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O plus E 2021年Webページ専用記事#4
 
 
ワイルド・スピード/ジェットブレイク』
(ユニバーサル映画/東宝東和配給)
      (C) 2021 Universal Studios
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [8月6日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2021年7月20日 TOHOシネマズなんば(IMAX)[完成披露試写会(大阪)] 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  初作から20年, シリーズ10作目は相変わらず賛否両論  
  シリーズの第1作『ワイルド・スピード』(01年10月号) が登場してから20年,これが10作目だ。いや前作『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(19年Web専用#4)はヴィン・ディーゼル演じるドミニク(ドム)・トレットが登場しない番外編だったので,メインストリームとしてはまだ9作目ということらしい。原題は当初『Fast & Furious 9』であったのに,最終的には『F9: The Fast Saga』となった。今回が本編シリーズであることを強調している(略すなら,「FF9」であるべきだと思うのだが)。
『The Fast and The Furious』は,怒れる若者たちが爆走するストリート・レースを描いた映画の題名として優れていると思ったのだが,訳しにくかったのか,配給会社は『ワイルド・スピード』などいう珍妙な和製英語の題名にしてしまった。その後も次々と続編が登場したため,この変な冠名を踏襲せざるを得なくなっている。ここまで長寿のメガヒットシリーズになると思わなかったのだろう。
 そうしてしまった以上,とことんやろうと決めたのか,5作目以降は原題にはない英単語2つを付すスタイルを通している。番外編の前作と本作は,それがカタカナ表記になっただけだ。毎回思いつきで適当につけているのかと思いきや,本編シリーズでは,
 第4作目『ワイルド・スピード MAX』(09年10月号)
 第5作目『ワイルド・スピード MEGA MAX』(11年10月号)
 第6作目『ワイルド・スピード EURO MISSION』(13年7月号)
 第7作目『
ワイルド・スピード SKY MISSION』(15年5月号)
 第8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』(17年5月号)
 本 作 『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(21年Web専用#4)
であるから,2作ずつ韻を踏むかのように,後の単語を同じにしてある。長寿シリーズであることをセールスポイントにしたいからだろう。なぜこんなことを長々書いたかと言えば,本作はまさにそのシリーズの最新作であることを最大限にアピールしているからだ。広報宣伝でも,昨年夏からの公開延期期間も含め,4年ぶりの続編が帰って来たことを強調している。
 当欄も全10作のすべてを取り上げて来たが,やはり20年というのは凄いことだ。敬意を表して,本稿も格別に長い記事にすることにした。
 少し振り返ってみよう。途中の最も大きな出来事は,主役の1人ブライアン・オコナー役のポール・ウォーカーが7作目撮影中に自動車事故死してしまったことだ。そのまま劇中でも事故死扱いするのかと思ったが,まだ存命であり,ドムとは別の道に歩むことになったかのように描いていた。CG製のブライアンも登場し,ファンにとっては感涙もののエンディングだった。
 2本柱の片方を失い,その後どうするのだろうと思ったら,既に脇役の捜査官で登場していたドウェイン・ジョンソンと敵役を演じていたジェイソン・ステイサムの役割が大きくなった。ドムを含めた,この「ハゲ・トリオ」はなかなかの魅力だった。ところが,その2人を番外編の主役にしたためか,本作の本編には2人は全く登場しない。これは残念で,作品のクオリティがぐっと落ちる気がした。どうやら,次作ではJ・ステイサム演じるデッカード・ショウが再登場することは確実なようだ。半分だけ安心した。
 ドル箱シリーズになるに連れ,ストリート・レースの枠を大きく飛び出し,大掛かりな犯罪から世界の危機を救う存在にまで路線変更されてしまった。カーアクションの過激化だけでなく,シナリオとしての荒唐無稽ぶりも目立ってきた。長年のファンの間でも「賛否両論」なので,それぞれの言い分を整理してみよう。

【路線変更の肯定派】
 大きく分けて,2つのグループがあるように見える。一方は,とにかくアクション映画好きで,ストーリーや人物設定などどうでもいいという連中だ。映画としての快感度が高ければ良いという観客であり,これが結構な数存在する。もう一派は,継続登場人物を重視するファン層で,シリーズのどこで誰が登場したかを克明に覚えている。その分,各作品での辻褄合わせが気になる連中である。主人公の仲間が増えたり,敵も継続していると尚いいようだ。どの長寿シリーズもこの種のファンに支えられているが,本作のドム・ファミリーやデッカード・ショウの親子は,うってつけの存在のようだ。
【路線変更の否定派】
 原点のシンプルなカーアクションやレースシーンを好むファンが,この否定派の中心だ。アクションの過激度は認めても,危機の設定の荒唐無稽さを嫌う。女王陛下の秘密諜報員でもなければ,CIAが秘密裏に育成した異能の特殊工作員でもない一介の不良中年に,なぜ世界の危機を託すのかと苦言を呈したい連中である。大半の映画評論家はプレス関係者もこの否定派に属し,筆者もそれに近い。それでも,新作は観るから(紹介記事も書くから),結局は熱心なファンであり,愛するがゆえの苛立ちである。

 さて,本作の内容に移ろう。8作目『… ICE BREAK』から5年後という時代設定で,米国政府の諜報組織の長ミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)の輸送機が南米で墜落し,その中には世界を掌握できるデジタル装置「アリエス」の一部が積まれていた。ドムとそのファミリーがその回収を依頼されるが,宿敵サイファー(シャーリーズ・セロン)や某国独裁者の息子オットーもこの装置を狙っていた。彼らと結託し,武装集団を率いてドム・ファミリーの前に現れた強敵のジェイコブ(ジョン・シナ)は,何とドムの実弟だった……(写真1)
 
 
 
 
写真1 ドム(右)と実弟のジェイコブ(左)との因縁の対決
 
 
  という訳だが,監督・共同脚本には,3作目から6作目までのメガホンをとったジャスティン・リンが再登板している。これでシリーズ5本目ということになる。助演陣は,上記の他,ドムの妻レティ役のミシェル・ロドリゲス,妹ミア役のジョーダナ・ブリュースター,凄腕ハッカーのラムジー役のナタリー・エマニュエル等のお馴染みのファミリーの面々が登場する。韓国人のハン(サン・カン)まで再登場するのには驚いたが,このことは後述する。
 
  カーアクションは引き続き過激で,CG利用は過去最高  
  どう見ても,賛否両論をさらに助長するような企画なのだが,以下項目毎にそれを点検・確認しよう。
【物語設定と脚本】
 電話やネットも遮断してレティや愛息と静かに暮らしていたドムに,またまた世界の危機を救う依頼が来るという前提は,いくら否定派が認めたくなくても止められない。それは容認するとしても,「アリエス」なる装置にリアリティが感じられない。装置の半分だけがすぐ見つかり,残る半分の隠し場所や起動キーを巡る「宝探し」も定番の1つだとしても,通信衛星を乗っ取って,世界を制覇するという危機設定がお粗末だ。現在の情報セキュリティ管理は,そんな装置で丸ごと破られるほど脆弱ではない。そもそもハードウェア装置が鍵を握るということ自体が非現実的だ。8作目では原子力潜水艦と対決させたくらいだから,,この程度のいい加減さも肯定派にとっては,何でもないと言えるが…。

【登場人物について】
 ファミリー重視であるのに,これまで聞いたこともない弟をいきなり登場させ,因縁の対決というのはご都合主義過ぎる。彼らの若き日(1980年代末)の回想シーンが何度も登場し,2人とも別の俳優が演じていた。これくらいの大作なら,デジタル技術で若作りに化けさせるか,フルCGで描いてもいいように思えるが,出番が多過ぎて,それも無理だったのだろう。ヴィン・ディーゼルのルックスが個性的過ぎるためもあり,若き日のド厶を演じるヴィニー・ベネットは余り似ていない。若い彼の方がイケメンであり,知性的な感じもする。後年,犯罪にまで手を染めるアウトローになるとは思えないのが欠点と言える。
 ブライアンと結婚して別の道を歩んだはずの妹ミアが,離婚した訳でもないのに,もう再登場している。おいおい,旦那や子供を放っておいて,不良兄貴の過激ミッションに付き合っていていいのかよ,と言いたくなる。弟ジェイコブを登場させる以上,彼女の存在も不可欠だったのだろう。申し訳のように,ブライアン一家との団欒風景まで登場させている。そこまでファミリー肯定派にサービスするなら,いっそCG製のブライアンを一瞬登場させてくれても良かったかと思う。
 デッカードや妹ハッティーは物語に登場させないのに,彼らの母親クイーニー(ヘレン・ミレン)だけはしっかり出番がある。それも,ドムを助手席に座らせ,市中を激走させるドライビングシーンまで見せるサービスぶりだ(写真2)。大女優を再登場させ,豪華キャストを謳い文句にしたかっただけと思えてしまう。
 
 
 
 
写真2 母親クィーニーはドムを従えて,市中をドリフト走行 
 
 
  何と言ってもサプライズは,第3作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(06年9月号)で死んだはずのハンの復活だ(写真3)。第4〜6作でも登場しているが,第3作が時系列的に第6作より後で,まだハンが生きている間との言い訳だった。本作では,実は死んでいなかったという屁理屈まで入れて,堂々と生還させている。J・リン監督が生み出し,彼が絶命させた登場人物ゆえ,復活させるのも彼の役目とも言えるが,いくら娯楽大作とはいえ,ここまで何でもありかの思いだ。それじゃ,この生還は完全にシークレットで,劇中いきなりのサプライズかと思えば,堂々とクレジットされ,ポスターにも予告編にも姿を見せている。既にSNS上で肯定派と否定派がフォロー合戦を繰り広げているから,広報宣伝にとっては満点の事前演出効果だろう。
 
 
 
 
 
写真3 3作目で死んだはずのハン(右)をちゃっかり生き返らせている 
 
 
 【カーアクションに関して】
 毎回,一体車を何台壊すのかと呆れる映画だが,その路線はしっかり踏襲されている。かつて,本物の車輌をビルの上階から下の道路上に落下させたり,輸送機から実車を空中に放り出した映画であるから,もはや何が起こっても驚かない。
 ドムとジェイコブの父親ジャックはレーサーで,1989年のレースで壁に激突してクラッシュ,炎上して落命する。映画冒頭のこのレースシーンは本格的描写だった。ドムとジェイコブの2人がストリート・レースで対決するシーンも原点返りの趣きがあり,否定派も喜ぶ演出だと言える。
 中盤の「ジャングル・チェイス」は,山中での過激なカーアクションを堪能させてくれる。終盤は「アルマジロ」と呼ばれる3連の大型装甲車が目一杯登場する。いずれも過去作品にはないユニークなカーアクション・シーンで,本シリーズの面目躍如たる演出であった。その点では,満点に近い。
 また,強力な磁力発生器が登場し,高速走行する車輌も容易に引き寄せてしまう。これもユニークなアイディアだが,ちょっとそれを使い過ぎで,脚本の出来映えが今イチだった。
 実写で多数のクルマを破壊するのはお手のもので,爆発シーンも随所にあり,地雷原でのチェイスには本物の爆発を入れているようだ。そうしたシーンを撮影するのに,オリジナルの特殊カメラリグを導入しているのも本シリーズならではの矜持と言える。メイキングビデオがYouTubeで公開されているので,どこまでが実写撮影なのか楽しむのに役に立つ。

【CG/VFXの利用度と出来映え】
 逆に言えば,上記のメイキングビデオに登場しないシーンはCG/VFX中心の演出だと想像できる。爆発シーンも大掛かりなものはCG描写だろう(写真4)。実車で始まり,破壊した実車で終わるシーケンスも,途中の物理的に有り得ない動きはCGで描いていると見て取れた。
 
 
 
 
 
 
 

写真4 さすがに至近距離での爆発はVFX合成だろう

 
  例えば,写真5では,ヘリはCGで,ドムとレティが乗るクルマは実物だろうが,崖からのジャンプ以降がVFXの出番だ。吊り橋の残骸ワイヤーを利用しての「ターザン・スウィング」は,さすがに実車では有り得ない(写真6)。ミニチュアか実物のスタジオ撮影の合成も考えられるが,普通に考えればCG利用だろう。これに先立つ吊り橋上のチェイスシーンもかなり手の込んだVFXシーケンスであった。強大な磁力で車輌を吸い寄せるシーンも,CGならではの見どころだ。ワイヤー操作では,ここまで表現出来ない。コストを考えれば,ほぼすべてCGカーの利用だろう(写真7)
 
 
 
 
 
写真5 ここから先がCG/VFXの本格的な出番 
 
 
 
 
 
写真6 残骸ワイヤーを使ってのターザン・スウィングには驚いた
 
 
 
 
 
 
 
写真7 (上)実際の撮影風景,(下)CG製の車輌を配置。黒い2台が磁力で中央の車に引き寄せられる。
 
 
  クライマックスのアルマジロ登場シーンもかなり見応えがある。アルマジロ自体は走行できる車輌が実際に製造されているが,当然,精緻なCG幾何形状モデルも存在する。アルマジロを直立,前転させるシーンは,勿論,CGと実車輌の合成である(写真8)。アルマジロの屋根の上でのドムとジェイコブのバトルは,当然スタジオ内で撮影した映像の合成で,多数の作品で利用された古典的な用法である(写真9)
 
 
 
 
 
 
 
写真8 (上)まずアルマジロの1両目だけを試し合成,(右)さらに残る2両を描き加える
 
 
 
 
 
 
 
写真9 (上)スタジオ内でアクション撮影し,(下)市中での走行シーンに合成
 
 
  少し驚き,呆れたのは,赤いポンティアックにロケットエンジンを装着し,ローマンとデズが大空へと舞い上がるシーンだ(写真10)。この後,何をしでかしたかは,観てのお愉しみとしておこう。
 
 
 
 
 
 
 
写真10 ロケットエンジンを着けて飛び立ち,どこへ行くつもりか?
(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
 
 
  以上のような意味で,CG/VFXの利用比率は過去最大だと思われる。一見,実車輌の利用と破壊をウリにしている本シリーズの精神に反しているように思えるが,カーアクションを多彩かつ過激に演出することには貢献している。かつてのブロックバスター映画はCG/VFXの利用をウリにしたが,最近,製作者や監督はCG利用を隠し,実物の利用を強調したがる。それが広報宣伝に役立つと思っているのだろうか? 肯定派も否定派も,カーアクションが楽しければ良く,CG/VFXの利用率などどうでもいい。
 本作のCG/VFXの主担当はDNEG,副担当はILMで,その他Lola VFX,Factory VFX, Territory Studioも参加している。そのCGアーティストの数からだけでも,CG/VFX利用度の高さが推定できる。Proof社が担当したPrevis,Postvisがかなり大きな役割を占めていたことも,同社への取材記事から伺い知ることができる。

【総合評価】
 約1年の公開延期後の再開であるが,最も嬉しかったのはIMAX上映での完成披露試写会だった。どうせ観るなら,この映画は絶対的に大きなスクリーンで観るべきだ。いかに脚本がプアで,危機設定が荒唐無稽であっても,カーアクションを重視するなら,観る価値は十二分にある。
 別の意味で驚いたのは,本作の場合,米国ではシネコン・チェーンでの視聴と,Amazon Prime,Apple TV,YouTube等でのネット配信の有料視聴が,同一料金で同じように案内されていることだ。配給元にとっては,どちらの方式でも製作費の元が回収でき,利益が上がればいいのだろう。やがて,ネット配信に押され,劇場公開を前提とした迫力のある作品が減ってしまうことが危惧される。
 
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