head
title home 略歴 表彰 学協会等委員会歴 主要編著書 論文・解説 コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2005年9月号掲載
 
 
『銀河ヒッチハイク・ガイド

(タッチストーン・ピクチャーズ
/ブエナビスタ配給)

      (c)TOUCHSTONE PICTURES & SPYGLASS ENTERTAINMENT, LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月10日よりVIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズほか東宝洋画系にて公開予定]   2005年7月9日 東宝試写室(大阪)
 
         
   
 
purasu
チャーリーとチョコレート工場』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (c)2005 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月10日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2005年7月28日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  原作を超える悪ノリとブラックユーモアの2作品  
 

 片やカルト的ファンをもつ伝説的 SF小説,こなた人気童話の映画化作品で,ジャンルは違うが結構共通点がある。全編ひねった表現,ブラックユーモアの連続で,素直な感動映画,サスペンス映画好きには向かないが,映像的には魅力満点,VFXの使われ方もしっかりしていて,映像作家を志す若者には必見の作品だろう。
 まず『銀河ヒッチハイク・ガイド』は,この夏『SWエピソード3』『宇宙戦争』と並ぶ3大SF巨編という触れ込みだったが,これは半分ジョークで,タッチはB級SF映画そのものだ。ただし,北米ではサマーシーズンの先陣を切り,4月末から5月かけての週末興行成績のNo.1に輝いているから,あなどってはいけない。批評家の評価も低くない。それが,日本では大都市のたった9館でしか公開されないという。配給会社は,日本人向きでなく,地方都市にはこの種のSFファンは少ないと考えたようだ。(ある意味では当たっている!)
 原作は英国の SF作家ダグラス・アダムスが1978年にラジオ・ドラマとして書いた同名小説で,これまでにシリーズ全体で1500万部を売り上げている。ビートルズのポール・マッカートニーやジョージ・ルーカス監督も夢中にさせたというが,さて本当だろうか。原作者のD・アダムスは,この映画化作品の脚本を完成させた後,2001年に心臓発作のため49歳の若さで急逝している。
 物語は,太陽系を通る宇宙の銀河バイパス工事のため,ヴォゴン人によって地球が破壊されるが,運命の悪戯で唯一生き残った地球人アーサーが,通りすがりの宇宙船をヒッチハイクするという設定だ。ストーリーも登場人物もハチャメチャ,ジョークと悪ノリだらけで,なるほどこの手の話は真面目な映画ファンは苦手だろう。
 一方の『チャーリーとチョコレート工場』の原作は,『あなたに似た人』で知られる英国の短編小説作家ロアルト・ダールが 1964年に著した『チョコレート工場の秘密』(原題は映画と同じ)だ。彼の児童小説の中でも最大の傑作とされ,こちらは単独で1300万部を売り上げている。筆者もこの度,田村隆一訳の旧版と柳瀬尚紀訳の新版(共に評論社刊)の2冊を買ってしまった。
 この名作を独特のタッチで映像化する監督は,鬼才ティム・バートン。大富豪のチョコレート工場主ウィリー・ウォンカを演じるのは,『シザーハンズ』 (90)『スリーピー・ホロウ』(98)等,バートン作品常連のジョニー・デップ。そして,主役のチャーリー・バケット少年には,『ネバーランド』(05年1月号)でJ・デップと共演したばかりのフレディ・ハイモア君という気心の知れた組み合わせだ。物語は,ウォンカ社の板チョコに入っている世界中でたった5枚の金色切符を手にした少年少女と父兄がチョコレート工場に招待され,そこで繰り広げられる奇想天外な出来事を描いている。

   
  いずれもビジュアル・センスとVFXの用法は秀逸  
 

『銀河ヒッチ…』の監督は,これがデビュー作のガース・ジェニングス。出演者も,サム・ロックウェル,ズーイ・デシャネル,マーティン・フリーマン…と馴染みの薄い顔ぶればかりで,せいぜい個性的脇役のジョン・マルコビッチがよく知られている顔だ。では,徹底した低予算の B級映画かと言えば,VFXにはかなりの製作費をかけている。SF映画のポイントだけはしっかり押さえているのが,エライ!
 VFXの大半はCinesite Europeが担当し,クリーチャーのデザインはお馴染Jim Henson's Creature Shopが手がけている。まず,タイトルバックは綺麗な海と自然なイルカの舞い。それが突然いかにもCGならではの一斉ジャンプシーンへと変わる。世界各国の上空に飛来する巨大宇宙船(写真1)は『インデペンデンス・デイ』そのもので,ヒッチハイクして突如移動した先の無機質な寝室は『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせ,他のSF映画へのオマージュと思しきシーンも多々観られる。明らかにSF映画のマニアの眼を意識したつくりだ。
 映画全編で, CG映像のデザイン・センスが素晴らしく,VFXの使い方も秀逸だ。カニ,ネズミ,鯨,大きな砦,大群衆も一昔前なら,特筆すべきレベルだ。球形の宇宙船もシンプルで嫌みがない。醜悪なクリーチャーが登場するかと思えば,マンガ的なロボットが出て来る。デザイン的に圧巻なのは工場フロアのシーン(写真2)で,これはスケールも大きい。
 正直言って,このストーリーには乗れなくて,脚本としては★か,せいぜい☆の評価だが,最後に滅びたはずの地球をバックアップで作るという卓抜なアイデアと,そのシーンのビジュアルの着想には拍手を送りたくなる。上質の VFXとエンディングの明るさゆえに,☆☆まで評価を上げておこう。
 一方の『チャーリー…』もビジュアル面では一歩も引けを取らない。タイトルバックのチョコレート工場の映像は,リアル過ぎず,夢を感じさせるフル CGアニメーションだ。中盤以降のウォンカ氏が案内する工場内部は,極彩色の草原に褐色のチョコレートの滝と川(写真3),実験機材の造形が素晴らしい発明室,無機質なクルミの部屋を巨大セットで実現している。クルミ割りのリスはこの映画のために40匹が調教されたというが,多数が一斉に行動するシーンなどは,巧みに本物のリスがCG製のリスで補強されていると思われる(写真4)[注:実際には,CGは使わず,すべて本物のリスで済ませたようだ]。
 CG/VFX担当は,Moving Picture Co., Framestore CFC,Cinesite Europeの英国勢に,米国からはDigital Domainが参加している。ピーナッツ工場の100人の工員は言うまでもなく,チョコレート工場に住む小人のウンパ・ルンパ族20人も,モーション・キャプチャやデジタル・コピーで作られている(写真5)。チャーリーの住む傾いた家と町の風景のデジタル合成もいい出来だ(写真6)。そして,原作の姉妹篇にも登場する「ガラスのエレベーター」は,CGの威力をいかんなく発揮した映像表現になっている(写真7)。視覚効果賞よりも,来年のアカデミー賞では美術部門でノミネートされ,最有力候補になることだろう。

  ()  
   
  原作とは感じが違うが,これがT・バートン流
 
 
久々の役は,今年初めから本欄の編集担当をされているYさんです。原作の大ファンということで,改めて試写会に足を運んでもらいました。
始めまして。マスコミ用試写会は初めてだったので,少し緊張しました(笑)。とっても楽しみにしてたんですが,観終って,ちょっとガッカリしました。子供の頃から大好きだったあの本とは違う世界でした。
私はこの原作を知らなくて,映画を観てから本を買って読みました。もっとも,原作が日本で出版されたのは私が社会人になった後だから,知らなくて当然ですがね(笑)。ティム・バートン流のくせはあるけど,映画化としては結構忠実な方だと感じましたよ。何が,そんなに違ってたのかな?
原作は子供の視線から描いてあるけど,この映画は大人の視線から物を観ているという感じですね。最後に,原作にはない「家族愛」を強調し過ぎているのも,ちょっと嫌みで逆効果です。
手厳しいな。それはハリウッド映画の定番,住民税みたいなものだから,私などは無視して観ています(笑)。登場人物のイメージはどうでした?
ウォンカ(邦訳本ではワンカ)さんは,偏屈でデリケートな老人のはずなのに,ジョニー・デップじゃ若くてハンサム過ぎますね。原作にはない別の面を見せてくれていますが……。
じゃ,ジャック・ニコルソンかロビン・ウィリアムス,あるいは,ジェームズ・クロムウェルあたりが似合うのかな?
私は,『ツインズ』 (88)でシュワちゃんのダメな兄を演じていたダニー・デヴィートなどをイメージしていました。子供たちは,大体想像通りでした。
想像以上でしょう。よくぞまぁ,あれだけ可愛げのない,小憎らしいガキどもを集めたものだと(笑)。
ウンパ・ルンパの気味の悪い顔も興醒めでしたよ。小人だから,もっと素朴な感じなのに…。
あれが,T・バートン流の洒落っ気,ブラックユーモアですよ。ジョニー・デップが美男な分,その対比として,徹底してあの顔1つで押しているんでしょう。 <
最初みな同じお面をかぶっているのかと思いましたが,全部 CGで描いているんですね。
ディーブ・ロイという俳優の顔をスキャンし,動きをキャプチャし,デジタル・コピーし,縮小して実写映像に合成しています。その他にも CGシーンは多々あり,ビジュアル的には相当見せ場はあったでしょ。
確かに,その点では凄かったです。原作と映画を別物と考えれば,ジェットコースター的なテンポの速さも,独特の世界観も面白いですね。ディズニー・アニメの世界に人間が入り込んだ感じです。
いや,ディズニーでなく,これがティム・バートンの世界ですよ。かつてほどの毒はないけど,一般観客,大人にも子供にも楽しめるという意味では,これが彼のベスト作品という気もします。
 
   
写真1 この巨大な飛行物体はID4へのオマージュか
 
写真2 工場フロアのシーンはビジュアル的に秀逸
 
   
写真3 極彩色の巨大セットとチョコレートの川
 
写真4 ずらっと並んだリスは,もちろんCG製
 
   
写真5 工場の従業員や多数のウンパ・ルンパはデジタル複写の産物。ウンパ・ルンパはちょっと悪趣味だが…。
 
   
写真6 町の遠景のデジタルマットも上出来だ
 
写真7 透明壁面のエレベータが縦横無尽に移動する
 
 
(c)2005 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
 
   
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br