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O plus E誌 2005年10月号掲載
 
 
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『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2005 Twentieth Century Fox  
  オフィシャルサイト[日本語][英語    
  [9月17日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2005年8月25日 東宝試写室(大阪)  
       
     
     
 
 
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『ステルス』
(コロンビア映画/SPE配給)
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語    
  [10月8日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2005年8月23日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
         
 
   
  興行成績が明暗を分けたこの2本  
 

 少しジャンルは違うのだが,ともに VFX満載のSFアクション映画で,興行成績は大きく明暗を分けたこの2本を比べて論じてみたい。
 まず『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』(以下『F4』と略)は,定番のアメコミ作品の映画化で,マーヴェル・コミック+20世紀フォックスという組み合せは『X-メン』(00)『デアデビル』(03)と同じだ。製作費約1億ドルというが,北米では7月8日に公開され週末3日間興収5600万ドル(約62億円)でNo.1となり,既に1億5千万ドルを突破している。この夏の大作で『SW EP3』『宇宙戦争』には及ばないが,『バットマン ビギンズ』を上回り,『チャーリーとチョコレート工場』と同レベルのオープニングという立派な成績だ。日本ではおよそ馴染がないし,目立ったスターも出ていないのでこの大ヒットには驚いたが,アメコミが単純なスーパーヒーローからドラマ性を重視したキャラクタ設定への転機となった記念碑的作品だからだそうだ。
 一方の『ステルス』は,人工頭脳を備えた無人戦略戦闘機が登場する近未来パニック・アドベンチャーで,製作費 1億2千万ドルの大作だ。こちらは,7月29日公開だが,No.1どころか第4位に甘んじ,週末興収はまさかの1350万ドルという大コケだった。『Ray/レイ』(04)でアカデミー賞主演男優賞を取ったばかりのジェイミー・フォックスが出ているだけでも話題のはずなのに,なぜこの不人気かと言えば,スペース・シャトルの打ち上げ延期と打ち上げ後のトラブルで連日の大報道があり,テレビスポットCMを自粛した影響が響いたらしい。
 大衆商業映画の興行成績なんて所詮そんなものだと言えるが, CG/VFX的には,圧倒的に『ステルス』が勝っている。当映画時評欄としては,かなり複雑な心境だ。

 
       
  このB級感覚は意図的か?  
 

 まず『F4』だが,宇宙ステーション滞在中に計算違いの宇宙嵐に遭遇して放射線を浴び,DNAに変化が生じた5人に特殊能力が備わってしまう。それを人々を救うために役立てようとする4人と,邪悪で凶暴な悪人と化す敵役1人の対決図式の勧善懲悪物語だ。
 製作総指揮はマーヴェルのオーナー,スタン・リーだが,監督は『TAXi NY』(04)の若手ティム・ストーリーがメガホンをとる。男3人,女1人のF4チームは,ゴム状人間に変身できるリーダーの「リード」にヨアン・グリフィズ,全身を発火できる「たいまつ男ジョニー」にクリス・エヴァンス,皮膚が岩のように硬くなった怪力の「ベン」にはマイケル・チクリス,そして光を自由に操って透明人間に変身できる「スー・ストーム」にジェシカ・アルバというキャスティングだが,いずれもスター度は低く,かなり地味な配役だといえる。
 ドラマ性重視というだけあって,『ステルス』に比べると各人物のキャラクタはよく描けている。物語に入って行きやすい。その半面,絵作りは粗雑で B級映画の域を出ない。意図的にコミック感覚の安っぽい味を出しているのだろうか? ビルや宇宙ステーションのデザイン,ホログラム・ディスプレイ,宇宙嵐など,いずれもビジュアル・デザインのレベルが低い。宇宙船の下に見える地球のクオリティは,『ステルス』のそれとは段違いだ。これが1億ドルの大作かと目を疑う。
 CG/VFXはというと,ゴム状人間,透明人間,たいまつ人間,いずれもCGならでは描写だが,単独で表現できるので,この程度ならCGスクールの卒業制作で作れそうだ。これでは『SHINOBI』と大差ない。この映画の前々日に『ステルス』を,同日に『SW EP3』を再見したから,尚更映像としての迫力の違いが気になった。
 この映画で評価すべきは,ベンが変身した岩男「ザ・シング」の特殊メイクだろう(写真1)。 CGを使わずに,約30kgのラテックス製の衣裳と顔面メイクに毎日3時間かけたというが,この質感は抜群だった。その重量感を表わすのに使ったVFXやサウンドもぴったりマッチしている。人間たいまつジョニーの炎の表現は,本物の炎とCGの炎の使い分けかミックスだろう(写真2)。炎と化しての夜空のチェイスは,結構良くできていた。
 VFX担当は,Giant Killer Robots, Meteor Studios,SW Digital,SOHO VFX,Pixel Magicなどで,米加の1.5流か2流どころだ。これじゃ最近絶好調の英国勢には敵わない。俳優もVFXもコストダウンして,どこに1億ドルも使ったのだろう,原作コミックのライセンス料だろうか? そんな楽屋裏を気にせずに純粋に映画として観るならば,作りはB級でも話は面白く,結構楽しめた。

   
     
 
 
写真1  30kgの岩スーツと特殊メイクは重量感たっぷり
 
写真2 ジョニーが発するの炎の大半はCG製
 
 
(C) 2005 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
 
       
  デジタルドメインの復活が嬉しい  
 

 対する『ステルス』は,レーダーに映らないステルス戦闘機のエア・バトルを描いたオリジナル企画で,早くから 2005年夏の超大作として期待を集めていた。プロデューサやスタッフには『スパイダーマン』『チャーリーズ・エンジェル』シリーズのメンバーが揃い,監督は『ワイルド・スピード』(01年10月号)『トリプルX』(02年11月号)でヒットを飛ばしたロブ・コーエンと,コロンビア映画としては万全の態勢だった。
 ステルス戦闘機を操縦する精鋭パイロット 3名は,まず『メラニーは行く』(02)のジョシュ・ルーカスと『ブレイド3』のジェシカ・ビール。男優は地味だが,この美貌の女優には華がある。そして,3人目は何とオスカー男優のジェイミー・フォックス。意外に活躍が少ない脇役だが,これはアカデミー賞受賞前に低ギャラで契約していたためだろう。もったいない。
 むしろ主役は,人間の命令に逆らって暴走する無人ステルス機のエディ (E.D.I.)だ。エア・バトルで新境地を拓いた『トップガン』(85)から20年,映画はここまで進化した,というのが売り文句だが,これは掛け値なしだ。この映画の映像スペクタクルは凄まじい。図らずもこの前週に,『トップガン』のデジタルリマスター版公開を機に試写を観た。若き日のトム・クルーズはカッコ良かったが,映像的には20年前の映画だった。
 ほぼデジタル・ドメイン 1社の担当で描くVFXは完璧だ。一時期の不振から立ち直り,『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)『アイ,ロボット』(同9月号)で磨いた腕が一層向上している。これは嬉しい。
 ステルス機は,俳優が着座する実物大模型,数種類のミニチェア,フル CG映像を,場面によって使い分けているのは言うまでもない。縦横無尽に発着させ,アクロバット飛行させている。映像の細部のこだわりも素晴らしい。例えば,写真3は空中での給油シーンだが,下に見える地球も空中に漏れて浮かぶ黄色い燃料の描写も素晴らしい。その爆発シーンや雲海の表現には,同社オリジナルのボリュームレンダラーが使われているようだ。大型空中給油機のデザインもいいし,ステルス機への落雷シーンも見事な描写だ。
 もっと圧巻はエディが格納庫を突き破って飛び出しシーンでの爆発(写真4)で,これは CGでなく,ドアもクルマも吹っ飛ぶ本物の爆発だ。通常の5倍のガソリンを使い,人工衛星から観測できる規模で爆発させたという。いや恐れ入る。北朝鮮上空でステルス機から緊急脱出したカーラ・ウェイド大尉を上空から追うシーンにも息を飲む。この両シーン観るだけでも料金分の価値はある。
 飛行シーンの下に見える地形が素晴らしいが,すべて高さデータと地勢テクスチャからデジタル生成したという。パイロットが操縦するステルス機はスタジオ内撮影映像の合成だが,そうすると透明なキャノピーやヘルメットへの映り込みが不自然になる。これは,キャノピーなしで撮影し, CGで後から描き込まれている(写真5)。とにかく映像は素晴らしく,超一級だ。それでいて,ストーリーは落ち着きがなく,エンディングはお粗末というか,お笑いかよと言いたくなるレベルだ。「この映画は,徹底して映像に金をかけています」と配給会社は言うが,もう少し脚本にもかけるべきだった。

   
 
 
写真3 美しい地球をバックにした空中給油シーン   写真4 格納庫の爆発シーンは一大スペクタクル
 
   
 
写真5 光線反射も地形データもデジタル技術の産物
 
       
   
   
     
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