この夏最大の話題作だそうである。米国では独立記念日休暇に公開され,爆発的なヒットとなって,すぐに3作目までのシリーズ化が決定したという。 『アルマゲドン』(98)のマイケル・ベイが監督,『宇宙戦争』(05年8月号)のスティーブン・スピルバーグが製作総指揮という謳い文句であるから,宇宙からの侵略で地球が危機に見舞われる話だと想像できる。この地球外からの到来者は,自由自在に変身(トランスフォーム)可能な金属生命体(写真1)なので「トランスフォーマー」と言うらしい。ならば,CGで描くのにはうってつけの題材だ。『ターミネーター2』(91)から既に17年,ILMとデジタル・ドメインが担当というから,迫力のある変身シーンを見せてくれることが期待できる。 それでも何がそんな話題を呼ぶのか不思議だったが,「トランスフォーマーとは,株式会社タカラ(現タカラトミー)より発売されている変形ロボット玩具シリーズの総称。もともと国内で販売されていた『ダイアクロン』『ミクロマン』シリーズをアメリカのハズブロ社が他の変形ロボット玩具と一緒に『TRANSFORMERS』として販売したものが米国内で大ヒット,それを日本に逆輸入したものが『トランスフォーマー』シリーズである。(中略)マーベル・コミックによって漫画やアニメも作成されている(Wikipediaより引用)」だそうである。 なるほど,玩具,コミック,アニメのマルチソースで人気を博しているらしいが,中高年世代には理解不能な世界だ。ただし,今年還暦を迎える御大S・スピルバーグ自身が,自分でコミックを読み,玩具を買って熱中したというから,アメリカでは広い年齢層に受け入れられているようだ。 この映画は,アメリカのとある田舎町に住む16歳の少年サムを中心に物語が展開する。ただし,1897年に南極である探検家が発見したものと,2003年に火星探査機ビーグル2号が遭遇した事故に秘密が隠されていた。そして現代,地球上のいたるところで,小は携帯電話,デジカメから,大はクルマ,ヘリコプター,ジェット機まで,多種多様なマシーンが奇妙なロボットへとトランスフォームし,人類への攻撃を開始した……(写真2)。 サム役は,『インディ・ジョーンズ4』への出演が決まっている若手の有望株シャイア・ラブーフが演じる。ヒロインのミーガン・フォックスを含む,男女4人はこれからのスター達だ。助演陣はジョン・ヴォイトやジョン・タトゥーロといった演技派だが,そもそも出演者をゆっくり確認する間もなく,不思議な現象に巻き込まれ,何が目的か,どう推移するのか分からないままに物語がどんどん展開する。主人公の不安感をそのまま観客も共有するという感じで,こうしたジェットコースター・ムービーを撮らせれば,この監督は上手い。 2万点以上のパーツからなるメカが,ものすごいスピードで変形・変身する様は,期待以上だった。自動車を丸ごとCADで設計し,部品管理もコンピュータできるご時勢だから,このCGのクオリティに驚く必要はないが,変身の素早さが実にカッコいい。カシャ,カシャという機械音も耳に心地よい。まさに,新時代感覚のアクション映像だ。かつて『燃えよドラゴン』(73)でブルース・リーのカンフーに魅せられ,『ランボー』シリーズの重量級アクションに爽快感を覚えたファンならば,この映画も気に入るに違いない。機動戦士ガンダムに熱烈な思い入れを持つ世代なら,この変幻自在なロボットたちのデザインにも共感できるはずだ。 人類との共存をめざす「オートボッツ」たちと地球を侵略する「ディセプティコンズ」たちの正邪両軍の性格が明らかになったところで,話が俄然分かりやすくなる。後半は疾風怒濤の勢いで物語と戦いが展開する(写真3)。いや,凄まじい。これぞ映画だ。それにしても,最後の市街戦をここまで長くする必要はない。半分にして,決め技をきちんと披露して悪漢ロボットたちを退治した方が,痛快感も満足度も高かったはずだ。 (少しネタバレになるが)少年とロボットの間に友情めいたものが芽生える話は,かなりクサイ。ただし,この監督に人情の機微を描けというのが無理なことは,『アイランド』(05年8月号)で証明済だったはずだ。途中何度も爽快感を覚えながら,観賞後何かむなしく感じるのは筆者だけではないだろう。シリーズ化するなら,もう一工夫欲しいところだ。