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O plus E誌 2009年4月号掲載
 
 
 
ウォッチメン』
(パラマウント ピクチャーズ)
 
  (C) 2008 PARAMOUNT PICTURES.
WATCHMEN and all related characters and elements are trademarks of and (C) DC Comics. Smiley Face Logo: TM Smileyworld, Ltd.
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [3月28日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2009年3月9日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  衝撃のビジュアルとサウンドは,ゲーマー世代の感覚  
 

 最後に飛び込んで来たのが,このVFX超大作である。本号には間に合わないと半分諦めていたのだが,米国公開(3月6日)の翌週に目にすることができた。となると今月号に詰め込まざるを得なくなり,予定していた他作品は短評欄や来月号に追いやられた。ビジュアル的には,それだけの猛威を奮って良い意欲作である。
 もとは,アラン・ムーア原作,デイヴ・ギボンズ作画で1986年から87年にかけてDCコミックから出版された全12巻の同名のコミックだ。後に1冊のグラフィックノベルにまとめられ,高い評価を得ている。アメコミに大人の読者を取り戻す契機となった作品とされている。既に日本では,劇画がその地位を確立していたから,約20年遅れでアメコミ世界もその影響を受けたとも言える。漫画分野のアイズナー賞とSF分野のヒューゴー賞(1988年の特別賞)の両方を受賞している。SF界の一大改革をもたらしたサイバーパンク小説の祖「ニューロマンサー」が1985年にヒューゴー賞を受賞しているから,SF,ミステリー,コミックの世界に大きな地殻変動が起きている時代の記念碑的作品だった訳だ。
 ウォッチメンとは,世界を揺るがす歴史的大事件を見守ってきた複数のスーパーヒーロー達であるが,1人を除いては超能力者ではなく,すべて常人である。政治的・衝撃的・暴力的な犯罪ドラマと冒険活劇で構成されていたため,中途半端な映画化には適していなかったが,VFX技術の進歩により,その世界観に見合う映像が作れそうだということで映画化に踏み切られたようだ。
 この大作の監督に選ばれたのは,『300 <スリーハンドレッド>』(07年6月号)を成功させたザック・スナイダー。なるほど,壮大なビジュアル・ワールドを表現するには適役だ。主演級は,『リトル・チルドレン』(06)のアール・ヘイリーとパトリック・ウィルソン,『グッド・シェパード』(07年10月号)のビリー・クラダップ 等だが,あまり著名な俳優は登場しない。事件の様相と物語展開がこの映画の主役である。
 物語は,1985年10月,NYの高層マンションのガラス窓が割れ,1人の男が突き落とされて死亡する場面が契機となる(写真1)。もうこの場面から,CG/VFXぎんぎんである。そこに至る過程では,スナイダー監督得意のスローモーションが多用され,独特の世界を醸し出している。殺された男は,かつて「ウォッチメン」と呼ばれた者の1人で,死体の傍には血のついた「スマイルバッヂ」が落ちていた。この墜落事件を不審に思う「顔のない男」が登場し,かつてウォッチメンであった連中が次々殺害される。彼が始める独自の捜査に従って,物語は過去40年間の世界的大事件の現場へと向かう……。何と,ケネディ大統領暗殺事件,ベトナム戦争,アポロ11号月面着陸,キューバ革命とカストロまでが登場する。これは,壮大なミステリーであり,ある種のSFであり,アクション・アドベンチャーである。
 何しろ,ビジュアル面でこれでもかと言わんがばかりのシーンが再三再四登場する。サウンド面でも,かなり斬新で衝撃的だ。半面,相当騒々しく,筆者の感性では,この斬新さは不快感にも繋がると感じた。映画全体では,何やら日本の『20世紀少年』(08)を彷彿とさせる。タッチも舞台も相当に違うのだが,壮大さと荒唐無稽ぶり,観客を置き去りにしかねない強引な物語展開がよく似ている。以下,VFXに関する所感である。

 
 
 
 
 

写真1 窓を破って落下するこのシーンで,まず圧倒される

   
   ■ CG/VFXの主担当はSony Pictures Imageworksで,他に Imageworks India, Inttelligent Creatures, MPC Vancouver, CIS Hollywood, Rising Sun Pictures等も参加している。全1,100のVFXシーンは良質なだけでなく,各シーンがアーティスティックな香りに溢れている(写真2)。スナイダー監督の原作に対する解釈なのだろう。    
 
 
 
 
 
 

写真2 随所に登場するVFXシーンは,いずれも上質

 

 
   ■ ジョン・オスターマンが実験中の事故で,全身が粒子に分解し,Dr.マンハッタンに変身するシーンはその最たるものであり,圧巻だ(写真3)。唯一の超能力者となって以降,全身水色で蛍光塗料のように発色している姿は印象的だ(写真4)。勿論,全身CG表現であり,MoCapデータがフル活動していることは言うまでもない。    
   
 
 

写真3 Dr. マンハッタンが生まれるシーンも圧巻

   
 
 

写真4 これが変身後の超能力者Dr. マンハッタン

   
   ■ 顔のない男ロールシャッハの顔は,白黒模様が常に変化しているように描かれている。2Dの2値パターンでデザインしておいて,3Dの顔にマッピングしている(写真5)。これも最近のトラッキング技術の進歩の賜物だ。    
 
 
 
 
 
 

写真5 2値画像の顔が刻々と変化するロールシャッハ

   
   ■ 全編で約200のセットを構築したというリッチさだ。中でも,1980年代のNYの街を再現した様子は秀逸だ(写真6)。誰もが知っているケネディ暗殺シーンの再現も見事である。ダラスの現場ではなく,バンクーバーにそっくりのオープンセットを再現したそうだ。ニクソンやキッシンジャーのそっくりさんを登場させてくれるのも,同時代を知る観客には嬉しいだろう。    
   ■ では,そうしたVFX大作がなぜ満点の☆☆☆ではないのかと言えば……。答えに窮するが,筆者の感覚では,物語を楽しみたい一般映画ファン向きでないように思える。会場にいた若者たちは,「こんなオモロイ,すごい映画はない。音も映像も最高や!」と叫んでいたから,感性の違いか,年代の違いなのか……。そーか,CGの表現力が増したゲーム感覚なのだ。X-Box派のゲーマーの琴線に触れる映像なのだ。      
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写真6 バンクーバーに作ったオープンセットで1980年代のNYを再現
(C) 2008 PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.
WATCHMEN and all related characters and elements are trademarks of and (C) DC Comics. Smiley Face Logo: TM Smileyworld, Ltd.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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