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O plus E誌 2017年11月号掲載
 
 
IT/イット
“それ”が見えたら,
終わり。』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月3日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2017年10月3日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  S・キング作品の代表作,27年後の見事なリメイク  
  スティーヴン・キングと言えば,米国を代表するホラー作家であり,日本にもファンは多い。悪霊,吸血鬼,魔女等が登場する古典的な「ゴシックホラー」に対して,平凡な町の日常生活に潜む恐怖感を描いた「モダンホラー」の旗手として知られている。『キャリー』(76)『シャインニング』(80)『ミザリー』(90)等,映画化は実に40作品を超えるが,『ショーシャンクの空に』(94)『グリーンマイル』(99)等,ホラー性がないヒット作もある。
 本作の原作小説の出版は1986年だが,1990年に3時間超のTVドラマ化され,本邦では1994年に放映されている。そのリメイク作となるが,不気味さ,作品の完成度で,キングもののベスト3に入ると思う。
 時代は1989年6月,舞台は米国メイン州デリーとなっているが,実在しない架空の町だ。テーマは,奇怪なピエロ,ペニーワイズの姿を見た子供たちが次々と命を落とす連続殺人事件である。このピエロは恐怖心をもつ子供にだけ「見える」ことがポイントで,相手が恐怖を覚える姿に変身し,威嚇・捕食する。ピエロが見えない大人は,事故や天災だと思ってしまう。映画中で,このピエロは27年おきに登場することが明らかになる。即ち,1990年のTV版から丁度27年目の今年,本格的な劇場版大作として本作が公開された訳だ。前評判を呼ぶ上でも,巧妙かつ効果的な企画だと言えよう。
 主人公は7人の少年少女(男6人,女1人)で,名作『スタンド・バイ・ミー』(86)を彷彿とさせる青春映画に仕上がっている。ただし,ホラー性は本作の方が圧倒的に上だ。TV版は大人になった彼らが1人ずつ27年前の子供時代を回想する形式だが,本作は素直に少年時代の出来事を描き,27年後の再会を暗示する終わり方をしている。即ち,彼らが大人になった続編が予定されていて,それは現代が舞台になっているという寸法だ。
 監督は,『MAMA』(13)のアンディ・ムスキエティ。アルゼンチンの映画監督で,これがハリウッドでの長編2作目となる。『MAMA』は本邦では1週間の限定公開で,筆者は未見だが,監督自身が脚本を書いたホラー映画だそうだ。本作の成功により,ホラーの巨匠としての地位を築くことだろう。
 少年たちのリーダー格は弟を亡くしたビル役のジェイデン・リーバハーだが,これが初の大役だ。目を惹くのは,紅一点ベバリー役のソフィア・リリスで,キュートな美形である。彼女なしにこの映画は成立しないと言って過言ではない。子役出身でまだ15歳だが,本作で大ブレイクすることだろう。次作が楽しみだ。
 そして,ペニーワイズ役には,スウェーデンの男優ビル・スカルスガルド。全編ピエロのメイクで登場するので,素顔は分からない。鮮烈な赤い風船に続いて登場する,その顔の演技が絶品だ(写真1)。TV版のピエロの顔は全く怖く感じないから,彼のメイクと表情の演技が本作の大きな成功要因だと思う。じわじわ姿を表わしたり,突然暗闇から顔だけ見せたり,その登場のさせ方で恐怖心をかき立てる(写真2)。神出鬼没のこの存在は,恐怖が生んだ単なる妄想なのか,真の怪奇現象なのかは観てのお愉しみとしておこう。
 
 
 
 
 
写真1 B・スカルスガルド演じるピエロが怖い
 
 
 
 
 
写真2 水中から突然この顔が出るシーンは,震え上がる
 
 
  さて,当欄のお目当てのCG/VFXだが,さほど大きな役割を占めてはいない。それでも,ピエロの口が大きく開いたり,指が伸びたり,死者の顔が変形したりするのはCGの産物だろう。首なし人間,大量の血や黒い帯状の物質もまたCG表現であることは容易に分かる(写真3)。むしろ,終盤の舞台となる古い屋敷(写真4)やその内部の美術セットが秀逸で,CG/VFXは恐怖心を増強させる補助的な役目に過ぎない。担当はRodeo FX,Cubica VFX等で,大手スタジオは参加していない。
 
 
 
 
 
写真3 上から見たバスルームのシーン。気味の悪さは効果抜群。
 
 
 
 
 
写真4 終盤の舞台となる古い屋敷も恐怖感を煽る
(C) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
  美術セット以上に賞賛すべきは,音楽,音響効果だ。冒頭の子供の歌声だけで,何やら背筋が寒くなる。その後も多彩かつ斬新なサウンドが付されている。音響効果部門での有力なオスカー候補だと予想しておく。
 そして,エンドロールの後に「Chapter 1」と書かれていた。今から「Chapter 2」が楽しみだ。  
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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