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簡略版をO plus E誌 2001年10月号に掲載
 
 
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『メメント』
(ニューマーケット・フィルム作品
/アミューズピクチャーズ配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2001年8月28日 日本ヘラルド試写室)  
         
     
  パズルを解くかのような良質の知的刺激  
   VFX作品ではないが,ミステリー好きのファンにとって必見の話題作である。インディペンデント系映画として当初11館でスタートしたが,口コミによる評判で10週目には531館にまで拡大し,全米興行成績第8位にまで躍進した。話題のもとは,かつてない斬新な構成とストーリー展開で,サンダンス映画祭やロンドン批評家協会賞で最優秀脚本賞を受賞した。
 自宅に押し入った強盗に頭を殴られ,目の前で妻をレイプされ殺されるという事件から,精神的ショックで記憶障害を負った男が犯人を追う物語である。記憶喪失といっても,過去のすべてを失うのではなく,事件以前の古い記憶は残っているが,たった10分前に起こった出来事の記憶を次々に忘れてしまう「前向性健忘症」という厄介な代物だ。目覚めたとき,一瞬「ここは,どこ?」と感じるあの感覚が四六時中続いているというわけである。医学的にも実際に起こり得る症状らしいが,この状態で殺人犯人を追うという設定だけで,どうなるのかワクワクしてくるではないか。
 
     
   
     
   主人公レナードは,ポラロイド写真に書き込んだメモを頼りに真相を突き止めようとする。自分の筆跡も覚えておく必要がある。大切なキーワードは,全身にタトゥとして彫り込むことで記録に残す。
 そんな設定のもとに,この映画は現在から過去に向って物語が進行する。観客を主人公と同じ過去を持たない意識状態におき,行きつ戻りつ,ジグソーパズルを埋めるかのように事実が明らかになる。レナードが徐々に過去の記憶を取り戻しているかのように錯覚するが,そうではない。これは巧妙に組み立てられた脚本で,観客を誘導しているに過ぎない。といっても,秘かに仕掛けたトリックや意表を結末ではなく,パズルを解くかのように楽しむ知的刺激なのである。これは映画だと分かっていても,見終わった後は妙な気分になる。『シックス・センス』とは違った意味で,絶対にもう一度見たくなる映画だ。
 脚本・監督は,新進気鋭のクリストファー・ノーラン。オスカー監督のスティーブン・ソダーバーグがその才能を絶賛しているというから,この作品を機に大きなチャンスを得るに違いない。主人公レナードを演じるのは,『L.A.コンフィデンシャル』(97)『英雄の条件』(00)のガイ・ピアース。レナードの捜査に協力する謎のナタリーに『マトリックス』(99)『レッド・プラネット』(00)のキャリー=アン・モス,情報屋テディに同じく『マトリックス』のジョー・パトリアーノ。数少ない出演者がいずれも印象的な好演を見せてくれる。どの瞬間も見逃すまいと熟視していたから演技もよく見えたのだろうか?いや,この脚本なら,演じる方も1カットたりとも気が抜けなかっただろうから,この引き締まった傑作が生まれたのだろう。
 この作品をを『マトリックス』ファン必見と語っている評があった。なるほど,共演者や目覚めて時の覚醒感は似ていなくもないが,映画の持ち味は随分違う。むしろ,強いて上げるなら,同じインディペンデント系の『ブラッド・シンプル』(84)や『ユージュアル・サスペクツ』(95)のファンが,この映画を気に入るに違いない。
 東京・渋谷シネクイントでの単館公開なのが残念だ。地方の読者は,この作品名を覚えておいて,ビデオが発売されてから繰り返し見ることをお勧めする。
 
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