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O plus E誌 2011年11月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『スマグラー おまえの未来を運べ』:妻夫木聡主演で,彼の甘い顔を中心に据えたポスターを見ると,東宝配給の何の特徴もない青春ドラマに見える。最近次々難役に取り組んでいる彼の姿勢からすると,そんな訳はなかった。真鍋昌平原作の同名コミックの映画化作品で,かなりのバイオレンス・アクションだ。監督は個性派の石井克人。この監督の作品紹介は初めてだが,裏社会と繋がる死体の運び屋を描くには,ぴったりだと感じた。暴力団の描き方では前々号の『探偵はBARにいる』に,バイオレンス度では『アジョシ』に少し負けているが,巧みな演出で,永瀬正敏,松雪泰子,高嶋政宏,安藤政信ら助演陣の好演を引き出している。ただし,(ちょっとネタバレだが)主役の砧に加えられる拷問シーンは凄惨で,緊迫感に溢れていながら,それが大したダメージもなく,ケロッと回復していたのは興醒めだった。残念!
 ■『ウィンターズ・ボーン』:本年度アカデミー賞作品賞候補作10作品のうち,本邦未公開で残っていた一作である。米国ミズーリ州の山村に住む17歳の少女が過酷な境遇を力強く生き抜く様を描く。ドラッグの売買で逮捕された父親が保釈中に失踪し,残された家族は担保となった家からの立ち退きを迫られる。その日暮らしで,病の母親と幼い弟妹を養いつつ,父親探しの旅に出る主人公(ジェニファー・ローレンス)を見守りながら,物語は進行する。生真面目で娯楽要素は全くない。父親が絡んだ組織の実体も不始末の謎も解けないままで結末を迎えるが,寡黙で真摯な主人公の心情を象徴するかのようだ。最後に,幼い妹がバンジョーを手にする姿が愛らしく,この監督の手腕に感心する。なるほど,オスカー候補になるだけのことはある良作だ。
 ■『モンスター上司』:観客の評価,好悪が分かれる作品だろう。映画に感動や人生訓を求める人には無用だが,『ハングオーバー』シリーズを楽しく感じた人にはオススメだ。筆者はといえば,上記『ウィンターズ・ボーン』を観た後の口直しに,このノーテンキ映画は最適だった。人気俳優の怪演ぶりは抱腹絶倒もので,ケビン・スぺイシー,コリン・ファレル,ジェイミー・フォックスにこんな役をやらせるとは罪な映画だ。パロディやスラング満載で,字幕翻訳者泣かせであるが,映画通ほど楽しめる作品になっている。そんな映画の設定や展開にケチをつけるのは無粋と思いつつ,どうしても1つだけ納得できない。ジェニファー・アニストン演じる色情狂の歯科医のセクハラは,歓迎こそすれ,何が迷惑なのか,大方の男性観客には理解できないはずだ(笑)。
 ■『フェア・ゲーム』:主演はナオミ・ワッツとショーン・ペンと聞くと,『21グラム』(03)を思い出す。本作では,元CIA女工作員とその夫の役での登場だ。監督が『ボーン・アイデンティティー』(02)のダグ・リーマンでCIAとなれば,サスペンス・アクションを期待してしまうが,本作のタッチは問題告発型の社会派ドラマ調である。秘密諜報員の身分公表を巡る2003年の「プレイム事件」の当事者を主人公にした実話であり,この映画での描写そのものが,かなり政治的意味があるらしい。ウォーターゲート級の醜聞になる可能性を秘めていた事件というから,製作サイドも名作『大統領の陰謀』(76)を意識したに違いない。イラク戦争開戦前夜の様子,CIA内部の描写,当時のマスコミ報道等々,正確さを目指しているのは感じられたが,この事件をよく知らない我々にとって,映画としての面白みは少なかった。主演の2人は好演しているが,事件のスケールそのものが映画向きではなかった気がする。
 ■『家族の庭』:英国映画界の名匠マイク・リー監督の最新作。厳密な脚本なしに撮影に入り,現場で即興でドラマを創り上げる監督として有名だ。なるほど,本作も極上の人間ドラマに仕上がっている。何不自由ない生活を送る初老の夫婦と,彼らの家を訪れるちょっと困った友人たちの喜怒哀楽を描いている。夫妻の名がトムとジェリー,友人がケンとメアリーであるのは笑えるが,人間模様の描写は大真面目で,暖かみに満ちている。ガーデニングが趣味だが,邦題中の「庭」にはさほどの意義はなく,「家族」「家族の肖像」「家族の食卓」等々の方がぴったりくるが,いずれも既に使われていて,止むなくこの題になったのだろう。春夏秋冬,キッチンの描写に季節感があり,ギターやオーボエの美しい旋律も,この映画のクオリティの高さを象徴している。
 ■『1911』:ジャッキー・チェンの映画出演100本目は,中華民国建国の辛亥革命100周年の歴史的経過を追う記念作品に合わせてきた。総監督を兼ねるが,革命の父・孫文役は,他作品でも孫文を演じ続けてきたウインストン・チャオ(趙文宣)に任せ,自らは盟友で革命軍総司令の黄興を演じている。中国映画の大作らしく,大掛かりなセットや多数のエキストラを投入した本格的歴史映画で,戦闘シーン,政治ドラマ,ラブロマンス等々が,2時間余の中にぎっしり詰め込まれている。コミカルさは抑えたジェッキーの演技だが,サービスなのか,10数秒だけカンフーシーンはあった(流石にNG集はついてなかった)。未来を信じて革命を戦った若者たちを讃えるメッセージは理解できるが,現代中国の現体制の正当化とも受け取れるのが少し気になった。
 ■『マネーボール』:早くもアカデミー賞の有力候補との触れ込みだ。メジャーリーグの貧乏球団を統計学に基づく「マネーボール理論」を駆使して常勝球団に育て上げたゼネラルマネージャーの半生を描く。監督は『カポーティ』(05)のベネット・ミラー,脚本は『ソーシャル・ネットワーク』(10)でオスカーを得たばかりのアーロン・ソーキンが最終担当しただけあって,実話ベースの物語の語り口が上手い。冒頭からワクワクする展開で引き込まれ,アスレチックス20連勝で最高潮に達する。電話1本でトレードを矢継ぎ早に決めるGMの権限に驚き,米国ビジネス社会の非情さには溜め息が出た。主人公ビリー・ビーンを演じるブラッド・ピットも好演だが,出色はGMのアシスタント,ピーター・ブランドを演じるジョナ・ヒルだ。複数の経済アナリスト達から創作された人物というが,この異色のキャラを生み出したことだけで,この映画は成功している。
 ■『孔子の教え』:儒教の祖,「論語」で知られる孔子の半生を描く歴史巨篇だ。中国でも彼を真正面から取り上げた映画は初めてだという。主演は,『アンナと王様』(99)『グリーン・デスティニー』(00)のチョウ・ユンファ(周潤發)。かつてのアクション・スターも,50代後半になり,正に天命を知ったかのように,堂々たる大思想家・孔子を演じている。中国映画らしい大きなスケールで,戦闘シーンもVFXもある大作だが,その一方で「論語」中の有名な言葉が次々と登場する。筆者らが高校の漢文の時間に習った箴言・警句の類いだ。改めて,その漢文の日本語訳の美しい響きに感心した。為政者こそ学ぶべきこの儒教の教えを,最近の日本の軽薄な首相経験者や現代中国の覇権主義者は,どう受け止めているのだろうか?政治家には,論語教育を必修科目にした方がいい。
 ■『コンテイジョン』:少しゆったりと観ていたのは上映後5分間だけで,後は数秒たりとも画面から目を離せなかった。新型インフルエンザによるパンデミックの話題は,鳥インフルエンザやSARS騒動が記憶に新しいが,まさにその感染症の脅威を描いた上質のパニック映画である。監督は『トラフィック』(00)のスティーブン・ソダーバーグ。この鬼才なら徹底した取材の上で物語を練り上げたのだろう。そう思わせるだけのリアリティが,死者の検死,患者の隔離,ワクチン開発等々のシーンに備わっている。マリオン・コティヤール,マット・デイモン,ジュード・ロウ,ケイト・ウィンスレットなど,豪華出演陣なのだが,それを楽しんでいる余裕はなかった。緊迫感の連続の後のエンディングも見事だ。
 ■『アントキノイノチ』:松竹配給作品,モントリオール世界映画祭で受賞,主人公は遺品整理業なる特殊な職業に就く青年とくると,『おくりびと』(08)と瓜二つではないか。ただし,本木雅弘のような凛とした趣きはなく,岡田将生演じる主人公のいじけた態度に少し苛立ちを覚えた。なるほど,歌手さだまさし原作だけのことはあって軟弱そのものだ。それでも,主人公の成長に伴い,中盤以降は「命」をテーマとした見応えのあるドラマの様相を見せる。檀れいが母を偲んで涙ぐむ場面,柄本明が号泣するシーンは感涙ものだ。この物語はこの辺りで終えておくべきだった。その後の校内での回想シーンも結末の展開も余計だ。「生きる」ことの大切さ描いた作品が,一瞬にして安手のメロドラマに堕ちてしまう。残ったのは感動ではなく,失望と後味の悪さだけだ。
   
   
   
  (上記のうち,『孔子の教え』はO plus E誌には非掲載です)  
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