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O plus E誌 2001年7月号掲載
 
 
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『パール・ハーバー』
(タッチストーン・ピクチャーズ
/ブエナビスタ配給)
 
(c)TOUCHSTONE PICTURES
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001/6/7 丸の内ピカデリー(完成披露試写会))  
         
     
  『タイタニック』の2匹目のドジョウを狙って  
   太平洋戦争の幕開けとなった日本軍の真珠湾攻撃に若い男女の3角関係を絡めた今夏最大の話題作だ。当地ハワイ・オアフ島では空母の船体に幕を張ってのプレミア・ショーが行われるなど,マスコミ受けする話題を振りまいている。予想通り,「史実に忠実でない」「日本人の描き方に問題が多すぎる」「戦争の悲惨さが伝わってこない」等々の批評を多数目にするが,メモリアル・デイ公開の娯楽大作にそれ以上のものを求める方が野暮というものだ。
(c)TOUCHSTONE PICTURES
製作は,昨年9月号で紹介したハリウッドきっての敏腕プロデューサ,ジェリー・ブラッカイマーと,共に『ザ・ロック』(96)『アルマゲドン』(98)のヒットを飛ばしたマイケル・ベイ監督のコンビ。総製作費200億円をかけたこの作品に,大衆の嗜好を知り尽くしたこの2人は,歴史的事件にSFXの迫力とラブストーリーを絡めた『タイタニック』(97)の路線を選んだ。
 主役のレイフ・マコーレー役は,『アルマゲドン』『レインディア・ゲーム』(00)のベン・アフレック。親友のダニーと恋人のイヴリン役に,それぞれ若手のジョシュ・ハーネットとケイト・ベッキンセールを抜擢しているのは,高額ギャラを嫌うディズニー系のタッチストーンらしいキャスティングだ。
 幼い頃からの夢であった戦闘機パイロットになったレイフは,親友ダニーを欺き,志願して英国戦線に参加する。海中に墜落し遺体すら発見されないレイフの悲報を受け,傷心のイヴリンとダニーはやがて愛を育み始めるが,そこに九死に一生を得たレイフが生還する。と書くと,『サイダーハウス・ルール』や『キャスト・アウエイ』の設定に似ているが,あの切なさは感じられない。複雑な3角関係を十分味わう暇もなく,そこに日本軍の真珠湾攻撃が始まる。そして…。
 配給会社は,盛んに「この映画はラブ・ストーリーだ」と強調しているが,そう観るならば2流以下だ。「世紀の大河ロマン」「壮大なドラマ」というほどのドラマでもないし,誰に感情移入してよいのかにも戸惑う。大作らしく3時間超にしたかったのだろうが,3人の関係と日米間の政治情勢を描いた前半が長すぎる。
 
   
  本物の零戦がVFXで加工されて登場   
   退屈な前半約1時間半経った頃から,ようやく物語は動き始める。中盤の真珠湾攻撃は,前半とは打って変わった嘘のような小気味いいテンポと迫力だ。300機を超える日本軍戦闘機の襲来,戦艦アラバマの沈没,この迫力は過去の戦争映画と比べてもかなり見応えがある。ダイナマイト700本,ガソリン4,000ガロン,パイロット40人,スタントマン100数人の迫力は伊達ではない。
 最大の見もの,多数の零戦はフルCGか精巧な模型かと想像していたが,3機だけは本物を確保したという。現存する唯一飛行可能な零戦は真珠湾以降のモデル。これはディジタル処理で加工し,他の2機はアメリカ製エンジンを積んで撮影可能にしたそうだ。勿論,自由自在に飛び回る多数の零戦の勇姿はこれをVFX処理したものだろう)。零戦以外にも,99式艦上戦闘機,P-40戦闘機,B-25爆撃機などは,同様の手法で復元し,ディジタル処理で縦横無尽に活躍する。墜落・破壊される戦闘機はCGか模型か,VFXファンにとっては想像するだけでも楽しい。
 
     
 
実機の映像にディジタル・コピー,加工を施した零戦が縦横無尽に飛び回る。圧巻!
(c)TOUCHSTONE PICTURES
 
     
   90度傾いた戦艦オクラハマの撮影は,『タイタニック』でお馴染みのメキシコのロサリート・ビーチのフォックス・スタジオで行われた。船尾だけ実物大で作り,残りはCGで描き足したという。なるほど。米国艦隊に向って落下する爆弾を追った視点での撮影や,6隻の軍艦を本当に爆破するシーンも大スペクタクルで,これぞ映画の醍醐味だ。「全世界が固唾を飲む,空と海のスペクタクル」なるコピーは,そのまま認めよう。なぜこの映画をラブ・ストーリーとして売る必要があるのだろうか。
米軍の全面協力で撮影された爆S破シーンは大迫力
(c)TOUCHSTONE PICTURES
 何事にも本物にこだわるハリウッドなら,この戦闘の模様もかなり本物に近く再現してあるに違いない。これが真珠湾攻撃だったのか。こういうシーンが映像として見られるだけでも幸せだ。SFX担当は,『ツィスター』『アルマゲドン』『パーフェクト ストーム』のジョン・フレイジャー。これはまさに映画第2世紀の製作技術だ。『T2』から10年でここまで到達したかと思うと感慨深い。本映画時評としては,ILMの功績と実力を素直に認め,高く評価したい。
 余談だが,F・ルーズベルト大統領役は特殊メイクを施した名優ジョン・ボイト(アンジョリーナ・ジョリーのお父さん)。これは,エンドロールを見るまで全く気がつかなかった。また,どうせここまで製作費をかけるなら,親友のダニー役は,実の親友マット・デイモンで見たかった。そう言えば,J・ハーネットとやらの表情はマット・デイモンにちょっと似ている。
 VFXは,ストーリーはで,全体としてはだ。二匹目のドジョウ狙いは,やはりその枠を超えていないが,VFXスペクタクルを愛する本欄の読者には,この映画も必見だ。
 
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