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O plus E誌 2016年2月号掲載
 
 
オデッセイ』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月5日よりTOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー公開予定]   2015年11月19日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  火星でのサバイバル生活や機材の描写が素晴らしい  
  当欄の新年第1作目は,このSF大作だ。SFといっても『スター・ウォーズ』『スター・トレック』等の活劇シリーズではなく,NASA監修の真っ当な宇宙探査ものである。『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)『インターステラー』(14年12月号)に続き,本格的宇宙ものが3年連続で登場することになる。英国では2015年9月末,米国では10月初めの公開だったから,どうせなら同じ12月号で紹介したかったが,本邦では2月5日公開になってしまった。配給会社が『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)との競合を避けたためだろうか。
 原題の『The Martian』を聞いた時には,てっきり「火星人」が登場する話なのかと思った。原作は,SFファンのプログラマー,アンディ・ウィアーがウェブサイト上で連載していた小説だそうだ。それをまとめたKindle版が2011年に電子出版され,本邦では2014年に早川書房から『火星の人』なる邦題で単行本が出版されている(映画の公開に際して,文庫化された)。火星の原住民ではなく,火星に取り残された宇宙飛行士のサバイバル物語であるので,邦題にも苦労したことだろう。
 それを映画では,なぜ『オデッセイ』などという,意味不明の陳腐な邦題にしてしまったのだろう? かつての名作『2001年宇宙の旅』の原題が『2001: A Space Odyssey』だったので,それを模したのだろうか? ちなみに,同年実施のNASAの火星探査計画は,映画をもじって「2001 Mars Odyssey」と称していたようだ。
 火星探査計画アレス3の任務遂行チームは,火星上で大砂嵐に襲われた。ミッションを断念し,火星から撤収する際に,事故に遭った隊員マーク・ワトニーは落命したものと判断され,残るクルー達は地球への帰途につく。ところが,ワトニーは奇跡的に生きていて,彼の火星上でのサバイバル生活が始まる(写真1)。前半は,言わば「火星のロビンソン・クルーソー」だ。後半は,彼を地球まで連れ帰る救出作戦のドラマである。
 
 
 
 
 
写真1 主役は火星人でなく,この人。ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞し,アカデミー賞にもノミネート。
 
 
  監督は,数々の大作を手がけた老匠リドリー・スコット。史劇も得意だが,SF関連だけでも『エイリアン』(79)『ブレードランナー』(82)『プロメテウス』(12年9月号)等の名作を生み出している。CG/VFXの効用も熟知していることは言うまでもない。主演の植物学者の隊員ワトニー役にマット・デイモン,ミッション遂行の隊長役にジェシカ・チャステインという配役で,共に『インターステラー』にも出演していた。売れっ子J・チャステインは,先月号の『クリムゾン・ピーク』の恐ろしい殺人鬼とは打って変わり,凛々しい隊長役だ(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 宇宙服姿もよく似合うが,いかにも重そう
 
 
  映画の印象は,ずばり『キャスト・アウェイ』(01年3月号)+『アポロ13』(95)だ。科学的知識を総動員して生き残りを図る前半が,抜群に面白い。火星上の基地内での芋の栽培,活用できる機材を駆使した水,空気,電気等を生み出す下りはワクワクする。この映画を機に,科学好きになる青少年が増えて欲しいものだ。
 それに対して,後半の救出劇は少し安易な着想で,『アポロ13』のような緊迫感がない。宇宙空間の映像は,先に『ゼロ・グラビティ』があったので,目新しさを感じない。壮大さでは『インターステラー』に負ける。それでも,同じ最高点の評価としたのは,宇宙船や基地の描き方に新味があり,デザイン的に大いに評価できるからだ。科学技術の考証もしっかりしている(砂嵐だけは,有り得ない現象のようだが)。
 以下は,当欄の視点からのコメントである。
 ■ まず,リアルで感心するのが,何度も登場する火星の光景である(写真3)。我々がよく知る火星の光景は,1976年にヴァイキング1号と2号が撮影した写真,1997年のマーズ・パスファインダーによる映像(写真4)だろう。その印象にそっくりで,サバイバル生活にリアリティを与えている。想定着陸地点はアキダリア平原で,現在も周回中のオービターによる高精細映像を使って描いているそうだから,リアルなのも当然だ。
 
 
 
 
 
写真3 ヴァイキング号が捉えた画像そのものの火星
 
 
 
 
 
写真4 マーズ・パスファインダーから送られてきた本物の火星表面
 
 
  ■写真5は宇宙船ヘルメス号の外観だ。まるで宇宙ステーションかと思わせるデザインだが,ソーラーパネルの大きさから宇宙船だと分かる。船内の居住区や機材の描写もリアルで,細部まで詳細にデザインされていると感じる(写真6)。火星でのハブ(人工居住施設),MAV(火星昇降機)等も同様で,いずれもリアリティが高い。アカデミー賞美術賞部門にノミネートされると思う。
 
 
 
 
 
写真5 宇宙船ヘルメス号を高精細CGで描画
 
 
 
 
 
写真6 この構図でも,居住区の人間までしっかり描かれている
 
 
  ■ 砂漠地帯や荒野でのロケ映像を火星らしく着色したのかと思ったが,想像以上にブダペストの大型スタジオ内での撮影が多かったようだ(写真7)。宇宙船の一部やMAVも実物大で作られている(写真8)。ハリウッド大作ならではのコストのかけ方だ。 CG/VFXの主担当はMPC,副担当はFramestoreの英国勢で,他にSenate VFX, Argon Effects等,英米加で計10社以上が参加している。VFX技術で,国内スタジオは大差をつけられてしまったと感じる。残念だ。
 
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写真7 ハンガリーの巨大スタジオ内に火星表面のセットを建造(上)。CG合成した完成映像(下)。
 
 
 
 
 
 
 
写真8 実物大の宇宙船とワイヤー吊りの宇宙飛行士(上)。眼下に火星の地表面を合成(下)。
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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