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O plus E誌 2005年10月号掲載
 
 
『シン・シティ』
(ディメンジョン・フィ ルムズ/ギャガ配給)
         
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2005年8月8日 SPE試写室(大阪)  
  [10月1日より丸の内ルーブル他全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  コミック以上のコミック感覚が斬新  
 

 不思議な映画だ。宣伝文句には「究極の刺激世界」「前代未聞の映像革命」「あなたが今までに観たどんな映画にも似ていない」などのコピーが並ぶ。なるほど,確かに刺激的であるし,デジタル技術なしに考えられない映画だ。ところが,どこかで観たことがある既視感に溢れている。同様な映画がかつてあったかと言われれば,無かったと答えざるを得ないのだが。
 普通の映画でないことは冒頭の男女のシーンですぐ分かる。モノクロ映像を基調に,女性の口紅とドレスだけが赤に着色した「パートカラー」で迫って来る。かつて TVコマーシャルで,コーラの缶,リンゴ,ある人物だけをカラーで描いた,あの手法である。そーだ,既視感の第一はCM映像だった。
 背景となっている大都会の夜景も,カラーでなくモノクロだと幻想的かつ不気味な雰囲気が見事に漂う。「罪の街」を描くのには適した方法だ。これは冒頭シーンだけかと思ったら,驚いたことに,このパートカラーが全編続く。そりゃ,こんな映画はこれまでになかった。
 この映画には監督が 2人いる。1人は『スパイキッズ』シリーズをヒットさせたロバート・ロドリゲスで,監督だけでなく,脚本・製作・撮影・編集・音楽も担当している。もう1人は,この映画の原作である同名のグラフィック・ノベルを書いたフランク・ミラーで,アメコミ界の大御所として知られている。当初映画化を拒んだというが,ロドリゲスに口説かれて,やる以上は自ら監督・脚本・製作も共同担当するという徹底ぶりだ。
 この原作は,普通のアメコミとは印象がだいぶ違う。白黒のコントラストが強く,影を多用した大人の物語であり,版画のようなタッチだ。映画はそのタッチをデジタル技術を駆使して描き込んでいる。一見ハードボイルド調でいて結構ウェットな主人公達のセリフとテンポは,ハリウッド映画というより日本の劇画に近い。そーか,既視感のその2は劇画だったのか。実際,フランク・ミラーはアメコミに日本のコミックの表情を取り入れた先駆者であり,「子連れ狼」の大ファンだという。なるほど,これは小池一夫の世界だ。
 2人の監督に加えて,もう1人特別監督がいた。1シーンを撮影するゲスト監督として,1ドルで雇われたクエンティン・タランティーノだ。R・ロドリゲスが『キル・ビル vol. 2』(04)の音楽を1ドルで作曲したお返しだという。そーか,既視感のその3はタランティーノの『キル・ビル』の世界だったのか。本作品も個性的な3人の男を中心に描く3部構成だが,思い起こせば彼の出世作『パルプ・フィクション』(94)も3部構成だった。
 出演者がスゴイ。男優はスーパースターのブルース・ウィリスはじめ,ロドリゲス監督の『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』 (03)のミッキー・ローク,『キング・アーサー』(04年8月号)の主役クライヴ・オーウェン,『トラフィック』(00)『21グラム』(04)の個性派ベネチオ・デル・トロ,『パール・ハーバー』(01)でブレイクした成長株のジョシュ・ハートネット,『ロード・オブ・ザ・リング』3部作でフロド役を演じたイライジャ・ウッドと多彩だ。女優陣は『アレキサンダー』(04)のロザリオ・ドーソン,前述の『ファンタスティック・フォー』の紅一点ジャシカ・アルバなど,豪華キャストの揃い踏みである。
 でありながら,この映画は徹底したB級映画の演出で迫る。もちろんこれは意図的で,ギャング,高級娼婦,ストリッパー,殺人鬼,上院議員のバカ息子,堕落した元刑事,定年間際のベテラン刑事たちが織りなす闇の世界の人間模様を,安手のマンガ週刊誌の雰囲気で描く。第1部,第2部は,これじゃ映画部所属の学生でも作れるなと思わせておいて,第3部のブルース・ウィリスの再登場以降は映画も引き締まり,さすがプロの腕は違うなと感じさせてくれる展開だ。
 さて,技術面はというと,写真 1を観ればこの映画のパートカラーの作成方法が容易に分かるだろう。背景は基本的にCG映像のクロマキー合成だが,前景は残したいカラーだけ抽出し,他は彩度を落としてモノクロ化している。全編この調子だから,フィルム撮影してデジタル化する無駄はしていない。ソニー製HD24pカメラでデジタル撮影しているから,色の抽出も着色も自由自在だ。飛び散った血の色も素直に赤かったり,極端に真っ白にして見せたりする。あるクルマだけが青,敵役の醜い怪物は黄色,と使い分けているのも効果的だ。

 
     
 
写真1 原作を凌ぐ印象的なワンポイント・カラー
(上:原画,中:撮影風景,下:完成画面)
 
   
 

 じっくり眺めれば,彩度の落とし方を加減して,うっすらと着色したシーンも多々あることに気づく。同じ手口は何度も使うと興醒めだから,パートカラーを劇場映画全編に使うのは早い者勝ちだ。闇の世界を刺激的に描くという意味で,この試みは成功している。 

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