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O plus E誌 2005年10月号掲載
 
 
SHINOBI』
(松竹配給)
      (C) 2005「忍ーSHINOBI」パートナーズ  
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月17日より丸の内プラゼールほか全国松竹系にて公開中]   2005年8月16日 松竹試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  日本版LOVERSはパワー不足を映像美でカバー  
   確か題名は『忍― SHINOBI』だったはずなのに,いつのまにか漢字が消えている。忍者の戦いを描く時代劇なのに,本編の中でも,時代や場所を表記するのを徹頭徹尾に英文字に統一している。この程度の小細工で国際的な商品価値が増すわけでもあるまいに…。そーだ,原題は『十面埋伏』なのに,日本公開だけ『LOVERS』(04年9月号)などと名付けた手口と同じじゃないか。主演の男女を描いたメインのスチル画像まで,チャン・ツィイーに金城武が迫る構図にそっくりだ。偶然だ,特に意識していなかったと言っても,誰も信用しないだろう。この映画は,あらゆる点で『LOVERS』を手本にし,それを超える味を出そうとしている。
 主演は,そのチャン・ツィイーと『オペレッタ狸御殿』(05年6月号)で共演したばかりのオダギリ ジョー。甲賀・卍谷の党首の跡継ぎ「弦之介」を演じる。その彼と愛し合い,かつ殺し合う運命になる伊賀・鍔隠れの頭領の孫娘「朧」には仲間由紀恵が選ばれた。むしろ,この朧の方が主役だ。監督は,ミュージック・ビデオ出身の下山天。他の忍者達には,椎名桔平,黒谷友香,沢尻エリカなどが出演しているが,芸達者のベテラン俳優はほとんど登場しない。
 時代は,徳川家康が秀忠に将軍位を譲り,大御所に退いて権勢をほこっていた 1614年のこと。天下人・家康(北村和夫)の気まぐれから,反目する伊賀と甲賀が忍びの精鋭たち10人で死闘を繰り広げ,いずれが生き残るかで次期3代将軍を決めることになる。5:5の勝ち抜き戦というのが,柔道や剣道の試合を思い出させる。
 原作は山田風太郎の「甲賀忍法帖」(講談社刊)だが,約半世紀前に一世を風靡したこの鬼才の作品はかなり伝奇性が強い。当時は人気を呼んだお色気満載も,今となっては古くさく,若い男女には似合わない。ならば,海外でも Ninjaで通用するし,古典的な武侠映画を現代風にアレンジして世界市場に出た『HERO』『LOVERS』を手本にすれば良い,と考えたのだろうか。筆者は未見だが,同じ原作から人気コミック「パジリスク〜甲賀忍法帖〜」(「ヤングマガジンアッパーズ」連載)が生まれているというから,このコミックの若者向きのタッチを映画でより面白く見せようという企画のようだ。
 さて,本題の CG/VFXに関してである。原作に登場する奇想天外なアクションや妖艶な秘術を映像化するには,デジタル技術が不可欠なことは言うまでもない。冒頭の目の中に輝く炎や飛び上がるのを手始めに,蝶々や鷹などの動きから,手裏剣,鉄の輪,紐状の武器,女忍・蛍火が使う木の葉の秘術など,CGならではの描写が次々と登場する。VFXを施したカット数はかなり多い。主担当はリンクス・デジワークス社だ。
 SIGGRAPHで出会ったVFX評論家の大口孝之氏が絶賛していたので,かなり期待して観たのだが,筆者はそう褒めるほどとは思えなかった。健闘してはいるが,カット数が多いだけに,出来不出来の差が目立つ。鷹が本物かCGかは,すぐ分かってしまう。テクスチャも動きもぎこちないからだ。クロマキー合成であることが,すぐ分かってしまうシーンも多い。マット画が上質でないからだろう。MoCapを多用したというが,忍者の動きのぎこちなさが失笑を買ってしまう。ワイヤーアクションも,中国/香港映画の足下にも及ばない。絶対的なパワー不足だ。これでは世界に通用しないから,使い慣れていない技術を重要なシーンに使うべきではない。
 全体としては,日本の CG/VFXは世界では2流以下と評価せざるを得ないが,いくつかキラリと光るシーンはあった。優れていたのは,女忍・陽炎の秘術「毒の花」で,アザのように肌に浮き出る血管や,朧の目の秘術で敵の血が逆流する描写などだ。オダギリ ジョーの殺陣も様になっていたし,大きな月をバックにした構図もいいビジュアル・センスだ(写真1)。このシーンにはしびれた。激励,応援の意味を込めて,大口氏もついつい優れたシーンにエールを送りたくなったのと思われる。
 アクションの質では『LOVERS』には大差をつけられているが,映像の美しさ,ロケ地の多様さでは勝っていると言える。「おいおい,これはハイビジョンのプロモーション映像かよ」と思うほど花鳥風月を愛でたシーンが多々登場する。滝,清流,岩場,山の峰々,雲海など,随分撮影に手間をかけているなと感じるし,紅葉も夕焼けのシルエットシーンも美しかった(写真2)。里のシーンなど,オープンセットにも金をかけている。これは,この監督の映像へのこだわりだろう。ならば遠慮なく,CG映像にも高水準を求めるべきだったのに。  
 
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写真1 月を背にしたこのアクションにはしびれる!

  写真2  この鳥の群れは自然の光景か? CGか?  
 
 
(C) 2005「忍-SHINOBI」パートナーズ
 
     
   
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