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O plus E誌 2009年9月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『G.I.ジョー』 :困った映画だ。先々月の『トランスフォーマー/リベンジ』以上の難物で,全く筆者の肌には合わなかった。今年度のラジー賞最有力候補だろう。しっかり入場料を払って映画館で観たのだが,途中で何度も席を立ちたくなった。CG/VFXの利用では,質・量ともに今年度の最高峰に属する。となれば,当欄が何を書くか当てにしている読者も少なくないだろう。止むを得ず,Webページで,長めの短評だけを書いておこう。1980年代の人気アニメの実写映画化で,国際機密部隊G.I.ジョーと悪の組織コブラの激しい攻防を描いている。そこに最新のCG技術と未来の情報機器の描写が登場するとなれば,その分だけでも当欄は高い評価を下すはずなのだが,それを押しのけて余りある醜悪な映画だった。若いゲーム世代には,このタッチを好ましく思う人種もいるのだろうと理解を示しつつも,それ以外の映画ファンには全く勧められない。デジタルドメイン他,有力10数社が担当したCG/VFXは上質で,とりわけエッフェル塔の溶解・倒壊シーンが秀逸であっただけに,悔しい思いすらする。この映画のCG制作に参加したクリエータ達が哀れだ。
 ■『キャデラック・レコード ~音楽でアメリカを変えた人々の物語~』 :舞台は1950年代のシカゴ。ロックンロール誕生前後のレコードビジネス界で一時代を築いた「チェス・レコード」所属アーティストたちの波乱万丈の人生を描いている。あのチャック・ベリーが,このレーベル出身だとは知らなかった。人間模様を描く脚本はしっかりしていて,勿論音楽も満載だ。『Ray』(04)や『ドリームガールズ』(06)に感動した音楽ファンなら,間違いなく気に入るだろう。強いて難を上げれば,創業者レナード・チェスを演じるエイドリアン・ブロディと,グラミー賞受賞の女性歌手エタ・ジェイムズを演じるビヨンセが,実在の人物よりもかなり美男美女すぎることだろうか。
 ■『南極料理人』:南極観測隊に参加した料理人の実話体験エッセイの映画化で,癒し系の人間ドラマに仕立てている。8人の男だけの極寒地の越冬生活は,まるで監獄並みの不自由生活で,観ている方も逃げ出したくなりそうだ。取り立てて冒険もなく,ヒーローも登場しない展開だが,そんな中での楽しみは,大型伊勢エビや極上ローストビーフも飛び出す美味しそうな料理の数々である。空腹時に観ると一層効果的だ。帰りに絶対ラーメン屋に行きたくなる。主演は今売出し中の堺雅人。誰かに似ていると思ったら,飄々とした笑顔が競馬の安藤勝己(アンカツ)騎手にそっくりだった。
 ■『宇宙(そら)へ』:英国BBCが製作したNASA50年の歴史を語るドキュメンタリー作品。ジェミニ計画,アポロ計画からスペースシャトル計画までの貴重な映像が次々と公開される。これまで数々の宇宙探査関連映像を観てきたが,最も優れた作品だ。映像の美しさではIMAX作品には叶わないが,宇宙への夢に懸ける人々の想いを見事に表現している。NASA創設10年でよくぞ人間を月に送り込んだものだと,いま改めて感心する。爆発事故,打上げや帰還の失敗で亡くなった人々への追悼は,過去を振り返ることではなく,宇宙への挑戦を続けることだと誰しもが感じるだろう。
 ■『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』:そのBBCに負けじと,ディズニーが新ブランド「ディズニーネイチャー」を発足させ,年1作のペースで地球・自然・生物をテーマにした長編ドキュメンタリー作品を製作・配給するという。元々ディズニーにとっては伝統ある得意テーマである。その第1作目に選ばれたのは,アフリカ・タンザニア北部のナトロン湖に飛来する150万羽のフラミンゴの生態だ。色鮮やかで壮大で,感激しないはずがない。フラミンゴの雛を狙うハゲコウの醜悪で傲慢な悪役ぶり,逃げ惑う雛のいたいけない様子とその表情……。絵に描いたようなとはこのことで,どんな俳優の名演技も顔負けだ。
 ■『グッド・バッド・ウィアード』:韓国製西部劇で,キムチ・ウエスタンとでも呼ぶのだろうか。カウボーイや保安官は出て来ないが,明らかにマカロニ・ウェスタンの影響を受けている。善玉・悪玉・卑劣漢という表題自体が『続・夕陽のガンマン』(66)の原題のもじりであるし,エンニオ・モリコーネ風の音楽も登場する。日本軍が傀儡統治していた1930年代の満州国を舞台に,原作の金貨探しよりもずっと大掛かりな宝探しをテーマにしている。銃撃戦もVFXもたっぷりで,2人の美男俳優と1人の演技派俳優が折りなす冒険活劇は娯楽大作の要件を備えている。となれば,面白くないはずはないのだが,どうも乗れなかった。単に筆者のテイストに合わなかっただけで,気に入る人もいるだろう。
 ■『サブウェイ123 激突』:『サブウェイ・パニック』(74)のリメイク作で,ウォルター・マッソーとロバート・ショウが演じた地下鉄職員とハイジャック犯のリーダーを,デンゼル・ワシントンとジョン・トラボルタが演じる。前作はパニック映画の佳作だが,時代が違えば映画のテンポも異なるので単純比較はできない。そう思いながらも,冒頭からの騒々しさには少し戸惑った。それでも中盤以降の盛り上げの上手さは,さすがトニー・スコットだと思わせる。筆者には旧作の方が性に合うが,若いTV世代にはこの脂っこさの方が好ましいのだろう。クールさと狂気を併せもったJ・トラボルタの犯人ぶりもさすがだ。もう少し地下鉄という密室空間を利用した展開が欲しかったが,その点では『交渉人 真下正義』(05)の方が面白かった。
 ■『孫文 −100年先を見た男−』:辛亥革命前夜の1910年,中華民国建国の祖・孫文が亡命先のペナン(現マレーシア)で過ごした日々を描く。中国製の堂々たる歴史ドラマは,生涯のほんの一時期を切り出してあるだけなのに,時代背景や孫文の革命への情熱を見事に物語っている。幾分美化された描写であることを割り引いても,人間的魅力に溢れている。美男美女の正統派の凛々しい演技は観ていて気持ちがいい。主演のウィンストン・チャオ(趙文宣)は,『宗家の三姉妹』(97)でも孫文を演じていた俳優だ。
 ■『幸せはシャンソニア劇場から』:佳作『コーラス』(04)のスタッフとキャストが再結集して創ったフランス映画。『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)のシャンソン版とも言えるし,『ムーラン・ルージュ』(01)を意識しているなとも感じる。街並みやパリ祭の様子は,まるで絵画のようだ。舞台は戦争の影が忍び寄る1936年のパリだが,1960年代に創られた仏映画の趣きもある。製作者ジャック・ペランが美男俳優として活躍した仏映画の絶頂期である。主人公の息子ジョジョ役は,『コーラス』で愛らしいペピノを演じていたマクサンス・ペラン。現在14歳だが,父親似の端正なイケメンに成長してきた。あと10年もすれば,彼の主演作が次々と製作されるのだろうか。今から楽しみだ。
 ■『ココ・アヴァン・シャネル』:先月に続きファッション・デザイナー,ココ・シャネルを描いた伝記映画の2本目である。まず,フランス語というだけで嬉しくなる。『アメリ』(01)のオドレイ・トトゥが演じる意志の強い女性像も好感がもて,これはハマリ役だと感じた。ところが,ほとんど同じ話を短期間に別の俳優の組み合わせで観ても,一長一短だなとしか感じられない。いや,話そのものがさほど面白くないのだ。その上,この映画の方が対象期間が短く,デザイナーとしてのシャネルの活躍がほとんど描かれずに終わってしまう。これじゃ,シャーリー・マクレーンが晩年のココを貫録で演じた先月の映画の方が味わいがあった。
 ■『TAJOMARU』:9月公開の邦画時代劇4本のうち,未見だった残りの1本である。あまり期待してなかったのだが,娯楽映画としてはこれが一番面白かった。黒澤明の名作『羅生門』(50)と同様,芥川龍之介の短編「薮の中」が原作であることを強調しているが,これは誇大広告だ。同じ事件を別の視点から眺める面白さもなければ,時代設定もまるで違う。『羅生門』で三船敏郎が演じた盗賊・多襄丸を主役に据えたに過ぎない。それがアルファベット表記であることから分かるように,現代風アレンジの時代劇で,時代考証はないに等しい。ところが,まさに今が旬のイケメン男優・小栗旬の魅力を引き出すことには成功している。小栗旬の武者姿も決まっていて,松方弘樹との新旧多襄丸対決の剣戟シーンは見応えがあった。そういえば,NHK大河ドラマ『天地人』では,この2人は石田三成と徳川家康で関ヶ原の戦いを迎える。将軍・足利義政役の萩原健一は貫録の怪演,近藤正臣や本田博太郎などのベテランも好い味を出している。監督はミュージック・ビデオ出身の中野裕之。この監督は,意外と本格的な演出が得意で,大作を撮らせたらうまいと思う。
   
  (上記のうち,『G.I.ジョー』と『TAJOMARU』はO plus E誌には非掲載です)  
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