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O plus E誌 2015年6月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『駆込み女と駆出し男』:江戸時代にこんな世界があったとは知らなかった。非チャンバラ時代劇で気を吐く松竹作品で,縁切寺として知られる鎌倉の東慶寺を舞台に,離縁を求めて駆け込んでくる女達を描いている。劇作家・井上ひさしが11年をかけて発表した連作小説「東慶寺花だより」を,原田眞人監督が映画人の魂を込めて,見事に映像化している。戯作者志望,医者見習いの主人公に,大泉洋を配している。これが大正解というより,監督が彼を意識して書いた脚本だろう。ヒロインのじょご役の戸田恵梨香が美しい。助演陣の樹木希林,陽月華,堤真一らも,皆好い味を出している。四季の描写も美しいが,セットも小道具も素晴らしい。江戸文化の一面を,美術やセリフで巧みに描写している。「時代劇の神々への思い,大映時代劇へのオマージュ」だそうだが,それは十分に感じ取れる。
 『パイレーツ』:英語名の表題だが,韓国映画のヒット作で,海賊だけでなく山賊も登場するアクションアドベンチャーだ。時代は,高麗が滅びて朝鮮建国となる14世紀末の設定である。建国当初の10年間,朝鮮には国璽がなかったという史実に,明から授けられて持ち帰る途中に,クジラに食べられてしまったというトンデモナイ解釈を与えている。新政府軍,海賊,山賊が入り乱れて,当のクジラを探して対決するという展開である。海賊船の女副船長役のソン・イェジンが凛々しく,魅力的だ。山賊の頭領役のキム・ナムギルの剽軽な演技は,『POC』シリーズのジャック・スパロウ船長を意識した役作りと思われる。大型帆船を建造して臨んだ海上シーンも見ものだが,ほぼ全編に登場するCG製クジラの母子が素晴らしい。『ミスターGO!』(13)のDexter Digitalが担当だが,これだけで☆半分オマケだ。メイン欄で紹介できなかったのが残念だ。
 『アドバンスト・スタイル そのファッションが,人生』:表題は,アリ・セス・コーエン(現在33歳の男性)が2008年に始めたブログの名称で,彼が取り上げるのはNYの街を闊歩する60歳以上のシニア女性のファッションである。人気の秘密は,従来のファッション雑誌の対象でなかった年齢層へのアピールのようだ。写真集の出版でさらに人気を博した上で,このドキュメンタリー映画の製作が企画された。本作に登場する7人の女性は,すべて60歳以上で,平均年齢は79.6歳だ。そのカラフルなファッションにも,ポジティブな思考にも圧倒される。こうしたシニア層の活力には,万国共通で若者が学ぶべきものがあると思いつつ,これはNYの富裕層ゆえの行動であり,かつ女性ならではの人生観だとも感じた。日本の高度成長を支え,疲弊して晩年を迎える団塊の世代の男性群は,こうは行かない。
 『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』:ソウル界の巨人を描いた伝記映画だ。「ミック・ジャガーがプロデュースした音楽映画」「マイケル・ジャクソンが影響を受けた20世紀最高峰のエンターテイナー」というキャッチコピーからすると,若い世代には,伝説のJBは余り知られていないのだろう。筆者ら団塊の世代の多くは知っているはずだが,筆者自身が持っているJBのCDはクリスマス・アルバムだけで,ステージ姿は知らず,トークも聞いたことはなかった。JBを演じるのは,『42 ~世界を変えた男~』(13年11月号)のチャドウィック・ボーズマンで,かなりの熱演だ。彼の演じるライヴシーンからだけでも,マイケルに大きな影響を与えたことは想像できる。かなり強烈な個性の人物であったようで,貧しかった幼年期が強調され,奇行の時代も描かれている。現代と過去を何度も往き来する描き方は,映画手法としては有り得るが,音楽遍歴通りの時間順で,彼の栄光と挫折を観たかった気もする。
 『新宿スワン』:人気コミックの映画化作品で,監督は『冷たい熱帯魚』(11)『ヒミズ』(12)の園子温。この監督の映画は2度と観ないつもりだったが,出演陣(綾野剛,山田孝之,伊勢谷友介,沢尻エリカ等)の豪華さに惹かれて観てしまい,監督名は後で知ったという次第だ。新宿といっても,歌舞伎町の裏社会が舞台だ。となると,2月号の『さよなら歌舞伎町』とガチンコ勝負となる。あちらが群像劇で,「セックスが多いが,暴力はない。清々しさすら感じた」のに対して,本作は主演,助演がはっきりしたドラマで,「セックスはなし,暴力だらけ。清々しさはないが,まずまずの落とし所」だ。この監督特有の毒は少なく,歌舞伎町の毒に負けているのかのようだ。日頃ノーブルな役が似合う綾野剛が金髪で登場し,道行く女性達に声をかけて水商売,風俗営業に誘い込むスカウトマンを好演している。
 『夫婦フーフー日記』:軽薄さを感じる表題だが,題材はその真逆で,妊娠直後に悪性の直腸癌が見つかった妻と夫の育児&闘病記である。「泣けるコメディ」との触れ込みだが,余り涙する場面はなく,爽やかさすら感じる夫婦愛の物語だ。その訳は,実在のブログを出版した「がんフーフー日記」を実写映画化した際,大胆に設定変更したことによる。育児と仕事に奮闘するダンナの前に,何と死んだはずのヨメが出現するというSF仕立てだ。ただし,タッチは『ゴースト』風でも『シックス・センス』風でもなく,優柔不断のダンナと豪胆なヨメが織りなすラブ・コメディである。97分と尺が短いのはいいが,強いて言えば,もう少し大きな盛り上がりが欲しかった。実話に基づく限界だろうか。
 『トイレのピエタ』:邦画が続く。こちらも余命3ヶ月を宣告された若者の恋愛ドラマだが,手塚治虫の病床日記に着想を得たオリジナルストーリーだという。主演は,ロックバンドRADWIMPSのリード・ヴォーカルの野田洋次郎。バンドの全楽曲の作詞・作曲も手がけるミュージシャンだが,本作が映画デビューで,いきなり主演である。無口で飄々とした現代風若者の役は,地なのか演技なのか,区別がつかないが,俳優としてのセンスも持ち合わせているように感じた。ヒロインは,純粋な女子高生役の杉咲花。感情むき出しのつっぱり娘の役柄は,少し無理をした演技に見えた。後述の『愛を積むひと』の素朴で心優しい少女役の方が,自然で好感が持てる。この若い2人の脇を固めるリリー・フランキー,大竹しのぶ,宮沢りえ等の助演陣の演技で支えられている印象が強い映画だ。
 『海街diary』:さらに邦画が続く。本年度上半期の邦画ベスト1だろう。女性用人気コミックが原作で,4人姉妹の物語である。素直な姉妹構成の「細雪」「若草物語」とは異なり,父親の死とともに,3姉妹の住居に異母妹が加わるという設定だ。鎌倉の古い家を舞台にした日常生活の中に,不倫で家を出た父親とその愛人,再婚相手,家庭を捨てた母親と長女の確執,等々にまつわるヒューマンドラマが展開する。一見,松竹大船調の映画だが,東宝+ギャガの共同配給作品だ。監督は,『そして父になる』(13)の是枝裕和。綾瀬はるか,長澤まさみ,夏帆,広瀬すずの4姉妹の調和は見事で,自然な演技に見える半面,長女と四女の存在感を際立たせている。樹木希林,大竹しのぶ,堤真一,風吹ジュン,リリー・フランキー等の助演陣も豪華だが,むしろこの助演陣が目立ち過ぎないことに好感が持てた。試写を観た後,原作コミック全8巻(連載中)も完読したが,鎌倉の四季が美しく,映画の方が数段良いと感じた。
 『ハイネケン誘拐の代償』:本作も実話で,オランダのビール会社「ハイネケン」の経営者誘拐事件(1983年)を題材にしているが,サスペンス・ドラマ仕立てである。犯行を企てたのは幼なじみの5人組(ジム・スタージェス,サム・ワーシントンら)で,素人誘拐犯らを人質のフレディ・ハイネケン会長が翻弄し,計画に狂いが生じるという筋立てだ。会長を演じるのは,名優アンソニー・ホプキンス。成程,俳優としての貫録が違うので,威圧的な態度,頭脳的な駆け引きも様になっている。高額の身代金を手にしたまでは良かったが,その後,仲間割れが生じる展開には説得力がある。監督は,『ミレニアム』シリーズなどのダニエル・アルフレッドソン。であれば,ワクワクする盛り上がりを期待したのだが,やや淡泊な結末で終わってしまった。実話ゆえ,過度の脚色はできなかったのだろうが,少し惜しい。
 『しあわせはどこにある』:余りに平凡な題名だが,サイモン・ペッグとロザムンド・パイクが恋人同士という,一見不釣り合いなカップリングに興味をそそられた。何不自由なく暮らす英国人精神科医が,人生の幸せに疑問を感じ,世界各地への旅に出るという設定だ。最終的に恋人の元に帰って来てヨリを戻すという結末は平々凡々たる筋立てだが,中国,アフリカ,LAと渡り歩く道中での出来事が破天荒かと思えば,「ちょっといい話」も随所に盛り込まれている。『宇宙人ポール』(11)のS・ペッグの個性を前面に出した脚本だ。彼が見つけた「幸せへのヒント」は,まとめて文字で読むと堅苦しいが,映画中では軽妙,洒脱なテイストで語られている。その反面,『ゴーン・ガール』(14)の悪妻役で怪演ぶりが話題を呼んだR・パイクが,こんな在り来たりの恋人役ではもったいない。先に本作に出演したのだろうが,ここは「役不足」という言葉が見事に当てはまる。
 『グローリー/明日(あす)への行進』:今年のアカデミー賞作品賞候補作の1つで,原題は『Selma』だ。1965年3月公民権運動の指導者キング牧師の呼びかけで集まったデモ行進の出発地点であり,警官隊の暴力的な制圧で「血の日曜日事件」が起きた米国アラバマ州の町の名である。同事件を中心に,黒人の選挙権を保障する大統領署名を勝ち取るまでを描いている。キング牧師を演じるのは,デヴィッド・オイェロウォ。『大統領の執事の涙』(13)でも公民権運動の闘士を熱演していたので,違和感はなく,演説も見事だった。公民権運動の歴史を後世に伝える代表作であるのに,惜しむらくは,ジョンソン大統領の描き方を批判する声もある。そんな否定的意見が出るだけの力作であるとも言える。アカデミー賞受賞の主題歌「グローリー」は,エンドロールで流れる。ゴスペル調の佳曲で,ヒップホップも盛り込んである分,メッセージ性も高い。オスカーは,曲よりも,歌詞に重きを置いて与えられたのだろうと感じた。
 『愛を積むひと』:北海道で人生の残りを過ごそうとする夫婦の愛情や絆を描いたドラマだが,こちらは正真正銘,イメージ通りの松竹作品だ。ただし,原作は米国人エドワード・ムーニー・Jr.の小説「石を積むひと」で,舞台を大雪山と十勝連峰が見える北海道・美瑛町に移している。監督は『釣りバカ日誌』シリーズなどの朝原雄三。主演の夫婦に佐藤浩市と樋口可南子,家を出た長女に北川景子を配している。外国ものの素材を翻案し,大自然や四季の描写を織り交ぜる手腕は,山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』(77)『遙かなる山の呼び声』(80)を参考にしていると感じ取れた。上述の『トイレのピエタ』に続いて試写を観たが,同じ松竹配給作品ながら,こちらはまさに大人の映画だった。劇中で流れるナット・キング・コールの「スマイル」が,ぴったりマッチしていた。
 『ルック・オブ・サイレンス』:インドネシアの大量虐殺事件を題材にした『アクト・オブ・キリング』(14年4月号)は,衝撃のドキュメンタリー映画だった。加害者達に当時の模様を語らせる手口に感心し,反省の色もなく,誇らしげに虐殺行為を振り返る加害者達の精神状態に驚愕した。本作はその続編で,今度は同じ100万人虐殺事件を,被害者の親族の視点で描くという。この種の続編は二番煎じで衝撃度も新鮮味もなくなるのが普通だが,本作に限っては,再度圧倒される特異なドキュメンタリーに仕上がっている。映画に撮られていることを知りながら,よくぞこんなインタビューが成功したものだ。夫や父の犯行を聞かされた家族の反応は生々しい。聞きたくないと言い張る彼らの気持ちも理解できる。ジョシュア・オッペンハイマー監督の手腕もさることながら,兄を殺されたアディが,加害者とその家族に真実を語れと迫る情熱が実を結んでいる。
 
   
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