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O plus E誌 2014年12月号掲載
 
 
インターステラー』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月22日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2014年11月6日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  これぞ21世紀のSF,そのビジュアルに圧倒される  
  宣伝文句に「超大作」と銘打った映画は少なくないが,これぞSF超大作であり,21世紀に入って製作されたSF映画の代表作,大金字塔である。予告編を観ただけで,その意欲と美意識の高さが感じられた。あの名作『2001年宇宙の旅』(68)に捧げるオマージュを含み,昨年の話題作『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)に対抗心をもって描いているなとも読み取れた。
 概して大型予算を投じた超大作が大味になるのは,意欲が空回りするのと,豪華キャストや多数のスタッフを御し切れないこともあるのだろう。超大作をその話題性に見合うだけの作品に仕上げ,素人観客と玄人批評家の両方を満足させるには,相当な力量が要る。ましてや,そうした大作を外れなく,連続してヒットさせるのは,心身ともに充実し,抜群の自己制御力の賜物だろう。さしずめ,大相撲で言えば1人横綱で優勝回数を延ばし続けた白鵬,競馬騎手なら単勝1倍台の大本命馬でG1レースを制していた全盛期の武豊,棋界なら7冠を制した頃の羽生善治のようなものだ。現在のハリウッド映画界でその期待に応えられるのは,ピーター・ジャクソンと本作のクリストファー・ノーランだけだろう。
 P・ジャクソンが『ロード・オブ・ザ・リング』3部作で,ファンタジー小説を大人の観賞に堪える劇場映画に仕上げたのに対して,C・ノーランは『ダークナイト』シリーズ3部作で,一部オタクファンのものだったアメコミを,シリアスなドラマを含む一大エンタメ映画に変身させた立役者である。その後,類似企画が続々と現われていることは,ご存知の通りである。
 上記シリーズ終了後の第1作として彼が選んだ題材はSFだった。単なるスペースオペラではなく,新しい宇宙物理学の重力理論に基づいているという。特に原作小説はなく,脚本家である弟のジョナサンと監督との共同執筆によるオリジナル脚本である。『2001年…』が,SF作家のアーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリック監督の共同脚本であったから,通じるものがある。
 物語は,食料難と環境変化で人類滅亡の危機が迫る地球に見切りをつけ,人類が移住できる惑星を探して宇宙空間を探索するミッションがテーマだ。太陽系や銀河系内ではなく,ワームホールを通って,別次元の宇宙にまで移動するというのが新しい着想だ。上映時間は長尺の169分。昔よりもエンドロールが長いことを考慮しても,『2001年…』の141分よりも,かなり長い。
 主演は,『ダラス・バイヤーズクラブ』(14年3月号)の好演が光ったマシュー・マコノヒーで,相手役は『プラダを着た悪魔』(06年11月号)のアン・ハサウェイ。その他,ジェシカ・チャステイン,マイケル・ケイン,マット・デイモンら演技派が脇を固めている。
 以下,CG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ ストーリーもビジュアルも,C・ノーランらしい堂々たる作品だ。CGもさることながら,IMAX画面にも堪え得るよう,実物,実写パートも質感豊かに表現されている。宇宙船内も宇宙服もリアルだが,少しレトロな感じがする(写真1)。ヘルメットも1960年代のジェミニ計画のものを模したという。マン博士の惑星上(実際にはアラスカでロケ)を宇宙服姿で歩くシーン(写真2),最初の惑星では海面に降り立った場面もあるから,装着しての機動性も重視したのだろう。なお,後者での大津波の表現は勿論CGだが,これは凄かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真1 宇宙服も宇宙船内も少しレトロでリアル。コクピット(下)は,ほんの少し今風か。
 
 
 
 
 
写真2 マン博士の惑星のシーンは,アラスカで撮影
 
 
  ■ デザインの斬新さの最たるものは,リング状の宇宙船エンデュランス号だ。宇宙ステーションによくあるトーラス状のリングではなく,コンテナボックスを輪に繋げたような感じだ(写真3)。『2001年…』のディスカバリー号が,細長いヘビかマッチ棒のような形状であったので,それを意識して,逆の路線を採ったのだろう。次に目を惹いたのはTARS,CASEと名付けられたロボット2体だ。安易に擬人化した姿を採用せず,脚を閉じた状態の直方体形状はモノリスを思い出す。棒状の脚を使って移動する際の動作もユニークだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 (上)母船エンデュランス号は,リング状の斬新なデザイン,(下)土星近くを航行し,ワームホールに向かう
 
 
  ■ ブラックホール,ワームホールのビジュアル表現(写真4)は,重力理論をテーマとするだけあって,しっかりとした科学計算に基づくものだという。米国内の記事で「科学と芸術の結婚」という表現もなされていた。土星近くのワームホールからの惑星間移動は,目を見張るほど美しい。終盤近く,主人公のクーパーが娘の部屋と接触できる多次元空間が登場する。そもそも多次元空間を2次元画面に描ける訳はないのだが,迷路のようなデザインを駆使して,うまく切り抜けていたと思う。
 
 
 
 
 
写真4 ブラックホールの描写も科学計算に基づいている
(C) 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 
 
  ■ サウンド担当は筆者のお気に入りのハンス・ジマーだが,最近,彼の音響・音楽を煩わしく感じることがある。宇宙空間は爆発といえども無音のはずなので,その場面では音を消し,宇宙船内では会話も効果音も聞こえる配慮をしている。この後者が騒々し過ぎる。もう少し落ち着いた音響効果の方が重厚さが増す。それでも,終盤に物語を盛り上げる効果音は,さすがだった。
 ■ 終盤といえば,『2001年…』のような哲学的な難解さはない。もっともらしい科学用語を乱発して,一般観客を少し煙に巻くだけである。そして,物語完結後は『ダークナイト ライジング』(12) のような後日談を付加して,観客の満足感を充たしてくれる。これも大衆向け娯楽大作としての大切な営業的配慮だ。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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