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O plus E誌 2012年9月号掲載
 
 
 
 
『トータル・リコール』
(コロンビア映画)
 
 
     

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [8月10日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2012年8月3日 松竹試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  未来社会の描写は秀逸だが,終盤大味なのが残念  
  本号が発行される頃には,本作は公開後2週間も経っている。当初Webページでの紹介だけに留めるつもりが,未来社会のデザインゆえに,当欄で語らざるを得なくなってしまった。言うまでもなく,1990年公開で大ヒットした同名映画のリメイク作品である。前作はアーノルド・シュワルツェネッガー主演のSF映画で,あの『ターミネーター2』(91)の前年の公開,アカデミー賞特殊視覚効果賞を2年連続で受賞したことも印象深かった。フィリップ・K・ディックの短編小説「追憶売ります」が原作で,未来社会では記憶を植え替えられる装置が開発されていることがテーマとなっていた。同作家の短編は,後に『クローン』(01)『マイノリティ・リポート』(02)『ペイチェック』(03)から昨年の『アジャストメント』(11)まで,数多く映画化されている。これ以前には長編を映画化した『ブレードランナー』(84)があっただけで,この前作の成功が,彼の短編に注目が集まる契機となったことは間違いない。
 監督は,ポール・バーホーベン。『ロボコップ』(87)『氷の微笑』(92)『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)など,ヒットメーカーで,当時絶頂期にあったと言える。シュワちゃんの妻役を,『氷の微笑』でブレイクする前のシャロン・ストーンが演じたことでも知られている。なぜここまで前作に拘るかと言えば,本作の比較対象は,他の映画でなく,アカデミー賞特別業績賞(視覚効果)を受賞した前作と思われるからだ。あえてリメイクするだけのものはあるか,この20年余のデジタルVFX技術の進歩が如実に表われているかが,当欄にとっての最大の関心事だからである。
 本作の監督は,『ダイ・ハード4.0』(07)のレン・ワイズマン。主人公ダグラス・クエイド役には,出演作が相次ぐコリン・ファレル。体格では前任者に負けるが,結構アクションもこなす。お相手女優は,妻ローリーにケイト・ベッキンセール,夢で出会う女性メリーナにジェシカ・ビールのダブル・ヒロインだ。即ち,登場人物の名前も人間関係も前作と同じであり,悪夢に悩まされたクエイド(実は,ハウザー)が訪れる先が「リコール社」という設定も踏襲している。
 そこまでは同じだが,SFの目玉である時代や舞台はかなり変えている。前作のウリであった火星は全く登場しない。時代は21世紀末,地球上の大部分は居住不可能になり,富裕層が暮らす「ブリテン連邦(UFB)」とその支配下で豪州地区にある貧民たちの「コロニー」に二極化されているという設定だ。この両地区間は,特殊高速輸送装置フォールで15分間で移動できる。
 以下,VFXとアクションを中心とした評価である。
 ■ 冒頭からのノンストップ・アクションで,息をつく暇もない。最近の流行だが,後で振り返ると,時代設定や記憶を入れ替える意味など,もう少しじっくり描き込んだ方が良かったかと思う。最初から,両都市の描写やフォールの描き方には目を惹くものがあり,デザイン的にもかなりの投資をしていることが伺えた(ただし,その殆どの画像が提供されないのが残念だ)。
 ■ 本作の試写を観る前に,前作のDVDを観て予習(復習?)して臨んだ。斬新だったはずのビジュアル表現は,相当古めかしく,今見ると滑稽にすら思えた。前作と比べるべくもなく,本作の未来都市の交通手段,情報機器類や画面デザインは優れている。今月号の上述の2作よりも数段上で,『マイノリティ・リポート』を相当意識しているようにも思える。まず,前半のカーチェイスに登場するクルマ(写真1)は空中浮揚車である。何層にも重なる高速道路の上下移動は可能だが,全く自由に空中移動できる訳ではなく,道路から少し浮いて走るという設定がリアリティを感じさせる。
 
 
 
 
 
 
写真1 カーアクションに登場するのは,実は空中浮揚車
 
 
 

 ■ 立体格子状のグリッド空間を移動するエレベータのアイディアも秀逸だ。なぜ3D作品にしなかったのかが不思議である。最も注目したのは,手に埋め込まれた携帯電話であり,ガラス面に押しつけると,そこに通話相手が表示されるという描写が登場する(写真2)。50年後くらいには実現しているかもしれない。その斬新な表現の一方で,リコール社の装置は前作のイメージ(表題欄の画像)を踏襲し,敵方の兵士を他作品でお馴染みの白い制服姿(写真3)にした遊び心が嬉しい。

 
 
写真2 手をつけたガラス面がTV電話の画面になる
 
 
 
写真3 敵方兵士は,定番の白い制服
 
 
   ■ CG/VFX多用作であり,アクション・シーンもたっぷりあるが,この映画の最大の欠点は終盤のクライマックス部分だ。前半から飛ばし過ぎたゆえに,終盤はそれ以上にスケールでという方程式通りの展開である。もはやアイディアもデザインも尽きていて,大味で退屈なだけだった。こんな大仰なバトルを求める観客は何人いるのだろう? 大衆向けの娯楽映画とはいえ,定番の仕上げという安易な考えは捨てた方がいい。そうでなければ,新感覚のSF映画の面白さは出せないと思う。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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