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O plus E誌 2001年7月号掲載
 
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『A.I.』
(ワーナー・ブラザース映画
&ドリームワークス映画)
 
(c)2001 Warner Bros. All right reserved.
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001/6/18 渋谷パンテオン(完成披露試写会))  
         
     
  E.T.を意識させるA.I.  
   こちらもこの夏の話題作で,『パール・ハーバー』に負けじと大宣伝合戦を仕掛けている。人気の2分を意識してか,米国では独立記念日週の公開(6/29)に回ったが,本邦では日米同時公開で『パール・ハーバー』に先行する作戦に出た。ただし,内容に関しては本国でも徹底した秘密主義で,ほとんど情報が伝わって来なかった。世界で一番最初というマスコミ用試写会はギリギリの6月18日。ようやくここに席を確保し,編集部に締め切りを遅らせてもらって見てきたばかりなので,まだ世の中の評判は分からない。
 技術系の読者なら,すぐ「AI」は人工知能とわかるだろうが,ドットつきの『A.I.』は却って何だろうかと思ってしまう。これは『E.T.』を意識させようという魂胆でのタイトルだ。
 すっかり経営者づいてしまったS・スピルバークの『プライベート・ライアン』(99)以来2年ぶりの監督作品,脚本まで書いたのは『未知との遭遇』(77)以来24年ぶりだという。構想30年,あの『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリックがCGの進歩が伴うまで待っていたという遺志を継いでの企画というから,話題性は十分だ。SFXファンならむしろ,ILM社の御大デニス・ミューレン自らが,久々に視覚効果スーパバイザを努めていることの方に注目すべきだろう。
 主演は,『シックス・センス』(99)でアカデミー賞にもノミネートされた天才子役ハーレイ・ジョエル・オスメント(写真)と,『リプリー』(00)『スターリングラード』(01)でも新境地を見せた当代きっての美男俳優ジュード・ロウ。いずれもロボット役で登場というから,映画ファンの興味を意識したキャスティングで,この点では『パール・ハーバー』より上手だ。
 
   
  隅々まで計算し尽くした映画作り
 
スタン・ウィンストン・スタジオ作のロボット達とも共演
(c)2001 Warner Bros. All right reserved.
 2時間26分の映画は,ほぼ3つのパートに大別できる。前提は,未来のある時代,地球温暖化により人間が住める環境が制限され,社会のいたるところでロボットが活躍している。皮膚も表情も外観は人間と全く変わらず,高度な人工知能で感情をもった少年ロボットの第1号デイビッド(H・J・オスメント)は,スウィントン夫妻の家庭に入る。両親に永遠の愛を感じるようインプットされ,親子の情が湧き始めた頃に,不治の病で冷凍化されていた実の息子が奇蹟的に甦り,デイビッドは次第に疎まれ捨てられてしまう。というのが第1部で,誰にも分かりやすいスローな導入だが,既に観客はデイビッドに十分感情移入させられていて飽させない。
 第2部は,ロボット狩りの手を逃れたディビッドは,男娼ロボットのジゴロ・ジョー(J・ロウ)に助けられ,本物の人間になる夢を求めての長く苦しい遍歴が続く。第1部とはテンポも舞台も打って変わった展開で,SFらしいビジュアルやSFXを堪能させてくれる。
 そして,一気に2000年後の未来では…。これ以上書くとネタバレに成りそうなのでここらで止めておこう。
 テカテカ顔にメイクアップした J・ロウも母親役のフランシス・オーコナーもいい味を出しているが,この映画は,天才子役H・J・オスメントとそれを演出するS・スピルバーグのためのものだ。「どうだ。来年のアカデミー賞はこれで決りだろう」と言わんばかりである。感情と知性,愛,母性,生命…,色々な議論が巻き起こるだろうが,それがすべて宣伝になることまで計算し尽くしている感がある。
 大きな月の出は『E.T.』,退廃的な輝きのルージュ・シティの様は『ブレード・ランナー』,第3部の未来世界へのイントロは『スター・ウォーズ』,そして荒廃したマンハッタン島の1室は『2001年宇宙の旅』へのオマージュだなと感じさせる。その辺りのファンサービスも満点だ。そもそも今年公開したのはそのためだろうから。
     
  もう一度見たくなるテディ・ベア   
   そのスピルバーグ臭さは鼻についても,SFXファンとしては,素晴らしいビジュアルと斬新な視覚効果には高い評価を与えざるを得ない。
 ■未来社会を印象づける大道具/小道具類は,多過ぎず,くどくないが,それでいてオフィス,クルマ,電話機等でしっかり自己主張している。未来の何年であるのか,徹底して明かさないのがズルイが。
 ■水没したニューヨークの街,水中に沈んだデイビッドに群がる魚の群れ,2000年後の未来世界の描写とVFXは素晴らしい。視覚効果担当は,前述のミューレン御大(『未知との遭遇』『アビス』『ターミネーター2』等)とILMの中堅どころのスコット・ファラー。しかるべきスチル写真を入手できなかったのが残念だが,ILM夏の陣で他の作品の凌ぐ力量を見せつけてくれる。
 ■見どころの1つは,クリーチャ・デザイン専門のスタン・ウィンストン・スタジオ担当の数々のロボットたちとそのメイク。完璧な人間顔かと思えば,これが上下に割れたり,横を向けば後ろはメカ丸出しといった細工は,勿論VFXとの巧妙な組み合わせで,同スタジオとILMは息の合った仕事を見せてくれる。ブルーの布地を貼りつけて,人間をベースに身体の一部をすげ替えたり,メカ式ロボットに人間の一部を嵌め込んだり,その境界が全くわからない。故障したロボットが,廃品を探して口や腕や脚を取り替えるシーンも見せ場だが,そこには実際に腕や脚がない身障者の俳優を起用したという。
 ■タイトルは『A.I.』なのに,ロボットに知能や感情がどのように備わったか,議論になりそうなセリフも描写も見当たらない。曲がりなりにも,人工知能学会会員で理事であった筆者としては残念至極だ。もっとも,デイビッドのような感情・愛情どころか,他のがらくたロボット程度のパターン認識,会話,自律行動能力を持つことすら,いまのAIにはほど遠いが。
 ■見かけによらず最もハイテクを背負って登場するのが,デイビッドを付き添うスーパートイのテディだ。二足歩行し豊かな表情をみせるこの熊の縫いぐるみ人形の振る舞いは,着ぐるみでの演技やストップモーションのはずがない。事前情報一切なしでは,当然,ラジコン操縦のアニマトロニクス主体だと見ていたが,実際には,サーボモーター50個内蔵の自動歩行ロボットと可動式の床,飛んだり撥ねたりするシーンにはフルCGのテディも用意されたという。全身モデルが6体,頭部だけのモデルが24体に対して,その毛並みと違和感のないCGテデイの制作は決して易しくないはずだ。このテディの挙動を再確認するためだけでも,この映画はもう一度見るに値する。
 このテディ・グッズの影響とデイビッドへの母性本能から,女性ファンはこの映画の方を選ぶだろう。『パール・パーバー』関係者は,ラブ・ストーリーを強調する戦術から,早めにウリをVFXゼロ・ファイターの勇姿に切り替えたほうが賢明だと思うのだが。
 
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