head
title home 略歴 表彰 学協会等委員会歴 主要編著書 論文・解説 コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2005年6月号掲載
 
 
キングダム・オブ・ヘブン』
(20世紀フォックス映画 )
      TM and (C) 2005 Fox and its related entities
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月14日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2005年4月27日 リサイタル・ホール(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  さすがリドリー・スコット,この緻密さと迫力  
 

 またまた歴史スペクタクル大作の登場だ。結論を先に言えば,『キング・アーサー』(04年8月号)や『アレキサンダー』(05年2月号)よりはずっと出来が良い。俳優個々の魅力では『トロイ』(04年6月号)が少し上だが,トータルではこちらの方が優れている。さすが製作費1億5千万ドル(約160億円)もかけただけのことはあると感じるシーンも多々登場する。
 北米 Box Office成績No.1のスタートは切ったが,興収面ではさほど芳しくない。映画好きのアメリカ人もこれだけ史劇が続くと少し食傷気味なのだろうか。今年の夏シーズンのSF大作オンパレードの後なら,この重厚なドラマも却って新鮮に感じたことだろう。作品は悪くないので,製作・配給時期のミスというべきだろうか。
 時代は 1184年。聖地エルサレムを巡る争いがテーマだ。ギリシャ,ローマの時代に比べると,12世紀の中近東はぐっと馴染が薄い。第3次十字軍直前の時代だと言われても,高校時代の世界史の授業で聞いたことはあるが,時代背景も宗教的意義も分かっていなかった日本人が大半だろう。その意味では,この映画で一気にこの時代の宗教戦争の歴史勉強ができてしまう。同じ聖地を,キリスト教徒とイスラム教徒で争っている上に,キリスト教側での内紛,主導権争いも複雑にからむ。史実に基づくドキュメンタリーではないが,あっておかしくない物語を,しっかりした時代考証の上でリアリティ溢れる映像に仕上げている。
 監督は鬼才リドリー・スコット。なるほど『グラディエーター』(00年5月号)の重厚さ,『ブラックホーク・ダウン』(02年3月号)の戦争シーンのリアリズムを合わせたような映画だ。西側の視点に立ちながら,サラセン軍を決して悪者に描いていないのは,『ブラックホーク・ダウン』に通じるものがある。これはある種の反戦映画なのか,アメリカの中東政策のまずさを皮肉った作品なのかとも思わせる。
 フランスの鍛冶屋から聖地を守る騎士として赴く主人公バリアンを演じるのは,『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでブレイクしたオーランド・ブルー厶。『パイレーツ・オブ・カリビアン』(03年9月号)『トロイ』では,何やら甘い2枚目役だったが,この映画では堂々たる一枚看板の立役者だ。この男っぽさと演技は,再ブレイクと言って過言ではない。ヒロインのエヴァ・グリーン,助演のリーアム・ニーソン,ジェレミー・アイアンズらも好演なのだが,これはR・スコットが撮ったO・ブルームの映画だ。おっともう1人忘れていた。芸達者エドワード・ノートンはどこにいたのかと思ったら,癩を患ってずっと仮面を付けたまま登場するボードワン4世役だった。これじゃ,目立つわけがない。
 これだけの大作だと,衣裳,武器などが完璧なまでに見事なのは言うまでもない。美術面での最大の見どころは, 12世紀の城塞都市エルサレムの再現だろう(写真1)。いかに精巧なセットとはいえ,中で100万人が住む町に見せるには,CGの力が必要だ。大型セット,部分的には模型,背景はディジタルマット画の複雑な合成が,シーン毎に巧みに使われているのは言うまでもない。『グラディエーター』の頃と比べると,技術の進歩,映像表現力向上の素晴らしさが実感できる。
 R・スコット作品と言えば,SFX担当はニール・コーボルトだ。VFX主担当はMoving Picture Co.,副担当にDouble Negative,Framestore CFCの英国連合だ。毎度褒めているように,ILMを別格とすれば,最近のこの英国トリオの充実ぶりは目を見張るものがある。サラディン将軍(ハッサン・マスード)率いるサラセンの大軍が,バリアンが守る少数の兵と守るエルサレムを包囲する戦いは圧巻だ。特に,攻撃の火が飛び交う夜の襲撃は,美しく魅惑的だ(写真2)。シチュエーション的にはアラモ砦の戦いに似ているが,スケールはその比ではない。2,000人のエキストラを20万人の兵に見せ,300ヤードの城壁を1マイルの長さに見せるのにVFXが効果的に使われている。

 
     
 

写真1 再現された12世紀の城壁都市エルサレム

  写真2 夜の戦闘と火玉の敵襲はもちろんVFXの出番  
 
 
TM and (c)2005 Fox and its related entities. All rights reserved.
 
     
   この映画後半の壮大な戦いは,言うまでもなく『ロード…』シリーズの影響を受けているが,それを超える技術の進歩を十分に感じられる。何よりも,この映画で戦っているのは。オークやウルク =ハイのような化け物たちではない。生身の人間同士が戦っていると思わせるだけのリアリティを出せている。さすが,リドリー・スコットとうなる緻密さと迫力が全編にみなぎっている。  
          
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br