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O plus E誌 2011年5月号掲載
 
 
ガリバー旅行記』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2010 Twentieth Century Fox
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月15日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー公開中]   2011年3月28日 角川試写室(大阪)
 
         
   
 
エンジェル ウォーズ』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月15日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2011年3月24日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  前評判が今イチのCG多用作2作品の明暗
 
 

 2本とも既に本邦でも公開中で,先月号には間に合わなかったVFX多用作である。本邦での公開日が同じである上に,北米での興行成績や観客の評価が芳しくないという点も共通している。勿論,当欄は他の映画評論家の批評は気にしないし,自分が試写を観て判断する前には読まないようにしている。ところが,公開日を調べている内に,最近はWeb上で興収ランクや観客の満足度の数字が目に入ってきてしまう。これが,筆者の好みと余り違わず,結構当たっているから困る。プロの批評家は通好みの奇妙な作品を褒め,斜に構えた評を書きたがるが,入場料を払って映画館で観る一般観客の評価の方が圧倒的に正しい。少なくとも,面白いか,入場料分の満足度は得られるか,という点では見事に一致している。それをなぞるだけでは能がなく,当欄の存在価値はないから,当欄ならではのVFX評価を語るとしよう。
 まずは,誰もが冒険小説として知っている『ガリバー旅行記』だ。原典はアイルランド人作家ジョナサン・スウィフトが1726年に著した風刺小説であるが,少年少女用の童話に翻案した版が多数出版されている。原作では,小人の国リリパットだけでなく,巨人の国,空飛ぶ島,知性をもった馬の国等も訪れているのだが,「○○界のガリバー」と言えば巨大な存在の代名詞となっているように,小人の国で巨人として扱われるのがガリバーの典型的な登場の仕方である。いかにもCG/VFXによる描写に適した題材であり,かつ流行の3D映画でさらに威力が増しそうな気がした。
 監督は,CGアニメ界出身のロブ・レターマン。これまでに『シャーク・テイル』(05年3月号)『モンスターVSエイリアン』(09年7月号)の監督・共同脚本を手がけている。主演のガリバー役は,製作総指揮も兼ねるジャック・ブラック。『スクール・オブ・ロック』(04年4月号)でブレイクし, 『キング・コング』(06年1月号)での映画監督役が記憶に新しい。
 現代のNYの新聞社で郵便係を務めるガリバーが,中世のリリパット王国に異次元スリップするという設定だが,所詮は童話仕立てなので,それ自体に問題はない。CG/VFXの担当は,Weta Digital,Scanline,Hydraulx等で,22:1の比率を保ったガリバーと小人の合成シーンは,VFX的には楽しい見どころある映像の連続だった(写真1)。冒頭にミニチュアだとすぐ分かるNYの街(写真2)が登場するが,これはご愛嬌で,本編は実物大と思われる大型セット中心で,そこにスケール差のある映像を合成し,かつ立体視まで考慮した見事な映像に仕上げている(写真3)。ガリバーが敵国の帆船を一掃するシーンも必見だ(写真4)。大震災の影響で3D版の試写を観る機会を逸してしまったが,3D版はさぞかしと思わせる構図やカメラワークであった。映像的には一級である。

   
 
写真1 ガリバーといえば,お馴染みのこの光景
 
   
 
写真2 いかにもミニチュアと分かる意図的な描写
 
   
 
 
 
写真3 大小取り混ぜ,立体視まで考慮した多重合成も上出来
 
   
 
 
 
写真4 敵国の船も波もCGで作られている
(C) 2010 Twentieth Century Fox
 
   
 

 ところが,映画全体の出来はといえば,子供だましどころか,子供も呆れる下品でお粗末な物語に終わってしまった。個性派俳優のJ・ブラックの使い方を間違えているとしか思えない。これでは,おバカ映画好きの米国人とてそっぽを向くのも無理はない。

   
  絵空事を描くなら,徹底的にやるべしという好例
 
 

 もう一方の『エンジェル ウォーズ』は,ポスターも予告編も既視感に溢れた映像だった。女戦士たちを引き連れて戦う金髪のヒロインは一瞬キャメロン・ディアスかと思ったが,それにしては少し若い。もっと小柄で可憐な少女で,エミリー・ブラウニングというらしい。記録を調べると,『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(05年5月号) で長女役を演じていたというが,当時はまだ15歳だから,もはやその面影はない。
 冒頭の映像を観ただけで,監督は『300 <スリーハンドレッド>』(07年6月号) のザック・スナイダーだと分かる。その素晴らしい活劇の後の大作『ウォッチメン』(09年4月号)は,映像的には斬新であったが,筆者の好みに合わない作品だった。本作もビジュアル面では大いに期待できるが,名誉挽回作となるかどうかだ。
 時代は1950年代。母と妹を失った少女が,遺産目当ての継父の陰謀で精神病院に入れられ,ロボトミー手術を施される運命に遭遇するという設定である。この精神病棟の実態は売春宿であり,ダンサー兼娼婦の生き地獄を味わう女性達が,団結して脱出劇を企てるという筋書きだ。ヒロインのベイビードールは,ダンスを踊る度にバーチャル世界に入り込むが,計4回登場するこの幻想的な世界の映像が,圧巻かつ驚くほど創造的だった。
 まず,鎧をまとった巨人や巨大ロボットと戦う序章はほんの小手しらべの映像だ(写真5)。時節柄こんな廃墟を出していいのかと疑うシーン(写真6)から始まる第2章は,それに続くスケールの大きな映像に現実世界のことなど忘れてしまう。第3章,第4章となると,まさに筆舌に尽くせない圧倒的な映像のオンパレードだった。全体的にレトロ調でありながら,ヘリ,列車,銃弾等,CGとしても見慣れた素材が縦横に活躍し,ドラゴンの登場やロボットとの戦いと書くと,またかの感もあるだろうが,そのスケールとスピード感が凄い。映画で絵空事を描くなら,かく観客を圧倒させるべしという見本のような映像だ。さすが,ザック・スナイダーである。

   
 
 
 
写真5 まず,この程度のVFXはほんの小手しらべ
 
   
 
 
 
 
 
写真6 時節柄,この荒廃シーンは誤解を招きやすいが…
(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINENT INC. AND LEGENDARY PICTURES
 
   
 

 筆者は大いに満足したが,これが興行成績面で不発とは,ちょっと信じ難い。原題は『Sucker Punch』で,「不意打ち」の意だが,原題・邦題ともに魅力がなく,それで損をしているとも思える。内容的にも,観客層よって好悪が分かれる作品のようだ。そうした場合,従来は筆者の好みに合わない作品が多かったが,本作には迷うことなく,支持票を投じておこう。    

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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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