の値段』(23年2月号)に主演し,他の大作でも凖主役級で第2の全盛期と言える活躍ぶりだ。前作公開時は37歳,現在73歳だが,ビートルジュース役は全く同じ印象で観ていられた。
 一方,リディア役のウィノラ・ライダーは,前作公開時は16歳だった。改めて眺めても驚くほど美しく,抜群の存在感だった(写真6)。1990年代は主演映画も相次ぎ,オスカーに2度ノミネート,GG賞では助演女優賞受賞と,ハリウッド女優としての絶頂期だった。ところが,2001年に起こした万引き事件で有罪,保護観察処分となり,醜聞女優となってしまう。近年は出演作も少なく,M・キートンと入れ替わるかのように「忘れられたスター」だったが,そこに本作のリディア役である。現在52歳だが,年齢を感じさせない美しさだ。少女時代のリディアと同じ黒装束で登場するので,余計にそう感じてしまう。本作は彼女が事実上の主演であり,再ブレイクすること間違いなしと断言しておこう。


写真6 16歳とは思えぬ美少女は, 黒装束のカメ女

 かつての少女リディアと同じ16歳のアストリッド役で登場するジェナ・オルテガは,メキシコ人とプエルトリコ人の混血女優で,現在22歳だ。子役デビューしたので既に出演作は数多いが,Netflix配信ドラマ『ウェンズデー』(22-23)の主演で,一躍人気が爆発した。W・ライダーほど正統派の美人でないが,本作でもキュートな魅力を振りまいている。
 他の助演陣で,継続出演のキャサリン・オハラのお陰で,前作との繋がりが円滑になっている。それ以上の意味はない。新規登場組では,何と言ってもドロレス役のモニカ・ベルッチの継ぎ接ぎ顔のド迫力だった(写真7)。最近こういう悪女役がよく似合う。幽霊探偵役のウィレム・デフォーは,また出て来たのかという感じだった。今月号の「論評 Part 2」の『憐れみの3章』で3役も観たばかりであり,同監督の『哀れなるものたち』(24年1月号),その前は『アステロイド・シティ』(23年9月号)『カード・カウンター』(23年6月号)『ノースマン 導かれし復讐者』(同1月号)『ナイトメア・アリー』(22年3・4月号)『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ,カンザス・イヴニング・サン別冊』(同1・2月号)『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(同Web専用#1)…と,3年弱遡っただけでも8本に出演している。本作は出番は僅かだが,ホラーコメディゆえの特異な役柄であり,なるほど彼を起用したくなるのも納得できる。その他では,ジェレミー役のアーサー・コンチが少し個性的な英国人若手俳優だ。バートン監督のオーディションを受け,これが劇場用映画初出演だそうだ。


写真7 元妻ドロレスも黒装束で登場。もの凄い迫力。

【特殊メイクと美術セット】
 前作は,ビートルジュースの厚化粧の他,奇っ怪な容貌の怪物や死者の顔面メイク等で,アカデミー賞メイクアップ賞を受賞した(写真8)。本作でもその路線はしっかり継続して,随所で醜悪な特殊メイクの怪人(死者)が登場する(写真9)。特筆すべきは,極端に小さな頭部をもつボブさんだ。前作は多数のゴーストの1人に過ぎなかったが,本作ではビートルジュースの執事役として働き,セリフもある(写真10)。さらにこの小頭族を多数事務所で雇って働かせている。普通なら,この頭部はCGで描きたくなるところだが,これはほぼすべて実物だそうだ。170cm前後の俳優を起用し,頭は特注のスーツで覆い,その上に小さな手作りの頭部を配して演技させたことである(写真11)。その他,特殊メイクかCGか識別できないシーンも多々あった。これは次項で解説しよう。


写真8 前作のメイトランド夫妻。いかにも被りものだが,これでオスカーをゲット!

写真9 前作(上)と本作(下)の怪奇シーン。背景の壁もそっくりに再現。

写真10 前作(上)と本作(下)。ボブさんの登場場面はぐっと増えた。

写真11 全員の頭部は手作りの労作。さすがに爆発はCG描写だろう(下)。

 ミニチュア大好きで,できる限り実物で実現はティム・バートン監督の大方針で,本作でもそれが貫かれている。その最たるものは,ウィンター・リバーの町(写真12)とディーツ一家(元はメイトランド夫妻)が住んでいた丘の上の家である(写真13)。前作でアダムが作った町のミニチュアはまだ屋根裏部屋に残っていて,アストリッドがそれを見つける(写真14)。ビートルジュースはこの模型の中に住んでいるのだから,この模型の町は何度か登場する。


写真12 屋根裏にあった町のミニチュア模型(前作の1シーン)

写真13 丘の上にあったディーツ一家の家(上:実物大のセット, 下:ミニチュア模型)

写真14 (上)屋根裏部屋に残っていて, アストリッドが見つける, (下)その一部のアップ

 映画用の丘の上の家は,前作と同じ場所に建てることができたという。外観は,前作の設計図を基に作り直したが,一回り大きくなってしまったそうだ(写真15)。屋内の部屋の造形&装飾は,勿論この家の中でなく,ロ英国のスタジオ内のセットとして実現された。これも前作に極力近づけてあるのは言うまでもない。


写真15 本作でも同じ丘の上に建てたが, 少し大きくなったという

 この町の景観で感心したのは,36年も経って殆ど変化していないことである(写真16)。実際の撮影場所は,コネチカット州でなく,ヴァーモント州のコリンスなる町だそうだが,長閑な町ゆえ郊外地区は変化も少なく,続編の撮影には適していたのだろう。


写真16 35年経っても町の景観はほぼ同じ
(上:前作の1コマ, 中&下:木々は少し色づいているが,建物の密度は変わらない)

【CG/VFX利用と思しきシーン+音楽】
 実物指向のバートン監督であるが,『チャーリーとチョコレート工場』(05年9月号)『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(17年2月号)等では,その当時で最新のCG/VFX技術を駆使していた。何よりも実写版『ダンボ』(19年Web専用#2)では,空を飛ぶ子象はCGでしか描けなかったはずだから,監督はCG/VFXの威力を十分理解していると思われる。前作のイメージを壊さず,どの程度VFXシーンを使ったかを,前作と比較しながら推測しておこう。
 ■ 誰が考えてもCG だと分かるのは,リディアの実父チャ-ルスを乗せた飛行機の海への墜落シーンだ(写真17)。一方,死者の世界に向かう「ソウル・トレイン」(写真18)の実現方法は断定できない。コストを考えれば,CGの方が得策だが,この程度の車輌を準備して動かすことは,大作ならやりかねない。教会の結婚式での大きなウェディングケーキも同様だ(写真19)。実物を作ることは簡単だが,クリームが溶けて崩れ落ちるシーンを自然に見せるには,CG利用の方がコスパが良いと思われる。


写真17 父チャ-ルズの飛行機が墜落(この後, アニメになる)

写真18 死後の世界に向かう「ソウル・トレイン号」

写真19 この大きなウェディング・ケーキが崩れ始める

 ■ 前作にも登場した傾いた壁,歪んだ白黒床面の部屋(写真20)はどうしたのだろう? 床の歪みをゆっくりh変化させていたから,機械式で床を動かするよりもCG利用の方が容易なはずだ。写真21で,男性の首に巻き付いた太い蛇は物理的に作って巻いたとも考えられるが,ビートルジュースの体内から大量に飛び出す蛇はCGに違いない。死者の顔や奇妙な人物の描写は,物理的か電子的か考えるだけでも楽しい(写真22)


写真20 前作(上)と本作(下)の1シーン。床を動かすには, CGの方が楽なはずだが…。

写真21 (上)太い蛇は手作り? (下)さすがにこちらはCGだろう

写真22 (上)お得意の特殊メイクと思われる, (下)こちらは顔だけ嵌め込み合成か?

 ■ 見どころの1つは,前作にも登場した白黒の大蛇(サンドワーム)の描き方だ。口の中にさらに別の顔があり,さらにその口に中に尻尾が見えるという怪物である(写真23)。実物で制作し,アニマトロニクスで動かせなくはないが,前作とのクオリティの違いを見れば,多分 CG製だろう(写真24)。砂漠内で母子を追いかけるシーンは,砂漠も含めCG/VFXの産物と考えられる(写真25)。余談だが,『デューン 砂の惑星』シリーズにも,サンドワーム(こちらは砂虫と呼ばれていた)が登場していた。大きさもルックスと随分と違う。比べて論じるのも一興だ。


写真23 前作に登場するサンドワーム。まるでオモチャで, 全く恐ろしくない。

写真24 本作に登場するサンドワーム。品質も愛らしさも大幅に向上。

写真25 砂漠も含めてCGの産物だろうが, 母子ともに恐がっている感じはしない

 ■ 100%CG/VFX製だと考えられるのは,バラバラ肢体が組み上がってドロレスになるシーンだ。公開画像がないのが残念だが,楽しいシーンである。スマホを眺めている人物達の鼻や顎が伸びるのも,当然CGの産物だろう(写真26)。極め付きは,最後に登場するビートルジュースの子供(BJベビー?)である。これもどう見ても100%CGの産物だろう。誰がどうやって産んだのかは,観てのお愉しみとしておこう。本作のCG/VFXの主担当はFramestoreで,他にOne of Us, BUF Vfxが参加していた。全体的には,さほど斬新ではないが,楽しい使い方が多かった。


写真26 この顔面変形を特殊メイクで実現するのは, ほぼ不可能
(C)1988 & (C)2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

 ■ 音楽についても,少し触れておく。前作は後にブロードウェイ・ミュージカルやユニバ-サル・スタジオでの音楽アトラクションになってように,サウンド的にも楽しかった。本作も同様で,劇中で流れる既存曲は,軽快な曲が多く,選曲センスの好さが感じられた。特筆すべきは,前作でパーティ招待客のダンスシーンで流れていた“Day-O”(別名,“Banana Boat”)である。前作では,ハリー・ベラフォンテが歌って1956年に大ヒットした曲を使用していたが,本作ではぐっとモダンにアレンジしたカバー版が流れる。時間があれば,後日,サントラ盤ガイドのコーナーで語ることにしよう。

()


Page Top