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O plus E 2022年5・6月号掲載
 
 
トップガン マーヴェリック』
(パラマウント映画/
東和ピクチャーズ配給)
      (C)2022 Paramount Pictures Corporation
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [5月27日より全国ロードショー公開予定]   2022年5月10日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  操縦シーンは確かに大迫力,IMAXでの轟音も魅力  
  お待ち兼ねのこの映画が,ようやく公開になる。言わずとしれたトム・クルーズの出世作『トップガン』(86)の続編である。36年後に同じ役で主演すること自体が驚異的だ。もっとも,撮影は2018年から2019年にかけて行われ,当初2019年7月に公開予定だったのが,コロナ禍で少なくとも5回延期になった。このため,演じているトムの年齢は現在(59歳)より3〜4歳若いが,そうであっても相変わらず若々しいのに感心する。
 前作の日本公開は1986年12月だったが,ロングランでヒットし,翌87年の国内年間興行収入第1位であった。まだ洋画が圧倒的に強かった時代だ。当時広まり始めたビデオレンタル店のキラーコンテンツで,同作がレンタルチェーンを普及させたと言っても過言ではない。店頭でケースは多数並んでいたが,中身はどれも空で,予約しても数週間借りられなかった。まだDVDはなく,媒体はVHSビデオカセットだった。少数だがベータマックス版もあったかも知れない。余談だが,DVD普及のキラーコンテンツは『マトリックス』(99)であった。
 公開当時に観て熱狂した世代は50代以上のはずだが,何度かTV放映されているので,若者にもファンは少なくない。今はAmazon Prime等のネット配信で簡単に観られるので,この続編の前宣伝段階から,前作のネット視聴が急増しているそうだ。
「トップガン」とは「米海軍戦闘機兵器学校」の愛称である。エリートパイロットの養成課程の存在が前作で一挙に広まり,志願者が急増したという。本作では,計器飛行が増えた現在,非常時のために改めて高い技能のパイロットの育成が急務となり,数々の実績を残したピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐が,教官として着任するという設定になっている,前作は大尉であったから3階級昇進しているが,少将になれる実績がありながら,現役に拘り,それを固辞している。
 着任早々に世界的な危機が訪れ,不可能と思える「極秘ミッション」を指揮することになる。自ら操縦桿を握って飛行するが,軍上層部の命令に従わない常識破りの行動は相変わらずだ。エンタメ映画の典型的な主人公であり,映画もそれに相応しい見事な出来映えだ。
 監督は『オブリビオン』(13年6月号)でタッグを組んだジョセフ・コシンスキー。助演は,元恋人と思しき女性ペニー役にジェニファー・コネリー,上官リア少将にエド・ハリスが配されている。物語の鍵を握るのは,前作で落命した相棒グースの遺児のルースターで,マイルズ・テラーが演じている。前作でライバルのアイスマンを演じたヴァル・キルマーも再登場する。
 予告編からの期待通り,飛行シーンは大迫力で観応えがあった。完成披露試写はIMAXスクリーンでの上映だったが,戦闘機の離着陸時の轟音こそIMAXサウンドが相応しく,絶対にIMAXで観ることを勧めたい。
 以下,当欄の視点からのコメントと感想である。
 ■ 「背景合成なし,CGを使わず全て実機での飛行」をウリにしているが,メイキング映像が公開されているように,F/A-18スーパーホーネットに訓練を受けたパイロット役の俳優が着座して撮影したのは本当だろう。ただし,複座機の後部座席にいるだけで,操縦は前座席の空軍現役パイロットが行っている。それでもIMAXカメラ6台を各機に装着して撮影した映像は見事だ(写真1)。実際の飛行速度で撮影しているのだから,背景が目まぐるしく変わる(写真2)
 
 
 
 
 
写真1 F/A-18のコクピットにIMAXカメラを取り付ける 
 
 
 
 
 
写真2 目紛しく変わる背景は,機上からの実写ゆえ
 
 
  ■ 正面だけでなく,6台のカメラを切り替えた別アングルの映像も登場するが,いずれもカメラ位置固定なので,画面中のパイロットの位置も固定だ。前作はスタジオ内でジンバルの上にコクピット部分を乗せて揺らし,背景は背面投影していた。俳優を捕えるカメラワークという点では,その方が自由度が高かった。編隊を組む複数機や横をすり抜ける他機が本物かどうかは分からない(写真3)。「背景をグリーンバック合成していない」というだけであって,後で部分的にCG製のF/A-18を追加することは容易にできるが,そうであっても実際に俳優を戦闘機に乗せて撮影したとのだから,看板に偽りはない。他のパイロットがコクピットに着座しての映像も同様で,確かに迫力はある(写真4)
 
 
 
 
 
 
 
写真3 編隊を組む他機や傍らを高速ですり抜ける戦闘機は本物か?
 
 
 
 
 
 
 
 
 

写真4 他の俳優たちも訓練を受けた上で,実機に着座して空中撮影

 
 
  ■ CGは全くないという誤解を生んでいるようだが,そんなことはない。撃墜され,爆発炎上する機体は当然CGだろう(前作では模型を爆発させた)。敵軍の滑走路を攻撃するトマホーク,戦闘機を迎撃する地対空ミサイル,それらを誤爆するため空中に放出するフレア,終盤の敵とのドッグファイト等々もCG/VFXの産物であると考えるのが普通だ。少しネタバレになるが,前作での主力機F-14も登場するとだけ言っておこう。単純に戦闘機が複数飛行するシーンも,実写なのかCGなのか区別できない(写真5)。米海軍の全面的な協力を得て,長期間に何度も撮影したことは事実のようだが,どの場面も実機を飛ばして撮影したとは限らない。手間とコストの問題で,CGで代用した方が様々な映像を作れ,実用的と言える。戦闘機だけでなく,空母もしかりで,一部は実際に艦上で撮影しただろうが,大半はCGではないかと想像する。本作のCG/VFXはMethod Studios, MPC, Lola VFXの3社が担当していて,プレビズはProof社が行っている。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 軍の協力を得ての飛行か,それともCG?
 
 
  ■ ストーリーは単純で深みはないが,エンタメと気配りは上々で,誰もが楽しめる。ただし,感心しないのは女性の描き方だ。徹底した昔風のスター・システムの映画で,トム・クルーズ1人が恰好よければいいのだろうが,他の男優陣は添え物であるのは仕方ないとして,女優陣も活かされていない。トム・クルーズ主演作はいずれもそうで,「M:Iシリーズ」の女優陣は,「007シリーズ」と比べると数段落ちる(最近,少し良くなって来たが…)。本作では,J・コネリー(写真6)演じるシングルマザーの存在が意味不明だ。前作未見の観客は,以前の恋人に再会させていると思うだろうが,彼女は前作に登場していない。前作のヒロイン,チャーリーを演じたケリー・マクギリスはもはや第一線の女優ではないし,登場させても老婆にしか見えないから,それは避けたのだろう。無難なところで,地味目のJ・コネリーを起用したのだろうが,無理に誰か入れておかねばと考えただけの中途半端な役柄である。それならパイロット・チームの紅一点のフェニックス(モニカ・バルバロ)を,なぜもっと活躍させなかったのだろう? 前作の時点では女性の戦闘機パイロットは制度的に有り得なかったが,時代の変化とともに可能になった役柄である(写真7)。トム・クルーズの愛人役はあり得なくても,もっと現代女性として彼女の活躍場面を増やすべきだったと思う。
 
 
 
 
 
写真6 シングルマザーのペニーとどういう関係かは不明 
 
 
 
 
 
写真7 女性パイロットのフェニックス。前作時には有り得なかった役柄。
(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
 
 
  ■ 一方,前作のファンを意識しているのは,劇中でルースターがピアノの弾き語りで歌うシーンだ。前作で父グースが家族の前で歌う場面をそっくり踏襲している。その時ピアノに上に座って聴いていた少年が,大人になって同じ曲“Great Balls Of Fire”を歌うという趣向である。曲はジェリー・リー・ルイスが1957年にヒットさせたロックンロールの名曲で,ドリー・パートンら多くの歌手がカバーしている。筆者のiTunesには,クリフ・リチャードが1972年の日本公演で,ロックンロール・メドレー中の1曲として歌っているものが入っている。日本では「火の玉ロック」と題して,尾藤イサオらが歌っていた。

 
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  (O plus E誌掲載本文に加筆し,画像も追加しています)  
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