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O plus E誌 2012年10月号掲載
 
 
 
 
『ハンガー・ゲーム』
(ライオンズゲート
/角川映画配給)
 
 
      (C) 2012 LIONS GATE FILMS INC.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [9月28日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー公開予定]   2012年8月2日 角川試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  デザインセンスは悪いが,人気シリーズに育つ期待大  
  楽しみな人気シリーズが登場した。3月公開で北米Box Officeランキングでは,『アバター』以来となる4週連続のトップを飾り,早くも続編が製作され,来年11月の公開予定だという。原作は,スーザン・コリンズ作のヤングアダルト小説で,全3部作の刊行が終わっている。ハードカバー版でスタートし,ペーパーバック版の他にオーディオブックや電子書籍も出版されて,それぞれの売り上げランキングで高順位を占めたという。まさに青年層を意識した営業戦略であり,TwitterやFacebookでの評判も,売り上げに影響しているようだ。
 ただし,先月号で紹介したメジャー系の大作とは,かなり作り方が違う。映画化権を獲得したライオンズゲートは,カナダのバンクーバーにある映画製作・配給会社だが,『ソウ』シリーズの成功でも分かる通り,シリーズ化が得意だが,多少粗製乱造でも,公開までのスピード重視の方針を堅持している。別の意味では,『トワイライト』シリーズにも似ている。ともに,原作は女流作家の著作であり,あまり著名な俳優を起用せず,製作費も低めに抑えている。何よりも,主人公は女性で,同世代の女性観客層を意識した描き方であり,2人の男性から想いを寄せられるというのも同じである。
 現在の文明が崩壊した後,北米に生まれた独裁国家パネムが舞台で,キャピトルと呼ばれる中央都市にそれを囲む12の地区が隷属され,統制されているという設定だ。「ハンガー・ゲーム」とは,国民の関心を引くため,年に一度開催され,12地区のそれぞれから12〜18歳の男女各1名が選ばれ,計24名が最後の1人になるまで殺し合う。このサバイバル・ゲームの一部始終はテレビで生中継され,富裕層の娯楽コンテンツとなっている。日本の観客ならすぐ分かるように,設定は邦画の『バトル・ロワイアル』(00)とそっくりだ。全体主義国家に強要され,選ばれた少年・少女が殺人ゲームを展開するのも,それが青少年の人気作品となったことも酷似している。
 監督は,『カラー・オブ・ハート』(98)のゲイリー・ロス。当欄では『シービスケット』(04年2月号)も紹介したが,所謂売れっ子監督ではない。弓の名手である主人公カットニス役に抜擢されたのは,『ウィンターズ・ボーン』(11年11月号)のジェニファー・ローレンス。病の母親と幼い弟妹の面倒を見つつ,失踪した父親探しの旅に出た,あの健気な少女である。本作でも,妹の身代わりで,殺人ゲームへの参加を申し出る。さほど美人ではないのだが,その健気さから思わず応援したくなるタイプだ。同じ第12地区から選出された青年ピータを演じるのは,『テラビシアにかける橋』(08年1月号) 『センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島』(12年4月号) のジョシュ・ハッチャーソン。本作では,女性主人公に想いを寄せる草食系男子に徹している。
 ヒットが約束されていたにも関わらず,B級映画の作りで,サバイバル・ゲームにもさほどの緊迫感はなく,大スペクタクル・シーンもない。それでいて,多くの支持を得たのは,同世代の若者たちの共感を呼ぶものがあり,病みつきになってしまう物語性があったからだろう。
 以下,当欄のCG/VFXの視点からの評価である。
 ■ CG/VFXシーン『トワイライト』シリーズよりもかなり多く,全編で1,200シーンに及ぶ。それを23週間で終えたというから,やはり粗製乱造にならざるを得ない。担当VFXスタジオは,Hybride, Rising Sun Pictures, Digiscope, Pixomondo, Hammerhead,Clearcut FX, Whiskytree等に混じって,大手のILM, Rhythm & Huesの名も見えたが, いずれも低予算で,品質よりも,納期短縮を要求されたことだろう。
 ■ 最近はレンダリング・ソフトもライブラリ化されて出回り,計算量はPCの台数を増やせば済むから,低予算の影響はデザイン面に表われる。まずは,キャピトルの光景(写真1)で,とても最先端都市には見えない。監視員の白いコスチュームも,先月号の『トータル・.リコール』の敵方兵士に比べたら,野暮の極みだ(写真2)。結末近くで,生き残った男女が訪れる奇妙な建物(写真3)も意味不明のデザインである。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真1 独立国家パネムの首都の光景。未来の最先端都市にしては今イチ冴えない。
 
 
 
写真2 監視員の白装束も野暮ったい
 
 
 
写真3 終盤登場の建築物も,もう少し何とかしてくれ
 
 
   ■ そんな中で,唯一力を入れたと感じられたのは,ゲーム地区を監視・制御する円形の操作卓とホログラム・ディスプレイだ(写真4)。Hybride社の作である。これとて,最近紹介したSF大作のそれと比べると,見劣りしてしまう。かく左様に,デザイン面での手抜きが理由で,当欄での評価を低くした。本作の成功により,今後は大型製作費を投じることができるから,続編での向上・改善を期待したい。簡単なことだ。  
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写真4 唯一許せるのは,競技地区を監視・制御するこのホログラム・ディスプレイと操作卓
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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