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O plus E誌 2017年4月号掲載
 
 
グレートウォール』
(ユニバーサル映画 東宝東和配給)
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月14日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開予定]   2017年2月16日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
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キングコング:
髑髏島の巨神』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C) 2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月25日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2017年2月21日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  この春,老舗ILMが担当するVFX大作が次々と  
  VFX世界における老舗ILMの実績,存在感は,もはや言うまでもないことだが,Double Negative, MPC等の英国勢の台頭で,相対的地位は少し低下したかのように見えた。ところが,最近一番とパワーアップとし,ビジネス的にも攻勢に転じているように感じる。再開したSWシリーズ全作は言うまでもなく,『トランスフォーマー』『ミュータント・ニンジャ・タートルズ』両シリーズを有する他,マーベル・ヒーロー・シリーズにも食い込み,スパイダーマン新シリーズも手がけている。シンガポールやバンクーバーに支社をもっているが,最近ロンドン支社も開設し,逆進出と話題を呼んだ。
 ここで紹介する2作は,ILMがVFX主担当の上に,配給ルートは違えど,ともに『パシフィック・リム』(13年8月号)『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)のレジェンダリー・ピクチャーズが製作会社という点で共通している。米国公開と本邦での公開は逆順だが,本稿では試写を観た順に語ることにする。
 
 
  監督はチャン・イーモウ,中国市場を意識した作り  
  まずは『グレートウォール』からだ。原題をカタカナにしただけで,何のことか分かりにくいが,中国語題名は『長城』だ。言わずと知れた「万里の長城」を舞台にした物語である。総延長2万km,建造に1700年かかったという,人類史上最大のこの建造物の建設に関するエピソードを期待したが,そうではなかった。それでは完成後に,北方からの敵を防いだ史実に基づく物語かと言えば,そうでもない。「これは,その伝説のひとつである」というが,要するに時代不祥の全くのフィクションであり,虚仮威しの大味な映画であった。
 主演はマット・デイモンで,他にペドロ・パスカルとウィレム・デフォーが出演しているが,他はすべて中国人俳優である。米国資本で, 脚本・撮影・編集の主要スタッフは米国人,そこに大勢の中国人現地スタッフが加わるという編成は,『沈黙 -サイレンス-』(17年2月号)と相似形だ(そういえば,同作のVFXもILM担当だった)。最大の失敗は,マーティン・スコセッシのような欧米人監督でなく,中国の大物監督チャン・イーモウを起用したことだと思う。かつて『HERO』(03年9月号)『LOVERS』(04年9月号)でも述べたが,名監督であるはずの彼は,高予算,大作映画が不得手である。北京五輪の開会式プロデューサも務め,大勢のスタッフは使い慣れているはずなのに,本作でも一向に進歩していない。騒々しく,大味で,盛り上げ方も感心しない。もっとも,急拡大する中国の映画市場がまだこの程度の大作映画を欲しているなら,ここで苦言を呈しても仕方ないが。以下では,せめてVFXの見どころを語っておこう。
 ■ CG/VFXの注目点は,勿論,万里の長城の描写だ。400mのセットが組まれ,800mものグリーンバックが準備されての撮影だったというが,当然,城壁は遠くまでCGで描かれている(写真1)。ただし,延々と続く長城をたどるCGの描写がないのが残念だった。
 
 
 
 
 
写真1 もっと延々と続く長城も見せて欲しかった
 
 
  ■ この城壁を攻める外敵は北方民族ではなく,何と60年に一度襲来するという伝説の怪獣・饕餮(とうてつ)だった(写真2)。よくぞこんな醜悪でパワフルな獣をデザインしたものだ(この漢字がPCで出て来たことにも感心した)。動きも素早く,金属音が恐ろしさを倍加させているが,『トランスフォーマー』の担当社なら軽い仕事なのだろう。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 これが伝説の邪悪な怪獣「饕餮(とうてつ)」
 
 
   ■ 映画全体の演出はお粗末だが,前半40分の戦闘シーンは見せ場の連続だった。まず,Weta Workshopが担当した甲冑(写真3)や盾のデザインがいい。城壁の上に作られた空母のような多層構造の砦の威容にも圧倒される。城壁に押し寄せる饕餮の大群の描写は,今や珍しくない(写真4)。一方,迎え撃つ高射砲のような投擲(写真5),5本指のように伸びた扇状の柱から女戦士達がジャンプする戦法(写真6)はユニークで,惚れ惚れするシーンの連続だった。終盤では,首都への空中移動用に布製の古風な飛行船が登場する(写真7)が,見せ場はこれだけで,クライマックスの盛り上げは今イチだった。
 
 
 
 
 
写真3 精悍な甲冑は,Weta Workshop製
 
 
 
 
 
写真4 既に『ロード・オブ・ザ・リング』等で散々見た光景
 
 
 
 
 
写真5 迎撃側の飛び道具は,これ
 
 
 
 
 
写真6 女戦士達が先端からジャンプする戦法に驚く
 
 
 
 
 
写真7 饕餮を追い,布製の飛行船に乗って,都へと向かう
(C) Universal Pictures
 
 
   ■ 出演陣でまず言及すべきは,ヒロインのジン・ティエンの輝くような美しさだろうか。まるでゲームムービーに登場する女神のようだった。名優アンディ・ラウの登場場面が少ないのも,やや不満に感じた。
 
 
  終盤ぐっと盛り上がる,マニア向きの怪獣対決映画  
   上記と同じ系列の企画かと思い,あまり期待しなかった。既に何度も映画化されているキングコングが主人公では,またかという感じで食指が動かなかった。1933年製の名作をリメイクした2005年版『キング・コング』(06年1月号)は,最新VFXを駆使した堂々たるリメイク作で,ピーター・ジャクソン監督&Weta Digital社の成功作の上に,今更ILMがなぞり書きして何の意味があるのかと。加えて,嫌気が指したのは,この映画のチラシやポスターに使われている絵柄のチープさだった(写真8)。これではまるで,戦後すぐの紙芝居か昭和30年代のサーカスの宣伝ビラではないか。きっとこちらも,大味で中身に乏しいB級スペクタクルに違いないと感じた。ただし,この考えが浅過ぎたことが,後で判明する。
 
 
 
 
 
写真8 まるで,紙芝居のごとき懐かしさとチープさ
 
 
   1933年版も2005年版も前半の舞台は,恐竜や珍獣が棲息する南海の孤島「髑髏島」で,ここに住む巨猿キング・コングが捉えられてNYに運ばれ,エンパイヤステート・ビルに上る。本作の舞台はその髑髏島だけで,NYを舞台にしたコングは登場しない。時代設定は1970年代で,島では神として崇められている存在である。1933年版は7.2m,2005年版が18.8mであるのに対して,本作のコングは31.6mで,数段デカイ。加えて,前半の彼は凶暴かつ醜悪な悪人面である(写真9)。それが,島の守り神であることが分かった頃から,次第に表情の描き方も柔和になってくる(写真10)
 
 
 
 
 
写真9 前半のコングの咆哮。かなりの悪役面。
 
 
 
 
 
写真10 とにかくデカイ。中盤以降,表情も柔和に。
 
 
   監督はジョーダン・ボート=ロバーツ。TV界出身で,映画監督としては無名に近いが,本作での起用は大抜擢と言える。主演は『マイティ・ソー』シリーズのロキ役でブレイクしたトム・ヒドルストンと,『ルーム』(16年4月号)の母親役でオスカー女優となったブリー・ラーソン。共に個性的演技派だが美男美女とは言えず,従来のキング・コング映画とは少し様子が違う。以下,当欄の視点での評価と感想である。
 ■ CG/VFXの前半の見どころは,多数の戦闘ヘリを破壊するシーンだ(写真11)。音楽は騒々しく,少し目も疲れるが3D効果も上々で,迫力は凄まじい。表情も憎々しげで,この段階では完全な悪役である。
 
 
 
 
 
写真11 コングを敵視した攻撃ヘリは壊滅状態に
 
 
   ■ 中盤からは,髑髏島に棲息するクリーチャーたちがしっかり楽しめる。島自体もCG描写だが,嘴が鋸状のコウモリのような鳥,タコとイカを合わせたようなリバー・デビルもユニークだ。水中に住む大人しいスケル・バッファロー(写真12),竹林に住む巨大グモ(写真13)等,いずれも巨大でかなり力が入ったデザインである。
 
 
 
 
 
写真12 水中に住む大人しいスケル・バッファロー
 
 
 
 
 
写真13 竹林に住むバンブー・スパイダー
 
 
   ■ 難敵は頭蓋骨のような顔をもち,トカゲとヘビの合の子のようなスカル・クローラーだ(写真14)。コングはその何匹かを倒したが,最後にその何倍もあるボスキャラが地中で待ち伏せしていた。その最後の戦いが壮絶で,観応えがあった。怪獣映画好きの映画記者は狂喜乱舞し,絶賛していた。本作は,徹底した怪獣対決映画であり,重厚さやヒューマニズムは求めていない。確かに『パシフィック・リム』『GODZILLA ゴジラ』の路線を継ぐものであり,チラシのチープさは意図的にそのテイストを強調したものもののようだ。引続き,マニア向きの同路線で『Godzilla: King of Monsters』(19)と『Godzilla vs. Kong』(20)の製作・公開が予定されている。
 
 
 
 
 
 
 
写真14 スカル・クローラー。獰猛さ,醜悪さでは,饕餮も顔負け???
(C) 2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC
AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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