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O plus E誌 2005年8月号掲載
 
 
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『宇宙戦争』
(パラマウント映画&ドリーム ワークス映画/UIP配給)
TM & (C) 2004 by Paramount Pictures
  オフィシャルサイト[日本語][英語    
  [6月29日より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2005年7月4日 TOHOシネマズ二条  
       
     
     
 
 
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『アイランド』
(ドリームワークス映画& ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2005 Dreamworks LLC & Warner Bros. Ent. Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語    
  [7月23日より丸の内ルーブル他全国松竹・東急系にて公開中]   2005年7月12日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
 
   
  ILMが『エピソード3』の傍ら手がけた2作品  
 

 今年の夏『SWエピソード3』に対抗すべく製作された娯楽大作2作品だが,何かと共通点が多い。いずれもドリームワークスが企画・製作し,リスク分散のため,それぞれパラマウントとワーナー・ブラザースに興行権の半分を譲り渡している。いずれも日米同時公開で,直前までほとんど情報が伝わって来ないし,ILMが『エピソード3』の傍ら徹底的に関与したVFX満載の大作だというのに,該当シーンのスチル画像が一切提供されないという点でも共通している。
 片や古典的 SFの映画化作品『宇宙戦争』(53)の現代的解釈でのリメイクで,オーナーのS・スピルバーグ自らがメガホンを取り,『マイノリティ・リポート』(02年10月号)以来再び人気俳優のトム・クルーズとコンビを組む。最近のスピルバーグは,トム・ハンクス,レオナルド・ディカプリオ等,大物俳優と組むことが多く,もうそれだけで一定水準の興行成績が得られることを確実にしてから撮影に入っている。さすが経営者だ。
 一方の『アイランド』は全くオリジナルの脚本の現代的な SFで,監督には『アルマゲドン』(98)『パール・ハーバー』(01年7月号)のマイケル・ベイをスピルバーグ自らが指名している。主演は『ビッグ・フィッシュ』(04年5月号)のユアン・マクレガーと『ロスト・イン・トランスレーション』(03)のスカーレット・ヨハンソンだが,ユアンは『エピソード3』のオビ=ワン・ケノービ役と『ロボッツ』のロドニーの声でも登場するから,この夏は露出過剰気味だ。

 
     
  巨匠も超えられなかった古典的名作の壁  
 

 新しい『宇宙戦争』は, 6月29日世界同時公開という興行政策が徹底して貫かれ,まともなマスコミ用試写会はなく,プレス資料も入手できなかった。6月13日日本武道館での「ジャパンプレミア」が急遽中止され,六本木ヒルズでTV局関係者と提灯もちタレントだけを招いた「限定プレミア試写会」に変更された。この試写が世界初公開で,盗撮防止の警備上の都合とのことだが,なに,これも話題作りの一環だ。映画マスコミを味方につけなくても,監督と主演俳優の知名度だけで十分客は呼べるという計算なのだろう。予想通り,バカでかい新聞広告にものすごいTVスポットCM,その上『エピソード3』一般公開までの10日間,東宝洋画系のメジャースクリーンをほぼ独占するという超拡大公開路線に出た。いやはや,予告編も話題作りもうまい。
 このような虚仮威しの大宣伝を打った話題作は期待外れに終ることが少なくないが,ものの見事に方程式通りの凡作だった。ただの凡作ではない。前半はさすがスピルバーグと思わせる快調なテンポで,構図の上手さ,スケールの大きさにも舌を巻いた。同じ宇宙人襲来のヒット作でも『インデペンデンス・デイ』 (96)が随分小さく感じられてしまった。ところが,後半が単調で飽きてしまう。極め付きは,H・G ・ウェルズの原作に忠実に従ったエンディングだが,これが最近の映画としてはもの足りない。大半の観客がそう感じたようだ。
 なるほど,ふんだんに CG/VFXを駆使した宇宙人襲来の恐怖シーンは迫力ある。地割れ,高速道路・建物の倒壊など,どこまでが実写なのかまるで見分けがつかない。ただし,強烈な破壊(写真1)はあっても,人が死ぬ残虐なシーンは全く出て来ない。音響効果で脅すだけでちっとも怖くない。宇宙人の乗るトライポッドや蛇状の探知機もイマジネーション不足だ。宇宙人の描写に至っては,余りにもステレオタイプでがっかりする。
 観覧車やジェットコースターが年々その規模を大きくすると同じように,この映画は映像表現力だけが向上して典型例だ。 H・G・ウェルズの原作から1世紀以上,前作から半世紀以上経っているというのに,映画を知り尽くした巨匠はその呪縛から逃れられなかったようだ。

 
     
 
 
 
写真1 これだけの大惨事なのに死者が見当たらない
TM & (C) 2004 by Paramount Pictures
 
       
  アクションは過激だが,近未来社会の造形は秀逸  
 

 一方の『アイランド』も同じく日米同時公開だったが,約 10日前にしっかり試写を見せてくれたので,ギリギリ今月号に間に合った。こちらはオリジナル脚本だから原作の縛りはなく,舞台は2019年のロサンジェルスで,クローン人間が自在に注文できるようになった社会を描いて自在な物語を展開している。グロテスクな未来を描くシリアスなSFかと思えば,かなり過激なアクションも満載だ。ビジュアル的にもスケール的にも,映画ならでは思わせる娯楽大作に仕上がっている。
 地下工場で製造された多数のクローン人間たちが,放射能汚染のない理想郷「アイランド」行きの切符を手にすることを夢みて人工都市に管理されている。意味不明の悪夢を見るようになった「リンカーン・6・エコー」(E・マクレガー)は,規律だらけの日常生活に疑問をもち,魅かれ合うようになった「ジョーダン・2・デルタ」(S・ヨハンソン)と共に,まだ見ぬ地上世界への脱出を試みる。そこで知る真実,彼らを葬りさろうとする暗殺刺客団,警察の追撃をくぐり抜けてのクローン注文主の富豪との遭遇……。というのが物語の骨格だ。
 何をおいても,この映画のビジュアル・デザインが素晴らしい。地下都市内は徹底的に無機質でクールなデザインで統一し,クローン製造工場はグロテスクで不気味だ(写真2)。地下にある高層ビルのデザインも素晴らしく,よくぞこんな巨大セットを作ったものだ。一方,地上の町は徹底してカラフルで,近未来都市の描写も気合いが入っている。『アイ,ロボット』(04年9月号)以上で,『マイノリティ・リポート』(02年11月号)に匹敵する出来映えだ。豪華過ぎて,これがわずか14年後の世界なんて嘘だろう,と疑ってしまうくらいだ。
 ILMの手によって,上質のCG/VFXがふんだんに使われている。目に中に入る虫状のマイクロセンサ,地表に現われている地下施設の巨大換気扇,荒野を走るリニアモーターカー,2019年のLAの光景など,見事な造形力,描画力だ。空飛ぶジェット・バイクは無論SFX/VFXの産物だが,動きが激し過ぎてよく見えない。一方,リンカーンが逃走用に使うクルマは実車だが,何と700万ドル(約8億円)も出してGMに特注したという。
 アクションは過激すぎる過激で,カーチェイスとクラッシュは『バッドボーイズ 2バッド』(03年11月号)よりも凄い。そう言えば,あの映画もマイケル・ベイ監督作品だった。彼はこういう映画を撮らせると上手い。クローン人間がもつ危険性を描くのに,なぜここまでの過激アクションが要るのかと思うくらい過激だ。
 エンターテインメントとして盛り込めるだけのものを詰め込んだ感じだが,欠点はといえば,人間模様の描写が欠落していることだろう。おっと,この監督に人間描写を求める方が間違いだった。それに,彼らは人間ではなく,クローンだったか…。

   
     
 
 
 
写真2 何やら不気味なクローン生成工場の光景
(c)2005 Dreamworks LLC and Warner Bros. Entertainment Inc.
 
   
     
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