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O plus E誌 2004年9月号掲載
 
 
『アイ,ロボット』
(20世紀フォックス映画)
 
      (c)2004 TWENTIETH CENTURY FOX  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年7月29日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]  
  [9月18日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  女性にも人気の極上SFエンターテインメント  
   著名SF小説を原作とした映画は,フィリップ・K・ディック原作の『クローン』(01年11月号)『マイノリティ・リポート』(02年11月号)『ペイチェック 消された記憶』(04年3月号)を取り上げたが,この映画は『アンドリューNDR114』(00年5月号)のアイザック・アシモフ作の『われはロボット』(ハヤカワSF文庫)をもとにしている。有名なロボット3原則を前面に打ち出した1950年作の連作短編集である。もっとも映画は,標題とこの3原則と女性のロボット心理学者スーザン・カルヴィン博士(ブリジット・モイナハン)の名前を使っているだけで,脚本は原作とはほとんど関係ない。
 結論を先に言うならば,これまでに観た最も面白いSF映画だと評価しよう。ただし,SF映画であって,SF小説を含むSF全体ではない。「面白い」であって,「ためになる」でも「考えさせられる」でも「感動した」でもない。既に熱烈なアシモフ・ファンからは,原作とは別物のストーリーに対して酷評が相次いでいるらしいが,気にすることはない。50年以上前に書かれた小説と21世紀になって製作された映画は,楽しみ方が全く違って当然だ。スピード感溢れるアクションは圧巻であるし,ミステリー仕立てのストーリーも良く出来ている。未来世界の描き方もVFXに関しても,辛口評論の本欄が☆☆☆を与えよう。米国で昨年度公開の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』を別にすれば,これまでのところ「本年度ベスト1」と評価していいだろう。
 舞台は西暦2035年のシカゴ。わずか30年後だが,ロボットは人間の補佐役として,豊かな家庭に入り込んでいる。業界最大手の巨大産業USR社の新世代家庭用ロボットNS-5型の出荷間近に,開発者のラニング博士が遺体で発見されたことから,旧知のシカゴ市警デル・スクーナー刑事(ウィル・スミス)が謎を追っての捜査に乗り出す……というのが,物語の発端だ。
 監督はエジプト生まれで,オーストラリアのシドニー在住のアレックス・プロヤス。ミュージック・ビデオは100本以上の経験をもつというだけあって,ウィル・スミス主演作にはうってつけのリズム感のある演出だ。一般的に女性にSFは受けないから,アピールするにはこの刑事役はトム・クルーズやキアヌ・リーブスの方がいいかなと思ったが,この映画に関する限り絶対にウィル・スミスで正解だった。完成披露試写会帰りの女性観客たちも,口々に映画の細部を振り返って余韻を楽しんでいた。珍しいことだ。
 以下,VFXを中心とした見どころ案内である。
 ■ VFXは全編通じて上質で,主担当がデジタル・ドメインで約200名,サブが『ロード・オブ・ザ・リング』のWETAデジタルの約150名。他にPatrick Tatopoulos Designs やPixel Magic等が参加している。一時期不調だったデジタル・ドメインのここまでの復活は嬉しい。未来都市の光景や大掛かりな人間対ロボットの戦いなどは,さすがWETAデジタルだ。
 ■ 現実にアシモやAIBOが存在する以上,なまなかなロボットのデザインではSFファンは満足しないが,50種類もデザインしたというNS-5は好いルックスだ(写真)。メカっぽさと人間的な表情のバランスがいい。主役のサニーの表情演出は秀逸で,声の出演者アラン・テュディックがかなりの部分を実際に演じていると言う。『ロード…』のゴラム制作の技術がここでも生きている。
   
 
 
写真 50体もデザインしたというNS-5型ロボット
(c)2004 TWENTIETH CENTURY FOX. All Rights Reserved
注:掲載誌にはもっと多数の画像を使用したが,Webページ上では利用が制限されているため,ここでは1枚しか掲載できなかった。
 
     
   ■ NS-5ロボットは,もちろん主力はCG映像だが,実機メカでも数十体が作られている。ある時はパペット操作,ある時はモーション・キャプチャのようだ。派手なカーアクション・シーンや多数の壮観なシーンはCGだろうが,10数台で大人しく並んでいると,もうどちらだか分からない。
 ■ 時代は少し手前だが,未来社会の描写は『マイノリティ・リポート』を相当意識している。シカゴの光景も好いし,未来交通システム,駐車場,キューブ状のエレベータ,クルマのヘッド・アップ・ディスプレイも印象的だ。クルマは『マイノリティ…』のトヨタ・レクサスを意識して,アウディをスポンサに選んだようだが,その2050 年にも現在の最新型アウディにも似ている。そこまで意図的だとしたら,スゴイ。
 ■ コンピュータのデザインやヒューマンインタフェースは『マイノリティ…』に比べると劣る。特に,スターナー刑事のオフィスのデスクトップ機などは代わり映えがしない。もっとも,いつの時代も警察署の設備や什器はかなり時代遅れだから,これもそこまで意図的に考えてことなら,ますますスゴイ。
 と,まだまだ書きたいのが,今月はここで紙数が尽きてしまった。できれば,来月号で少し補足しよう。
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