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O plus E誌 2001年7月号掲載
 
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『リプリー』
(パラマウント映画&ミラマックス作品/松竹配給)
 
       
      (5/29 松竹本社試写室)  
         
     
  贅沢なスタッフ,キャストの意欲作  
   この題名からは『エイリアン』シリーズの新作かと思わせるが,原題は『The Talented Mr. Ripley』(才能豊かなリプリー君)。同名の原作(1955)は,ミステリー作家パトリシア・ハイスミスの代表作品で,後年シリーズ化された。
 というより,年配の映画ファンには,アラン・ドロンの出世作『太陽がいっぱい』(1960)のリメイク版といった方が分かりやすい。フランス映画・イタリア映画の全盛時代,名匠ルネ・クレマンの描く地中海の明るさとあのラスト・シーンは強烈だった。当時,青年トム・リプリーの完全犯罪の破綻を,勝手に60年安保闘争の挫折と結びつける風潮もあった。日本人好みの美しい旋律の抒情的なテーマ曲は,長い間ヒット・チャート第1位を独走し,映画音楽の代表作として一世を風靡した。勿論,筆者もどうリメイクしているのかが気になり,SFXの意義は無視して見に行った。なぜ『新・太陽がいっぱい』じゃいけないのだろうかと思いながら。
 アラン・ドロンが演じたトム役は,筆者のお気に入りの『グッドウィル・ハンティング/旅立ち』『プライベート・ライアン』のマット・デイモン。モーリス・ロネが演じたディッキー役に『イグジステンズ』のジュード・ロウ,女優陣は『恋に落ちたシェイクスピア』のグウィネス・パアルトロウ,『エリザベス』のケイト・ブランシェットと明日のハリウッドを支える若手実力派を揃えている。監督・脚本は,作品賞・監督賞等9部門でを取った『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)のアンソニー・ミンゲラで,撮影・音楽なども同作品のチームが担当している。こういう贅沢なキャスト,スタッフで臨めば駄作であるはずはなく,今年のアカデミー賞でも5部門にノミネートされていた。
 
     
  リメイクゆえの幸不幸   
   マット・デイモンのトム・リプリーは,予想通りアラン・ドロンと全く違った演技で,孤独な青年の屈折した心のひだを見せてくれる。小さな嘘が取り返しの付かない深みへと進行してゆく恐ろしさ,上流階級の放蕩息子を軽蔑しながらも憧れ愛し,やがて殺してしまう悲しさを見事に演じている。ジュード・ロウのディッキーも男が惚れるくらいにセクシーだ。原作にもゲイの描写が少し出てくるが,この映画ではホモ・セクシュアル性がさらに強調して描かれている。ルネ・クレマン監督とアラン・ドロンの関係がそうであったことはよく知られているが,ミンゲラ監督はそれもまとめて暗示したかったのだろうか。
 『太陽がいっぱい』よりも本作品のほうが原作に忠実だが,作るほうも観るほうもどうしても前作を意識する。当然違ったエンディングだろうから,その伏線はどこにあるのかと観てしまう。それがこの映画の不幸だろう。いっそ作品名も変え,全く別の作品として公開していれば,もっと高い評価を得ただろう。リメイクというだけで評価が落ち,賞からは遠ざけられてしまった気がする。リメイクを謳った方がオールド・ファンも呼べるから,興行的にはそうせざるを得なかったのだろうが…。
 美術賞にノミネートされただけあって,ローマ,ベニス,サンレモ等,イタリアの街を華麗に描いている。特に,トムがディッキーを殺した後の海と光が恐ろしいまでに美しい。音楽も,ディッキーが愛したジャズが基調だが,トムの奏でるクラシック・ピアノ,オペラ,カンツォ−ネまで幅広く贅沢に使われている。この映像と音楽だけでとてもリッチな気分にさせてくれる。ハリウッド作品だが,この映画もかつてのヨーロッパ映画の香りを感じさせてくれる大人の映画だ。
 
 
 強いて欠点を探せば,2時間20分はやや長く,後半もう少しハイテンポの方が良かった。皆トム・リプリーに感情移入しながら,早く結末が知りたいのだから。
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