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O plus E誌 2004年10月号掲載
 
 
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『ヘルボーイ』
(レボリューション・スタジオ /UIP配給 )
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語   2004年7月27日 UIP試写室(大阪)  
  [10月1日より日比谷映画ほか全国東宝洋画系にて公開予定]      
       
     
     
 
 
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『デビルマン』
(東映)
 
      (C)2004「デビルマン」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語    
  [10月9日より丸の内TOEI1ほか全国東映系にて公開予定]   2004年9月7日 東映試写室(大阪)  
         
 
   
  相次ぐコミックの実写映画化の中から,この2本  
   先月号以降,コミックやアニメを原作とした実写映画を5本観た。その中では語るに足る2本をまとめて論じてみよう。『地獄少年』に『悪魔男』と標題も似ている。
 まずは「スパイダーマン」「X-メン」のマーヴェル・コミックス,「スーパーマン」「バットマン」のDCコミックスの2大老舗に続く第3勢力のダーク・ホース・コミックス社が90年代に生み出した人気コミック「ヘルボーイ」の実写映画化作品だ。監督・脚本は『ブレイド2』(02)のギレルモ・デル・トロで,髪は妙なちょんまげ,絶えず葉巻をくわえた赤ら顔の親父キャラを,悪役専門の脇役とも言うべきロン・パールマンが,連日3時間のメイクを施して演じた。
 第2次世界大戦末期にオカルト結社の秘密計画から生まれた真っ赤な小猿が超能力を持ち,長じて現代では米国政府のBPRD(超常現象調査/防衛局)に所属して魔物退治を担当しているという設定だ。過去や未来を読める半魚人のエイブや怒りで「念動発火」の能力を持つ女性リズ・シャーマンがBPRDの同僚だが,とりわけへルボーイとエイブのコンビの掛け合いが面白い(写真1)。奇妙な親父キャラが同僚のジルに恋して嫉妬するシーンも微笑ましかった。単なるアクションだけでなく,主人公の内面に迫るのは『ハルク』(03年8月号)『スパイダーマン2』(04年8月号)など流行りの路線である。
 対する『デビルマン』は,1972年から少年マガジンに連載された人気漫画で,「ハレンチ学園」の永井豪の転身作となった。同時にTVアニメ版も放映されていた。
高校生の主人公・不動明は謎の生命体に合体されるが,人間の心を残した「デビルマン」となって,人類を破滅させようとするデーモンたちと戦う。かなり過激なバイオレンス・コミックだが,変身後のデビルマンが実にかっこ良く,筆者も20代にむさぼり読んでいた。
 この実写映画版の監督は『ビー・パップ・ハイスクール』シリーズの那須博之,脚本は真知子夫人,特撮監督は『魔界転生』(03)の佛田洋という布陣だ。主演の不動明(=デビルマン)と飛鳥了(=サタン)に,音楽グループFLAMEの伊崎央登と伊崎右典を起用したが,漫画でももともと酷似していた2人に双子のタレントを当てたのは大正解だ。ヒロインは酒井彩名,渋谷飛鳥といった美少女たちだが,他には宇崎竜童・阿木耀子夫妻,ボブ・サップ,KONISHIKI,小林幸子から,原作の永井豪までがしっかり登場する。
 
     
 
写真1 なかなか面白いこの2人の組み合わせ
 
       
  脚本・演出は段違いだが,VFXの健闘を讚えよう  
   SFXとVFXに関しては,『ヘルボーイ』は800ショット以上に及ぶテンコ盛りだ。ミニチュアはFantasy II,特殊メイクはCinovation,Spectral Motion,DDT Efectos Especialesの3社が手がけ,Spectral Motionは魔物サマエルのアニマトロニクスも担当している。地獄の門やリズの発火現象など250ショットのVFXは,The Orphanageが,赤ん坊のヘルボーイ,水中のエイブ,激しく動くサマエル等のフルCGバージョン等の131ショットはTippett Studioが担当した。他にCafe FX,Hatch FX,Eden FXなど多数のスタジオが参加している。
 月蝕,地下迷宮,魔界の描写はスケールが大きい。なかんずく傑出しているのが,魔物サルマンのCGを描くTippett Studioの技だ。この醜悪無比のCG怪獣が,エイブとの格闘,続いてヘルボーイとのバトルで頻出しても,観賞に耐えるだけの動きのクオリティを保っている。さすがクリーチャー専門だけのことはある。
  対する『デビルマン』は,東映の映画製作陣にアニメで実績ある東映アニメーションの約50人が加わった。このアニメ風味つけのCG映像を「日本映画の新潮流T-VISUAL」と称している。豪華なプレス資料には,キャラクタ・デザインやCGメイキングも満載で,これは気合いが入っているなと感じさせる。ハリウッド映画に参加経験のある日本人をCGスーパバイザ等に迎えてのVFXシーンは約300カット。特に,教会での変身シーン(写真2)以降はラストまで,ほぼずっとCGキャラやディジタル加工されたシーンが続く。
 個々のカットのビジュアルはかなり秀逸なのに(写真3),残念ながら全体としては『ヘルボーイ』には敵うべくもない。CGのモデリングがプアであったり,質感のマッチングがイマイチのカットが,映画全体の印象を低くしている。それでも韓国映画の『火山高』(02)よりはかなり上,東宝の『陰陽師』シリーズと好い勝負か少し上と評価できる。不動明が歩いて行く瓦礫の山のシーン(写真4)などはかなり良くできていたし,サタンによって破壊された廃虚の都市は,パリも東京も素晴らしい出来栄えだった。日本のCGアーティストたちの腕もかなりのものだと嬉しくなった。
   
     
 
 
 
写真2 待ち受けるデビルマン(不動明)に対して,飛鳥了はサタンに変身
(C)2004「デビルマン」製作委員会
 
    
 
写真3 動きはアニメ的だが,ビジュアル的には秀逸
(C)2004「デビルマン」製作委員会
 
写真4 『戦場のピアニスト』に似過ぎているけど…
 
     
   むしろ映画としてのクオリティを評価するなら,脚本・演出こそ,ハリウッドと日本映画の間には大きな差があるのではないか。CG/VFXもそのものの腕の差よりも,使い方の稚拙さの方が大きいと感しる。『ヘルボーイ』は,導入部のテンポが良く,途中少しシリアスに語りかけ,それでいてクライマックスではこれでもかと言わんばかりにはしゃぎまくる。エンターテインメントのツボをよく押さえている。これに対する邦画のSFや怪獣映画は,いずれも脚本が平板で盛り上がり欠ける。
 ちなみに同時期に観た他の3本の評価は
  ・『ガーフィールド』 ☆ (20世紀フォックス)
  ・『スクービー・ドゥー2』 ☆+ (ワーナー)
  ・『NIN×NIN 忍者ハットリくん The Movie』 ★ (東宝)
である。『NIN×NIN…』は,香取慎吾人気とタイアップ広告の巧みさで結構な興行成績だが,VFXは取るに足らない。脚本もお粗末だ。これでは『スパイダーマン』に匹敵する素晴らしい和製のキャラが死んでしまう。安易な企画で,映画作りの志が低いと言わざるを得ない。韓国映画に市場を荒らされても,何の不思議もない。
 それに比べて,試写の後で中年のマスコミ関係者が「永井豪の世界やなぁ」と漏らした『デビルマン』は,大健闘の部類だろう。日本の映画作りを少し変えようという意欲は買える。VFXの応援部隊として「シムイメージ」「マリンポスト」他,CGスタジオ数社の名前があった。機会がなければ,腕も上がらない。その機会を与えようと挑戦したその意気を賞讃したい。
 
   
     
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