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O plus E 2022年Webページ専用記事#5
 
 
グレイマン』
(Netflix)
      (C)2022 Netflix
 
  オフィシャルサイト [日本語]    
  [7月22日よりNetflixにて独占配信中]   2022年8月5日 Netflix映像配信を視聴
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  極上アクションとニヤリとする配役のスパイ映画大作  
  本誌7・8月号に間に合わなかった大作で,校了後の7月22日から配信されているNetflixオリジナル映画である。コロナ禍で映画館での新作公開がストップしている頃は,ネット配信作品を数多く紹介したのだが,劇場公開が正常化した以上,なかなか手が回らない。とりわけ,Netflixオリジナル作品は数が多く,良作を選別するのも一苦労である。そんな中で迷わず本作に目をつけていたのは,『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)『同/エンドゲーム』(19年Web専用#2)のルッソ兄弟の監督作であったからだ。
 スーパーヒーロー映画で大成功を収めた彼らの最新作でこの題名となると,マーベルの「アイアンマン」「スパイダーマン」「アントマン」や,DCの「スーパーマン」「バットマン」「アクアマン」等に対抗して,Netflixが打ち出す新しいヒーローなのかと思ってしまうのが当然だが,本作は筋金入りのスパイアクション映画だった。原題は『The Gray Man』で,原作はミステリー&スリラー作家マーク・グリーニーが2009年に上梓した同名のスパイ小説である。「暗殺者グレイマン・シリーズ」として,既に10作品が刊行されている。上記MCU作品以前に,彼らが映画化を希望していたシリーズだそうだ。本作の製作費はNetlix史上最高額の2億ドル(昨年配信の『レッド・ノーティス』も同額)で,当然シリーズ化する計画なのだろう。結論を先に言えば,その額と期待度に値する出来映えの力作であった。
「グレイマン」とは,CIAが「シエラ計画」の名で育成した「暗殺用秘密工作員」であり,無彩色の目立たない,表に出ない存在という意味から,こう呼ばれているらしい。主人公は,犯罪者として刑務所に収監中に,類い稀なる身体能力,戦闘能力を買われてスカウトされたコート・ジェントリー(ライアン・ゴズリング)である。18年後,コード名「シエラ・シックス」を与えられ,新たな暗殺任務を与えられるところから物語は始まる(写真1)。任務遂行には成功するが,その相手は同組織に属する「シエラ・フォー」であった。彼の死の間際にCIA上官の重要機密を記録したマイクロチップを託されてしまったことから,シックスはCIAから命を狙われる存在となってしまう……。
 
 
 
 
 
写真1 18年後,鍛えられた秘密暗殺工作員として登場
 
 
   となると,同系統の作品で比べたくなるのは,マット・デイモン主演の『ボーン』シリーズだ。CIA所属ではないが,米国政府の表立った後楯がなく,極秘命令遂行を命じられるイーサン・ハントらの『ミッション・インポッシブル』シリーズも同じような立場だと言える。M・グリーニーは,共著者としてトム・クランシーの「ジャック・ライアン・シリーズ」に参加していただけあって,工作員だけでなくCIA組織の描写も綿密だ。
 シエラ計画の立案者で,シックスを育て上げた元CIA本部長ドナルド・フィッツロイ(ビリー・ボブ・ソーントン)を追い出し,後任に座ったCIA官僚デニー・カーマイケル(レゲ=ジャン・ペイジ)は,グレイマン達を私的な暗殺目的に利用していた。その証拠を握られたため,残虐な暗殺者ロイド・ハンセン(クリス・エヴァンス)を雇って,シックスを抹殺しようとする。このロイドがとてつもなくパワフルで,出番も多く,本作のW主演と言える。女性陣は,シックスを助ける女性工作員ダニ・ミランダ(アナ・デ・アルマス)がヒロインであり,カーマイケルの部下でロイドの補佐役を命じられる女性職員スザンヌ・ブリューワー(ジェシカ・ヘンウィック)がサブヒロインだ。この2人の美形度は,上記両シリーズのヒロインよりもかなり上だ。もう1人,フィッツロイの姪で,ロイド一味に拉致され,シックスが救出に向かう病弱な少女クレア(ジュリア・バターズ)が庇護対象として登場する。
 主役,ヒロイン,敵役の3人は,ちょっと笑えてくるようなキャスティングだ。C・エヴァンスは,言わずと知れたマーベル・ヒーローの「キャプテン・アメリカ」でブレイクした俳優であり,ルッソ兄弟の出世作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14年5月号)『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)の主演男優である。大団円を迎えた『…エンドゲーム』で彼をアベンジャーズ・チームから引退させた後,この新作でW主演の敵役に配するとは,映画ファンならニヤリとする起用法だ(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 あのキャプテン・アメリカが,残虐な暗殺者に
 
   一方のヒロイン役のA・アルマスは,ダニエル・クレイグの最終作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21年Web専用#5)で起用されたボンドガールであり,しかもCIAの新米エージェント役で鮮やかなアクションもこなしていた。即ち,そっくりボンドガールをほぼ同じ役柄で拝借し,まるでその後ここまで成長しましたと見せつけている訳だ(写真3)。劇中でシエラ・シックスはクレアから「なぜシックスなの?」と尋ねられ,「007は先にとられていたから」と答えるジョークも登場し,観客の笑いを誘う。「007シリーズ」を意識しているというより,A・アルマスのキャスティングはかなり大胆なパロディ的起用だと言える。
 
 
 
 
 
写真3 ちゃっかり,最新のボンドガールを借用。相変わらず,可愛い。
 
 
   ちなみに,D・クレイグが探偵役を演じた『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(20年1・2月号)で,A・アルマスは謎を解く鍵となった看護師役,C・エヴァンスは真犯人役で共演しているから,それを思い出すと尚更笑える。さらに言うなら,Apple TV+で配信予定のC・エヴァンス主演の『Ghosted』では,当初予定の相手役スカーレット・ヨハンソンが降板したことから,その代役としてA・アルマスが起用されるというオマケまでついている。
 では,主役のR・ゴズリングは一体どうなっているのかと言えば,当欄では『ラースと,その彼女』(08年12月号)『スーパー・チューズデー 正義を売った日』(12年4月号)『ラ・ラ・ランド』(17年3月号)『ファースト・マン』(19年1・2月号)等々,多数の主演作を取り上げているが,アクション大作とは縁がなかった。思い出してもらいたいのが,SF大作『ブレードランナー 2049』(17年11月号)である。旧作の主人公デッカード刑事役のハリソン・フォードの登場場面ばかりが気になったが,彼を探し出す新ブレードランナーでレプリカントのKを演じていたのがR・ゴズリングだ。そして,その彼を毎夜癒してくれるAIエージェントのジョイを演じていた美女がA・アルマスである。巨大なホログラムとして登場するシーンなど,まるで印象が違うが,既に同作で恋人以上の関係として共演していた訳である。ハリウッド映画界に俳優は星の数ほどいるはずなのに,よくぞこれだけニヤリとする関係の3人を選んだものだと感心する。
 さて,主要3俳優の話題ばかりを述べてしまったが,いつもの当欄の視点からの論評である。
 ■ 本作のアクションシーンは,大きく3つある。まずは,前半の輸送機内部での攻防と,機内からの脱出・落下シーンだ。逃亡用に手配した輸送機内で暗殺指令を察知したシックスは,機内で激しく敵と戦う。大型輸送機は実機を用意しているが,破壊され,炎上して墜落するシーンは勿論CG描写である(写真4)。破壊されて激しく傾く機内での戦いには,かなりVFX加工が施されている(写真5)。墜落寸前の機中から脱出したシックスが空中を落下するシーンは,実写演技のVFX合成ではなく,CGで描画したデジタルダブルである(写真6)。このシーンはかなり長く,表情のアップも多用されているので,相当な作業量を要したと思われる。
 
 
 
 
 
 
 

写真4 上:大型輸送機は実物を手配,下:こちらは勿論CG製

 
 
 
 
 
写真5 破壊された機内での戦闘の撮影風景
 
 
 
 
 
写真6 CG製デジタルダブルの生成途中
 
 
   ■ クレア救出に向かったシックスとロイドとのラストバトルには,それなりのアクションとVFX利用が用意されていたが,あまり特筆すべきものはなかった。むしろ,本作の最大の見せ場は,中盤のプラハ市内での一大アクションシーンだ(写真7)。ロイドが指揮する暗殺団と現地のSWATチームを巻き込んでの市街地銃撃戦,そして市内を走る路面電車(トラム)を使ってのバトルである。全体で約10分,後半のトラム・バトルは約3分に過ぎないが,もっと長く感じた。アクション大作を見慣れている観客が新たな感慨を覚える極上の出来映えである。初めの走行中の路面電車は実物だろうが(写真8),攻撃を受けて破損するトラム車輌は,この映画の撮影のために制作した車輌のようだ(写真9)。車内や車上でのアクションにVFX加工が多用されていることは言うまでもない。
 
 
 
 
 
写真7 プラハ市内での撮影風景。ここから大アクションが始まる。
 
 
 
 
 
写真8 この路面電車は現地で走る本物
 
 
 
 
 
 
 

写真9 本作のために作られたトラム車輌とその撮影風景
(C)2022 Netflix

 
 
  ■ 本作のCG/VFXの主担当はScanline VFXで,他にEyeline Studios, The Yard, ILM, Lola VFX, Blue Bolt, Territory Studio等が参加している。あまり魅力的なスチル画像が公開されていないのが残念だが,兄弟監督が自らVFXメイキングを解説している映像「How The Gray Man’s Visual Effects Were Made」がYouTubeで公開されているので,それを参照されたい。
 ■ さて,スパイアクション映画としての評価である。『M:I』シリーズはトム・クルーズのスター性が前面に出過ぎで,物語設定も近作は作り物感が目立つ。『ボーン』シリーズは,一見野暮なM・デイモンが主演というのが,少し意外であり,好い味を出していた。本作のR・ゴズリングはそれよりスマートだが,少し線が細く(肉体的には結構マッチョだが),真面目過ぎる気もした。物語設定はお決まりのパターンで,このままアクション路線だけで突っ走れるのかは,2作目以降にかかっていると思う。本作の魅力であり,欠点でもあるのが,敵役のC・エヴァンスの存在感が大き過ぎて,主役を食ってしまっていたことだ。何やら,優等生の「キャプテン・アメリカ」から解放されて,活き活きと敵役を演じていたように感じた。善人の彼を4作も撮ったルッソ兄弟だからこそ,シリーズ1作目の悪役に起用したかったのだろうし,その期待に見事に応えている。他誌の映画評欄で,「続編では,アベンジャーズのメンバーを1人ずつ登場させて,悪役をやらせては」という提案があった。そのまま引用するのは癪であったが,この案には素直に同意しておきたい。
 ■ 本作は既に続編の製作が決定しているだけでなく,スピンオフ作品も計画しているという。その場合の主役は誰なのだろう? A・アルマス演じる女性工作員ダニ・ミランダはかなりの野心家として描かれていたので,その後の彼女の単独任務遂行を描くのが,最も素直なスピンオフ作だろう。その一方で,J・ヘンウィックが演じたスザンヌ・ブリューワーもかなりの遣り手で,冷徹な女性ゆえ,彼女が主役のスピンオフ作も観てみたい。いっそ,スザンヌが女性管理職,ダニが女性工作員の組合せで,世界を支配する巨大産業の悪行を暴いたり,専制国家の指導者を暗殺する物語が爽快で,大受けするかと思う。
 
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