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O plus E誌 2016年7月号掲載
 
 
ウォークラフト』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )
      (C)2016 LEGENDARY PICTURES AND UNIVERSAL PICTURES
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月1日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズ他全国ロードショー公開予定]   2016年6月13日 東宝東和試写室(東京)
       
   
 
アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』

(ウォルト・ディズニー映画)

      (C) 2016 Disney
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月1日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2016年6月1日 GAGA試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  新シリーズと続編のファンタジー対決は,ほぼ互角  
   CG/VFXをふんだんに使ったファンタジー大作2本が同日公開される。当欄の定番のジャンルだが,片や6年前に大ヒットした『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)の続編であり,他方は人気インターネット・ゲームの世界観を実写映画化した新シリーズだ。
 親しい知人から,同じ類いの映画ばかり観ていて,よく飽きないなと問われる。一般観客なら時間と入場料に見合いそうな作品だけ厳選すればいいが,当方はそうは行かない。網羅的に眺め続け,欠かさず紹介しているのは,CG/VFXの発展史を同時代進行で追い,生き証人として利用度や完成度を記録しておくという義務感からである。その視点からすると,両作とも物語としての新味に欠けるが,ビジュアル的には見どころ十分だ。
 
 
  既視感溢れる映像の連続だが,装飾には圧倒される  
  紙面の都合で,新シリーズの方から先に語ろう。ビデオゲームからの映画化としては,和製ゲームが基の『バイオハザード』シリーズの息が長いが,本作は米国製の大ヒットゲームを基にしている。MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)なるジャンルでは,2008年に登録者数でギネス記録となった世界的大ヒット作のようだ。もっとも,近くの若者に尋ねてみたが,日本での知名度は高くない。となると,この映画の本邦での興行成績は芳しくないことが予想されるが,当欄としては見逃すことが出来ないシリーズ第1作だ。
 注目した理由が2つある。SFX/VFX界の老舗ILMがかなりの力を入れて取り組んだCG超大作だという点だ。一時期,画像クレジットの中に,製作会社と並んでILMの名前もあったから,自己資金も投じて製作に加わったのかも知れない。もう1つは,監督が『月に囚われた男』(10年4月号)『ミッション:8ミニッツ』(11年11月号)のダンカン・ジョーンズであることだ。かつてゾウイ・ボウイと名乗っていたように,故デヴィッド・ボウイの長男である。まだこれが長編3作目だが,当欄が前2作の両方にを与えたほどの逸材だ。
 予告編を観て驚いた。これは『ロード・オブ・ザ・リング (LOTR)』シリーズ(01〜03)の世界そのものではないか。試写の前に,早めにスチル画像一式を入手して熟視したが,LOTRをなぞり,スケールアップし,CG画像の精細度もかなり向上させている。LOTRの大成功後に類似作品が多数作られ,それがゲーム界にも及び,一巡して戻ってきたという感じだ。
 物語は,領土的野望を持つオーク族が主役で,人間,エルフ,ドワーフの連合軍と戦うというもの。ホビットが出てこないだけで,そのままLOTRの世界だ。冒頭から,あまり説明がなく,いきなり物語が進行する。徐々に背景や各種族の位置づけ,登場人物の性格等が,セリフの中で説明されるようになるが,シリーズの続編から見始めた感じである。想定観客であるゲーマー達は,登場キャラのパワーや弱点を知り尽くしているので,一々説明は要らないのだろう。物語は凡庸で,お世辞にも褒められた脚本ではない。それでも,映像には圧倒され,没入してしまう。以下は,当欄の視点での感想だ。
 ■ 本作の至るところで,既視感を感じる。まずは,人間の軍神ローサーが乗る怪鳥グリフィンは,名前からして『ナルニア国物語』シリーズと同じだ。『ハリー・ポッター』シリーズのヒッポグリフにも似ているが,過去のどの怪鳥よりも力強い。レイン王の宮殿は『SW』シリーズのナブー星の中心地に似ているし,岩が空中に浮いている様は,『アバター』(10年2月号)へのオマージュだろうか(写真1)。様々な映画の名場面がゲームに盛り込まれたため,こうなってしまったのだろう。
 
 
 
 
 
写真1 既視感のある映像の連続。これは意図的か?
 
 
  ■ オークが戦闘時に乗る大狼犬フロストウルフの威容に圧倒される(写真2)。勿論,CG製だ。オーク族のルックスは,『ヘルボーイ』(04年10月号)に似ている。顔面特殊メイクだけかと思ったが,堂々たる体躯を観る限り,丸ごとCGで描いたのだろう(写真3)。逆に,身体がCG表現だとすると,衣服や装飾品の質感の高さに感心する(写真4)。後日メイキング映像を観るのが楽しみだ。
 
 
 
 
 
写真2 オーク族と堂々たるフロストウルフ
 
 
 
 
 
写真3 この体躯は本物? CGで描いたとしか思えないが…
 
 
 
 
 
写真4 身体がCGだとしたら,この装飾もCG?
 
 
  ■ 多数の戦士や闘いの模様(写真5),山々と城,大群衆を前にした演説シーン(写真6)等にも,LOTRからの影響を感じる。それもそのはず,甲冑や武器等は,LOTRに参加したWeta Workshopがデザインしている。CG/VFXの主担当は,前述のILMだが,他にHyBride, Rodeo FX, Base FX等も参加している。ビデオゲームとは一線を画し,映画ならではの画質,スペクタクルを見せることに徹していると感じた。
 
 
 
 
 
写真5 LOTRの世界を一段とパワーアップ
 
 
 
 
 
写真6 最後は次作に向けて,よくある演説シーン
(C)2016 LEGENDARY PICTURES AND UNIVERSAL PICTURES ?
 
 
  2匹目の泥鰌は,ビジュアル的には贅沢な味付け  
   世界的に知名度が高い児童文学「不思議の国のアリス」の世界観をティム・バートンが実写映画化した前作は,当時人気絶頂のジョニー・デップをマッドハッター(奇妙な帽子屋)役で主演に起用し,新星ミア・ワシコウスカにアリス役を演じさせたファンタジー・アドベンチャーだった。その続編の原題は『Alice Through the Looking Glass』で,ルイス・キャロル作の「鏡の国のアリス」の英題そのものである。続編ということで,原作小説の2作目の題を踏襲しただけで,前作同様,ほぼオリジナルストーリーだ。一応アリスは鏡を通り抜けてアンダーランドを再訪するが,タイムマシンで時間を往き来するので,邦題の方が内容に忠実と言える。
 先月号の『スノーホワイト/氷の王国』でも触れたように,本作も辣腕プロデューサー,ジョー・ロスが製作陣を率いる作品だ。前作の監督ティム・バートンは製作総指揮に回り,『ザ・マペッツ』シリーズのジェームズ・ボビンが本作の監督を務めている。上記2名を含め,主要登場人物は続投で,赤の女王にヘレナ・ボナム=カーター,白の女王にアン・ハサウェイを配している。赤の女王が何故あんなデカ頭になったか,子供時代の逸話が明かされる。姉妹の因縁は,何やら『スノーホワイト/…』とそっくりだ。元々,前作からこの姉妹は登場しているので,あちらが似せて来た訳である。
 物語の骨格は,帰らぬ家族をひたすら待つ,元気のないマッドハッター(写真7)を救うべく,アリスがタイムマシンを操作して時を遡り,問題を解決するというもの。物語としては,特に可もなく不可もない標準レベルだが,筆者はビジュアル的に魅力倍増していると感じた。
 
 
 
 
 
写真7 何となく浮かない顔のマッドハッター
 
 
  ■ 冒頭は,アリスが父の遺した船の船長となり,海賊の襲来に対抗する海戦のシーケンスだ。本編前の肩慣らしだが,映像的には好い出来だった。嵐,雷鳴,高波の中を進む帆船は,ほぼ全てCGだろう。それが終わると1985年のロンドン港やロンドン市街地が登場するが,その描写のレベルはかなり高い。
 ■ 前作から最も変わったのは,芋虫アブソレ厶だ。美しい青い蝶に変身した彼に導かれ(写真8),アリスは不思議な鏡を通り抜け(写真9),懐かしのアンダーランドに着地する。この間の全てがアベコベに見える鏡像の部屋等,3Dを意識した意欲的なデザインである。地下世界で待っていたのは,白うさぎ,チェシャ猫,ヤマネ,ベイヤード等,お馴染みの動物たちで,勿論CG製だ(写真10)。赤の女王のデカ頭(写真11)や,双子の兄弟トウィードルディとトウィードルダムのVFX制作方法は前作と同じだと思われるが,出番も多く,手慣れた感じだ。
 
 
 
 
 
写真8 芋虫アブソレ厶は,美しい蝶に変身した
 
 
 
 
 
写真9 鏡の中は左右対称の世界
 
 
 
 
 
写真10 左から,ベイヤード,白うさぎ,チェシャ猫
 
 
 
 
 
写真11 赤の女王のデカ頭は本作でも再三登場
 
 
   ■ 時の番人の目を盗み,万物の大時計から時間旅行の動力源クロスフィアを取り出したアリスは,悲しい過去を変えるための時間の旅に出る。この設定は悪くないし,大時計や数々の時計の動き,時間の海の描写は,デザイン的にもCGレンダリング的にも優れている(写真12)。地上と地下,現在と過去に移動する度に異質の光景が登場するが,いずれも美術的にかなり頑張っていると感じた。
 
 
 
 
 
写真12 時の番人「タイム」が操る数々の時計
 
 
  ■ 終盤のVFXシーンの極め付けは,時を支配しようとする赤の女王の魔力で,人も物もすべてが無機物化し,ボロボロになって行くプロセスだ(写真13)。CG技術としてさほど高度なものではないが,その見せ方が上手い。間一髪,アリスがそれを阻止すると,逆回し風に美しい世界が復元する描写も心地よい。CG/VFXは,ディズニー作品であるのに,Sony Pictures Imageworksが大半の主担当だ。他に英国の雄Double Negative, 3D化にはPrime Focus World等も参加している。
 
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写真13 人も物もボロボロになって行く過程が秀逸
(C) 2016 Disney. All Rights Reserved.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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