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O plus E誌 2010年8月号掲載
 
 
 
 
『インセプション』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
 
      (C) 2010 Warner Bros. Entertainment Inc.

  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2010年7月12日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]   2010年6月30日 GAGA試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  知的なパズルのようであり,それでいてゴージャス  
   街が壁のように直立した不思議な構図のポスター,地面が折り曲がり頭上に迫って来る様子(写真1)を含む予告編,大音響で迫力満点のWebサイト……。予告編だけ虚仮威しで,本編は今イチの映画は多々あったが,本作はこの予告編の数倍以上の迫力が全編続く大スペクタクル映画だと考えていい。何しろ『バットマン ビギンズ』(05年7月号) 『ダークナイト』(08年8月号) で,骨太かつ豪華な映像を堪能させてくれたクリストファー・ノーランが,監督・脚本・製作である。この映画が外れである訳がないではないか。いまハリウッドで,大予算を投じて大作を撮らせたら,それに見合うゴージャスな作品を生み出す力のある監督の筆頭格だろう。  
   
 
写真1 大地が折れ曲がり,二重になるシーンは圧巻
 
   
   本作は,彼のオリジナル脚本である。人の夢の世界に入り込み,他人のアイデアを盗むという設定が斬新だ。さらに盗むだけでなく,潜在意識下で考えを「植え付ける」のが「インセプション」だという。この英単語の意味は「初め,発端」だと覚えていたのだが,少し違うようだ。所詮は夢の中の話である。摩訶不思議なミッションとだけ理解しておこう。
 危険なミッションを依頼された企業スパイの主人公コブを演じるのは,レオナルド・ディカプリオ。『アビエイター』(05年4月号) 以降,前作の『シャッター アイランド』(10年4月号)まで,いずれも当欄で高評価を与えたように,最近の充実振りが目立つ。自殺した元妻として再三登場するのは,『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』(07)でオスカーを得たマリオン・コティヤール。この映画で何度かピアフの歌が流れるのは,監督の洒落っ気とでも言うべきだろうか。夢の設計士の相棒に『JUNO/ジュノ』(08年6月号) のエレン・ペイジ,義父の大学教授に常連のマイケル・ケインを配したキャスティングもなかなか見事だ。そして,我らが渡辺謙が『バットマン ビギンズ』以来,再度起用され,ミッションの依頼人の重要な役どころを演じる(写真2)。もう少し英語が上手くならないのかと思うが,エキゾチックな感じを出すには,この程度がいいのかも知れない。
 
   
 
写真2 渡辺謙は重要な役で,出番も多い
 
   
   とにかくゴージャスな映像を,142分間たっぷり見せてくれる贅沢な映画だ。音楽はハンス・ジマー,SFXはクリス・コーボールド,VFX主担当はDouble Negativeと,当欄のお気に入りを揃えているので,その点でも抜かりはない。映画の大半の場面が夢の中であり,その夢が多層構造であるので,一体いまどの層にいるのか分からない。知的なパズルのようであり,もう一度観たくなることも計算済みだ。そう言えば,C・ノーランは,あの『メメント』(01年10月号) でブレイクしたのだったと思い出して納得する。以下,見どころである。
 ■ 流行の3D映像はなく,大画面のIMAX版も公開されるという。『ダークナイト』の成功で,その魅力に取り憑かれたらしい。70mmフィルムで撮影された高精細な映像は,この映画に相応しい。スローモーションが多用されているが,その場合も画質がしっかりキープされている。その一旦はVFXが担っているのだろう。橋からゆっくり落下するクルマは,実写でなくCGで描けばいくらでもゆっくり落下させることができる。
 ■ 前述の地面の倒立と折畳み,雨中のカーアクション,ホテルの廊下やエレベータシャフトでの無重力状態のようなスローアクション(写真3),雪山の中の大きな建物とその倒壊等々,不思議な映像は,SFXとVFXの合わせ技だろう。どこまでが夢で何が現実なのか分からないように,どこまでが豪華なセットでどこからがCGによるVFXなのか,全く見分けがつかない。
 
   
 
写真3 天地はどちらなのか分からなくシーンの連続
 
   
   ■ どの場面も計算され尽くした映像だが,最も圧巻なのは最下層(のはず)の夢のシーンだ。海岸沿いで倒壊するビルの映像(写真4)から始まる都市のデザインには息を飲む。この映画の美術担当者は,ここまで力量を問われるシーンを任されて本望だろう。  
   
 
写真4 深層の夢の中のシーン。この後の描写も凄い。
 
   
   ■ 東京ロケからスタートしたというが,それはヘリが屋上から飛び立つシーンが中心だ。屋内シーンはセットだろうが,この日本の部屋のデザインが醜悪そのものだ(写真5)。新幹線車内もその窓もあり得ない偽の映像だ。ハリウッド映画が描く日本は,まだこのレベルから卒業しないのか。渡辺謙は何も言わなかったのか,日本人のチェックを受けなかったのか,不思議で仕方がない。この画竜点睛を欠く描写のため,減点しようかと思ったが,思い止まった。2年前,長過ぎるという理由だけで『ダークナイト』を減点してしまったことを,後々悔いていた。その埋め合わせも含めての満点評価である。   
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写真5 まだ日本の家屋は,こんな不気味な印象なのか
(C) 2010 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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