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O plus E誌 2018年1月号掲載
 
 
スター・ウォーズ/
最後のジェダイ』
(ルーカスフィルム/
ウォルト・ディズニー・
スタジオ・ジャパン配給 )
      (C) 2017 Lucasfilm Ltd.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月15日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2017年12月11日 TOHOシネマズ梅田[内覧試写会(大阪)]
2017年12月16日 TOHOシネマズ二条(IMAX・字幕版)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  報道は過熱気味だが,VFXは正統派の丁寧な作り  
  一昨年から始まった新シリーズ3部作の2作目で,旧3部作(EP4〜EP6),前3部作(EP1〜EP3)と合わせて9作中の8作目に当たる。例によって徹底した箝口令,情報漏洩防止策が採られ,予告編以外,全く情報が伝わって来なかった。予備情報なく,あらすじも全く知らず,CG/VFXに関するメモを取りながら,ストーリーを追うのは結構しんどかった。プレスシートもごく簡単なものしか配られなかったので,ミスがあれば容赦されたい。
 地味であるはずの3部作のつなぎの作品だが,やはり映画興行の中でも別格のシリーズとあって,公開日が近づくと,マスコミの報道も過熱してきた(前作ほどではない)。毎度のことだが,そんな中で筆者が迷うのは,1ファンとして共に一喜一憂して観るか。それとも映像作品としての総合的な価値,老舗ILMが注力するCG/VFXを冷静な目で評価するかである。今回は,前者の目が出がちなのをぐっと堪えて,極力後者の目で語ることにしたい。
 前作EP7の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)で監督に抜擢されたJ・J・エイブラムスは製作総指揮に回り,監督には『LOOPER/ルーパー』(13年1月号)のライアン・ジョンソンが起用され,自ら脚本も担当している。語るべきことは多々あるので,通常のスタイルから外れ,項目に分けて語ることにしよう。
 【登場人物について】
 前作で,ハン・ソロが息子カイロ・レンに殺されて死んだ。ハリソン・フォードの名はクレジットされていないので,実は生きていたとか,フォースの力で甦ったなどということはない。ギャラが高いので1作だけだったという噂もある。残るルーク・スカイウォーカーか妹のレイアの出番がたっぷりあることは報じられてきたが,いずれかが本作で姿を消すのだろうか? レイア役のキャリー・フィッシャーが昨年末に急死したので,急ぎ脚本を書き換えて早めに死なせたかと思ったが,出番はすべて撮り終えていたようだ。出演時はまだ50代だったはずなの,容貌はまるで70代の老婆だ(写真1)。前作の最後にようやく顔を見せたルーク(マーク・ハミル)も,そのままのイメージで登場する,これじゃホームレスにしか見えない(写真2)
 
 
 
 
 
写真1 出演時は50代だったが,まるで70代の老婆だ
 
 
 
 
 
写真2 こちらも容色は衰え,ホームレスにしか見えない
 
 
  基本的に新3部作の中心は,新ダースベーダーの位置づけのカイロ・レン(アダム・ドライバー)と,フォースの覚醒があったレイ(デイジー・リドリー)の2人の絡みである。本作では,しっかりそう感じるシーンがある。A・ドライバーの存在感は抜群だ。当欄ではこの1年間で,『沈黙 -サイレンス-』(17年2月号)『パターソン』(同9月号)『ローガン・ラッキー』(同12月号)の3本に登場し,俳優としての進境も著しい。一方のD・リドリーは別項の『オリエント急行殺人』にも出演しているが,本作はまさに主役としての大活躍で,彼女の女優人生で最も出番の多い作品となったことだろう。余談だが,劇中で何度も,彼女は貫地谷しおりに似ているなと感じた。
 もう1組のカップルは,前作に登場した黒人脱走兵のフィン(ジョン・ボイエガ)と新登場のローズ・ティコだ。ローズはレジスタンスのメンテナンス・クルーで,ベトナム人の両親をもつケリー・マリー・トランが演じている。これが初の大役だ。ともに愛すべきキャラであるが,意図的に人種を多彩にしているようにも思える。他の新登場組では,ベニチオ・デル・トロ,ローラ・ダーンがベテラン俳優らしい味を出している。
 主要登場人物の運命を書くことは禁じられているが,脇役キャラの出番の有無くらいはいいだろう。チュウバッカ,C-3POの出番はそこそこあるが,BB-8の出番は減り,R2-D2も少し姿を見せるに過ぎない。嬉しいのは,ジェダイ・マスターのヨーダが姿を見せてくれることだ。勿論CG製であることは言うまでもない。明らかなファン・サービスで,物語展開上さして意味はないが,やはり嬉しい。
 【物語展開について】
 R・ジョンソン監督は,本作の内容は『EP5 帝国の逆襲』(80)の位置づけに近いと語っているが,敢えて明言されなくても,そうに決まっている。シリーズの2作目は,人物紹介は終わっているので,物語が大きく展開するはずだ。一方,3作目への繋ぎ感はあるので,終わった後の満足度は少ないと予想できる。まさにその通りの映画だった。
 旧シリーズでの「帝国軍 vs. 共和国軍」という対決図式は,「ファースト・オーダー vs. レジスタンス」に変わったが,名称が違うだけで構図は全く同じだ。冒頭の宇宙戦シーンは延々10分近く続く(写真3)。これには,感心も感動もしない。EP3では,CGの描画力もここまで来たかと感慨新ただったが,もはやそれもない。
 
 
 
 
 
写真3 こうした戦闘が約10分も続く
 
 
  続く前半から後半にかけては,会話の意味が理解できない場面が続く。情報がなく,字幕翻訳家も苦労したためだろうか? テンポは緩やかなので,その意味での分かりにくさはないが,ひたすら暗い。SWシリーズで一番暗い。これも『ダークナイト』(08年8月号)の影響なのだろうか? 重厚と陰鬱は違う。SWシリーズ特有のワクワク感はほとんど感じられない。終盤の怒濤の展開に向けて力を溜めている感じはするのだが…。
 中盤で退屈していたので,残り50分前後から物語が動き出したことが実感できる。残り僅かな人数になったレジスタンス軍を追いつめるファースト・オーダー軍だが,激しいバトルの連続ではない。戦いは淡泊で,むしろドラマ性が重視されているとだけ書いておこう。
 【CG/VFXについて】
 ■ CG/VFX全体の印象は,新味はないが,膨大な量をかなり丁寧に作り上げていると感じた。主担当は勿論ILMで,1社でほぼすべてを処理している。One of Us, Base FXの名も見えたが,他は読み取れなかった。エンドロールに登場する人数がものすごく,通常より細かな字でぎっしり書かれていたためである。
 ■ 冒頭の宇宙戦のシーケンスを酷評したのは物語としての感想であり,映像的には迫力がある。試写は2D版で観たが,3D効果が強調されていると感じられた。細部で新技術が試されているのかも知れないが,余りに延々と続くので,そこまで読み取れなかった。
 ■ CG/VFXシーンの構図やカメラワークはオーソドックスであり,安心して観ていられた。例えば,(写真4)の基地内のシーンは,お馴染みのストームトルーパーを多数描いた上に,背景も天井部分も細部まで描き込んでいる。カイロ・レンの後姿を捉えた(写真5)では,陰影や映り込みの表現も見事だ。
 
 
 
 
 
写真4 目新しさはないが,改めてCGの進歩を感じる
 
 
 
 
 
写真5 陰影も床面反射も丁寧に描き込まれている
 
 
  ■ SF映画の愉しみである未来を感じる機器の描写にも,冒険心は感じられなかった。レイアが使用する操作卓(写真6)や球形のホログラム・ディスプレイ等,定番デザインのバリエーションに過ぎない。遊び心を感じたのは,カジノのシーンである。どう見ても雰囲気はラスベガスそのものだが,ルーレットやスロットマシンと思しきゲーム機のデザインは新鮮で,楽しかった。
 
 
 
 
 
写真6 レイアが使用する操作卓は少しだけ新しい
 
 
  ■ 別の大きな愉しみは,新登場のキャラクターたちだ。まず何と言っても,注目の的は新エイリアンの「ポーグ」だ(写真7)。ペンギンをベースにした典型的なゆるキャラで,既にぬいぐるみ人形が発売されている(写真8)。「超絶可愛い」と評判だ。マスコット玩具市場では,ミニオンの人気に迫ることだろう。地味ながら,ルークの住む惑星オクトーの島で働く「ケアテイカー」(写真9)もしっかりデザインされ,レンダリングされている。惑星カントニカのカジノ関連施設で登場するラクダと馬の混血のような大きな動物「ファジア」も良い出来だ。そして,最後に登場するのは,氷のキツネのような動物である(予告編にも少し出て来る)。グッズ・ビジネスに直結するためか,新キャラ・デザインにはかなり力が入っている。
 
 
 
 
 
写真7 新キャラのボーグ(右)は,早くも人気沸騰
 
 
 
 
 
写真8 既にマスコット玩具市場を賑わしている
 
 
 
 
 
写真9 こちらはルークの島に住むケアテイカー
 
 
  ■ 当欄ならでは注目点は,敵側の最高指導者スノークの表情表現だ(写真10)。特殊メイクやかぶり物では実現できないデザインであり,当然顔面も身体もCGで描いている。前作にも登場していたが,一段と醜さと凄みが増している。パフォーマンス・キャプチャで演じるのは,アンディ・サーキス。ゴラム,キングコング,ゴジラ,(猿の)シーザーを演じてきた経験が凝縮されている。
 
 
 
 
 
写真10 悪役スノークを演じるのはモーション俳優のアンディ・サーキス
 
 
  ■ 石の惑星クレイトでのラスト・バトルからレジスタンスの脱出にかけて,お馴染みのXウイング・ファイター,TIEファイター,ミレニアム・ファルコン号等が登場する。本作でのAT-ATウォーカーは輸送用ではなく,本格的な戦闘仕様だ(写真11)。このバトルで,レジスタンスのオンボロ戦闘機が舞い上げる赤い砂塵が鮮烈だ(写真12)。表面は白い塩に覆われているが,その下の地層が鮮やかな赤土ということらしい。このシーンの美術担当者に座布団1枚進呈したい。  
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写真11 本作のAT-ATウォーカーは本格的な戦闘用
 
 
 
 
 
 
 
写真12 旧式戦闘機が引き起こす赤い砂塵が鮮烈だ
(C) 2017 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
 
 
  (本文は大幅に加筆し,画像もO plus E誌に追加しています)  
 
付記:IMAX版で再見した上での訂正と感想
   必死でメモを取りながらの試写会だけでは,細部まで点検・把握できなかったので,いつものように公開後に映画館まで出かけた。これだけの人気シリーズとなると一般観客の盛り上がり,反応が知りたかったためもある。行きつけのシネコンでは,通常の字幕版,吹替版の他に,特別料金の「MX4D 3D・吹替版」と「IMAX・字幕版」があった。何で今回は「IMAX 3D・字幕版」という設定がないんだ,とボヤキながら少し迷った後,3D上映は諦め,「IMAX・字幕版」を観ることにした。
 出かけたのは,公開初日の翌日,午前10時の回である。客席はほぼ満席であった。このシネコンで,しかも追加料金のIMAXで。この着席率は珍しい。普通料金が満席のため,こちらに回って来た観客が多いのだろうか。年齢層はかなり高い。若者もいるにはいるが,マーベルやDC等のアメコミものと比べても,明らかに観客の平均年齢は上だ。これがSWシリーズのパワーの源泉なのだろう。
 以下,訂正を含む,再見での感想である。
 ■ まず,冒頭の宇宙戦のシーケンスだが,長いという先入観があったからか,2度目はそう長く感じなかった。IMAXスクリーンゆえに,勿論,画質はかなり良い。中身はビデオゲーム風だが,「どうだ,ここまでの画質は映画ならではだぞ」と諭しているかのようだ。むしろ,このシーケンスで感心したのは,良質の音響効果だ。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17)の付記でも書いたが,このシネコンのIMAXシアターは,画質だけでなく音質も良い。ルーカスフィルムご自慢のスカイウォーカー・サウンドは,IMAXの表現音域を完全に把握した上で,原点であるSWシリーズには特に力を入れていると思われる。全編でそう感じたが,とりわけ冒頭の戦闘シーンでその威力が炸裂していた。
 ■ 上記記事に関する訂正がある。BB-8の出番は少ないような書き方をしたが,全編を通じて出番があった。ポー・ダメロンに帯同して戦闘機を操縦したり,カジノの場面にも現れるかと思えば,終盤のクレイト星の避難場所にもいる。R2-D2でもいいのにと思う場面もあったから,初見ではあまり印象に残らなかったようだ。新登場のポーグの仕草やファジアの躍動感に気を取られていたからかも知れない。
 ■ もう1つの誤りは,写真4をファースト・オーダーの基地内だと思い込んでいたことだ。これは,スター・デストロヤーの内部だった。かなり巨大な宇宙戦艦だと聞いてはいたが,それにしてもデカイ。艦内の1室に過ぎないのに,その中をTIEファイターが飛んでいる。もっとも,艦隊の旗艦であるなら,基地のようなものと言えなくもないが……。
 ■ ライトセイバーでの殺陣もしっかりデザインされている。旧シリーズや前シリーズの殺陣よりも進化している。その他の戦闘でも,誰と誰が戦っているのか識別でき,どのシーンも見やすい。即ち,物語の展開を理解しやすい訳だ。これは,プレビズ技術採用のおかげなのだろうか。
 ■ 中盤でファジアが子供たちを乗せて脱走するシーンは,見事な躍動感だった。合成も全く自然だ。終盤のクレイト星での対決シーンは,改めて観ても見応えがあった。大型のキャノンからの破壊光線,AT-ATウォーカーからルークへの集中砲火,レイがフォースで岩を持ち上げるシーン等々のCG/VFXは,改めてその描写の丁寧ささが確認できた。IMAXスクリーンゆえに,エンドロールの字もしっかり判別できた。ILMからの参加人員は500名以上,600名近くもあっただろうか。
 ■ 中盤の暗さを補い,トータルでは次作EP9への繋がりを期待できる出来映えだったと思う。ただし,レイア役のキャリー・フィッシャーがいない以上,EP9の脚本は大幅に書き換えざるを得ないと思われる。もっとも,僅かなシーンだけであれば,デジタル製のレイアで凌げるかも知れない。
 ■ EP9は現3部作の完結編であるが,監督に内定していたコリン・トレボロウが降板し,EP7のJ・J・エイブラムス監督が再登板するとのことだ。さらに,本作のR・ジョンソン監督でEP10〜12を製作することが発表されている。それは,これまでのSWサーガとは別の流れになるそうだ。いつも商魂たくましいルーカスフィルムであるのに,現時点での,この発表は解せない。次作以降の計画を漏らさず,黙っていた方が,EP9への関心は遥かに高まったのにと思われる。そんなに乱作するなら,当欄でも,もはやSWシリーズを特別視扱いする必要はなさそうだ。
 
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