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O plus E誌 2011年4月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ザ・ファイター』:実在のボクサーとその家族を描いた物語で,賞獲りレースを賑わしただけあって,なかなかの力作だ。生真面目な主人公をマーク・ウォールバーグ,薬物中毒で元ボクサーの兄をクリスチャン・ベールが演じるというキャスティングには,一瞬逆ではないかと感じた(実年齢でも逆転している)。この意外な配役が奏功して,C・ベールの怪演を引き出し,オスカーへと繋がった。家族,家族の連呼はハリウッド映画の定番だが,破滅型の兄,過保護な母親(メリッサ・レオ)の2人にオスカー受賞の演技で迫られ,かつ7人もの姉妹が居たのでは,主人公ならずとも引けてしまう。その家族をも歓喜の嵐に巻き込むクライマックスでは,思わず隣の女性記者に抱きつかれそうになった(気のせいか?)。こういう兄弟愛,家族愛の描き方もいいものだが,逆の配役で観てみたかったという想いが残る。
 ■『わたしを離さないで』:不思議な映画だ。クローンとして生を受け,臓器提供者として生きることを義務づけられた男女3人の希望や不安を描く。これが近未来を描いたSFでなく,1970年代から90年代を舞台としていることに驚きを感じる。原作は,英国の権威ある文学賞であるブッカー賞の受賞者,日系人作家カズオ・イシグロの同名小説だが,同作もブッカー賞の最終候補作となった純文学作品だ。映画化には不向きと思われる心理描写を,3人の実力派若手俳優(キャリー・マリガン,アンドリュー・ガーフィールド,キーラ・ナイトレイ)が好演し,物悲しい音楽が詩情をかき立てる。それでもやはり,この設定には感情移入できなかった。
 ■『SOMEWHERE』:主人公は,ホテル暮らしで自堕落な生活を送っているハリウッドの映画スター。離婚した妻から,しばらく11歳の娘を預かることになる。父と娘だけの非日常生活の中で,不思議な時間が流れる様を描く。監督はソフィア・コッポラで,父フランシスが製作総指揮,兄ローマンが製作を担当した作品の中で,自らの少女時代の想い出も織り交ぜたという。なるほど,常人には体験できない,セレブゆえの生活だ。現代社会の孤独を描いたという点では,『ロスト・イン・トランスレーション』(03)の続編とも言える。音楽が大きな役割を果たしていたが,とりわけエンドロールで流れる「煙が目にしみる (Smoke Gets in Your Eyes)」に痺れた。サントラ盤が発売されていないのが残念だ。
 ■『4デイズ』:米国内3ヶ所に核爆弾を仕掛けたというイスラム系アメリカ人のテロリスト(マイケル・シーン),その在り処を白状させるため,彼に激しい拷問を加える尋問のスペシャリスト(サミュエル・L・ジャクソン),暴力的な尋問に批判的な女性FBI捜査官(キャリー=アン・モス)。爆発まで残された4日間の中で,この3人の緊迫した心理戦が続く。『ハート・ロッカー』(08)『グリーン・ゾーン』(10)など,中東情勢をバックにした良質サスペンスが続く中で,映画の規模は大きくないものの,緊迫感はいい勝負だ。思い掛けない事態で結末を迎えるが,ラストシーンを見逃さないように!
 ■『ミス・ギャングスター』:ハワイ旅行を夢見ていたオバチャン3人組が,貯めていた小金を銀行強盗に奪われ,それを取り戻すため,自ら銀行強盗となる韓国製のドタバタ喜劇。英題は『Twilight Gangsters』で,平均年齢65歳だから,オバチャンというよりおばあちゃんパワーだ。他の2人は平凡だが,ヨンヒ役のキム・スミの風貌とド迫力が凄い。どなり合うような韓国語がピッタリで,これが仏語なら似合わない。さんざん笑わせておいて,最後にほろりとさせる展開もうまい。何てことない物語なのだが,強く印象に残ったのは,最近この種の娯楽作品が邦画に殆どないためか。
 ■『素晴らしい一日』:これも同じ配給会社による韓国映画。ただし,原作は日本人作家・平安寿子のデビュー作の同名の短編小説だ。無職となった独身女性が,以前付き合っていた男性に借金返済を求め,金策のために丸一日行動を共にする様子を描いている。気が強そうで険悪な様相の女性(チョン・ドヨン)と能天気で自堕落そうな男性(ハ・ジョンウ)の掛け合いが楽しい。為替レートが分かっていないと楽しめないので,数字は1桁減らし,円換算して観た方がいい(実際は,1000ウォン=73円程度)。ソウル市内を巡るロードムービーは,特に韓国が舞台である必要はなく,邦画として撮るなら深津絵里とオダギリ ジョーかなと思いつつ観てしまった。最後に,少し幸せな気分になる映画だ。
 ■『カウントダウンZERO』:『不都合な真実』(06)で「地球環境問題」を取り上げた製作者チームが,今度は「核兵器廃絶問題」をテーマとした長編ドキュメンタリーである。表題は,2008年12月に有識者約100名がパリに集結し,創設した「グローバルゼロ」活動に由来している。その宣言に署名したゴルバチョフ旧ソ連大統領,カーター元米国大統領らのインタビューを中心に,元CIA工作員,核物質取引の闇商人らの証言を織り交ぜて,核兵器管理の杜撰さや一向に進展しない総数削減の実体を浮き彫りにする。真面目なドキュメンタリーであるが,正直なところ退屈で,眠気すら覚えた。世界唯一の被爆国・日本をまともに取り上げないからか,核兵器の脅威や危機が感じられない。これなら,マイケル・ムーア流の突撃取材の方が数倍アピールする。あえて映画館で観る必要はなく,TVの特番で十分な内容だ。
 ■『孫文の義士団』:時代は1906年,辛亥革命前夜の香港が舞台で,香港と中国映画界の合作の意欲作だ。武装蜂起の密談のため香港を訪れる孫文を巡り,暗殺団とボディーガードたちの死闘を描く。孫文自身はほとんど登場しない。まず目をひくのは,100年前の香港市街地を再現したという巨大セットの見事さだ。中国映画の壮大さが生きている。2時間19分の長尺で,前半の展開がもどかしいが,後半1時間の緊迫感が素晴らしい。密談時間の1時間を実時間で展開させ,香港映画ならではのカンフーアクションを堪能させてくれる。13人のスターの個性を活かした演出だが,警察署長を演じるエリック・ツァンが故・谷啓に余りにそっくりなのが気になってしまった。
 ■『キラー・インサイド・ミー』:全く事前知識なしに,いきなりこの映画を観た。主演のイケメン男優は,他作品の脇役で何度か観た覚えがあったが,すぐには思い出せなかった。今回は語り手兼堂々たる主演なので,語りもセリフも多く,その個性的で軽薄な声でベン・アフレックの弟だと分かった。原作はジム・トンプソンの代表的ノワール小説「おれの中の殺し屋」で,1950年代の西テキサスの田舎町が舞台である。保安官助手の好青年が,残虐な殺人鬼と化すサスペンスで,本作はケイシー・アフレックの名を一躍広めてくれるに違いない。兄貴は大根役者だが,『ザ・タウン』(11年2月号)で監督としての才があることを遺憾なく示した。弟は本作でブレイクし,兄よりも好い俳優になると思う。  
   
   
   
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