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O plus E誌 2012年2月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『マイウェイ 12,000キロの真実』:主演はオダギリジョーとチャン・ドンゴンで,この順にクレジットされていて,配給元の東映の力の入れようから,日韓合作映画かと思ったが,純粋な韓国映画だった。それだけあって,第二次世界大戦下の日本軍の悪逆非道振りの描写は徹底していて,我々日本人とて思わず韓国人に感情移入する。日本占領下の朝鮮半島に始まり,満州,シベリア,東欧を経て,ノルマンディーに至る波乱万丈の物語の中で,きちんと日・韓・中・露・独の5カ国語が使い分けられていて,原語で登場する精緻さが嬉しい。戦闘シーンのリアル描写はもっと凄く,戦争映画のVFXとしてはこれまでのベスト3に入る。大陸横断ロケも見どころ満載でスケールが大きい。その半面,実話に基づくと言いながら,2人のマラソン選手を主人公にした虚構が白々しい。ラストのとってつけたような平和へのメッセージも表題も安っぽいのが残念だ。
 ■『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』:『Mr.ビーン』のローワン・アトキンソンが英国秘密諜報員を演じる007パロディ・シリーズの2作目だが,邦題のこの副題は大拍手ものだ。宣伝コピーも「史上最凶の天災的スパイ」「ロンドンより笑いをこめて」「ジョニーは2度死ぬ,3度死ぬ」とくれば,同担当者が自分で楽しんでいるとしか思えない。所属はMI7,上司は女性に代わり,特殊装備のクルマも小道具もたっぷり登場し,敵のスイスの要塞からスキーで滑降,お相手の美女は本物のボンドガールのロザムンド・パイク…となると,パロディ度もハンパではない。ただし,『Mr.ビーン』ほど抱腹絶倒シーンの連続ではない。結構ジョニーは格好良く,アクションもキマっているからだ。掃除婦の中国人老婆は『007 危機一発』(63)のロシア人女性のパロディだが,彼女とのドタバタを観て,ラストのオチが読めてしまった。それでも,このオチは大いに笑える。帰りの電車の中で思い出し笑いをして,周りの乗客に奇妙な目で見られてしまった。
 ■『アニマル・キングダム』:不思議な魅力の映画だ。ディズニーワールドのテーマパークとも,ムツゴロウ氏の動物王国とも関係はなく,犯罪者一家を描いた豪州製のクライム・ムービーである。母の死で祖母に引き取られた少年を待っていたのは,凶悪犯罪で生計を立てる親族の「野獣たちの王国」だったという意味である。次第に彼らの犯罪に染まって行く様を,緻密に計算された脚本で描く。サンダンス映画祭で絶賛されただけのことはある。多数の助演女優賞に輝いた祖母役のジャッキー・ウィーヴァーの存在感も印象深かった。脚本・監督はシドニー出身のデヴィッド・ミショッド,主演は出演当時17歳のジェームズ・フレッシュヴィルだが,いずれもこれが長編デビュー作だという。ともに瑞々しく,大成しそうな才能を感じた。この監督の作品,この男優の出演作には,今後も注目したい。
 ■『ペントハウス』:ベン・スティラーとエディ・マーフィが共演するアクションコメディだが,この2人の顔合わせが初めてとは意外だった。大富豪に貴重な年金を騙し取られた従業員たちが,知恵を絞って隠し財産の奪還作戦を展開するという筋立てだ。『オーシャンズ13』(07)はじめ,この手のクライムアクションは数多いが,舞台となるのが,マンハッタンの超高級高層マンション「ザ・タワー」で,そのゴージャスさが嬉しい。その半面,強奪チームの冴えない顔ぶれは対照的で,随所で笑いを誘う。高層ビルでの活躍振りは,先月号の『ミッション:インポシブル/ゴースト・プロトコル』と比べて観ると,なお味わい深い。テンポも助演陣のキャスティングも良く,娯楽作品としては上々の出来映えだ。
 ■『荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE』:予備知識なしに観たが,奇妙奇天烈な登場人物たちに仰天した。荒川の河川敷に住む不法占拠者のコミュニティが描かれていて,あの小栗旬がカッパの着ぐるみを着た村長役,山田孝之が黄色の星形のマスクをつけたミュージシャン役で登場し,金星人の美少女(桐谷美玲)までいる。常軌を逸した彼らの行動と会話について行くのがやっとだったが,次第に彼らの価値観に引き込まれてしまい,一斉退去の強制執行には,思わず彼らの味方をしたくなった。原作は中村光作のコミックだが,ほぼ同時進行,同一スタッフ&キャストでTVドラマ版と劇場用の本作を撮ったという。なるほど,そこまでやれば,出演者たちもこの作品の世界観に同化できたことだろう。主演の林遣都と上川達也の父子関係はハリウッド映画並みにクサいが,それでも結構感動する。
 ■『劇場版テンペスト 3D』:本作も予備知識なしに試写を観たが,それゆえに評価を下げざるを得なかった。時代は19世紀の琉球王国,世界遺産・首里城を舞台にした壮大な歴史ドラマで,角川映画初の3D作品というので期待していた。女であることを隠し,宦官だと偽って高級官吏として登用された女性の波乱万丈の生涯を描く。主人公を仲間由紀恵が演じ,沖縄出身の俳優も多数出演している。大規模な現地ロケ,華やかな衣装からも力作であることは分かるが,物語展開のバランスが悪く,今一つ盛り上がりに欠けていた。まるでNHK大河ドラマの総集編というのが,偽らざる第一印象だった。後で知ったが,何とNHK「BS時代劇」で放映した映像(全10回)そのものを圧縮し,3D化して,劇場版にしただけの映画だった。当然フェイク3Dであり,ドラマの厚みもCGの質もTVシリーズの域を出ていない。
 ■『ハンター』:キリストやヴァンパイア役が似合うウィレム・デフォーが,孤高のハンターを演じ,幻の動物タスマニアタイガーを追う。むしろ,この映画の主役は豪州タスマニア島の神秘的な大自然で,なるべく大きなスクリーンで観ることを勧める。その中で,痩身,リュック姿で銃を構える姿が絵になっている。登場人物もセリフも少なく,ミステリータッチで進む物語の手がかりは,映像の中から探してくれと言わんがばかりだ。タイガーとの遭遇や顛末は,ここでは伏せておこう。この結末で良かったのか,他に描き方はなかったのかと一瞬考えたが,最後に素晴らしいシーンが待っていた。美しい映画のラストとしては,満足度大である。
 ■『キツツキと雨』:こちらは小栗旬がデビュー作を撮る新人映画監督役で登場し,還暦を迎えた木こり役の役所広司と初共演を果たしている。監督は『南極料理人』(09年9月号)の沖田修一で,映画撮影の舞台裏を明かしつつ,ペーソスのある人間ドラマを演出している。2人の露天風呂シーン,あん蜜を食べる長回しのショットなどは絶品だ。劇中劇がゾンビ映画というのも笑いを誘い,平田満,伊武雅刀,山崎努といった助演陣の使い方も上手い。では,なぜ評点がそう高くないかと言えば,この主演2人を起用したこの監督には,もっと高いレベルの作品を期待したいからだ。次回作以降に,高い点数をとっておきたい。
 ■『ものすごくうるさくて,ありえないほど近い』:まず,映画としては異色の表題が気を引くが,9・11文学のベストセラーの邦題をそのまま踏襲したものだ。同時多発テロで父親を失った少年が,残された1本の鍵の謎を解くため,NY中を奔走する物語を主軸とし,祖父母の物語を巧みに絡ませている。原作は版組みにかなり奇をてらったビジュアル本らしいが,スティーヴン・ダルドリー監督はもう少しオーソドックスに少年の成長と現代社会へのメッセージを込めている。ハリウッド映画らしいビジュアル面での盛り上がりはないが,『めぐりあう時間たち』(02)『愛を読むひと』(08)の監督の純文学調の作品を期待しているなら,そう外れはない。エンドロールで流れる美しいピアノの調べと共に,この映画の余韻を味わって欲しいが,隣席のポップコーンの音や携帯電話のメールチェックの灯りが気になるようなシネコンでの観賞には適していない。
   
   
   
   
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