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O plus E誌 2008年2月号掲載
 
 
 
スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
(ワーナー・ブラザース映画
&ドリームワークス映画)
 
      (C)2007 Warner Bros. Ent. Inc. and DreamWorks LLC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [1月19日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2007年12月21日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  バートン・シェフの腕が冴える極上のエスニック料理  
 

 2008年の最初に紹介するのは,ティム・バートン監督の最新作である。となると,主演は予想通り,人気沸騰中ジョニー・デップだ。これで6度目の起用である。とかく作風を変え,色々な俳優を使いたがる監督が多い中で,お気に入りの主演男優を使い続けるというのは,余程相性がいいのだろう。毒のある,ひねった作品が得意のこの監督には,イケメンでありながらヤクザな役が似合うこの男優以外に適役がいないようだ。
 舞台は19世紀ロンドンで,無実の罪で投獄され,妻も娘も奪われた理髪師が復讐を誓う話だという。待てよ,ジョニー・デップが出演した,同じ時代設定の映画があったな。「切り裂きジャック事件」を追う警部役の『フロム・ヘル』(02年1月号)がそうだった。バートン監督作品で,18世紀のニューヨーク郊外の連続殺人事件を追う調査官役の『スリーピー・ホロウ』(00年4月号)と役柄が似ていたことも覚えている。両作品では若く凛々しい探偵役だったが,今回は「悪魔の理髪師」だ。鬼才T・バートンも,かつての毒が薄まっているとの評判だが,鬼気迫る形相のメイクでカミソリを振り回す予告編を見れば,今回はどうみても猟奇殺人ものだと想像できる(写真1)。ならば,まんまバートン作品じゃないか。これは期待できるなと胸が踊る。
 過去に何度か映画や舞台で取り上げられた伝説の殺人鬼が主人公で,ブロードウェイの巨匠スティーヴン・ソンドハイムのトニー賞受賞のミュージカルを映画化しているというから,何と,ジョニー・デップも歌うらしい。ますます見もの,聴きものだ。「理髪師とパイ屋の話」として知られ,「人肉パイ」が出てくるという。そりゃ,ますますバートン・ワールドだ。
 このパイ屋の女主人ミセス・ラベットを演じる相手役は,これまた個性派女優ヘレナ・ボナム=カーターだ。日本で言えば,若き日の樹木希林,研ナオコといったところだろうか。『チャーリーとチョコレート工場』(05年9月号)『ティム・バートンのコープス ブライド』(同11月号)でもジョニー・デップと共に起用されていたし,それ以前にも『猿の惑星』(01年8月号)『ビッグ・フィッシュ』(04年5月号)に出演していたから,彼女も監督のかなりのお気に入りなのだろう。それもそのはず,現在はバートン夫人だった。入籍はしていないらしいが,既に2児を設けているという。
 そんな気の合うトリオが介した映画だけに,期待通り,いや期待以上の作品だった。まず,いつものようにオープニングに美的センスの良さを感じる。いきなり19世紀ロンドンのCG風景から,カメラを引いて始まる。リアリズムよりは,小粋な風景画の趣だ。さすが,元ディズニーのアニメーターである。タワーブリッジなどは上々の出来で,あちこちの場面で登場するが,そのスチルが提供されないのが残念だ。
 物語もワクワクする展開だ。原作ミュージカルの骨格がしっかりしていることもあるのだろう。鬼才バートンも,実に語り口が上手くなった。ミュージカルを見事にバートン風に料理している。上質のエスニック料理を味わうかのようだ。もっとも本人は定番料理のつもりなのだろうが,口当たりも味付けも極上だ。
 舞台劇が元で登場人物も多くないが,理髪師の妻に横恋慕し,彼女と娘を奪った敵役ターピン判事は,英国の舞台俳優アラン・リックマンが演じる。顔を見れば,「ハリー・ポッター」シリーズのスネイプ先生だとすぐ分かるだろう。なかなかの好演だ。この他に,恋に落ちる若い男女も重要な役柄だが,こちらはまずまずの演技と存在感だ。あえて語るほどではない。
 さて,VFXシーンだが,全体で約300カット。担当はこれまたバートン作品にお馴染のMoving Picture Co.である。大半は,前述のダークでリリックなロンドンの街を描くのに費やされている。空中からの俯瞰ショットは勿論,セット内撮影の遠景にも味のある映像が観られる。写真2のような背景の建物も,写真3の窓の外にさりげなく出てくる風景もデジタルVFXの産物だ。今やロンドン有数のVFXスタジオだから,自分の街の描写にかけて抜かりはない。
 その他,ゴキブリやネズミもCGだが,飛び散る血飛沫や燃える人間のシーンもVFX加工しているだろう。若い女性ファンにはジョニー・デップの歌声は待望だろうが,後半は,彼女らにはちと酷なシーンの連続だ。でも,面白い。そこは目をつぶってでも観るべきだ。    

 
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写真1 このメイク,この狂気,いかにもバートン流 
 
   
 
写真2 背景はデジタル合成した19世紀の建造物   写真3 こちらは理髪室の窓にCGで町を描いた
 
 
(C)2007 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks LLC. All Rights Reserved.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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