O plus E VFX映画時評 2024年4月号

『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

(ワーナー・ブラザース映画/東宝配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[4月26日より全国東宝系にてロードショー公開中]

(C)2024 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc.


2024年4月11日 東宝試写室(大阪)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


『ゴジラ−1.0』の後, どう評価するかに悩んだ

 まだ『ゴジラ−1.0』(23年11月号)のオスカー獲得の興奮は冷めやらず,国内興行成績ランキングのTop 10内に留まっている。そこに,ハリウッド製ゴジラ最新作がやって来た。レジェンダリー・ピクチャーズが製作するMV (Monster Verse) シリーズの5作目である。いつもなら,怪獣映画の紹介記事には余り苦労しない。物語は単純明快,悪役怪獣を倒すか,隔離するかで人類未曾有の危機を回避するだけで,当欄としてはじっくりCG/VFXシーンを分析・解説していれば済んだからである。ところが,本作だけは困り果てた。どう評価しようか,どこまでをどう紹介するかで,悩みに悩んだ。
 理由は大別して2つあった。1つは,大絶賛した『ゴジラ−1.0』後の本作の評価である。相対評価すると低くならざるを得ないので,どうやって客観性を保つかである。もう1つは,MVシリーズの前作『ゴジラvsコング』(21年5・6月号)は,配給元の東宝から徹底した箝口令が敷かれていて,CG/VFXの見どころも詳しく解説することができず,隔靴掻痒の思いが強かった。加えて,年々ネット投稿記事は増加し,公開前のヨイショ記事や公開後のネタバレ記事が山のように出てくる。そんな中で,当欄が苦労してネタを取捨選択した記事を書く必要があるのかと……。
 マスコミ試写終了後,試写会仲間に素直な感想を聞いてみた。見事に賛否両論だった。「『ゴジラ−1.0』の人間味溢れるドラマの後,能天気な怪獣映画じゃ太刀打ちできない」「全くのおバカ映画。セリフなしのプロレスごっこで退屈した」の否定派に対して,肯定派は「素直に楽しめた。何も考えずに熱中した」「CGやバトルアクションのレベルは圧倒的に上だ」であった。
 海外サイトの評判も調べてみた。本作は日米同時公開ではない。北米公開が早まって,約1ヶ月早い3月29日であったため,興行成績,批評家の評価,一般観客の声等を知ることができたからである。批評家の評点が『ゴジラ−1.0』よりもかなり下なのは予想通りだったが,前作『ゴジラvsコング』よりも低かった。一方,興行成績は4月19〜21日の週末までの累計で,今年公開映画の第3位と好調だった。これは前作や前々作よりもかなり上である。一般観客の感想も概ね好意的であった。『ゴジラ−1.0』との比較は,全く見かけなかった。
 それで気がついた。日本では『ゴジラ−1.0』が過去のアジア実写映画の米国内興収記録を抜いた等の報道で盛り上がっていたが,純然たるハリウッド映画とは桁が違う。公開館数や広告宣伝費に大差があるから当然だが,『ゴジラ−1.0』を観て高く評価しているのは,根っからのゴジラ・ファンと映画業界関係者なのである。一方,ポップコーンを食べながら週末にMVシリーズを観るのは,その週の新作娯楽映画を楽しみにしている一般大衆である。加えて言うなら,本作はゴジラ映画とは見做されていなかった。よくて怪獣だらけの映画であり,大半はキングコング映画との認識であった。確かにその通りである。前作『ゴジラvsコング』では両怪獣はほぼ対等の扱いであったが,本作での出番は4:6か3:7,印象としては2:8でキングコング中心の映画なのである。
 MVシリーズのゴジラ出演作は,日本での配給はワーナー・ブラザースでなく,ゴジラの版権をもつ東宝である。それでついつい両作の評価に差をつけてはまずいと忖度してしまった。そう気がついて,吹っ切れた。『ゴジラ−1.0』のことは一旦忘れよう。本作は純粋にMVシリーズの一作として扱い,そのCG/VFXを論じればいいのである。それが,当VFX映画評のメイン記事の役目なのである。その基本姿勢に立ち返るなら,他の投稿記事との重複など気にすることはない。VFX史の中での意義だけを考えた同時代記録のマインドに戻ることにした。


MVシリーズ5作目は, 地下空洞でのタッグマッチ

 MVシリーズが誕生して10周年だそうだ。最初からたどると,『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)『キングコング:髑髏島の巨神』(17年4月号)『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(19年Web専用#3)の順であり,第1期の集大成として『ゴジラvsコング』が製作された。そして本作で,ゴジラは4度目,キングコングは3度目の登場となる。両巨頭の扱いに差があるので,その埋め合わせに,本作では事実上キングコング主演,ゴジラ助演にしたのかも知れない。

【MVシリーズでの位置づけと本作の流れ】
 大阪でのマスコミ試写を観たが,いつもならあるプレスシートが,今回は配られなかった。上映開始前に概要を予習することができなかったので,頭の中を空にして素直に物語の展開を追った。最初の15〜20分で分かったが,しっかりMVシリーズを継承していて,前作『ゴジラvsコング』の数年後の設定である。監督は,前作に引き続きアダム・ウィンガード。彼は既に記者会見で,「本作は2作目であり,3作目まで作るべきである」と公言している。よって,映画館で本作を観ようという読者には,ビデオレンタルかネット配信で予め同作を観ておくことを勧めたい。その時間がないなら,当映画評の『ゴジラvsコング』(21年5・6月号)をざっと一読(or 再読)した上で,以下に留意されたい。

①米国政府は,第2次世界大戦後,地球上には古代にルーツをもつ巨大生物(怪獣)が棲息していることを察知し,秘密裏に未確認生物特務機関「MONARCH」(モナーク)を設置し,その動向を監視していた。
②現在ではその活動を公にし,「怪獣災害」を最小に留めるよう戦闘部隊を持ち,世界中に監視基地を設けた。ゴジラやコングも常時居場所や行動を把握されている。その結果,人間社会と巨大生物たちの間には調和が保たれ,平穏な時代が続いていた。
③前作では多数のモナーク関係者(科学者や司令官たち)が登場したが,本作に継続出演するのは人類言語学者のアイリーン・アンドリュース博士だけである。彼女は孤児のジアを養女として育てていた。
④ジアはコングの住み処である髑髏島の先住民イーウィス族の最後の生き残りである。耳に障害があって言葉を話せないが,アイリーンらとは手話で話せる。また,コングとはテレパシーで通信でき,心を通わせてコングの怒りを鎮めることができる。
⑤MVシリーズの中で,地球には大きな地下空洞があることが判明した。前作でゴジラと激しく戦ったコングは本来の故郷である髑髏島の地下空洞に戻り,そこで平穏に暮すことになった。一方,地上の怪獣の王の地位を確立したゴジラは海へと帰って行った。

 さて,本作の流れである。冒頭シーケンスは,コングの日常生活であった。以前の髑髏島の光景かと思ったが,前作の最後に暮していた地下空洞の中のようだ。空には翼竜が飛んでいる。コングは獰猛な獸たちを倒し,その肉を食べていたが,体調不良を訴え,地上に出てくる。何と犬歯が虫歯で,その痛みに耐えられなかったのだった。すぐにモナークが獣医トラッパーを手配して歯科治療するが,そのシーンには笑ってしまった。
 一方,アイリーンの養女のジアは学校に通っていたが,授業に身が入らない。彼女には地下空洞から伝わって来る不思議な信号を感じる力があったからだ。モナーク解析班がこの異常を取り合わなかったため,アイリーンは旧知の陰謀論者バーニーを呼び寄せ,これを地下からの緊急通信だと解釈し,ジア,トラッパー,バーニーらと共にコングの案内で地下空洞の調査に向かう。コングが暮している地底のさらに下の層にはさらに広大な空間があり,思いがけない種族が暮していた。ジアと同じイーウィス族が住む文明社会があり,謎の信号はここから発信されたものだった。彼らの伝説に従い,地球上の調和が崩れる予兆を怪獣たちに伝えるSOS信号であった。
 この間,ゴジラはギリシャやフランスに出没し,スペイン経由で北極海に向かっていた。他の怪獣たちを倒したり,原子力発電所を襲撃して核物質を貪ったりしていて,迫り来る危機に備えているようだった。一方,コングは,空洞内でミニコングのスーコと知り合い,彼の案内で空洞の奥にある「火の国」に向かう。そこにはコングと同種の大猿(Great Ape)が多数いたが,独裁者スカーキングが古代怪獣シーモを使って大猿たちを支配していた。スカーキングが地上に出て,世界を滅亡させるつもりであることを知ったコングは,自分だけでは敵わないと判断して,ゴジラに応援を求めるため地上に向かう……。
 結局,悪役怪獣を倒すだけの定番の怪獣ものだが,概要のつもりが上記の行数を要したように,かなり盛り沢山で,目まぐるしく展開が変わる映画であった。前作以上のジェットコースター映画である。これだけ描くには普通なら2時間半から3時間弱を要してしまうが,2時間以内の117分に収めてあった。その分,まるで1.5倍モードかと感じるほどの猛スピードの映画である。大半は怪獣同士の闘いのシーンであり,奇声を発するだけで,セリフがないパントマイム・バトルが続く。人間の出演者は,抗争の理由や形勢をセリフで教えてくれる役割である。字幕翻訳者はかなり楽だったことだろう。
 前作はかなりネタバレ禁止があったので,念のため担当者に尋ねたが,今回は特にないとのことだった。それでも終盤の肝心なところは言及しないのが,映画解説者としてのエチケットである。ゴジラとコングがしっかり戦うのは自明だが,その後,第3者の仲介で共通の敵と戦うことまで明かして良いのかには迷った。今回は営業方針が変わったのか,公開日が近づくにつれ,スポットCMや予告編でその共闘がどんどん明かされていた。そう,ゴジラはコングとバディ関係になり,強敵のスカーキングと闘う。前作の「ゴジラ対コング」はプロレスに譬えて,アウェイのゴジラがヒール役になっての120分3本勝負だと書いた(実際には,一緒にメカゴジラを倒したのだが)。MVシリーズのゴジラは,東宝からレジェンダリーへのレンタル移籍であり,本作のメインイベントは「コング×ゴジラ組」対「スカーキング×シーモ組」のタッグマッチなのである。本作のエッセンスはそれに尽きると知って観れば,単なるおバカ映画ではなく,楽しいエンタメ映画に感じられるはずである。

【登場人物と登場モンスターたち】
 敬意を表して人間から始める。前作は怪獣映画には珍しく人間の出演者が多かったが,本作ではぐっと絞られている。主役のアイリーン・アンドリュース博士は,引き続き『ザ・キング』(18年Web専用#1)のレベッカ・ホールが演じている(写真1)。養女のジア役もケイリー・ホトルが継続出演している(写真2)。別の俳優に交替したのかと思ったが,子役は成長が著しく,別人物に見えただけだった。


写真1 再登場のアイリーン・アンドリュース博士
写真2 養女ジアは,随分大人っぽくなった

 助演陣では,アイリーンに招かれるバーニー・ヘイズ役のブライアン・タイリー・ヘンリーだけが再登場で,獣医トラッパー役のダン・スティーヴンス,地下空洞への飛行艇ヒーブの操縦士ミケル役のアレックス・ファーンズ,地下空洞のイーウィス族のイウィ女王役のファラ・チャン等は,いずれも初登場である。
 怪獣側の主演のキングコングは,描き慣れていて,見かけの変化はない(写真3)。身長は前作と同じ102.7mとなっている。相変わらず表情は豊かで,喜怒哀楽がはっきり分かる。本作では準主演のゴジラ(写真4)も身長は前作と同じ120mだが,運動能力がかなり増していた。MVシリーズのゴジラは元々かなり歩き回っていたが,これほど身体演技するゴジラは初めてである。


写真3 大事な斧をかざしたコング。本作の主役。
写真4 ローマに現れたゴジラ(観光案内役?)

 敵役の筆頭スカーキングは,いかにも憎々しげな顔をしている(写真5)。巨大ゴリラではなく,オランウータンに近い。迫力という点では,スカーキングが支配する古代怪獣シーモ(写真6)が発する放射冷気が凄まじかった。雪の女王エルサでもここまでは行かない。もう1匹,重要な役割を担っていたのは,大猿の幼体のスーコで,劇中ではミニコングと呼ばれていた。キングコングと擬似親子のような関係になるのが微笑ましい(写真7)


写真5 本作のヴィランは赤毛のスカーキング
写真6 強烈な冷気を発する冷凍怪獣のシーモ

写真7 新登場のミニコングのスーコ。守護神キングコングの手下に。

 MVシリーズでは,怪獣たちは「タイタン」と呼ばれている。本作に登場するのは,地下空洞では翼竜のヴァータシーン,山犬風の肉食獣ワートドッグ,大ウツボのドラウンヴァイパー,地表では,ゴジラに倒される頭足類のスキュラ,北極海の海蛇ティアマット等々だが,詳細はどこかの怪獣図鑑で見て頂こう。勿論,いずれも言葉を話さないので,声優は割り当てられていない。
 実は,終盤にもう1体,コングとゴジラの共闘を仲介する巨大怪獣がカメオ出演する。これは伏せておくつもりだったが,どんどん情報公開され,まずネット記事は平気でその名前を出すようになり,映画雑誌でも言及され,遂には最新の予告編で姿まで見せている。折角,隠しておくつもりだったから,当欄はそれらを目にしていない読者のために楽しみを残しておこう。少しだけヒントを出しておくと,『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)と相似形である。即ち,「バットマン」「スーパーマン」の2大スターに加えて登場した「ワンダーウーマン」の役目であり,「怪獣の女王」であるとだけ言っておく。

【CG/VFXの見どころと笑いどころ】
 ■ どのVFX大作でも,最近はラストバトルよりも冒頭シーケンスの方が魅力的だ。新しい住み処で自由奔放に暮しているコングの日常が見事に描かれていた(写真8)。本作は全編が駆け足モードで,かつVFXのオンパレードであるが,この冒頭15分はさらにハイテンポであった。実は,CGレンダリングにとっては,ハイテンポでもスローテンポでも,計算量に大差はない。動物体の描写やカメラ視点移動がある以上,24コマ/秒の描画時間はほぼ同じだ(静止画背景も同じだ)。それゆえ,いきおいハイテンポで高級に見せようとするのだろうが,観る側としてはもう少しゆっくり見せてくれる方が有り難い。


写真8 冒頭シーケンスはコングの地下空洞での日常生活から始まる。(下)肉食獣ワートドッグの群れ。

 ■ 前作では地下空洞の入口は南極にあったが,本作ではモナークが,カリブ海のバルバドス島にある入江にアクセスポイントを設けていた(写真9)。美しい入江で,ここを選んだ担当者はセンスが好い。コングの誘導で,飛行艇ヒーブに乗って地下空洞に入って行くシーンにはワクワクした(写真10)。地下空洞内のビジュアルには相当力が入っていた。地上の髑髏島とそう代わらない草原や湖や崖もあれば,いかにも地底と感じる暗い空間もある(写真11)。地下のイーウィス族が住む小国や大猿たちのいる「火の国」は後者に属する。ビジュアルデザインに凝ったのは後者だろうが,筆者が不思議だったのはむしろ前者である。地上の自然風景をVFX加工したシーンもフルCGもあるだろうが,解せないのは写真8や写真12のようなシーンである。なぜ,地下の空間に太陽光のような明るい光があり,雲が浮かんでいるのだろう? フルCGの場合も太陽光を模した光源設定すれば容易に描けるが,いくら映画での絵空事とはいえ,ちょっと無茶過ぎる気がした。


写真9 カリブ海の入江にある地下空洞へのアクセスポイント

写真10 コングの誘導で飛行艇ヒーブは地下空洞に向かう

写真11 (上)いかにも恐ろしげな地下空洞, (下)こんな地下にイーウィス族の王国があった

写真12 なぜ地下世界に空や雲があるのか不思議だ

 ■ コングと同種の大猿たちの描写は,技術的には何の問題もないが,まもなく公開される『猿の惑星/キングダム』(24年5月号掲載予定)と比べて観たくなった(写真13)。本作でミニコングのスーコを登場させたのは,大正解だと思う。コングが大ウツボのドラウンヴァイパー(写真14)を捕まえて食する際,スーコに分け与えて仲良く食べるシーンは絶品だった。これでスーコが一気にコングを慕うようになる心情が理解できる。ところで,海中や地下空洞内の巨大生物は大きさが分かりにくいのだが,地上に出たスーコは子供でもさすがに大きく感じた(写真15)。上手い演出だ。


写真13 コングと同種の大猿たちが多数地下の「火の国」に住んでいた

写真14 地下空洞の水中に棲息するドラウンヴァイパー。キングとスーコに食べられる

写真15 地上に出てきたスーコは, かなり大きく感じる

 ■ 武器や攻撃力に関しては,悪役スカーキングのウィップスラッシュ(Whipslash)が斬新だった。他の怪獣の背骨で作った鞭であり,当たるといかにも痛そうだ。地上でビルに巻き付け,振り回すシーンはダイナミックだった(写真16)。スカーキングには貫録がなく,あまり脅威を感じなかったが,彼に支配されるシーモの方が悪役面で,最凶の名に相応しい(写真17)。シーモが発する強烈な冷気で,コングは右腕に重い凍傷を負ってしまう。そこで,獣医のトラッパーが最新技術で開発した機械式の籠手(B.E.A.S.T. Gloveという)を装着して戦うことになるが,この籠手はアイディア賞ものだ(写真18)


写真16 スカーキングの武器は怪獣の背骨で作った鞭。地上のビルを軽々と振り回す。

写真17 氷の怪獣シーモは巨大で, 見るからに最凶

写真18 凍傷の右腕は機械式のビーストグロ-ブでガード。これで殴られたら痛そう。

 ■ 脇役扱いのゴジラに関しては余り書くことがないが,北極海から浮上するシーンには驚いた(写真19)。いつもの青白い光でなく,桃色の光を発しているではないか! ファンの間では作品毎に「○○ゴジラ」という愛称がつけられているが,本作のゴジラには「ピンクゴジラ」が有望だ。運動能力の高さは上で触れたが,コングとの対決シーンで,コングを巴投げで投げ飛ばすシーンがその極みだった。予告編で人気を呼んだのは,ゴジラをコングが追送するシーンだった(写真20)。このシーンでは,ゴジラの腕が異様に太く大きく感じる。全身の画像(写真21)ではそれほどでもないから,写真20はアングルのせいだろうが,本作のゴジラは上記の巴投げのように手も盛んに使っている。


写真19 本作のゴジラは, 何とピンクの光を発して登場

写真20 腕を振りながら駆けるゴジラの姿がSNSで話題に

写真21 タッグを組むバディ関係となった両巨神。ゴジラの手はそんなに大きく見えない

 ■ 2対2のタッグマッチのクライマックスは,重力反転で空中戦を展開する等,ボリューム満点のバトルで,メモを取り切れなかった。VFXシーンで観客サービスだと感じたのは,エジプトのギザのピラミッドとリオのコルコバードのキリスト像のシーンである(写真22)。前者はコングが地下からピラミッド横に飛び出すシーンであり,後者は格闘中の4体が地下空洞の不思議な穴からリオの海岸近くに出現するシーンである。この後,それぞれピラミッドとリオ市内を破壊するのだから,地上の現地としてはいい迷惑だ。本作のCG/VFXの主担当はWeta FXで,副担当はDNEG, 他にはScanline VFX, Luma Pictures, Savage VFX等が参加していた。プレビズは最大手のThe Third Floorで,演出上かなりプレビズの貢献が大きいと感じた。


写真22 (上)ギザのピラミッドの横に地下からコングが出現
(下)地下空洞で戦っていた4怪獣が,なぜかリオの海辺にワープしてきた
(C)2024 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 ■ 特筆すべきは,本作には笑いを誘うシーンが多かったことだ。まずは,コングの虫歯治療シーンで,コングに麻酔をかけ,トラッパーが空中から治療している。削った歯には超合金の王冠をかぶせたので,コングが口を開くと銀色の歯が見える。この歯はスカーキングに嘲笑された。後半でコングに顔を蹴られてスカーキングの歯が抜け落ちた時には,コングが笑い返している。写真20のゴングが腕を振って早足で歩くシーンも滑稽で,まるでお笑いタレントだ。会場は大笑いだった。本作でのゴジラの動作は随所で人間っぽく,まるで人が入った着ぐるみのようだった。実際はMoCap収録だろうが,その場合もかなり誇張した演技をさせていたと思われる。締めはゴジラが身体を丸めてローマのコロッセオで寝入るシーンだ。海外旅行でコロッセオ見学したら,この姿が見られるのだろうか(笑)。土産店でこの姿のゴジラグッズを売れば,大繁盛しそうだ。

【総合評価:和風と洋風】
 以上,しばし『ゴジラ−1.0』を忘れて,純粋にMVシリーズとして評価した。個人的には,巨大さを感じにくい地下空洞や重量感のない空中での戦いよりも,第1作『GODZILLA ゴジラ』のように地上で巨大さが実感できるパニック映画の方が好みである。地下空洞の方がデザイン的な自由度が高く,ビジュアル面で冒険しやすいが,その反面,大味な映画になりがちである。A・ウィンガード監督としての第3作は,ゴジラ重視になりそうという噂も既に流れているが,どういうゴジラ映画になるのだろうか。
 改めて『ゴジラ−1.0』と比べると,『ゴジラ−1.0』は和風テイスト,本作は洋風テイストだと感じる。山崎貴監督は映像業界人には珍しく,謙虚で,空気が読める気配り人間である。それゆえに,人情の機微を描いた『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズのような映画を描けたのだろう。いかにも典型的な和食の世界,幕の内弁当や懐石料理の味付けだと感じる。山崎ワールドでの肉食怪獣ゴジラは,さしずめ「すき焼き」か「しゃぶしゃぶ」だろうか。『ゴジラ−1.0』が海外でも高評価されたのは,日本食ブームで,欧米の知識人がヘルシーな和食を好むことに通じると思う。
 それに対して,MVシリーズは完全に洋風であり,それも繊細なフランス料理ではなく,ハンバーガーやステーキの範疇である。その中のキングコングは,さしずめ米国人好みの「プライムリブ」だろうか。キングコング映画はそれで良い。一方,ハリウッド製ゴジラは,せいぜいテリヤキ味の鉄板焼きだ。こちらも米国人好みである。MVシリーズのゴジラは,テリヤキ程度に留め,それ以上は和風味付けにしない方が安全だと思う。
 山崎版ゴジラもMV版ゴジラも,それぞれの続編を楽しみにしたい。


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