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O plus E 2021年Webページ専用記事#2
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『バーシティ・ブルース作戦:裏口入学スキャンダル』:別項のアカデミー賞予想記事でも一際存在感を示すNetflixのページを開いて,「新着」欄の中から,表題に惹かれて思わず観てしまった。スパイ映画か機密の軍事作戦を思わせる題名なのに,これが「裏口入学」とどう繋がるのかと……。ドラマやコメディではなく,これは2019年に米国で大きな話題となった名門大学への「裏口入学事件の手口」を紹介するドキュメンタリー映画だった。その事件報道に合わせたのだろうが,主人公の定義に従えば,これは「裏口 (Back Door)」ではなく,「通用口 (Side Door)」からの入学である。「勝手口」と訳した方が適切かも知れない。そもそも筆者は,公明正大な寄付金を払っての開かれた「裏口」なら,一体何が悪いのかと思っている。多額の寄付金のお陰で,学力だけで入学する学生の授業料が低く抑えられ,高品質の教育が維持されるなら,むしろ表口入学の通常の学生は感謝すべきではないか。成績優秀者やスポーツ特待生に奨学金が賦与されるのを許すなら,同じ理屈で,寄付金入学も大手を振っていいのではと思う。この事件が話題となったのは,名が知られた富裕層やセレブの子女たちが恩恵を得ていたためであり,しかも「秘密の通用口」を使っての手口だったからだ。これはれっきとした犯罪であり,SNSで袋叩きに遭う恰好のネタである。首謀者のリック・シンガーなる人物は,最初は真面目な入試コンサルタントだったが,次第に犯罪と言える手口を思いつき,延べ730人もの不正入学に関与したという。主たる手口はスポーツ枠の不正利用や替え玉受験で,白人をヒスパニック系と偽ったり,健常者を発達障害者と申告する入試願書の捏造や運動部コーチの買収行為等々である。著名大学は寄付金なら数百万ドルが相場という中で,彼が売り込む数十万ドルの不正入学なら,そりゃ親たちが飛びつきたくなるのも無理はない。表題は「FBIが密かに仕掛けていた一連の捜査のコードネーム」とのことで,『バーシティ・ブルース』(99)自体は青春スポーツ映画である。FBIにも映画通がいるようだ。盗聴に囮捜査に司法取引とくると,不正は許すまじとする検察の心意気を感じるが,その半面,この捜査や起訴はFBIや検察の広報宣伝が目的ではないかという気もする。ドキュメンタリーとしては,関係者のインタビューよりも,俳優のマシュー・モディーンらが演じる再現劇が生々しかった。劇映画化して,多少アクションやサスペンス要素も入れたらヒット間違いなしだ。
 『約束の宇宙(そら)』:女性宇宙飛行士が主演のフランス&ドイツ映画だ。女性宇宙飛行士が主役のヒット作と言えば,まず『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)のサンドラ・ブロックを思い出す。『メッセージ』(17年5月号)のエイミー・アダムス,『プロメテウス』(12年9月号)のノオミ・ラパスも主演だった。主演ではないが『インターステラー』(14年12月号)のアン・ハサウェイ,『オデッセイ』(16年2月号)のジェシカ・チャステインの宇宙服姿も凛々しかった。古くは『エイリアン』(79)のシガニー・ウィーバーもその類いだが,彼女は宇宙服姿よりも,醜悪な生命体との格闘シーンの方が印象に残っている。彼女らの大半は女性科学者として宇宙船の乗務員に選ばれている。本作の主人公サラ・ロローもしかりで,『007/カジノ・ロワイヤル』(07年1月号)でボンドガールを演じたエヴァ・グリーンが演じている。既にアラフォーの年齢に達しているが,相変わらず美しい。宇宙服姿もしっかり見られるが,宇宙空間で事故に遭遇することもエイリアンに襲われることもない。1年間の国際宇宙ステーション滞在の機会を得るが,ロシアでの厳しい訓練期間を経て,ロケットの打ち上げまでで映画は終わるからだ。そもそも本作はSF映画ではない。サラはバツイチのシングルマザーで,学習障害をもつ一人娘ステラとの親子の絆を中心に描かれたヒューマンドラマである。その意味では,宇宙ものとしては異色の存在と言える。監督・脚本は,フランス人監督のアリス・ウィンクール。過酷な訓練に臨む強い意志と長期間離れ離れになる我が子を思いやる心の対比は,女性監督ならではのきめ細やかな描写である。筆者が注目したのは,訓練内容や訓練施設のリアルさだ。ドイツ・ケルンの欧州宇宙飛行士センター,モスクワ近郊スターシティの訓練施設,カザフスタンのバイコヌール宇宙基地のロケット打上げ台等のシーンは,ESA(欧州宇宙機関)の全面協力の下で行われたロケ映像である。すべて本物ゆえ,これ以上のリアリティはない。無重力の宇宙空間での船外作業を想定した水中での訓練シーンも印象的だった。
 『FUNNY BUNNY』:韻を含んだ粋な題名だが,洋画ではなく,『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE』(12)『虹色デイズ』(18)の飯塚健監督の最新作で,れっきとした邦画である。その両作ともコミックが原作だったが,本作は監督自身のオリジナル戯曲が元で,同名の舞台劇は2012年に上演されている。舞台劇がベースだとセリフが練れていて,はっきり発音されるので聞こえやすく,好感が持てる。題名通り,大きなウサギの被り物をした男性2人組が区立図書館に強盗として入り,司書の女性(関めぐみ)と利用者の大学生(レイニ)を拘束するという暴挙から映画は始まる。この2人組は,「自殺志願者を見分ける能力を持つ」自称・小説家の剣持聡(中川大志)と相棒の漆原聡(岡山天音)だった。逃げ遅れて隠れていた女子大生(森田想)も加わって,この5人が奇妙な青春群像劇を展開する……。映画は2つのパートに分かれていて,第1章「図書館強盗編」と第2章「ラジオ局襲撃編」と題されていて,第2章は第1章の4年後の設定である。主人公の「世界なんて,想像力で変えられる」という主張も物語中での議論も青臭いが,「先が見えない不安を抱える日本映画界に,希望という名のくさびを打つ!」「怒涛のフィナーレでは,絶望や悲しみ,慟哭が,大きな希望へと昇華される感動作として着地する!」という映画の宣伝文句もかなり胡散臭い。この誇大広告,大言壮語を割り引いても,前半は結構引き込まれる語り口だった。前半後半は繋がっているが,第2章よりも第1章の方が出来がいい。徹底して若者向きの映画だが,監督の現代の若者へのメッセージなのだろう。主張に一貫性はあるが,描かれているのは30年以上前の若者という気もする。監督はアラフォー世代だから,多少耳年増で,高度成長期の日本の若者の正義感に憧れているのかも知れない。青臭さを残していて,主演の中川大志は似合っている。剣持と漆原のバディ関係もいい感じだ。
  『ジェントルメン』:ロンドンが舞台の英国映画で,監督は『シャーロック・ホームズ』(10年4月号)のガイ・リッチー。主演のマシュー・マコノヒー以外は英国の豪華男優陣が勢揃いで,この題名となると,華麗な英国紳士の世界を想像したが,中身は全く違うギャング映画だった。主人公のミッキー・ピアソンは米国出身で,オックスフォード大学在学中に大麻販売に手を染め,一代で大麻王国を築き上げたというトンデモナイ存在だ。彼が秘密の大麻農園を含む総額500億円の資産を売却して引退するという噂が流れ,ロンドンの暗黒街の面々が動き出す……。ユダヤ人の大富豪,ゴシップ紙の編集長,ゲスな私立探偵も登場するが,基本はマフィアのシマ争いだ。カーアクションや銃撃戦は当然で,騙し騙されの往復ビンタで,観客も翻弄される。ガイ・リッチー監督の演出は,素直なクライムサスペンス映画ではなく,凝りまくりのコメディ・タッチだった。今売り出し中のチャーリー・ハナム,既に人気俳優のヒュー・グラントとコリン・ファレルが,いずれも口髭,顎髭のルックスで登場するので,過去の出演作とは随分イメージが違う。彼らが出演していることを分かっていて,どれが誰だか探すのも一興だろう。ジェレミー・ストロング演じる交渉相手の富豪の役名がマシュー・バーガーだった。主人公ミッキーを演じるマシュー・マコノヒーが彼を「マシュー,マシュー」と連呼するので,何やら妙な気分になる。多分,監督の意図的な演出だろう。全般的に外連が過ぎると感じるが,それでも二転三転の終盤はしっかりと楽しめる。
 『海辺の家族たち』:フランス映画で,南仏のマルセイユ近くのリゾート海岸が舞台のヒューマンドラマだ。題名からは,是枝裕和監督の『海街diary 』』(15年6月号)を想像してしまうが,登場人物の年齢はずっと上で,老父と3人の兄妹の家族の物語である。既に口が利けなくなった老父の今後と家の始末を考える終活が主テーマだが,先進国の過疎の町が直面する社会問題やEU諸国が抱える難民問題も描いている。兄妹の内,左翼思想の次男の憎まれ口,その若い婚約者の拝金主義,老女優の長女に想いを寄せる地元の純粋な青年……と結構ユニークな人間関係だが,過去も何やら訳ありで,彼らの会話が生々しい。別の老夫婦と医者の息子の会話も切実で,過疎の町に有りがちな逸話である。製作・脚本・監督は名匠ロベール・ゲディギャンで,出身地マルセイユ近郊を舞台とした映画を撮り続けている。フランスのケン・ローチと言われるだけあって,なるほど作風は似ている。1シーンを大切にしていることは,何気なく登場するウサギとカラスの描き方で分かる。子供がカニを触るシーンもしかりだ。海辺の映像は美しいが,かつて栄えたリゾート地も,今は空き家だらけで,町も人も少し侘びしい。海岸線,列車と陸橋の景観は,山陰本線が走る日本海側の町を彷彿とさせる。家族の会話は,小津安二郎監督の名作『東京物語』(53)を思い出す。そして,同作をリメイクした『東京家族』(13年1月号)の山田洋次監督が,本作に寄せた言葉として「この映画には思想がある」と語っているのが印象的だった。
 『アオラレ』:ちょっと変わった題名で,競走馬で牝馬3冠の名馬アパパネやその初仔モクレレを思い出し,その類いなのかと思った。両馬ともディープインパクトのオーナーだった金子真人氏の所有馬で,ハワイ語が使われていることが多いので,この洋画の表題もそうしたポリネシア系の言葉なのかと。実際は日本語で,「煽られ」だった。即ち「あおり運転」の被害者の視点からの受身形「煽られた」の意である。主人公のレイチェル(カレン・ピストリアス)は離婚したばかりの美容師だが,一人息子を学校に送り届ける途中に大渋滞に巻き込まれて,指定時間に間に合わず,上得意の顧客を失ってしまう。最悪の気分の彼女が,交差点で信号が青になっても発車しないトラックにクラクションを鳴らして追い越したところ,そのトラックが追いかけて来て,執拗な「あおり運転」を繰り返し,彼女を追いつめる……。この日は何とか逃れたものの,この運転手は人生に絶望して凶暴性を発揮し,その後もレイチェルに付きまとうだけでなく,次々と罪のない人々を殺害する。離婚やローンや失業,そして「あおり運転」を生む社会的風潮を絡めて描いているが,社会派映画ではなく,基本は殺人鬼と戦うノンストップ・アクションのエンタメである。息子のカイルも危険に晒されるに及んで,レイチェルは警察を当てにせず,自ら反撃を決意する……。よくあるパターンのサスペンス・スリラ―なのだが,この凶暴な殺人鬼を演じているのが,何とラッセル・クロウだった。『グラディエーター』(00年7月号)や『ロビン・フッド』(10年11月号)で,勇者や正義の味方の主人公を演じてきたオスカー男優に,こんな悪役を演じさせるのかと驚いた。堂々たる体躯と迫力ある形相で迫る精神異常者の演技は真に迫っていた。映画のチラシではこの男を「老若男女、何のためらいもなくフルパワーで殴れる」「見た目と違い、かなり機敏に動く」「すぐキレる」「公衆の面前で堂々と殺人を犯す」「粘着質」「永遠に追いかけられるスタミナを有する」「銃で撃たれても死なない」と記述している。この表現だけでも凄い。それが,どの場面で,どのように発揮されるかを確認するだけでも価値があると明言しておこう。  
 
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