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O plus E誌 2010年3月号掲載
 
 
 
第9地区』
(ワーナー・ブラザース
映画&ギャガ共同配給)
 
 
      (C) 2009 District9 Ltd.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [4月10日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2010年2月4日 GAGA試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  新しい才能を感じる異色のSFムービー  
   公開までまだ1ヶ月以上あるので,来月号でも良かったのだが,今月号のトップで語りたかった映画である。気が早いのではなく,待ちに待った作品だったからだ。北米公開は昨年の8月14日。公開週にBox Office成績No.1で,米国在住の友人からも絶賛の声が届いていた。作品内容は斬新,CG/VFXもハイレベルとのことだった。エイリアンものらしいが,何と作品の舞台は,南アフリカ共和国のヨハネスブルグ。監督・脚本は全く聞いたこともないニール・ブロムカンプなる同地出身の若手で,まだ30歳(公開時)だという。そんな若手がどうしてCG大作を作り得たのか不思議だったが,製作が『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンだと知って得心した。後ろにWeta Digitalがついているなら,CGでエイリアンを描くことなど朝飯前だろう。
 ネット上のスチル写真や海外での予告編を観る限り,まるで『インディペンスディ』+『エイリアン』+『トランスフォーマー』である。そんなテーマで絶賛を浴びる作品とは,よほど脚本がしっかりしているのだろう。待ち遠しかったが,一向に日本公開の気配がない。米国ではコロンビア映画配給だったが,ソニー・ピクチャーズの正月映画予定にも入っていない。2ch上は「どこかが買い付けて,早く公開しろ」の大合唱で,国際線機内で観たと自慢げに語る書き込みも登場した。そして,ようやくワーナーとギャガの共同配給で陽の目を見ることになったのは,素直に嬉しかった。最近,ギャガは『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(10年2月号)『コララインとボタンの魔女 3D』(同)など,本邦公開が危ぶまれた作品をしっかり配給してくれる。称賛するに足る大ファインプレーだ。
 そのご褒美だろうか,本作品がアカデミー賞の4部門(作品賞,脚色賞,編集賞,視覚効果賞)にノミネートの報が飛び込んできた。候補数が今年から倍増したとはいえ,作品賞ノミネートは快挙である。『アバター』(10年2月号)『スター・トレック』(09年6月号)とともに,激戦の視覚効果賞候補の3作品に入ったのも驚いた。あの『2012』(09年12月号)より上と評価されているわけだ。こりゃ,目を凝らして観るしかない。
 果たせるかな,期待通りの力作であった。予備知識なしにいきなり観たら,もっと衝撃だっただろう。スチル写真は既視感に溢れていたが,本物はこれまでのどの作品にもない感覚だった。物語の設定,テンポの良さ,ドキュメンタリー風の仕上げが斬新だ。結末もハリウッド大作にはない味があり,新しい才能を感じる。
 物語は,異星から大きな宇宙船(写真1)がヨハネスブルグ上空に到来するところから始まる。乗っていたエイリアンたちは残虐な侵略者ではなく,極貧の難民だったというのがミソだ。彼らは同国で最下層の住民扱いを受け,「第9地区」なる難民キャンプに封じ込められる。黒人層が彼らに差別的発言をする下りが笑いを誘い,痛烈な社会風刺を含んでいる。スラム化した同地区の描写が凄まじい。主人公は,同地区の管理会社の現場責任者のヴィカス(シャルト・コプリー)で,彼が謎のウィルスに感染し,追われる立場となった中盤以降は1級のアクション・ムービー,チェイス・ムービーと化す。
 
   
 
 
 
写真1 ヨハネスブルグの上空に静止した巨大宇宙船。20年後にようやく動き出した。
 
 
 
   CG/VFXにはWeta Digitalの他に,カナダのImage Engine,The Embassyの2社が参加している。見どころは,まず「エビ(prawn)」と呼ばれる異星人のデザインだろう(写真2)。いかにもエイリアンだが,外観は甲殻類らしい装飾をもたせた上で,地球人に似た立ち姿といかにもエビという動きを与えている。大半はCGにMoCapデータを与えた描写だろうが,着ぐるみや人形と思しきシーンも多々あった。異星人の重要人物クリストファー・ジョンソンは無名俳優が演じているが,彼の挙動や表情は,なぜか『ダイ・ハード3』(95)のサミュエル・L・ジャクソンを思い出してしまった。    
   
 
 
 
写真2 これが「エビ」と呼ばれる異星人。顔や腕は甲殻類らしく,動きはもっとエビに似ている。
 
   
   このエビたちが使う武器の描写が素晴らしい。操作方法やその威力の描写がユニークで,出色の出来映えだ。終盤ヴィカスが搭乗して操縦するロボットは,The Embassy社の担当だ。外観(写真3)はトランスフォーマーに似ているが,操縦画面(写真4)はSF映画らしい未来感覚に溢れている。他でVFXの威力を感じたのは,難民キャンプの描写である。アカデミー賞では,美術賞候補になってもいいくらいだ。オスカー・レースでは,大半の部門で『アバター』に行く手を阻まれるだろうが,何か1つは取らせたい作品だ。  
   
 
写真3 見かけはまるでトランスフォーマー
 
   
 
 
 
写真4 操縦者の眼前に現れるハイテク操作画面
(C) 2009 District9 Ltd. All Rights Reserved.
 
   
  今年のアカデミー賞の予想  
   作品賞候補10作品中,まだ7本しか観ていないが,前評判通り,作品賞も監督賞も『アバター』と『ハート・ロッカー』の激突だろう。J・キャメロン監督は既に『タイタニック』(97)でオスカーを得ているので,元夫人のキャスリン・ビグロー監督がやや優勢だろうか。この2作品が,作品賞と監督賞に分かれる可能性も大だ。
 作品賞の大穴で『カールじいさんの空飛ぶ家』も考えられるが,これに落ちても,長編アニメ賞受賞は堅いところだ。筆者が好きな作品は『マイレージ,マイライフ』で,(無理だろうが)これに監督賞を取らせたい。
 本欄注目の視覚効果賞は,今年は『アバター』以外には考えられない。『第9地区』にとっては不運な年に当たったが,同じWeta Digitalだから仕方ないか。 
 
   
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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