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O plus E 2019年Webページ専用記事#2
 
 
ダンボ』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2019 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [3月29日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年3月19日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  名作ディズニー・アニメを,続々と実写化リメイクに  
  これぞ本物のディズニー映画だ。ファミリー映画として圧倒的なブランド力を誇るディズニー映画も,かつては春休み,GW,夏休み,冬休みの内2〜3回程度しか公開されなかった。それがこの15年ほどの間に,ピクサー,マーベル・スタジオ,ルーカスフィルムを傘下に収め,ディズニー配給網が送り出す作品はCG/VFX大作ばかりとあって,毎号のように当映画評のメイン欄を賑わしている。その上,20世紀フォックスまで買収してしまったのだから,今後どういう棲み分け,相乗効果があるのか,他社も恐々としていることだろう(早速,同じマーベル・ヒーローの「X-Men」や「デッドプール」が,現アベンジャーズ組とクロスオーバーすることだろう)。
 今年のラインナップが凄まじいことは既に述べたが,とりわけ注目していたのが,本作『ダンボ』である。かつてのディズニー・アニメの名作が続々と実写映画化されている中で,飛び切りの人気キャラであり,予告編を観ただけでも,そのCGクオリティの高さは確認できたからである。なぜ当欄がそんなに注目するかを,ディズニー・アニメの配給形態の歴史を振り返りながら述べることにしよう。
 ピクサー作品20本を含めず,本家ウォルト・ディズニー・アニメーションズ・スタジオが製作した劇場用長編アニメ(以下,WDAと略す)は,『シュガー・ラッシュ:オンライン』(18年Web専用#6)で57作を数え,本年末公開予定の『アナと雪の女王2』がWDA58作目となる。言うまでもなく,その半数近くは手書きの2Dセル調アニメであり,WDA28『リトル・マーメイド』(89)からコンピュータ支援制作が始まり,WDA30『美女と野獣』(91)から1部シーンで3D-CGが導入された。フルCG作品が登場するのは,WDA46『チキン・リトル』(05年12月号)以降のことである。
 かつて毎年のように製作されていたWDA作品も,人件費高騰のため,1950年代後半からは,隔年から数年毎のペースに落ちる。その間を埋めるように,旧作をニュープリントで何度も再公開することが増える。子供は入れ替わり,親世代も想い出の深い作品に子供を連れて行くから,賢い商法である。WDA1『白雪姫』(37)は言うまでもなく,WDA2『ピノキオ』(40),WDA14『ピーターパン』(53),WDA16『眠れる森の美女』(59)等は,本邦でも複数回再公開され,時によっては,声の出演者をその当時の人気俳優で置き換えている。
 本作の原典であるWDA4『ダンボ』(41)は,1954年,'67年,'74年,'83年の4回公開されている。筆者は,小学生時代に大人気だった本邦初公開版を観た記憶があるが,てっきり新作だと思い込んでいた。戦前の1941年の作品(以下,41アニメ版と呼ぶ)であったことは今回初めて知った。WDA作品はいずれも時代を経ても色褪せない名作揃いだった。
 1980年代後半から,この種の再公開はバッタリとなくなる。VHSビデオの普及により,セルビデオ販売の人気作品となり,再公開で稼ぐ必要がなくなったからである。子供を映画館に連れて行く必要はなく,家庭で何度も見せられるのだから,これがファミリー映画商法の定番となる。その後は,人気作の続編は少し製作費を抑えたクオリティで,OVA(Original Video Animation)発売することも行われている。コストがかかりリスクがある劇場公開はせず,いきなりセルビデオやレンタルビデオにする商品形態である。記録媒体がDVDになっても事情は同じだ。
 そうしたWDA作品の実写映画化は,言わば第3の波,新市場開拓だ。新しい企画が払底する中,かつての名作で育った顧客を映画館に足を運ばせようという営業戦略である。その最初に試みは,WDA17『101匹わんちゃん大行進』(61)を実写化した『101』(96)だった。ただし,この映画では手書きアニメだった犬(白黒斑点模様のダルメシアン)を本物の犬に置き換えていたに過ぎない。1匹追加した続編『102』(01年3月号)では,その1匹が斑点のないダルメシアンだったが,人手による斑点消しとCGによる描画であったことは,当時の紹介記事で詳述している。そのクオリティには驚いたが,まだかなり限られたCG利用であった。
 CG/VFXの実力が増せば,実写映画化が進むのは言うまでもない。その大きな転換点は,WDA13『ふしぎの国のアリス』(51)を実写化した『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)の興行的成功である。2匹目の泥鰌を狙って,続編『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(16年7月号)も公開されている。もちろん,アリスを導く白ウサギ,チェシャ猫,青い芋虫たちはCG描写されていたし,巨大化したり,小人化するアリス等々もVFXの産物だった。
 こうなると,もう止まらない。WDA12作目を実写化した『シンデレラ』(15年5月号)はまずまずの作品だったが,WDA30作目の実写版『美女と野獣』(17年5月号)で再び大成功を収める。ただし,いずれも主人公は人間であり,CGで描かれたネズミや馬車,野獣の頭部,調度類は,脇役的存在に過ぎなかった。『ダンボ』の主役は,長い耳で空を飛ぶ子象であり,母と子の物語である。それでいて,サーカス団には団長やピエロや曲芸師など,人間もかなり登場する。そのバランスをどうとって,名作の実写化を果たしているのかが,当欄にとっての興味の的なのである。
 
 
  これぞディズニー映画,CG製ダンボの見事な復活  
  さて,当の『ダンボ』の内容に移ろう。3月29日公開だというので,当然,3・4月号での掲載を予定していたのが,完成披露試写会は締切に間に合わなかった。よって,止むなくWeb専用記事にせざるを得なかったので,上述のような長い前置きも書いた次第である。
 既に昨年末から流れていた予告編で,ダンボの質感が本物の象そっくりで,目だけが大きいことは分かっていた。興味の的は,その他の動物や人間をどのような設定にして,名作アニメの雰囲気を壊さないファミリー映画に仕上げているかである。監督が『アリス・イン…』のティム・バートンだというので,ブラックジョーク満載で,ダークファンタジーになっているのではと危惧した。どう観ても,愛くるしさの代表のようなダンボに,そんな物語は似合わない。
 結論を先に言えば,そんな懸念は無用で,素晴らしいファミリー映画に仕上がっていた。これぞ21世紀のディズニー映画の代表作だと太鼓判を押してもいい。まず,41アニメ版の基本骨格を崩さず,CG製のダンボを愛らしい存在として描き,そのクオリティの高さを見事に物語に溶け込ませている。CG/VFXの効果的な使い方としても,満点に近い評価を与えることができる。
 41アニメ版との違いを列挙してみよう。旧作ではダンボ以外は,母親のジャンボを含め,象もカラスも他の動物たちも言葉を話したが,本作の動物たちは全く話さない。それだけで,実写版は人間と動物たちの本当の物語に思えてしまう。旧作でダンボを慰め,空を飛べることを見抜いたネズミのティモシーは,当然言葉を話し,親友兼マネージャーであった。この重要な役のティモシーはどうしてくれるんだという声が挙がっていた。本作では。ティモシーは登場せず,人間の子供たち,ミリー(ニコ・パーカー)とジョー(フィンリー・ホビンス)の姉弟がその役割を担っていた(写真1)。子供たちが活き活きとして大人顔負けの活躍をする映画は,少年少女に夢を与え,ファミリー映画の王道だ。とりわけ,姉ミリーの人物設定が素晴らしい。ちょっと安室奈美恵似で,オデコが可愛いリケジョである。
 
 
 
 
 
写真1 ティモシーでなく,人間の子供たち(姉弟)にしたのが正解
 
 
  この姉妹の父親ホルト・ファリアは戦争で左腕をなくした曲芸乗りの元看板スターで,コリン・ファレルが演じている。サーカスを舞台にしたこの3人の家族の物語としても良い脚本だ。ヒロインは空中ブランコ乗りの女性コレットで,後半ではダンボの背に乗る重要な役柄だ。ボンド・ガールのエヴァ・グリーンが演じているが,監督のお気に入りらしく,これが3度目の起用である。その他,サーカス団長役に個性派のダニー・デヴィート,悪役の遣り手実業家にはマイケル・キートンが配されている。
 勿論,物語は勧善懲悪もののハッピーエンドであるが,クライマックスの盛り上がりは見応えあり,大人の映画ファンも楽しめるエンタメ大作になっている。以下,当欄の視点での論評である。
 ■ 時代設定は1919年。丁度100年前である。当時の機関車実物を使うことも可能であっただろうが,オープニング・シーケンスでは,サーカス団を運ぶカラフルで個性的な編成の列車が走行する。勿論,CG製だ。この列車が,フロリダ,アラバマ,アーカンソー,ミズリーと米国各地を巡るが,米国民にとっては懐かしい風景に違いない。サーカスのテント村のシーンもしかりだ。100年前となると殆ど誰も生まれていないが,何やら見たことのある昔を感じさせてくれる。
 ■ 子象ダンボの登場場面は,藁の中から始まる。藁もダンボもCG描写だが,質感が高く,周りの光景の中に見事に溶け込んでいる(写真2)。母親のジャンボを含め,複数の象が登場するが,長い鼻,耳,皮膚の皺や弛み等のリアリティが高いだけでなく,その歩様や挙動も本物の象とそっくりだ(写真3)。筆者は孫を連れて,昨年5回も動物園に行き,毎回象を熟視しているが,その目で見ても本物にしか見えない。子象ダンボの目は本物よりかなり大きく,ジャンボの目も少し大きめに描いてあるが,それがなければCGとは分からない。その他,ニシキヘビ,コブラ,ネズミ,サル,サーカスやナイトメア・アイランドで登場する動物たちも,卒なく描かれている。WDA19作目(67)を実写化した『ジャングル・ブック』(16年8月号)で,少年以外の多数の動物をCGで描き終えているのだから,もはや技術的にはどんな動物でも難なく描ける。問題は,それをいかに物語に効果的にマッチさせるかだけである。
 
 
 
 
 
写真2 CG製の藁も象の皮膚も質感が高く,驚くほどリアル
 
 
 
 
 
写真3 母親ジャンボを初め,大人の象の歩様や挙動も本物にしか見えない
 
 
  ■ ダンボの飛翔シーンは,やはりワクワク,ドキドキして観てしまう。まるで,アメコミのスーパーヒーローが持てる超能力に開眼し,そのパワーを発揮し始めるシーンとそっくりだ(写真4)。スーパーマン,スパイダーマン,アントマン等の誕生シーンの気分で,待ち受けてしまった。最初はぎこちなく,やがて滑らかかつ勢いよく飛ぶように描いてある演出も上手い。美女のコレットを背に飛行するシーンは,エヴァ・グリーンとの合成も自然で本当に飛んでいるのかと思えてしまう(写真5)。最も評価すべきは,ダンボの表情表現だ。目と口元だけで,これだけ愛らしくなるのかと不思議だ。ダンボの喜びや悲しみ,無邪気さ,不安や怒りまでも,描き分けていることに恐れ入った(写真6)
 
 
 
 
 
写真4 ダンボの飛翔はワクワク感一杯。飛び方もやがて自然に。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 コレットを乗せての飛行も見事な合成
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真6 目と口元だけで,喜び,悲しみ,無邪気,不安,等々の感情を描き分けている
 
 
  ■ その他で注目すべきシーンが2ヶ所ある。41アニメ版では,うっかりアルコールを口にして酔っぱらったダンボが「ピンクの象」の夢を見るシーンがある(写真7)。「ピンクの象を見る」とは,酒での酩酊やドラッグでの幻覚症状を指す言葉らしい。本作では,CG製のシャボン玉が変形してピンクの象になるシーンが描かれている(残念ながら,そのスチル画像が提供されない)。そこで流れる音楽のリズムに合わせてダンボが踊る様は見ものの1つだ。ラストは,生まれた土地に戻ったジャンボとダンボが,ジャングルの中で他の動物たちとのどかに暮らすシーンだ。そこで,滝をくぐり,水も滴る状態で飛行するダンボの勇姿は圧巻だ。ファミリー映画のエンディングはかくありたいという見本だ。本作のCG/VFX主担当は,上記『ジャングル・ブック』も手がけたMPCだ。当然の再委託だろう。その他,Framestore, Rodeo FX,Rising Sun Pictures, Rise VFX等が参加している。
 
 
 
 
 
写真7 アニメ版の酩酊したダンボが見るピンクの象
 
 
  ■ 後半に登場するテーマパークのドリームランドは,当然誰もが後年のディズニーランドを想像する(写真8)。その中にある「Wonders of Science」は,さしずめディズニー・ワールドにあるEPCOTを模しているのだろう。パーク内のコロシアムは,ダンボたちが活躍するサーカス劇場だが,これはそのまま大型セットを組んだという。ドリームランド全体の造形も見事で,一流の美術スタッフがデザインしたのだろう。  
 
 
 
 
写真8 1919年のドリームランドは,誰もが後年のディズニーランドを想像する
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