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O plus E誌 2000年7月号掲載
 
 
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『グラディエーター』
(ユニバーサル映画
&ドリームワークス映画)
 
       
      (5/22 イマジカ試写室)  
         
     
  かつての映画らしい映画  
   4月号の『グリーンマイル』を本欄始まって以来の正統派の良識ある映画と評したが,この作品も重厚で見ごたえのある力作だ。大ローマ帝国が舞台のスペクタクル巨編は,『ベン・ハー』(1959)『スパルタカス』(1960)が懐かしい。『グラディエーター』はそれを彷彿とさせる映画らしい映画で,往年のファンの肥えた目を十分意識した作りになっている。それでいて,本欄で論じるに足るSFX/VFXの話題も含まれている。
 米国での公開は5月1日。今年はヒット作がなく低迷していたハリウッド映画界で年初来最大のヒットとなり,興収1億ドルも3週間目で突破した。オールドファンにはもとより,ノンストップ・アクションを見飽きた若い世代も,この本格ドラマの描き方を好ましく思ったようだ。日本では,秋の公開かと思っていたら,早々と6月17日全国公開である。夏休みの映画館は子供向き映画に席捲されるので,大人の映画はその前にということだろうか。「グラディエーター」(gradiator)とは「剣闘士」。あまり耳慣れない言葉だが,ローマのコロシアム(円形闘技場)で見世物としての死闘に参加した剣士をさす。この剣闘士マキシマスを演じる主演は『L. A. コンフィデンシャル』(1997)のホワイト刑事役で注目を集め,『インサイダー』(1999)でアカデミー主演男優賞にノミネートされたラッセル・クロウ。映画らしい映画で,主役らしい主役を熱演している。監督は,『エイリアン』(1979)『ブレードランナー』(1982)で熱狂的ファンを持つリドリー・スコット。既にベテランの域に入ったこの監督も最近は話題作に恵まれなかったが,本作品で改めて存在感をアピールした。
 時代は西暦180年の大ローマ帝国。数々の戦いに勝利を収めた将軍マキシマス(ラッセル・クロウ)が,時の皇帝(リチャード・ハリス)から後継者の地位を託されるが,それを嫉んだ皇帝の息子コモドゥス(ホアキン・フェニックス)の陰謀で妻と子を殺され,自らは奴隷となって復讐を誓うという物語である。奴隷の身から剣闘士として頭角を表し,やがてローマのコロシアムで宿敵と対峙する,という設定も『ベン・ハー』を思い出させる。実際,コロシアムでの戦いで,車輪に武器が着いた戦車を登場させ,これをマキシマスらが破るシーンは,『ベン・ハー』ファンヘのサービスだろう。剣闘シーンも見もので,映画史に残る傑作だ。
 マキシマス役がこの映画の魂という期待にラッセル・クロウは十分応えているが,脇役陣の描き方も上手い。敵役コモドゥスのファザ・コン,シス・コンぶりはよく描かれているし,ヒロインのルッシラ(コモドゥスの姉)役のコニー・ニールセンも先月号で紹介した『ミッション・トゥ・マーズ』とは見違えるばかりの演技を見せている。やっぱり,映画は脚本だ。そして何よりも光っていたのが,奴隷商人プロキシモ役のオリバー・リードだ。本作品の撮影中に他界したというこの英国の個性派俳優の力強い演技が印象に残った。アカデミー助演男優賞は存命でなくても対象になるのか,気になるところだ。
 一方,古きよき男らしさを感じさせるマキシマムの描き方の半面,家族々々を何度もアピールしたり,民衆を味方につけよという辺りに,アメリカ映画の臭さを感じさせる。古代ローマの英雄はそんなにマイ・ホーム主義だったのだろうか?アメリカ大統領に求める人間像を,映画を通して世界に振りまいてくれなくてもいい。
 
実物とCGでコロシアム建造
 SFX/VFXはというと,本作品のもう1つの主役であるコロシアムや古代ローマの遠景を描くのに存分に用いられている。ローマ帝国領スペインを想定した剣闘士養成の闘技場はモロッコのロケ地に実寸大で建設された。一方,古代ローマの街はマルタ島で再現されたが,さすがに3層構造で5万人を収容する巨大コロシアムを原寸で復元するわけにはいかない。
 そこで採用されたのは,第1層目だけを円周の3分の1,高さ18mの規模で造り,残る2層,3層と彫像はCGIで描き加える方法である(写真1)。コロシアムを内側から360°見廻すパノラマや上空から鳥瞰するフライバイのシーンももちろんCGを駆使した結果だ。2月号の『トゥルーマン・ショウ』で紹介した建築物と同じテクニックであるが,遥かにこちらの規模の方が大きい。
写真1
 コロシアムを埋め尽くす観客も,約2,000人のエキストラに様々な動きをさせ,これを33,000人に見せるよう観客席に貼り付けたという。これも『ベーブ』(豚がしゃべる『ベイブ』ではなく,ベーブ・ルースの伝記映画)や『フォレスト・ガンプ/一期一会』で試みられた手法だが,この映画ではスケールアップして十分威力を発揮している。
 
写真2

 この半バーチャル・コロシアムは,光の使い方も見事で,第一級の視覚効果を見せているのに,その他のシーンでの嘘っぽさが興をそぐ。特に,遠景のマット画の不出来が気になる(写真2)。コンピュータ内で合成したディジタル・マットだろうが,色調や陰影の微妙な違いが気になるし,カメラワークがその不自然さを強調している。視覚効果の主担当は,ロンドンにある中堅のVFXスタジオのMill Film社である。最近『ロスト・イン・スペース』『M:I-2』等数多くの作品に参加しているが,マット画のパース合わせが得手でないようだ。
 鬼才リドリー・スコット監督は,SFX導入の先駆者であり,独自の映像作りを貫いてきた。この映画でも,戦闘シーンの壮絶な戦いでの暗いトーンから一転してマキシマスの故郷の草原の輝きへの転回,雲の動きや空の色など,リドリー・スコットらしさが滲み出ている。それが,こんな安易な仕上がりの遠景をOKしてしまったのが解せない。それとも最近のVFXレベルの高さに驚いて,妥協点が下がってしまったのだろうか。映画としてはに値するが,本SFX映画評としては,この画竜点睛を欠く視覚効果は減点対象とせざるをえない。先月の『ミッション・トゥ・マーズ』と全く逆である。
 本作品は,早くも来年度アカデミー賞の有力候補との声がある。今年度受賞作の『アメリカン・ビューティ』に比べれば,その資格は十分だ。この重厚さも,俳優の個性の引き出し方も,還暦を過ぎた監督ならではの腕だろう。目下撮影中の『ハンニバル』(『羊たちの沈黙』の続編)も大いに楽しみである。
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