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O plus E誌 2008年2月号掲載
 
 
 
エリザベス:ゴールデン・エイジ』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
 
      (C)2007 Universal Studios  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月16日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年12月4日 東宝シネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  C・ブランシェットの神々しい姿は,まさにハマリ役  
 

 特に好きでもないのに,出演作品をよく観てしまう俳優がいる。男優ならニコラス・ケイジ,デンゼル・ワシントン,女優ならはケイト・ブランシェットが,それに当たる。 彼女の場合,多くの製作者・監督たちに好かれているのか,主演級にしては出演本数が多い。当欄に取り上げただけでも,『リプリー』(99)『ロード・オブ・ザ・リング三部作』(01-03)『ライフ・アクアティック』(04)『アビエイター』(04)『バベル』(06)『さらばベルリン』(06)『あるスキャンダルの覚書き』(06)の9本に上る(この他に,数本は観ている)。今年は『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(6月公開)が控えているから,これは楽しみだ。
 さて,本作品は,彼女の出世作となった『エリザベス』(98)の全うな続編である。大英帝国の礎を築いたエリザベス1世を描き,アカデミー賞7部門にノミネートされた前作と同様,シェカール・カプール監督がメガホンをとり,脚本は,前作のマイケル・ハーストに『グラディエーター』(00年7月号)のウィリアム・ニコルソンが加わって共同執筆している。撮影監督,編集,衣装デザイン,メイクアップ&ヘアデザイン等の主要スタッフも,同じメンバーが参加している。
 前作は,イングランド国王ヘンリー8世を父に持ちながらも,私生児の烙印を押されたエリザベスが,25歳で女王の地位につき,政敵の陰謀をくぐり抜けて大きな権力を手にするまでを描いた歴史大作,政治サスペンス・ドラマであった。この役を演じた時のC・ブランシェットは28歳であったが,前半まだ初々しさを残しながらも,映画の最後には威厳すら感じさせる好演だった。
 その後も内外の敵と戦い,「国家との結婚」を誓って君臨する「黄金時代」を描いた本作に再登場する彼女の姿は,まさにハマリ役で,気品には磨きがかかり,風格や神々しさも備わっていた(写真1)。この間の9年の歳月は,多くの出演作に恵まれ,オスカー女優の仲間入りを果たし,ハリウッドのトップ・スターの地位に上り詰めた女優としての「絶頂期」にも当たっている。この2作品で,映画ファンの間では「エリザベス1世=ケイト・ブランシェット」というイメージが定着することは必至だ。
 他の出演者では,前作に引き続きジェフリー・ラッシュが腹心の宰相ウォルシンガム役で再登場する。新大陸の探検家で,エリザベスの寵臣となるウォーター・ローリーを,『キング・アーサー』(04年8月号)『トゥモロー・ワールド』(06年12月号)のクライヴ・オーウェンが演じる。他にも英国の渋い俳優陣が多数登場するが,一際目を惹いたのは,侍女のベス役を演じるアビー・コーニッシュの輝きだった。C・ブランシェット同様,オーストラリア出身の新進気鋭の人気女優で,『プロヴァンスの贈りもの』(07年8月号)にも出演していたが,この映画で一躍ブレイクすることだろう。
 この映画はいい意味での続編らしく,前作の雰囲気を踏襲しつつ,衣装やセットの豪華絢爛の歴史絵巻ぶりもグレードアップしている(写真2)。英国史に詳しくなくても,歴史考証も完璧なのだろうと思わせてくれる。その一方で,エリザベスが,暗殺の危機,メアリーの処刑などの試練を乗り越えつつ,女性としての心の葛藤に悩む様子は,まるでシェークスピア史劇の趣きだ。そうだ,これは英国流「その時歴史は動いた」であり,歴史教科書の副読本なのである。日本人なら誰でも織田信長や豊臣秀吉の偉業を知っているように,欧州人もその末裔である米国人も,この映画で歴史の1コマを垣間見るのだろう。
 さて,本題のCG/VFXはと言えば,前作では屋内シーンが大半で,VFXは最低限であったが,本作では16世紀の風景を描くのに効果的に使われている。まず,予告編にも登場する大群衆を前にしたエリザベスのシーンは,すぐにデジタル技術で埋め尽くした群衆だと分かるだろう。次に,古い城や夜のテムズ川の光景等のインビジブル・ショットで,これはなかなか好い出来だ(写真3)。自然過ぎて一般観客は気にも留めないだろうが。
 そして最大の使いどころは,スペインの無敵艦隊を倒したアルマダの海戦シーンである。実物大の船の一部を利用したショットも見受けられるが,海原を疾走できる帆船はなく,ワイドショットでの船はすべてCG製のようだ(写真4)。無敵艦隊は100隻以上だから,かなりのシーンはPreVizで船の配置や動きをシミュレーションしたと思われる。帆船のモデリングや光と陰影の表現,燃える船や煙の描写にも卒はない。VFX担当は,この映画もまたMoving Picture Co.で,同社の経験と実力からすれば,当然至極な出来映えである。
 歴史の一大転機であるこの海戦をもっとじっくり描いて欲しかったのだが,意外と淡泊で,あっという間に終わってしまった。これは監督の好みだろうか,それとも製作費の制約ゆえだろうか。ちと残念だ。

 
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写真1 威厳に満ちたこの甲冑姿,確か『茶々』にも似たシーンが
  写真2 衣裳の絢爛さは前作からグレードアップ
 
   
 
写真3 夜のテムズ川の光景。なかなか好い出来だ。 
 
   
 
 
 
写真4 実物の帆船はなく,すべてCGで描いた
(C)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
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