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O plus E誌 2005年4月号掲載
 
 
アビエイター
(フォワード・パス他/松竹 &日本へラルド映画配給)
 
      (C)2004 DreamWorks LLC  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2005年1月24日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
 
  [3月26日より丸の内ルーブル他全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  オスカーは逃したが,好演・熱演揃いの伝記大作  
 

 軽々しくアカデミー賞の予想などするんじゃなかった。この映画の作品賞,監督賞の受賞を褒め称えて書き始めるつもりが,見事に外れた。いや,ノミネート 5作品のうち,両部門受賞作の『ミリオンダラー・ベイビー』だけ未見だったので,外れと言うより勇み足と言うべきか…。
 ゴールデン・グロープ賞の勢いで,アカデミー賞も 11部門ノミネートで撮影賞,編集賞等最多5部門のオスカーを得たのは当然で,重厚さといい,華麗さといい,作品賞を取っておかしくない風格を備えている。飛行機王ハワード・ヒューズの生涯を描いたこの伝記映画は,2時間49分もある。同じ配給ルートの『アレキサンダー』(05年2月号)と長さもほぼ同じだが,こちらは退屈することなく波乱万丈の人生ドラマを堪能させてくれる。
 何よりも,再びマーティン・スコセッシ監督と組んだレオナルド・ディカプリオの熱演ぶりが心地よい。『タイタニック』 (97)の頃に比べると,大人の顔になり,いい役者になったなと感じる。マット・デイモンと共演の次回作『The Departed』(06)もこの老監督が撮るというから,余程相性がいいのだろう。スコセッシの方も『ギャング・オブ・ニューヨーク』(03年2月号)に比べると,少し肩に力が抜けたいい感じで演出している。まさに,コクがあってキレがある展開というべきか。
 自ら設立したヒューズ・エアクラフト社を破竹の勢いで成長させ, TWAを買収した「ヒューズ帝国」は,宿敵パンナム社との激しい覇権争いの攻防を繰り広げる。その法廷闘争,証人喚問のやり取りは,この映画の白眉だ。脚本もいいが,演出もいい。その裏で,190cmの長身でハンサムな彼は,ハリウッド映画界でも旋風を巻き起こし,時の有名女優と浮き名を流す。見方によっては,この映画界での女性関係の方がメインだとも言える。
 ケイト・ブランシェット演じる大女優キャサリン・ヘップバーン,ケイト・ベッキンセール演じるハリウッド一の美女エヴァ・ガードナーは,ともにいい味を出している。好演だ。ブランシェットのキャサリンは,J・フォックスのレイ・チャールズほどそっくりではないが,あの大女優の高貴な香りと輝きを感じさせてくれる。助演女優賞でオスカーを取ったのも当然だ。
 そのハリウッドの香りを一段と増強させているのは,ディジタル技術による色調処理の効果だ。先月号で述べた『ロング・エンゲージメント』の色調処理も印象的だが,目的が違う。あちらは,ジャン =ピエール・ジュネ監督が意図するムードを作る演出の1つであり,言わば観客の感情移入を促進する誘発剤だ。一方この映画では,その時代々々のフィルムの色調を再現しようとしている(写真1)。少し専門的になるが,20年代の「2ストリップのテクニカラー」,30年代末からの「3ストリップのテクニカラー」をディジタル技術で模している。複数のモノクロ・フィルムにカラー・フィルターを使って上映する擬似カラー表現方式を,ここではコンピュータの中で真似ている訳だ。こうした色調処理だけでなく,レンズやフィルムの解像度や細かな傷の付け具合も工夫して,当時の映画がもっていた雰囲気を醸し出している。
 ディジタル画像処理でなく, CGを駆使したVFXはというと,時代映画ゆえに随所に使われている。特筆すべきは2つの飛行機登場シーンだ。まず,ハワード・ヒューズが巨費を投じ,3年間をかけて製作した映画『地獄の天使』の空中戦のシーンでは,本物の飛行機を使った当時の映画撮影のアクロバット的な撮影風景を,VFXをふんだんに使って描く。まさにVFXの効果的な出番だ。
 もう1つは,軍用の巨大飛行艇「ハーキュリーズ」の雄姿だ(写真 2)。様々なサイズの模型と実写の合成は言うまでもないが,たった一度成功した 1947年のテスト飛行は当然CG技術の出番である。『ギャング…』のVFXは取ってつけたような付属品だと論じたが,今度は正真正銘VFXらしい使われ方だ。これはマーティン・スコセッシが成長したというより,飛行機映画に『タイタニック』のVFXスーパバイザ,ロブ・レガートを起用したことで成否が決まったと言える。

 
     
 
写真1 C・ヘップバーン全盛時のテクニカラーのタッチ
(c)2004 DreamWorks LLC
  写真2  巨大輸送機ハーキュリーズの雄姿は合成?  
 
     
   衣装デザイン賞を取っただけあり,ファッションは華やかだし, 20年代のハリウッドの街や豪邸を作り上げた美術班の仕事も見事だ。墜落・炎上シーンを始め,本物のクラシック飛行機を多用した撮影も素晴らしい。どこから観てもいい映画だ。それを統括したM・スコセッシに,今度こそは作品賞・監督賞を取らせてやりたかったのだが…。  
          
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