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O plus E 2022年Webページ専用記事#5
 
 
DC がんばれ!スーパーペット』
(ワーナー・ブラザース映画 )
      (C) 2022 Warner Bros. Ent.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月26日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2022年7月29日 ワーナー・ブラザース内幸町試写室
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  夏から秋にかけて公開のフルCGアニメが5本  
  今年の夏から秋にかけて,米国製フルCGアニメが5作品公開される。「もはやフルCGというだけでは,当欄で紹介するに値しない」と書いて久しいが,今でもしっかり年数本をメイン欄で紹介している。昔のセル調2Dアニメに比べて,圧倒的な表現能力を発揮できるようになり,それを見事に使いこなせる映画人も増えた。『トイ・ストーリー』(95)の登場以来,27年も経つのだから,CGの技術的進歩は当然のことであるが,しっかり映画制作でのノウハウが蓄積されている。優れた脚本や親しみのもてるキャラクターデザインを伴って,今やファミリー映画の中心的存在の地位を築いたとも言える。世界レベルでの興行的成功から,次々と完成度が高い作品が生まれる好循環が続いている訳である。
 それにしても,夏以降だけで5本はかなり多いと感じた。安定した人気を誇る邦画の2Dアニメとも競合するので,国内市場で作品の質に見合った興行成績が得られるのか,部外者ながらいささか心配になってくる。
 5本の内,既に3本は紹介した。『バズ・ライトイヤー』『ミニオンズ フィーバー』(22年Web専用#4)『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』(22年7・8月号)である。これらが,人気シリーズやそのスピンオフもの,ビデオゲームでその名を知られた有名キャラであるのに対して,4本目の本作,5本目の『バッドガイズ』(22年9・10月号に掲載予定)で登場する動物たちは馴染みが薄く,苦戦を強いられることが予想される。それゆえ,この2本のクオリティの高さを実感している筆者としては,しっかり応援演説しなくてはと感じながら,本稿を書いている次第である。
 余談になるが,本作のマスコミ試写の案内に,「ファミリー上映回」が設定されているのに,少し驚いた。「お子様も一緒に参加して頂くことが可能」とのことだ。ファミリー映画の一般向けホール試写会なら普通のことだが, 小さなプロ用の試写室に子供連れでやって来いと,プレス関係者に呼びかけている訳だ。配給会社としては,少しでも口コミでの宣伝効果を狙ってのことだろうが,一記者や興行関係者たちが,一体どんな年齢層の子供を同伴してやって来るのかと興味をもった。
 筆者の場合は,自身の子供ではなく,孫が対象年齢である。春休みに怪獣ものやTVアニメの劇場版を見に,映画館に連れて行ったことはあるが,この映画のマスコミ試写に,7歳の孫を同伴することは断念した。馴染みのないキャラで,アメコミの知識のない幼児には,本作の意義や楽しさは理解できるはずがないと考えたからである。
 
  アメコミファン待望の爽快なスーパーヒーロー映画  
  この映画のキャッチコピーは,「人間たちが知らない間に,突然スーパーパワーを手に入れてしまったペットたち」だ。「空飛ぶスーパードッグのクリプト」「無敵バリア犬のエース」「体の大きさ変幻自在なブタのPB」「超高速移動カメのマートン」「手から電流ビームを出すリスのチップ」であり,この5匹の動物たちの驚いた顔の画像が付されている(写真1)。なるほど馴染みはなく,ルックス的には「ミニオンズ」ほど可愛くはない。単にペット動物というだけでは,イルミネーション・アニメーションの『ペット』シリーズ『SING』シリーズの動物たちに負けてしまう。よって,スーパーパワーをセールスポイントにする訳だが,その打ち出し方や宣伝の対象観客層が少しずれているように感じた。
 
 
 
 
写真1 これが,本作のスーパーペットたち 
 
 
  詳しくは後述するが,5匹を1セットで考え,ほぼ同時に同じように超能力が備わったかのような記述は正しくない。本作の主役は,クリプトン星出身のクリプト(写真2)であり,地球上の動物である他の4匹とは超能力が備わった時期も原因も全く異なっている。彼はクリプトン星時代からの「スーパーマン」のペットであり,彼だけが別格なのである。
 
 
 
 
 
写真2 主役はスーパードッグのクリプト。金色の首輪が凛々しい。
 
 
  そもそも,邦題も中途半端で,全く魅力のない題名だ。原題は『DC League of Super-Pets』。即ち,DCコミックスのスーパーヒーロー映画の一環であり,「超能力をもつスーパーペットたちのジャスティス・リーグ」なのである。幼児に「ジャスティス・リーグ」は分からないだろうと,申し訳程度に「DC」を冠しているが,せめて『LEGO(R)ムービー』シリーズに登場するスーパーマン,バットマン,ワンダーウーマン程度は知っている子供でないとこの映画を楽しめない。
 ずばり言えば,この映画は幼児のための動物アニメではない。根っからのアメコミファン,とりわけスーパーマンやバットマンが大好きだったあらゆる年代向けの映画だ。もっと言えば,1978年に始まる『スーパーマン』シリーズが大好きだった映画ファンに最適だ。大作化し過ぎて方向性を見失ったマーベル作品(MCU),そのマーベルに太刀打ちできずにさらに迷走しているDC作品(DCEU)に対して「もっと,しっかりしろよ」と苦言を呈したくなるファン(筆者を含む)に向いている。
 その意味では見事な快作であり,スーパーヒーロー映画に楽しさ,爽快さを求めるアメコミファン必見の映画だと断言できる。以下,いつものようなCGの出来映えを評価するのではなく,この映画の正しい愉しみ方の観点からの応援演説である。そのため,若干のネタバレを含むことを予め断っておきたい。
 ■ 映画のオープニングは,両親のジョー=エル夫妻に見守られ,赤ん坊のカル=エルが小型ロケットでクリプトン星から宇宙へと旅立つ場面から始まる。滅亡寸前のクリプトン星から息子だけでも助けようとする科学者の配慮だ。スーパーマンの正史通りの描写に,ファンなら感涙ものだ。ところが,発射寸前にペット犬の「クリプト」がロケットに乗り込んでしまう。「いつまでも,息子を守ってくれ」と託されたクリプトは,共に地球へと向かう。
 ■ 地球では,米国のカンザス州に到着し,ジョナサン・ケント夫妻に育てられた乳児はクラークと名付けられ,大人になって,メトロポリスのデイリープラネット新聞社の記者となる。この間に地球上では超能力を発揮するようになり,「正義の味方のスーパーマン」となるのは正史通りだが,この間ずっとクリプトが彼を見守ってきた(写真3)。カル=エルの成長とクリプトの年齢進行は合わないのでは,との突っ込みが入りそうだが,クリプトン星と地球では物理的環境が違うので,ドッグイヤーの進行は細胞の適応力で調整できるのだと解釈しておこう。
 
 
 
 
写真3 クリプトン星から一緒にやって来て,地球上でもこの関係
 
 
  ■ 同じようにクリプトン星から来たのだから,カル=エル同様,地球上ではクリプトも空を飛ぶことができ,息を拭きかけて物を凍結させる「スーパーブレス」の能力が備わっている(写真4)。このことは,成長過程でクラークも,ケント夫妻も見ていたはずだから,「人間たちが知らない間に,突然スーパーパワーを手に入れてしまった」は全く正しくない。スーパードッグとしてのクリプトの活躍は痛快で,『スーパーマン』(78)のパロディシーンも随所に登場する。アメコミの楽しさ,爽快さが強調されていて,初期の『アイアンマン』シリーズ,最近の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(22年Web専用#1)のファンであれば,本作にも欣喜雀躍するはずである。
 
 
 
 
 
 
写真4 ご主人様同様,空を飛び,物体を凍らせるスーパーブレスも可能
  ■ 超能力を発揮しない記者クラーク・ケントに対して,クリプトも普通犬「バーク・ケント」を名乗り,眼鏡をかけている(写真5)。即ち,カル=エル/スーパーマン/クラーク・ケントに対して,クリプト/スーパードッグ/バーク・ケントの関係である。デイリープラネットには,しっかり女性記者ロイス・レインがいて,スーパーマンと恋人関係になる(写真6)。この辺りの徹底したなぞり振りは,スーパーマンファンには堪らなく嬉しいはずだ。この写真6の背景は,どう見てもNYのセントラルパークである。原典では架空の大都会メトロポリスであるが,本作では完全にNYが舞台であり,マンハッタン地区の克明な描写にCGパワーを惜しげなくつぎ込んでいる。
 
 
 
 
 
 
 

写真5 記者クラーク・ケント(上)と普通の犬のように振る舞うバーク・ケント(下)

 
 
 
 
 
写真6 恋人の女性記者ロイス・レインも登場する
 
 
  ■ 他の4匹はといえば,普通のペット動物であり,引き取り手がなく,当初は檻の中で飼育されていた。ところが,ある偶然から,クリプトン星から来たオレンジ色の鉱物の光を浴び,それぞれ上記のようなスーパーパワーが備わってしまう。こちらはキャッチコピー通りの出来事だ。やがて,彼らはクリプトをリーダーとしたチームを結成し(写真7),世界征服を目論む邪悪な敵の軍団と戦う。まさに「ペット版ジャスティス・リーグ」である。
 
 
 
 
 
写真7 クリプトがリーダーで,超能力を得た他の4匹とチームを結成 
 
 
   ■ スーパーマン以外の「ジャスティス・リーグ」はといえば,「バットマン」「ワンダーウーマン」「フラッシュ」「グリーンランタン」「アクアマン」「サイボーグ」らが,しっかりと登場する(写真8)。ルックスは,元のDCコミック版にも実写映画版にも似ていないが,この種のCGアニメ流にデフォルメ・デザインされていて,悪くない。エースやPBたちは彼らのペットではないのかと言えば,ノーでもあり,イエスでもある。予告編には写真9のようなシーンが登場するが,これが本編でいつ登場するかは観てのお愉しみとしておこう。
 
 
 
 
 
写真8 サイボーグ(手前)とグリーンランタン(右上) 
 
 
 
 
 
写真9 エースがいつバットハウンド(バットマンの猟犬)になるのかが,気になるところ
 
 
  ■ 本作のヴィランはといえば,スーパーマンの宿敵レックス・ルーサーが登場する。『スーパーマン』(78)や『同 II』(80)でジーン・ハックマンが演じていたあの悪役である。彼のペットはモルモットの「ルル」で,世界征服を夢見てモルモット軍団を率いている(写真10)。彼らが,緑色の鉱物クリプトナイトを使ってスーパーマンの超能力を奪い,彼を拉致してしまうのも,お約束通りの出来事だ。少し意外だったのは,見た目は天使のように可愛い子猫のウィスカーズだ(写真11)。全身が兵器のこの子猫が繰り出すミサイルやマシンガン攻撃が見どころだとだけ言っておく。本作のCG担当は,豪州シドニーが本社のAnimal Logic社で,VFXでは『ベイブ』(95)や『マトリックス』(99年9月号)で名を上げた。フルCGアニメは,『ハッピー フィート』(07年3月号)でオスカーを得ている。上述の『LEGO(R)ムービー』シリーズも一貫して同社が担当し,製作にも名を連ねている。
 
 
 
 
 
 

写真10 上:宿敵レックス・ルーサー,下:モルモット軍団率いる極悪非道のルル

 
 
 
 
 
写真11 全身兵器の子猫ウィスカーズが最強の敵
(C)2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
 
 
  ■ 本作の監督・脚本は,ジャレッド・スターン。元は脚本家で,これが初長編監督作品だが,『レゴ(R)バットマン ザ・ムービー』(17)等の脚本を担当していたので,本作も脚本力では遺漏がない。クリプト(声:ドウェイン・ジョンソン)とエース(声:ケビン・ハート)のバディ関係,その会話は心地よい。クリプトとスーパーマンの関係も,ペットの飼い主の関係を描いたファミリー映画のスピリットを踏襲している。チームものアクション・アドベンチャーの躍動感も上々で,ラストバトルはかなりの迫力だった。その意味では,エンタメ大作映画のエッセンスは一通り詰まっているので,何の予備知識もなく見た幼児にも楽しめる映画にはなっている。ただし,本作は子供にせがまれて両親が同伴する映画ではない。まずアメコミファン,特にスーパーマンファンの親父世代を主ターゲットとしてアピールすべき映画であると強調しておきたい。彼らが子供を連れて行った時,その子供達もやがてファンになるのは,あくまで副産物と考えるべきだ。
 
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