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O plus E誌 2013年3月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ダイ・ハード/ラスト・デイ』:人気シリーズの5作目である。この手のアクション路線は,何か新しい趣向を入れるか,どんどん過激になるしか道はない。前作はサイバー犯罪をテーマにした上に,ジョン・マクレーン刑事(ブルース・ウィリス)の愛娘ルーシーを新登場させるという策を採用し,期待を裏切らない作品に仕上がっていた。本作でもこの娘が少し登場するが,さらに息子ジャック(ジェイ・コートニー)がいて,彼がロシアの権力争いに巻き込まれるという設定になっている。パワーアップと言う点では,巨大な装甲車が登場する前半のカーチェイスは斬新で,今までにないパターンだ。中盤のビルの最上階からの2人の落下シーン,終盤はヘリの墜落シーンも見せ場である。VFX班は,ブダペストでのロケをモスクワ市街に見せるのに,数々の技を駆使している。かくして,ド派手な最新アクション映画が出来上がったが,感動や感激は全くない。
 ■『ゼロ・ダーク・サーティ』:監督は,3年前にアカデミー賞作品賞・監督賞等を受賞した『ハート・ロッカー』(10年3月号)のキャスリン・ビグロー。良い作品ではあったが,『アバター』(09)を押しのけてオスカーを得るほどとは思えなかった。本作は,彼女の実力が本物であったことを裏付けるような大傑作である。イラク戦争での米軍爆発物処理班を描いた前作に対して,今度はテロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの殺害計画が題材と,相変わらずタフで,緊迫感溢れる物語が大好きなようだ。主人公は,情報収集力と分析力に長けた女性CIAアナリストで,『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(11)で見事な助演ぶりを見せたジェシカ・チャステインが熱演している。上映時間が158分と長いのが難だが,リアルさを追及した最後の40分間は正に手に汗握る。そのクライマックスの様子は,赤穂浪士の吉良邸討ち入りを思い出してしまった。
 ■『世界にひとつのプレイブック』:本作も上記と同様,毎年この時期になるとオスカー・レースを賑わすギャガ配給作品で,今年は同社で主演女優賞を争う構図である。妻の浮気が原因で精神を病んだ男性と,事故で夫をなくした女性が,最初は天敵で,やがて惹かれ合うという,よくあるパターンのヒューマン・コメディだ。その男女が『ハングオーバー!』シリーズのブラッドリー・クーパーと,『ウィンターズ・ボーン』(10)『ハンガー・ゲーム』(12)のジェニファー・ローレンスというのが気になった。あのお気楽なアラフォー男と生真面目で健気な少女では,年齢的にも全く釣り合わないではないか。と思ったのに,『ザ・ファイター』(10)のデヴィッド・O・ラッセル監督の手にかかると,J・ローレンスはもうすっかり大人の女である。今後も何度か変身し,大女優に育って行くことだろう。
 ■『横道世之介』:原作は吉田修一の毎日新聞連載小説で,主人公の名前が殊更個性的である。お人よしの青年と周囲の人々のエピソードを淡々とした調子で描く。青春小説やその映画化作品は,まぁこんなものだろうというのが,偽らざる感想だ。同時代を生きた人に想い出深い描写を含んでいることが最低要件だが,時代を超えた普遍的な作品にするのは容易ではない。物語は,1987年と2003年を往き来するが,2003年にジャンプしたことが少し分かりにくい。メイクが今イチで,若手俳優を上手く老けさせていないからだと思う。『南極料理人』(09)『キツツキと雨』(12)の沖田修一監督だというので期待して観たのだが,らしさは出ているものの,この監督ならばもっと上を期待したい。
 ■『逃走車』:主演は『ワイルド・スピード』シリーズのポール・ウォーカーで,この表題とくれば,派手なカーアクションがウリの娯楽映画を想像する。その予想通りで,期待には違わない。それ以上でも,それ以下でもない。舞台は南アフリカで,レンタカー会社(Hertz)の配車ミスから,国家を揺るがす犯罪に巻き込まれた男の逃避行を描く。85分という上映時間からも分かるように,単純明快なコンセプトの無駄のない映画である。カースタント・シーンはすべて車載カメラで撮影したという映像は,臨場感に溢れている。
 ■『マーサ、あるいはマーシー・メイ』:サンダンス映画祭監督賞をはじめ,各国の映画祭で多数の賞を得たインデペンデント系作品で,いかにも映画通好みのテイストに溢れている。あるカルト教団に取り込まれ,その共同生活から脱走し,姉夫婦のもとに身を寄せることになった20歳の女性マーサの様子を描く。監督は29歳の新鋭ショーン・ダーキン。主演女優は22歳のエリザベス・オルセンで,これが映画初出演とは思えぬ繊細で表現力豊かな演技だ。随所で教団内の異様な日々をフラッシュバックさせるが,妄想と現実,過去と現在の区別がつかなくなる様子が理解できる。いや,怖い。こんな教団に一旦取り込まれたら,まともな社会復帰は難しいだろう。そう感じさせる,実にリアルな描写だ。
 ■『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』:益田ミリ原作の漫画「すーちゃん」シリーズの映画化作品で,柴咲コウ,真木よう子,寺島しのぶが,34歳,34歳,39歳の独身女性を演じる。試写室は,圧倒的に女性優勢で,筆者には場違いで居心地が悪かった。『セックス・アンド・ザ・シティ』(08年9月号)ほどのどぎつさはなく,これが日米の文化の差だろうか。等身大の女性像を描き,女性観客を狙った企画は分かるが,映画にするだけの題材だろうか? TV番組で十分だ。これだけの女優を使って,贅沢というか,いや実にもったいない。特に,寺島しのぶがそうだ。それに加えて,ここに登場する男のつまらないことよ。人生は悩み深きものだが,この程度で悩む女も甘いが,男はもっとだらしない!
 ■『野蛮なやつら/SAVAGES』:題名どおり,暴力シーンもセックスシーンも満載のバイオレンス・ムービーである。映画内で自分たちを『明日に向かって撃て!』のようだと言うように,男2人女1人の共同生活者3人組が,巨大麻薬組織の抗争に巻き込まれ,誘拐や脅迫と戦う様を描いている。この設定だけなら立派なB級ムービーなのだが,監督は何と『プラトーン』(86)『ウォール街』(87)『JFK』(91)の社会派の巨匠オリバー・ストーンである。加えて,脇をジョン・トラボルタ,ベニチオ・デル・トロ,サルマ・ハエックらの豪華助演陣が固めている。こうなると,単なる痛快娯楽映画の枠にははまらない。一体,どう収めるのかと思っていたら,案の定,エンディングは一味違っていた。
 ■『愛、アムール』:良質の青春映画は,年輩者が観ても気持ちがいいものだ。若さへの羨望を感じつつも,自分たちの過去を投影し,懐かしむことができる。一方,最近とみに増えている「老い」と「死」を直視する老人映画を,若い観客はどう観ているのだろうか? そもそも,まもなくその年代に達する熟年層や両親の介護を真剣に考える世代以外は,全く関心を示さないのではないか? そんなことを考えながら,カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールに輝く本作を観ていた。監督は名匠ミヒャエル・ハネケで,主演の老夫婦に仏映画界の名優ジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァを配している。冷酷な描写で知られるこの監督の「人生の終末」を描くタッチは余りにもリアルで,これが俳優の演技であることを忘れていた。末期が近づく妻に向かって語りかける夫の思い出話と,それに続く衝撃のシーンが,長い1ショットで撮られている。言葉もなく,誰も皆,ただ黙って見守るしかなかった。
 ■『シュガーマン 奇跡に愛された男』:1970年前後に米国で2枚のLPを出したが,全く売れずに無名で終わったシンガーが,南アフリカ共和国だけで大ヒットし,反アパルトヘイト運動の象徴であったという。彼の名は「ロドリゲス」。カントリー・ミュージック好きの筆者も,この人物は全く知らなかった。舞台でピストル自殺したとも,焼身自殺したとも伝えられる彼の行方を追うドキュメンタリー映画である。前半はミステリータッチの真実探しで,これだけで引き込まれる。後半は娘たちが語る人物像と舞台風景だ。結末のネタバレを禁止されている訳ではないが,知らずに観た方が,より感動が増す。驚くべき人生だと言えるだろう。楽曲の織り交ぜ方,ドキュメンタリーとしての構成も秀逸で,オスカー・ノミネートも当然だと思う。勿論,いまサントラ盤を聞きながら書いているが,このCDが世界的にブレイクしないものかと願っている。
 ■『偽りなき者』:名匠トマス・ヴィンターベアの新作は,デンマーク版『それでもボクはやってない』とでもいうべき無実の男性の受難を描く。親友の娘の小さな嘘から,変質者扱いされてしまった主人公が,周囲の憎悪や敵意の中で,自らの尊厳をかけ,身の潔白を訴えて戦う。本作で,カンヌ国際映画祭主演男優賞等を受賞した主演男優は,マッツ・ミケルセン。『007/カジノ・ロワイヤル』(06)で,ジェームズ・ボンドの敵役を演じていた俳優だが,本作では実直で誠実そのものの父親役だ。世の中年以上の男性は,自分がこの立場に追い込まれたらどうしようかと,感情移入しながら固唾を呑んで見守るに違いない。115分が長く感じられるほどだ。彼を支える息子や友人たちとの父子愛,友情の描き方も素晴らしい。そして,何よりもエンディングのワンシーンが秀逸で,深く印象に残る一作である。
 
   
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