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O plus E誌 2017年5月号掲載
 
 
purasu
バーニング・
オーシャン』
(サミット・エンタテインメント/
KADOKAWA配給)
      (C) 2016 Summit Entertainment, LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月21日よりTOHOシネマズ スカラ座・みゆき座他全国ロードショー公開中]   2017年3月21日 GAGA試写室(大阪)
       
   
 
purasu
メッセージ』

(コロンビア映画/SPE配給)

     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月19日よりTOHOシネマズ新宿他全国ロードショー公開予定]   2017年2月13日 SPE試写室(東京)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  少し地味だが,今年のオスカー・ノミネート作2本  
  ジャンル的には全く別で,まとめて語るのは変なのだが,敢えて共通項を強調したい2本である。共に,今年のアカデミー賞ノミネート作だが,業界内でも少し意外な感じをもってそのノミネートが受け止められていた。ところが,映画本体を観ると,なるほど候補作選定者は目が高いと認めざるを得なかった両作品である。
 パニック映画でサバイバル・アクションの『バーニング・オーシャン』は2部門,ピュアなSF映画の『メッセージ』は8部門でノミネートされたが,受賞したのは『メッセージ』の音響編集賞だけであった。
 
 
  油田火災事故を緊迫感,臨場感豊かに描いた佳作  
  原題は『Deepwater Horizon』。米国ルイジアナ州ベニスの南東80kmのメキシコ湾内にある海底油田掘削施設の名称である。水深1,500mから更に4,000m掘り進んだ油層から原油を汲み上げる最新の半潜水型掘削リグとのことだ。ここで,2010年に実際に起こった大火災と作業員の決死の脱出劇を描いた実話パニック映画である。邦題『バーニング・オーシャン』はいかにも和製英語で,少しチープな感じがする。重厚な日本語題名にするか,原題のカタカナ表記の方が良かったと思う。  本作は視覚効果賞,音響編集賞の2部門にノミネートされていた。受賞はしなくても,同業のプロたちが候補に選んでくれたのだから,かなり名誉なことである。正直言って,筆者はこの映画がアカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされるとは思わなかった。かつてこの部門の候補は3作品であったが,2010年(2009年公開作品が対象)から5作品に増えた。この増加よりも,大作映画でのVFX利用の増加率の方が大きく,例年,ハイレベルの大力作が並ぶ激戦区となっている。
 今回(第89回)ノミネートされた他の4作品は,
■『ジャングル・ブック』(16年8月号)
■『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(17年1月号)
■『ドクター・ストレンジ』(同2月号)
■『Kubo and the Two Strings』(本邦未公開)
であった。『Kubo…』はコマ撮りアニメをVFXで強化した作品なので,一味違う存在としての選出なのだろう。
 本作の選出を意外に感じたのは,VFX専門誌Cinefexにも掲載されず,業界内でのノミネート予想10作品にも入っていなかったからである。筆者自身は候補作発表時に未見であったが,年間興行成績54位の地味な存在であり,それなら『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(16)『スター・トレック BEYOND』(16年11月号)の方が有力と見ていたからである。
 マスコミ用のプレスシートを見ても,この掘削施設の専門的な記述や火災の発生原因が詳しく解説されている。まるで科学技術雑誌の記事の記事だ。実際,映画中でも作業員間でかなり専門用語が飛び交っている。パニック映画,サバイバルものと言っても,単なるスペクタクル大作ではない。実話だけにかなり真面目に,現実の大事故を忠実に描き,緊迫感,臨場感を与えていると感じた。
 監督と主演はピーター・バーグとマーク・ウォールバーグで,『ローン・サバイバー』(14年4月号)のコンビだ。同作品もアフガニスタンでの壮絶な戦闘をリアルに描いていたから,同じマインドで大規模油田火災を描いていると言える。女優陣はジーナ・ロドリゲスとケイト・ハドソン,助演男優陣はカート・ラッセル,ジョン・マルコヴィッチで,地味な実力派を揃えている。
 以下,注目すべきVFXに関する論評である。
 ■ 映画の前半1時間はほほこの設備の解説だ。掘削リグの地上部は25層で146名が生活できる大型施設だ。完全に実物大ではないが,本作の撮影には,巨大セットを組み,屋内の作業空間や機器類は実寸大である。工具類もすべて本物を使ったという(写真1)。ただし,海上ではなく,内陸部に屋外セットを建設し,周りの海やリグに発着するヘリやボートを描き加えている(写真2)。映像を見ただけでは,どこまでが本物か,まず見分けられない(写真3)。泥水,原油が吹き出す様,水柱等もCG表現だろうが,丁寧な描写である。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 施設内の作業空間も工具も本物そっくりに
 
 
 
 
 
 
 
写真2 (上)内陸部に作られた巨大セット,(下)櫓や海をCGで描き加えた完成映像
 
 
 
 
 
 
 
写真3 (上)この炎はすべて本物,(下)炎も櫓も描き加えた完成映像
 
 
  ■ もっとリアルなのが,事故発生後の火災の描写だ。過去にも火災映画があり,普通の作品でも爆発や炎上のシーンは少なくないが,これほど真に迫る火災シーンは初めてだ(写真4)。連動する音響効果も大迫力で,こちらもオスカー・ノミネートされただけのことはある。CG/VFXの主担当は天下のILMで,そうと聞けば,この高品質も納得できる。他にIloula, Hybride Technologies, Base FX, Virtuos等が参加している。同じILM担当でも,『ローグ・ワン…』とは挑戦心が異なる感が有り,本作を選んだアカデミー会員に敬意を表したい。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 地味ながら,炎や波の描写が見事で,緊迫感を増加させている。
星条旗だけ,燃えないのが不思議。
(C) 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
 
 
  技術的には高度でないが,ユニークなビジュアル  
   2本目の原題は『Arrival』。宇宙人到来という典型的なテーマのSF映画である。アカデミー賞には,作品賞,監督賞,脚色賞,撮影賞,編集賞,美術賞,音響編集賞,録音賞にノミネートされたが,意外にも視覚効果賞部門の候補5作品に入っていない。サウンド効果が素晴らしく,物語の完成度も高いと評価された訳である。
 宇宙船が地球にやってくるが,「到来」であって,「襲来」ではない。知的生命体が交信してくるが,好戦的ではなく,醜悪な姿のエイリアンも登場しない。過去のSF作品の中では『未知との遭遇』(77)が最も近い。あらゆる箇所で同作品の影響を受けていると感じられる。原作は,1998年発表のテッド・チャンの短編「あなたの人生の物語」。この小作品に惚れ込んで映画化を熱望したのは,カナダ人のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だ。次作に今秋公開の『ブレードランナー 2049』が控えているから,今後,SF映画の巨匠扱いされることだろう。
 主演はエイミー・アダムスで,宇宙人が発するメッセージを解読する言語学者の役だ。なかなかの熱演で,ゴールデン・グローブ賞で主演女優賞にノミネートされ,他の映画祭では受賞もしているが,アカデミー賞では候補にすらなかなかった。少し可愛過ぎて,演技派には見えないためだろうか。共演は『ハート・ロッカー』(09)のジェレミー・レナーで,相棒の物理学者役だ。あまり知的には見えず,本作では存在感が希薄だった。
 以下,当欄の視点での論評と感想である。
 ■ 直径450mの球体型宇宙船というが,スチル写真では随分縦長に見えた。実際は,コンタクト・レンズ型だった(写真5)。在り来たりの宇宙船デザインでないのがいい。その中に進入する途中径路もユニークだ(写真6)
 
 
 
 
 
 
 
写真5 コンタクト・レンズ状の宇宙船が地球上の各地に到来
 
 
 
 
 
写真6 この摩訶不思議な空間が,ヘプタポッドとコンタクトできる緩衝地帯
 
 
   ■ 宇宙人との会話方法は,もっと独創的だった。インクか煙のようなふわふわした物体がリングの周りについて,それが言語構造をもっている(写真7)。小説では,放射相称の肉体を持つエイリアンで,ヘプタポッド(7本脚)と呼ばれている。映画中では何度も登場するが,これを分析・解明する展開は,SFとして上出来だった。シンプルな音階が印象的だった『未知との遭遇』に対して,ビジュアルなコンタクトで対抗している。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 円環の周りの模様が宇宙人のメッセージ
 
 
   ■ 宇宙船内では,ヒトデのような形状をした宇宙人にも遭遇する(写真8)。なるほど,いずれもCG技術的にはさほど難しくない。その他では,オレンジ色の宇宙服はNASAの映像でお馴染だが,動きやすい着衣での演技に,CGを上から被せているようだ。CG/VFXの主担当はHybride Technologiesで,Rodeo FX, Alchemy 24, Oblique FX, Raynault VFX, Framestore, MELS VFX, Folks, Fly Studio等の名前もあった。
 
 
 
 
 
写真8 この形だと,7本脚であることがよく分かる
 
 
   ■ 主人公が有する特殊能力や映画の結末は書けないが,ある種のタイムワープものとだけ言っておこう。作品賞でのオスカー・ノミネートは,少し評価が甘いが,SF作品の代表選手の意味合いなのだろう。邦題の『メッセージ』は,原題より秀逸だと感じた。  
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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