head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
   
titletitle
 
O plus E 2022年Webページ専用記事#5
 
 
ブレット・トレイン』
(コロンビア映画/SPE配給)
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月1日より全国ロードショー公開中]   2022年9月1日 109シネマズ港北 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  この時期に観るべきか, 当欄で書くべきか, 二転三転した話題作  
  当欄で取り上げるべきか,かなり迷った挙句,結局は書くことにした映画だ。理由はただ1つ,この話題作を当欄がどう評価するか,気にされる読者が多いと思ったからである。
 当初は,公開前後に観るつもりもなければ,当欄で取り上げるつもりもなかった。マスコミ試写を観る機会がなく,かつVFX多用作扱いされていなかったためだ。ところが,一転して,映画館に出向いてまで観たくなったのは,かなり気合いの入った広報宣伝作戦に影響されてしまったからである。主演のブラッド・ピットの来日,東海道新幹線の一車両を借り切って,東京-京都間の車中でのマスコミ各社とのインタビュー,そして京都市内の「TOHOシネマズ二条」でのジャパンプレミアとなると,もう放っておけない。とりわけ,NHK「ニュースウォッチ9」の山内泉アナのロングインタビューが印象的だった(公共放送が,1つの映画をこんなに宣伝していいのか?)。
 筆者は京都生まれの京都育ちで,社会人になってからの大半は東京勤務だった。この間の業務や帰省での東海道新幹線の利用は数え切れない。おまけに,京都に戻って以降の数年間は上記シネコンの隣接地が勤務場所であった。現在は横浜と京都の二重生活であるため,約2週間おきに京都と首都圏を往復している。もうこうなると,思い入れも格別だ。
 公開日が待ち遠しく,思い入れを込めた感想を短評欄に追記する気だった。公開初日に横浜市のシネコンに足を運んだが,上映後20分で記事を書く気が失せてしまった。あまりの馬鹿馬鹿しさに,酷評する時間も無駄と感じたからだ。ところが,終盤のCG/VFXのオンパレードに驚いた。ここまで多いとは思わなかった。クオリティも悪くない。やはり,これは軽くであっても紹介するしかないと思い始めた。自宅に戻って,使えそうなVFXシーンのスチル画像はあるのかと調べたが,ものの見事に1枚も公表されていない(最近,VFX多用作でもそういうことが多い)。これじゃ,書けないじゃないか! 映画のストーリー展開も二転三転であったが,筆者の気分も二転三転である。
 それでも,ここまでの話題作となると,当欄の評価を知りたいと思われる読者も少なくないだろうと思い直して,記事を書くことにした。ただし,思いっきり一個人の好みによる主観的評価であることを断っておきたい。CG/VFX画像がないのに独立したメイン記事にしたのは,公開日順で短評欄に挿入すると,全体のリズムを壊してしまうことを危惧したからである。
 ついでに,ここで同レベルの評価の駄作のことにも触れておこう。9月9日公開予定の『ビースト』(22)である。主演はイドリス・エルバで,巨大ライオンに襲われ,娘2人を助けるため奮闘する父親を演じるサバイバル・アクションだ。勿論,獰猛な牡ライオンはCG描写であり,出来映えもまずまずであったが,こちらもスチル写真の提供が全くない。それ以上に,物語にリアリティがなく,凡作,駄作と言わざるを得ない。同作は,配給会社からの試写案内により,試写室で観たのだが,紹介を見送った。敢えて記事にする価値もなく,酷評して制作関係者を不快にさせる必要はないと考えたからである。
 
  アクション一辺倒もさすがに退屈, 新幹線への敬意のなさが残念  
  さて,本作の原作は,我が国の人気作家・伊坂幸太郎の「マリアビートル」だが,ハリウッドで映画化され,それでいて舞台は日本となっている。なぜこの原作を選び,米国を舞台にしなかったのかは不明だが,米国内には該当する「弾丸列車」がないためと,コロンビア映画の親会社がソニーであることも関係していたのかも知れない。原作では日本人である登場人物の半数以上を米国人,特に白人が演じていることへの批判もあったようだが,日本人観客には気にならないだろう。B・ピットのような人気俳優が主演の方が嬉しい。米国在住の日系人が何名か登場して,彼らの日本語が少しおかしくても,毎度のことなので許容できる。
 監督は,アクション映画得意のデヴィッド・リーチだ。最近の売れっ子監督で,後述するように,当欄ではこれまで高い評価を与えている。女優陣はサンドラ・ブロック,ジョーイ・キングらで,日本人俳優の代表は真田広之だ。真田広之の登場場面は多いが(写真1),サンドラ・ブロックには期待しない方がいいと言っておこう。
 
 
 
 
写真1 日本刀を自在に操る剣の達人として登場 
 
 
  その他の出演陣や物語の骨格はあちこちで語られているので,以下では,筆者独自の分析と主観的評価だけを述べる。

【原作の呪いか,監督の力量か】
 原作者・伊坂幸太郎と言えば,東野圭吾と並ぶ当代の人気作家で,映画化作品も多い。調べてみると,最近作の大半は当欄で紹介しているが,なぜか高評価の作品が1本もない。

 ■『重力ピエロ』(09年5月号)
 ■『ゴールデンスランバー』(10年2月号)
 ■『ポテチ』(12年5月号)
 ■『オー!ファーザー』(14年6月号)
 ■『グラスホッパー』(15年11月号)
 ■『アイネクライネナハトムジーク』(19年Web専用#4)

これは,どうしたことだろう? さほど難解な文体や複雑なストーリーテリングの作家ではなく,映画化しにくいとも思えないのだが,脚本家や監督の力量が今イチだったのだろうか。  その一方,デヴィッド・リーチ監督作の評価は驚くほど高く,製作を担当した作品にも最高点を与えている。

 ■『アトミック・ブロンド』(17年11月号) 監督
 ■『デッドプール2』(18年Web専用#3) 監督
 ■『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(19年Web専用#4) 監督
 ■『 Mr.ノーバディ』(21年Web専用#3) 製作

果たして,本作はどうなるのか,原作の呪いで凡作に終わるのか,それとも監督の力量で,それをものともしないのかが,個人的興味の的であった。普通に考えれば,ハリウッド資本で,撮影の大半は米国内であったので,監督の力量が勝るはずなのに,表題欄の印が示す通り,全く高評価できない結果に終わってしまった。

【ハリウッドで映画化,原作との違い】
 原題は『Bullet Train』(弾丸列車)で,車中での殺し屋同士の因縁の対決は,原作をほぼ踏襲している。これが日本の新幹線であることは明らかだ。原作は東北新幹線の東京-盛岡間であるのに対して,本作では東京-京都間に変更されている。途中に富士山が見え,京都の方が絵になると考えたのだろう。東海道新幹線で京都が終点はあり得ないのだが,新大阪よりも知名度が高いこともあると思われる。
 登場人物での大きな違いは,B・ピット演じるレディバグ(てんとう虫)とJ・キング演じるプリンスだ。前者は,原作では「七尾」なる脇役の殺し屋に過ぎないのに,映画では彼を主役に仕立てている。後者は,原作では邪悪で狡猾な男子中学生なのに,映画では英国人女子大生の殺し屋となっている(写真2)。性別や年齢まで変えてあり,劇中の重みもかなり異なる。女性でありながら,何で「プリンス」なのかといえば,原作の少年の姓が「王子」だからのようだ。
 
 
 
 
写真2 J・キングは女子大生の殺し屋 
 
 
  この程度の翻案は映画化に際してはよくあることだが,いやしくも「大学読書人大賞」を受賞した原作を,ただの能天気なノンストップアクション映画にしてしまっている。その評価は賛否両論で,好き嫌いはかなり分かれると思う。

【アクション映画としての評価】
 映画の大半が,車中での殺し屋たちのバトルだった(写真3)。ほぼワンシチュエーションドラマだ。いや,ドラマ性など殆どない。キャッチコピーは「最悪が止とまらねぇ」「殺し屋しか乗ってこねぇ。」「全車両殺し屋だらけ ― 連結していく10人の因縁」で,その点では看板に偽りはない。ただし,この10人の関係がさっぱり分からないし,その因縁を考えている暇もなく,ただただ派手なバトルが延々と続く。ようやく相手を倒したかと思えば,逆転につぐ逆転で,観客を翻弄する。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 全編の約8割は,車中で延々と続くアクション
 
   この意図的な演出には,またかの思いしかなく,さすがに退屈してしまい,途中2度も軽く寝てしまった。『デッドプール2』では「徹頭徹尾のギャグ」,『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』では,「派手なアクション一辺倒も,ここまでくるとご立派」と褒めたのだが,本作は全く好きになれなかった。ただし,これは好みの問題で,このアクションが大好きという若者がいても,全く不思議ではない。
 ある映画評には,「次回のピットには,もっと自分に合った,もう少し落ち着きのあるアクション映画に出てもらいたい」と書かれていたが,これには全くの同感だ。

【新幹線への敬意が不足】
 海外の映画が描く日本は,どうせ不気味なものだろうと諦めていた。ほぼそれに近かった。それでも,京都を終着駅に選び,日本の新幹線としか思えない設定の映画で,JR東海とタイアップした広報戦略をとるからには,新幹線の描写には敬意が払われていると思ったのに,全くそれは感じられなかった。
 まず,東京駅,京都駅の景観が全く違う。Japan Unitの撮影班がいたなら,それくらいの映像は撮って帰るべきだ。日本で実車両の車内を撮影するのではなく,米国のスタジオ内での撮影なら,カメラを構えやすいように,車内設備を変えるのは止むを得ない。日本高速電鉄の「特急ゆかり」と名乗っているが,それにしても「のぞみ」とは違い過ぎる。普通車の座席が3+2でなく2+2,グリーン車は2+1なのは許せるとしても(写真4),対面座席間にテーブルなどは配置できない(写真5)。車内販売品の補充場所はもっと狭く,乗客の目には触れない(航空機内のギャレーのつもりか?)(写真6)。意図的に自由にデザインしたにしても,デザインセンスが良くない。
 
 
 
 
 
写真4 日本高速電鉄の自由席は各列2+2席の構成
 
 
 
 
 
写真5 新幹線の対面座席にこんなテーブルは無理
 
 
 
 
 
写真6 これじゃまるで航空機内のギャレー
 
   外観もしかりだ。先頭車両の形状は,N700系の形状に似ていながら,かなり違う。JR東日本のE5系やE6系の方が近い。東海道新幹線や東北新幹線そのままの色では目立たないと思ったのか,濃い色はつけたものの,これもセンスが悪い。
 京都の町もしかりで,五重の塔さえ出しておけば,京都に見えるとでも思っているのだろうか。映画の光景に憧れて日本を訪れる観光客,その逆に日本での体験を懐かしみ,この映画を好きになる観客のことは考えなかったのかと不思議だ。D・リーチに直接それを求めるのは無理だが,ソニーやJR東海は,もう少し口出しすべきであったかと思う。

【CG/VFXに関して】
 少しだけ,この点にも触れておこう。途中,ワンパターンのアクションの連続から,終盤のバトルはもっと派手になると予想できたが,そのレベルには達していた。それには新幹線車両が大きな役割を果たしている(ネタバレになるので詳しくは書けないが)。
 今回の弾丸列車の外観は,ほぼCGとVFXの産物だろう。この程度の車両のCGモデルは専門学校生でも作れる。フルバーチャルの光景もあったが,実際の新幹線沿線と思しき場所を高速走行するシーンもかなりあった。CG製の列車を周りの実写景観にVFX合成して,あの高速感を出すのはそう容易ではない。実際に東海道新幹線や東北新幹線の走行映像を撮影しておき,車体の色だけVFX加工する方が圧倒的に簡単だ。そのために,先頭車両の形状をN700系やE5系から大きく逸脱させなかったのかと想像する。
 本作のCG/VFX担当は英国の雄DNEGで,ほぼ1社で達成して終えている。レベルは低くなく,同社にとってこの程度のVFX演出は,ごく普通の守備範囲である。
 そうした弾丸列車の映画でありながら,その外観の画像を一切公開しようとしない姿勢には失望した。
 
  ()
 
 
Page Top
sen  
back index next