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O plus E誌 2008年2月号掲載
 
 
 
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ウォーター・ホース』
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
      (C)2007 Revolution Studios Distribution Company, LLC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月1日よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年11月25日 新宿ミラノ座[東京シネシティ・フェスティバル・クロージング上映]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  Weta Digital製のCG海獣の出来映えだけが楽しみ  
 

 未来や宇宙からの到来者,幽霊や妖精,言葉を話す動物たち等,常識ある大人が信じない存在を子供たちは素直に受け入れ,心を通わせる物語は,ファミリー映画の定番の1つである。『E.T.』(82)は言うまでもなく,最近では『シャーロットのおくりもの』(07年1月号)『アーサーとミニモイの不思議の国』(同9月号),邦画なら『ジュブナイル』(00年7月号)『花田少年史』(06年9月号)などがその類いだ。物語が単純なだけに,子供だましに終わらず,大人も楽しめる作品になっているかどうかは,脚本と監督の腕にかかっている。
 スコットランドの湖に住むという伝説の海獣と少年の友情を描いたこの映画は,まさにこの範疇そのもので,欲張って「ネッシー伝説」までも関連付けている。物語は,戦争から帰らない父親を待ちわびる孤独な少年アンガスが,ある日ネス湖畔で青く光る不思議な卵を見つけることから始まる。持ち帰った卵から生まれたのは,世界に一匹しかいない伝説の生き物「ウォーター・ホース」だった。クルーソーと名付けたこの海獣を,少年は人目を避けて大切に育てるが,あっという間に大きく成長する海獣を家に匿うことはできず,湖に放す。アンガスは大人たちの目を盗んで会いに行くが,その姿をドイツ軍の潜水艦と勘違いした英国軍は,砲撃命令を下す……。
 こう書いただけでは,楽しいか楽しくないか分からないだろうが,大人の観賞に耐える出来映えではなかった。少年も脇役も精一杯演じているのは感じられるが,いかんせん脚本も演出も全くのトホホだ。敵役であるはずの軍の指揮官ハミルトン大尉が全く憎らしくなく,クルーソーを狙う砲撃もまるで迫力がない。一瞬,女性監督の作かと思ったが,監督は男性でジェイ・ラッセルだった。代表作は孤独な少年と愛犬の感動物語『マイ・ドッグ・スキップ』(00)だというから,この監督は悪人や迫力あるアクション・シーンの描写が苦手なのだろう。
 こういう場合は,CG/VFXに集中して語るに限る。作品の評価に反比例して,今月の4作品の中では質・量ともに群を抜いている。以下,その感想である。
 ■ VFXは『ロード・オブ・ザ・リング三部作』『キング・コング』(06年1月号)のWeta Digital社が請け負っていた。さすが,過去6年間に3年連続,計4回オスカーを得ただけのことはある。この程度のCG海獣は軽く捌いて,余裕すら感じられる出来映えだ。急速に成長するので何代ものモデルが必要とはいえ,『ロード…』の多様なクリーチャーに比べれば何でもない。
 ■ 一部はパペットやアニマトロニクスを利用しているのかと凝視したが,どうやらほぼすべてCG製と見受けられる。バスタブではしゃぐクルーソーは,まるで生きているかのようだ(写真1)。アニマトロニクスならここまで素早い動きは出せないだろう。
 ■ 幼児期の動作はアシカに似ている。少し大きくなって角が生えている顔は「シュレック」に似ている。成長して湖に放たれて以降は,全身は不要で,首から上を恐竜風に描いて,ネッシーの写真に似せておけばいい(写真2)。全体の造形は容易でも,最近の技術水準なら,その中に骨格と筋肉モデルを与え,皮膚は半透明の多層構造を採用していると考えられる。水に濡れ,光を反射する肌は,本物かと思わせるクオリティを実現している。
 ■ 湖は勿論本物だろうが,そこにCG製ウォーター・ホースを配した際の境界の水飛沫や波立ちの処理が上手い。アンガスを背にクルーソーが湖面を疾走するシーンは,何か乗り物を用意して撮影し,CGクルーソーと差し替えたのだろう(写真3)。この処理も見事だ。
 ■ いま振り返ってみても,『E.T.』は実によくできた映画だった。S・スピルバーグの観客を楽しませる才がいかんなく発揮されていたし,まだまともなCG技術がなかった頃,あの地球外生命体の活躍を表現したILMのSFX技術に改めて感心する。    

 
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写真1 まるで生きているかのように感じさせる 
 
   
 
 
   
 
 
   
 
 
   
 
写真2 少し見ぬ間にどんどん大きくなって,やがてはネス湖名物の大海獣に 
 
 
 
 
 
写真3 一瞬,どうやって撮影したのだろうと思わせる 
(C)2007 Revolution Studios Distribution Company, LLC. All Rights Reserved.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
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