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O plus E誌 2018年3・4月号掲載
 
 
シェイプ・オブ・ウォーター』
(20世紀フォックス映画 )
      (C) 2017 Twentieth Century Fox
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月1日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開中]   2018年1月31日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  美術賞,作曲賞でもオスカーを得ただけのことはある  
  言わずと知れた今年のアカデミー賞作品賞受賞作である。隔月刊となったO plus E本誌とはタイミングが合わず,掲載されるのは公開後3週間以上経っているが,本作を取り上げない訳にはいかない。アカデミー賞には最多の13部門ノミネートされ,他に監督賞,美術賞,作曲賞の計4部門でオスカーを得ている。授賞式の前週に,盗作騒ぎがあったが,よくあるマイナー作品の言いがかりで,それは全く影響しなかったようだ。いや,むしろ逆でプラスに働いた気もする。
 監督賞に輝いたギレルモ・デル・トロは,当欄が最も注目する監督の1人で,『ヘルボーイ』(2004年10月号)の描き方で一目置くようになり,その後の監督作品をすべて紹介している。いずれも以上の評価で,『パンズ・ラビリンス』(07年10月号)と『パシフィック・リム』(13年8月号)にはを与えた。いずれの評でもその美的センスを褒め,怪獣好きで,異形のキャラの描き方の上手さに毎度感心していた。
 本作がラブ・ファンタジーという点では,この監督には珍しいジャンルだが,「アマゾンの半魚人」を思わせる生物と声が出ない障害をもつ女性の異種間恋愛を描き,物語設定やビジュアル表現では面目躍如たる出来映えになっている。ヴェネチア映画祭の金獅子賞を得たのまでは良かったが,アカデミー賞で作品賞,監督賞まで獲るメジャーな存在になってしまったのは,喜ばしい半面,少し残念な気もする。自分だけの気に入りの存在でいて欲しいのに,万人が知る時の人になったからだ。
 本作の時代設定は,東西冷戦中の1962年で,NASAの研究センターが舞台となっている。アマゾン奥地で捕まった不思議な水棲生物が研究センターに送られてくる。主人公はこのセンターの掃除婦のイライザで,幼児期のトラウマで声を失っている。掃除の間に垣間見た「彼」に手話を教え,やがて愛し合うようになる。ところが,この生物の特殊な呼吸法を調べるため,生体解剖する計画が実行に移されることになり,それを知ったイライザは大胆な「逃亡脱出策」を考える……。
 イライザを演じるのは英国人女優のサリー・ホーキンス。どこかで見た顔だと思ったら,前号の『パディントン2』に出ていたブラウン家のママではないか。今回,アカデミー賞の主演女優賞は逃したが,難しい役柄を見事に演じている。過去の出演作品リストで,『ブルージャスミン』(13)では主人公の崩れた妹役を演じていたことを知った。まるで印象が違うから,かなり演技派のようだ。本作では,松金よね子似の地味な中年独身女性の役なのに,彼女がいきなり衣服を脱いで,全裸の入浴シーンを見せるのには驚いた。結構美乳である。調べると過去の作品で何度か裸体を見せているから,裸身には自信があるのだろう。
 助演陣は,職場の同僚役はオクタヴィア・スペンサー,アパートの隣人の画家ジャイルズ役はリチャード・ジェンキンスで,それぞれ助演女優賞,助演男優賞にノミネートされていた。ずっとメイクのままで登場する「彼」はダグ・ジョーンズが演じ,敵役の軍人役にはマイケル・シャノンが配されている。特に人気俳優は登場しないが,なかなか渋いキャスティングだ。
 以下,当欄の観点からの感想と評価である。
 ■ 何と言っても注目の的は,半魚人のルックスと挙動である。奇妙過ぎず,どこかで見たような姿でもなく,このクリーチャー・デザインは,さすがギレルモ・デル・トロだ(写真1)。彼は人類に害となる悪役ではなく,現地では「神」と崇められた存在であるから,イライザとの交流にも微妙な演技が求められる。このため,全身をCGで描くのではなく,出演シーンで俳優に異形メイクを施し,半魚人らしいスーツを着て演じさせ,さらに顔面はCGで上書きしている(写真2)。この撮影&後処理方法が,最も2人での演技を引き出しやすかったのだろう。
 
 
 
 
 
写真1 メイクとスーツの出来映えを点検するデル・トロ監督
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 上:特殊メイクを施しての撮影画像,中:CG製のマスクを当て嵌める,
下:完成画像(目と口の違いに注目)
 
 
  ■ 美術賞でもオスカーを得ているように,随所にこの監督の拘りが見られる。NASAらしい宇宙計画のロケットや着陸船も登場するし(写真3),1960年代の古くさい実験室の描写も一級品である(写真4)。画家であるジャイルズの住居も,それらしい見事な出来映えだ。映画冒頭は,この部屋が水中にあるかのようなシーンで始まるが,室内セットに水中らしい照明を当て,浮遊する家具はCGで描き,さらに水中に見える処理を施している(写真5)
 
 
 
 
 
写真3 これがロケットのジェットエンジン。勿論,CG製だ。
 
 
 
 
 
写真4 いかにも1960年代らしい実験室セット
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真5 上:画家の住宅内セットに水中を模したライティング,
中:浮遊する家具はCGで描き加え,下:完成映像
 
 
  ■ 印象的なのは,ポスターやCDジャケットに使われている2人が水中で抱き合うシーンだ。本当に水中で撮影する訳はないから,2人をワイヤーで吊り,上記と同様に水中見せる処理を施したのだろう(写真6)。どういう物語展開から,このシーンが登場するのかは,観てのお愉しみとしておこう。CG/VFXの主担当は最近活躍が目立つRodeo FXで,副担当がLegacy Effectsである。作曲賞も得たように,アレクサンドル・デスプラ担当のオリジナル・スコアも素晴らしい。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 上:ワイヤーで2人を吊ってスタジオ内撮影,下:靴や泡を描き加えての完成映像
(C) 2017 Twentieth Century Fox
 
 
    
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  (本稿は,O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
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