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O plus E 2021年5・6月号掲載
 
 
ゴジラvsコング』
(ワーナー・ブラザース映画
/東宝配給)
      (C)2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [TOHOシネマズ日比谷他にて近日公開]   2021年4月12日 東宝試写室(東京)
2021年4月20日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  怪獣ファン待望の日米モンスター2度目の頂上決戦  
  既に当欄では何度か「MonsterVerse(以下,MV)」シリーズに言及した。即ち,レジェンダリー・ピクチャーズ製作,ワーナー・ブラザース配給の怪獣映画で,個々のスター怪獣をクロスオーバーさせ,統一した世界観で製作・管理するシリーズである。ゴジラの登場作品には,日本の東宝も製作に関与している。本作はシリーズ4作目で,第1期の集大成と言える大作だ。
 1作目が『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)で,その後『キングコング:髑髏島の巨神』(17年4月号)『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(19年Web専用#3)と続き,両雄が対決する本作は早くから予告されていた。MVシリーズで,ゴジラにとっては3作目,キングコングにとっては2作目となり,最初からこの2大怪獣を対決させる予定であった訳だ。過去の他社作品をすべて入れると,ゴジラは36作目,キングコングは12作目になるそうだ。
 それだけあるだけあって,これが初対決ではなく,2大スター競演作は約60年前に東宝配給の邦画『キングコング対ゴジラ』(62)が作られているので,本作が2度目の戦いとなる。同作は怪獣バトル映画の嚆矢となった作品で,筆者は中学生時代に観た記憶がある。もう相当洋画に入れ込んでいた時期だが,そこそこ熱心に観たはずだ。今回改めてネット配信で点検してみたら,全く幼稚極まりない出来映えだった。両怪獣とも着ぐるみなのは当然だが,キングコングの顔はまるでお笑いタレントで,ゴジラが口から吐く熱線に対して,岩を投げたり,蹴飛ばして対抗するしか策がなく,最後は取っ組み合いで崖から海中に引き摺り込む。学芸会かプロレスごっこレベルのバトルである。あまりにチープで滑稽過ぎて,愛らしく感じてしまった。この時代の怪獣映画ファンがタイムスリップして,いきなり最近のCG製モンスターを見たら,卒倒することだろう。
 閑話休題。本作は当初の昨年10月の公開予定が,他のCG大作同様,コロナ禍で越年することになった。海外では3月下旬に公開され,北米のBox Officeランクでは,通常期よりはかなり少額ながらも,3週連続首位を飾っている。ようやく日本でも5月14日公開とのことで,マスコミ試写が観られたのに,3回目の緊急事態宣言によってまたもや公開延期となった。さぞかし関係者は残念なことだろう。いつまで延期かは未定で,本稿執筆時点では単に「近日公開」となっている。どうせなら,この待機期間に上記の3作の紹介記事をこの順で読み,DVDやネット配信で映画本編を観て,予習しておいて頂きたい。というのは,配給会社からかなり厳しい報道管制が敷かれていて,本作の内容,特に見どころを詳しく書けないからだ。
 MVシリーズの過去作からの繋がりと概要だけを述べると,ゴジラはライバル怪獣を悉く倒し「King of Monsters」の地位を築いている。一方のキングコングも髑髏島に生息する生態系の頂点に君臨し,島では「神」と崇められている。本作では,怪獣調査の特務機関モナークは地中深くにある空洞の存在に大きな注意を払っている。前作からの5年後,突如ゴジラは行動を再開し,深海から現れてフロリダのハイテク企業を攻撃する。このゴジラに対抗するため,モナークは髑髏島のキングコングを輸送して戦わせることにする(写真1)
 かつてのゴジラ映画では,ゴジラが他の怪獣への対抗手段として呼び起こされたのに,本作では逆の悪役だ。それぞれ「破壊神」と「守護神」と呼ばれていることからも分かる。まさにプロレス興行での役割分担だ。ハリウッド製である以上,本作に限ってはホーム側のキングコングがヒーローであり,アウェイのゴジラがヒールだ。これは仕方がない
 
 
 
写真1 深い海から登場する「破壊神」と髑髏島に住む「守護神」が対決する
 
 
  監督は過去作からの続投ではなく,『ザ・ゲスト』(14年11月号)のアダム・ウィンガードが抜擢されている。同作の演出を気に入って,紹介記事では,この監督の「名前をしっかり覚えておこう」と書いているが,本作で再会するとは思わなかった。
 以下,シリーズの前作と同様,個別項目毎に評点をつけながら解説する。

【登場人物と演技】
 ゴジラの前作からは,元モナーク所属の動物学者マーク・ラッセル博士(カイル・チャンドラー)と娘のマディソン(ミリー・ボビー・ブラウン)が再登場する。考古人類学者チェン博士役のチャン・ツィイーも継続出演と報じられていたが,見つけられなかった。新たに地質学者ネイサン・リンド役にアレクサンダー・スカルスガルド,言語人類学者アイリーン・アンドリューズ役にレベッカ・ホールが配され,重要な役柄を演じている。モナークの主要メンバーだった芹沢猪四郎博士の息子・蓮役に小栗旬が起用され,物語の鍵を握る役割を果たしている(詳しくは書けない!)。注目すべきは,孤児で聾者の少女ジア(カイリー・ホットル)の存在だ(写真2)。アイリーンが養女として育てているが,コングと絆があり,手話で話せるというのが,本作の大きな見どころである。さほど著名な俳優が出演している訳ではないが,キャスティングのバランスは悪くない。
 
 
 
 
 
 

写真2 コングとは絆があり,手話で話せる少女ジア

 
 
 【脚本とストーリー展開】
 導入部は古代からの怪獣の存在や,地球空洞説を暗示する解説から始まり,物語に入り込みやすい。約30分経過した頃から,急にテンポが速くなり,後はまるでジェットコースター・ムービーだった。過去の怪獣バトル映画に比べると,ネタを詰め込み過ぎだ。もっともらしい学説,南極にある地底への入口,巨大テクノロジー企業エイペックス社の極秘プロジェクト等々が次々と出て来て目まぐるしい,それを理解しようとすると,怪獣対決を楽しむ余裕がなくなる。モナーク関連の各学者やエイペックス社の関係者をここまで登場させることなく,もっとシンプルな物語展開の方が怪獣映画には向いていると感じた。

【CG怪獣とバトルの出来映え】
 過去作で絶賛したように,既にゴジラもコングも,CGモデルやそのレンダリング方法は確立している。ゴジラと対戦させるべく,既に前作からキングコングは巨大化されていて,ゴジラとほぼ同じ身長になっている。ハイレベルではあるが,2大怪獣そのものの描写には特筆すべきものはない。再登場する醜悪なスカル・クローラーも同様だ。
 ただし,CG/VFXの使い方としては,ニヤリとする洒落たシーンもあった。例えば,髑髏島に住むキングコングが木の枝を槍のように空高く投げ上げると……(写真3)。次に何が起こるか楽しみにして頂きたい。輸送船は使えず,止むを得ずコングを多数のヘリで吊るして空輸するシーン(写真4)も,何やら嬉しくなった。アイデア賞ものだ。
 
 
 
 
写真3 コングがこの木を空に向かって投げた後は,観てのお愉しみ 
 
 
 
 
 
写真4 巨大化したコングを多数のヘリで空輸する
 
 
  両巨頭のバトルシーンは,ほぼ予想通りの充実度だった,ゴジラとコングの第1ラウンドは洋上の戦いで,ここはゴジラの圧勝である。船団や海のVFX描写もしっかり描けている(写真5)。終盤のバトルの舞台となるのは,夜の香港のビル街だった。またまた夜の対決で,描画上のアラ捜しをしにくくしているなと感じたが,ビルのネオンの灯を巧みに使って,美しいビジュアルシーンに仕上げている(写真6)。VFXの使い方は上手いが,それとてMVシリーズ全体からすれば,平均点レベルの出来映えだと感じる。
 本来ならば,ここで書きたいCG関連のネタはあるのだが,ネタバレ禁止の箝口令が出ているし,そのスチル画像も提供されない。止むを得ない。一体何が登場するのか,映画館で観ることを愉しみにして頂きたい。他にもエイペックス社施設ではハイテク企業らしい描写も登場するが,これも提供画像がないので詳しくは言及できない。
 
 
 
 
 
写真5 バトルの第1ラウンドは,このシチュエーションから始まる 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真6 バトルの舞台は夜の香港のビル群の中。光の使い方が美しい。
(C)2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.
 
 
  CG/VFXの主担当は,Scanline VFX,Weta Digital,Luma Picturesの3社でこの順にクレジットされていた。大手MPCはポストビズに回っている。少し意外だったのは,前3作とはかなり入れ替わっていることだ。制作期間が重複するので,意図的に別の主担当を当てているのかも知れない。一方,前作と同様,プレビズは大手のThird Floorが,3D変換はDNEG社の3D部門が担当している。

【結末満足度と総合評価】
 両怪獣の勝負の結果に関しても,箝口令が出ているのでこれも書けない。普通に考えれば,片方が相手を倒して絶命させることは有り得ない。それじゃ,MVシリーズが続かなくなる。誰もが思いつくのは,次の3パターンだろう。
 @ 客観的に見て,いずれかが優勢でTKO勝ちか,判定勝ち
 A 2時間3本勝負のプロレスマッチで,1勝1敗の後はドローとなるデキ試合,
 B 新たな敵が登場し,両巨頭は協力してそれと戦う
のいずれであるか,想像しながら見るのも一興である。
 ちなみに『エイリアン VS. プレデター』(05年1月号)は,公開前からいずれが勝つか予想させ,投票させる余興があった。結果はプレデターの勝ちで,パターン@だ(筆者の予想は当たった!)。一方,『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)は,いかにも2大スーパーヒーローが敵対すると思わせておいて,実はしっかり「ジャスティス・リーグ」を作って共通の敵と戦うパターンBだった。
 マスコミ試写会場で,ある新聞の映画欄担当者は,上映前に「日米格闘技対決だから,“アントニオ猪木 対 モハメド・アリ” みたいなものだろう。決着つかずだよ」と声高に予想していた。1976年6月に日本武道館で行われた「格闘技世界一決定戦」のことで,即ちパターンAとの予想である。この試合中,猪木は殆どリング上に寝そべったままで,まともな試合にならずに,観客や視聴者からは大ブーイングだった。この映画のゴジラとキングコングはそんな馬鹿げた展開にはせず,しっかりと戦っていると確約しておこう。
 本作は,間違いなく大きな劇場の大スクリーンで観ることを想定した映画だ。怪獣映画ファンには,その価値があり,まずまず満足できる出来映えだと思う。ただし,MVシリーズ各作品はいずれも高評価を得ているので,その意味では,総合評価もシリーズ中の平均レベルだと評価しておこう。
 かなりの製作費を投じた映画であるので,(他の大作同様)それを回収するためにパンデミックが収束するまで公開延期したいのは理解できるが,やはり白けてしまい,興味は失せてしまう。このコロナ騒動が終わっても,手軽に観られるネット配信作品に流れる傾向はもはや止められないので,こうした大艦巨砲主義のような映画はもう観られないかも知れない。
 
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  (O plus E誌掲載稿を大幅に加筆し,画像も追加しています)  
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