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O plus E誌 2013年1月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『最初の人間』:原作は「異邦人」のアルベール・カミュの未完成の遺作で,自伝的作品だという。筆者は,この文学作品の存在も題名も知らなかった。それもそのはず,死後に発見され,30年以上経った1994年にようやく出版された作品らしい。フランス領であったアルジェリアで育った作家が,1957年夏,独立運動の最中に故郷コルムリを訪れ,老いた母親と過ごす日々を描く。幼少期の回想,フランス人とアルジェリア人の和解のため苦悩する姿は,ノーベル文学賞受賞作家が自己存在理由を問う純文学作品で,生誕100周年となる2013年に公開されるのに相応しい。未完成作品だけあって,この表題の意味は最後まで分からなかったが,地中海の青さは印象的だった。
 ■『レ・ミゼラブル』:言うまでもなく大本の原作は文豪ヴィクトル・ユーゴーの「ああ無情」だが,その直接の映画化ではなく,同作を基にしたロングラン・ミュージカルの映画化作品である。何しろ,主演陣の顔ぶれが凄い。ヒュー・ジャックマンとアン・ハサウェイが歌って踊れることは,アカデミー賞授賞式で証明済みであり,『マンマ・ミーア!』(08)のアマンダ・セイフライドは勿論適役だ。少し心配なのは,ラッセル・クロウの歌だが,貫録で押し切ることだろう。『英国王のスピーチ』(10)でオスカー監督となったをトム・フーパーのメガホンとくれば,期待が大きくなるのも当然だ。2時間38分の大作に相応しい映像作りには,Double Negativeが参加してフランス革命下のパリの模様を描く……。それでいて,なぜ短評扱いで,この評価になったかと言えば,どうにもこの映画のテイストが筆者に合わなかったからだ。かなりのミュージカル好きなのだが,本作に関しては,普通のドラマとして観たかった。
 ■『シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』:同じフランス語の映画でも,一転こちらはお気楽な娯楽映画で,かつ実に美味しそうで,嬉しくなってしまう料理映画の登場だ。超一流の三ツ星レストランのシェフでありながら,スランプに悩む高名な料理長(ジャン・レノ)と天才的な舌を持つペンキ塗り職人(ミカエル・ユーン)が織りなすコメディである。テンポは快適,ユーモアたっぷり,数々のフランス料理を目で楽しむ映画だが,美女2人との結末も嬉しい。日本食レストランも登場し,ジャン・レノの殿様姿は抱腹絶倒もので,日本の観客へのサービスまでついている。
 ■『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』:将軍が女で,多数の男性が大奥に住むという前作『男女逆転 大奥』(10)は際物だと思ってスキップしたのだが,この逆転の発想が受けたのか,結構なヒット作となった。早速TVドラマ・シリーズとリンクし,その最終章として製作されたのが,この続編である。ところが,前作が8代将軍・吉宗の時代なのに,本作は5代将軍・綱吉に遡っている。それ自体がSFであり,際物の域を出ないが,ドラマは真面目であり,主演俳優(菅野美穂と堺雅人)は熱演,時代劇セットも衣装も豪華なだけに,却って違和感を覚える。逆転の面白さを描くには,もっとギャグや風刺があった方が良かったかと思う。
 ■『96時間/リベンジ』:シリアスな役柄で地味な名優であったリーアム・ニーソンに,CIA工作員を演じさせ,意外な一面を引き出した前作『96時間』は,当欄でも絶賛した(2009年8月号)。それから3年,しっかり2匹目の泥鰌を狙った続編の登場である。前作で殺した悪党の父親が執拗な復讐を企てるという設定だが,既に主人公の超人ぶりは分かっているので,意外性は低く,痛快さも前作を超えられない。スーツケースの仕掛け,拘束されて移動中の観察・分析力の描写などに新味は見られるが,もっと複雑な展開,豪華な俳優陣にしても良かったのではないか。それでも,一定水準は保った作品だと感じたのだが,同日夜に『007 スカイフォール』を観たら,途端に貧弱に思えてきた。
 ■『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』:通常なら当然メイン欄で取り上げるべきCG/VFX多用作だが,今月はメイン欄が満杯だった。何とも工夫のない邦題のため損をしているが,映像的には強く印象に残った作品である。冒頭の3D上映をフルに活かしたカメラワークで,一気に引き込まれる。何度か登場するフライバイ・シーンの移動速度は,ビデオゲーム風のカメラワークだと感じた。映画全体は中華風味付けの『ハムナプトラ』で,異才ツイ・ハーク監督が,久々にジェット・リーを起用してのアドベンチャー大作である。武侠映画初の3Dとのことだが,カンフーアクションの痛快度は少し控えめだ。3D映画としては,奥行きよりも飛び出し感を強調した絵作りで,映像の精細度も高い。中でも,手裏剣が飛び交うシーンが特筆に値する。実写・ミニチュア・CGの併用だが,その画質の合わせ方が絶妙だ。
 ■『渾身 KON-SHIN』:今月は松竹作品が3本あるが,山田洋次作品『東京家族』に劣らず,まさに力の入った渾身の一作である。隠岐諸島に伝わる古典相撲を題材に,島で暮らす人々の生活や家族の絆を細やかに描いている。美しい風景,静かな音楽,観光と伝統行事の紹介を兼ねた典型的な地域振興映画だ。少し真面目過ぎて,もう少し遊びがあってもいいというコメントはこの映画には当てはまらない。強いて難点を言えば,主演の伊藤歩が美人で都会的過ぎて,島で逞しく生きる素朴な女性に見えない。劇団EXILEの青柳翔が演じる青年が,亡くなった妻の親友であった彼女とようやく結ばれるが,私なら最初からこちらに恋している。
 ■『東京家族』:巨匠・山田洋次の監督50周年記念作品にして,81作目である。名作として名高い(筆者はそうも思わないのだが)小津安二郎監督の『東京物語』(53)へのオマージュとのことだ。登場人物の家族関係も名前も踏襲しておきながら,リメイクとは言わず,題名も少し異なるのは,山田洋次作品としてのアイデンティを持たせるためだろう。その大半を観てきた筆者には,本作は『家族2』であり,『息子2』になっていると感じられた。この兄姉弟の性格づけは,『男はつらいよ』シリーズの諏訪博の家族に通じるものがある。最後の橋爪功と蒼井優の語りの場面は,笠智衆と原節子の再現ではなく,筆者には志村喬と倍賞千恵子,三国連太郎と和久井映見に見えてしまった。瀬戸内の小島の出身,東京での生活への戸惑いは,正しく山田洋次作品の系譜の中に位置づけられるものであり,2012年現在の日本の家族像の記録になっている。老父が酒場で吐く「どっかで間違うてしもうたんじゃ,この国は」というセリフが,最も印象に残った。
 
   
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